一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

メニュー

No.228 「非線形力学とAI for Science and Engineering」
2025年度庶務理事 廣畑 賢治〔(株)東芝〕

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2025年度庶務理事 廣畑 賢治〔(株)東芝〕

No.228 「非線形力学とAI for Science and Engineering」

 

 


「バタフライエフェクト」という言葉をメディアでもよく耳にする。気象学者 エドワード・ローレンツが1960年代に提唱し、「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」という比喩で例えられる。和風に言うとどうなるのかとふと思い、Microsoft Copilot™と何度かキャッチボールを試してみたところ「露ひとつ、葉先に落ちて、揺るる世を、理知らぬまま、風は過ぎゆく」という短歌的な表現が得られた。おもしろくなり、現代文学的な表現も試すと、「何かがずれている。ほんの少し。でもそのずれが、すべてを狂わせている。」など、少々ずれてきてはいるが、言葉遊びを十分に楽しめた。ご存じの通り「バタフライエフェクト」は非線形系特有の現象である。

私が大学院生時代、非線形力学を学ぶ機会に幸運にも恵まれ、諸先生や先輩から頂いた文献を読みながら頭を抱えつつ、非線形力学の工学的応用に、わくわくした記憶がある。一方、企業に入社すると、非線形力学特有のフラッター現象のような自励振動、引き込み現象のようなパターン形成、カオスなどの発生は不安定化をもたらし故障の起点となるため、悪の元凶であった。インフラシステムやエネルギープラントなどでは、現在でも安全安心が最優先であることは変わらないが、AI for Science and Engineeringの研究が進む中、新たなデバイスやシステムにおける解析・設計・制御への応用も模索されるようになってきた。工学的応用という観点では状況が変わってきた感じがする。AI for Science and Engineeringのなかには、素子の発散性と非線形な相互作用が構成要素となる非線形力学モデルのコンセプトが組み込まれているという見方もできる。

最近、アラン・チューリングの伝記を読む機会があった。それにしても、アラン・チューリングという科学者の先見性と洞察力には驚かされる。1937年の論文「On Computable Numbers, with an Application to the Entscheidungsproblem」、1950年の論文「Computing Machinery and Intelligence」、1952年の論文「The Chemical Basis of Morphogenesis」で、知能化計算機械と非線形創発現象を、発散性のあるデバイスと非線形相互作用から構成される複雑系の秩序生成という共通テーマで結びつけ、情報とアルゴリズムの視点で統合される将来を見通している。この将来が、まさにこれから5年~10年ほどで到来しようとしており、わくわく再びである。一滴の露かもしれないが、AI for Science and Engineeringの実現に向けて、非線形力学の工学的応用という視点からも取り組んでいきたいと思うこの頃である。