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技術ロードマップ委員会

2025年度 JSME年次大会市民フォーラム開催報告 JSME技術ロードマップが描く未来社会像 〜次世代機械工学で切り拓く2050年〜

報告者 山崎 美稀(技術ロードマップ委員会委員長、(株)日立ハイテク)

 

日本機械学会 技術ロードマップ委員会では、急速に変化する社会課題に対応しつつ、2050年の持続可能で豊かな社会像の実現に向けて分野横断的かつ長期的な視点から技術の未来像を描き、その取り組みを進めている。本市民フォーラムは、その成果を社会に広く共有する場として企画されたものである。特に本フォーラムでは、技術ロードマップ策定を進める上で重要なアプローチとして、今年度の年次大会の三つのテーマに対応して、サステナビリティ:地球環境・資源制約を踏まえた持続可能な技術と社会制度の設計、データ駆動型設計・システム統合:IoT、AI、シミュレーションを活用した工学の新しい枠組み、異分野融合:医療、エネルギー、材料、ロボティクスなど領域横断的な協働による課題解決、を三つの柱として設定した。さらに、産学官の専門家による最新の研究成果と社会実装への取り組みに加え、若手研究者による提案を紹介し、多世代・多分野の視点を交差させることを狙いとした。これにより、学会と社会の接点となる「市民フォーラム」として、一般市民・学生・企業関係者がともに未来社会のビジョンを共有し、共創する場を提供した。

 

表1 特別企画ワークショップのプログラム

時間 内容 講師・登壇者
第1部:基調講演 2050年社会像の展望(13:00〜14:20)
13:00〜13:10 開会の挨拶・趣旨説明 山崎 美稀
(技術ロードマップ委員長)
13:10〜13:30 講演①「テクノロジーと自然の調和による2050年の持続可能な社会の展望」 山崎 美稀
(株式会社日立ハイテク)
13:30〜14:20 特別講演②「社会課題を変えるステージ ― 革新的エンジニアリングの可能性」 植木 健司
(NEDOイノベーション戦略センター 事務局長)
第2部:異分野融合で描く2050年の社会像(14:20〜15:40)
14:20〜15:10 特別講演③「現実世界とバーチャル空間を融合するデータ同化技術の利活用」 菊地 亮太
(DoerResearch株式会社/名古屋大学)
15:10〜15:40 特別講演④「異分野融合による次世代医療・ものづくり革新 池内 真志(東京科学大学)
第3部:総合パネルディスカッション(15:45〜17:30)
15:45〜17:30 テーマ:若手によるフラッシュトーク「私たちが描く未来の技術と社会」 進行:矢野 智昭(岡山大学)
15:45〜16:15 趣旨説明と未来の例 矢野 智昭(岡山大学)
16:15〜16:25 宇宙工学部門からの提案 高橋 裕介(北海道大学)
16:25〜16:35 材料力学部門からの提案 市川 裕士(東北大学)
16:35〜16:45 計算力学部門からの提案 守 裕也(電気通信大学)
16:45〜16:55 ロボティクス・メカトロニクス部門からの提案 池田 篤俊(近畿大学)
17:00〜17:30 パネルディスカッション 登壇者全員

(下線の部分はリンクが付けられているのでクリックすると資料がダウンロードできます)

 

本市民フォーラムのプログラム表1の通り、第1部は基調講演として2件の講演が実施された。はじめに、講演「テクノロジーと自然の調和による2050年の持続可能な社会の展望」では、山崎委員長より、未来社会像を描くためには現在からの延長ではなく、未来像から逆算する「バックキャスト思考」が不可欠であることが示された。さらに、再生可能エネルギーの普及と分散型エネルギー管理による効率的な需給調整、IoTやブロックチェーンを用いた資源フローの可視化による循環社会の実現、自然と共生する都市基盤やグリーンインフラの設計など、社会システム全体を再構築する将来像が提示された。これらは単なる技術導入にとどまらず、社会構造そのものを見直す試みであり、技術ロードマップが未来社会を共創する共通言語となることが強調された。

続いて、特別講演「社会課題を変えるステージ ― 革新的エンジニアリングの可能性」では、植木健司氏(NEDOイノベーション戦略センター/福島イノベ機構)より、研究開発を社会実装へと結びつけるには「トランスフォーマティブ・イノベーション」が必要であることが提唱された。従来の技術革新が既存の制度や産業構造を前提としてきたのに対し、複雑化する資源・人口・環境問題に対応するためには制度改革や社会受容性の変革を伴う新しいアプローチが不可欠であると指摘された。さらに、NEDO/TSCの「Innovation Outlook Ver.1.0」に基づくエネルギー転換、循環資源利用、先端材料開発、次世代ヘルスケアの各フロンティア領域が紹介され、加えてEUのHorizon Europeや米国ARPA-Eにおけるミッション志向型研究の事例が取り上げられ、社会的課題解決と市場創出を同時に推進する枠組みの重要性が示された。

第2部では「異分野融合で描く2050年の社会像」をテーマとして2件の特別講演が行われた。特別講演「現実世界とバーチャル空間を融合するデータ同化技術の利活用」では、菊地亮太氏(名古屋大学/DoerResearch株式会社)より、観測データとシミュレーションを統合して現象を高精度に再現するデータ同化が紹介された。この技術は実験・理論・シミュレーションに続く「第四の道具」と位置づけられ、気象予測での実績を基盤として工学分野への展開が示された。具体的には、製造現場でのリアルタイム最適設計や異常検知、インフラモニタリングにおける劣化予測や予知保全、さらには医療分野での個別化治療シミュレーションなど、多様な応用例が挙げられた。デジタルツインを現実と仮想をつなぐ共通言語と捉え、分野横断的な研究開発を促進する基盤技術としての可能性が強調された。

続く特別講演「異分野融合による次世代医療・ものづくり革新」では、池内真志氏(東京医科歯科大学)より、日本の不妊治療の現状として約7%の夫婦が生殖補助医療(ART)を必要とし、治療1回あたり出生に至る割合が約12%にとどまるという課題が示された。これに対し、胚移植用マイクロロボットによる着床位置の制御や、磁場を利用した胚誘導技術による流産率低減と着床率向上の実証、Hippoシグナル経路を調整する卵巣刺激デバイス(生体内鍼:ICAP)による卵胞発育促進など、先進的な医工学的取り組みが紹介された。これらは不妊治療における大きな突破口となるだけでなく、家畜繁殖分野での実証研究を通じた社会実装の可能性も示され、医療・農業双方に貢献し得ることが強調された。

第3部では「若手によるフラッシュトーク『私たちが描く未来の技術と社会』」が行われ、5名の若手研究者が登壇した。岡山大学の矢野智昭氏が冒頭に趣旨説明と未来像の例を示し、その後、北海道大学の高橋裕介氏(宇宙工学)、東北大学の市川裕士氏(材料力学)、電気通信大学の守裕也氏(計算力学)、近畿大学の池田篤俊氏(ロボティクス・メカトロニクス)がそれぞれの専門分野から2050年に向けた社会像と技術的展望を提示した。最後のパネルディスカッションでは、登壇者全員が参加し、サステナビリティ、データ駆動設計、異分野融合をキーワードに多様な視点を交差させながら議論を深め、分野横断的な技術ロードマップのあり方と社会実装への道筋について意見交換が行われた。

本ワークショップを通じて、2050年に向けた社会像の実現に不可欠な視点として、バックキャスト思考、リアルとバーチャルの統合、制度変革を伴うイノベーション、そして工学による医療やライフサイエンス領域への貢献が改めて明らかとなった。技術ロードマップ委員会は、これらを共通言語として提示し、産官学民が協働して未来社会の実現に取り組む場を引き続き提供していくことを確認した。

以上

お知らせ 2025/10/07