熱工学部門長あいさつ


第93期熱工学部門長

九州大学 大学院工学研究院 機械工学部門
教授 高松 洋
2015年4月1日

 2015年4月より仰せつかりました第93期部門長の任にあたりご挨拶を申し上げます.
 私が大学の卒業研究に着手した1979年に日本機械学会に入会した折には,指導教官の勧めもあったのかもしれませんが,学会とは何かも深く考えずに,大学院に進学するのであれば当然のこととしてただ入会したのでした.それから36年間,一会員として学会の活動に参加してきました.まず,思い出すのは,博士課程3年生の秋,学位論文の執筆直前に当時の熱工学講演会で発表の機会をいただいたことでした.当時,講演会で発表するまでのプロセスは今とは全く異なり,先に機械学会論文集の原稿を書いて提出していたような記憶があります.その後,2003年に熱工学コンファレンスと改称されて,多くのオーガナイズドセッションも企画されるようになりました. 2,3室で行われていた講演会も,今や9室で同時にセッションが組まれるほどになっています.二十数年前には,学会がある度に「熱工学のパラダイムシフト」が標榜され,熱工学の進むべき道が議論されていたのが嘘のようです.しかし,機械学会の中でも老舗の熱工学部門が活発でいられるのは,多くの先輩方が,熱工学という学問のあり方や重要性について真剣に考え,境界領域の研究や異なるスケールの視点からの研究といったそれまでとは異なる世界を示してくださったことによると思います.
 その恩恵を享受している私たちは,次に何をして,何を残せばいいのでしょうか.それを考えるには,まず,現在の学会の状況を冷静に見つめる必要があると思います.グローバル化が進む中で,学会の論文集を見直さざるを得なくなったのは当然の成り行きだと思います.学会の会員数の減少については,ここ最近の部門長のご挨拶にも取り上げられているとおりです.となると,やはり学会とは,学会の活動とは,ということを真剣に考える必要があるのではないでしょうか.法人化した学会が社会に対して責任を持たねばならないのは当然です.しかし,会員全員が同じ会費を払っている学会で,会員減を食い止めるために会員へのサービス向上に努めたり,あるいは学会の活動を数字で評価しようなどという考えには首をかしげたくなります.学会が元々情報交換,情報発信の場であるという原点に立ち返れば,講演会,すなわち国際会議や熱工学コンファレンス,セミナーなどの重要性をあらためて強調する必要などありません.しかし,熱工学コンファレンスの発表件数が200件を超え,参加者が400名を超えていても,実は企業からの参加者数は40名を下回っています.その原因の一つには,特定の分野の情報が欲しい企業の方にとっては熱工学の分野が広く,トピックが決まっている学会より情報を得る効率が低いということがあるでしょう.しかし,発表の中に分野に限らず魅力的な情報がふんだんにあり,その最新情報が学会(講演会)に参加しなければ得られないとなるとどうでしょうか.大学の使命は人材の育成ですから,学生に刺激を与えるのは重要なことです.しかし,学会(講演会)は発表の訓練の場,あるいは賞を授与してモチベーションを上げるためのものではないでしょう.発表者が責任を持って丁々発止の議論をする場のはずです.学会(講演会)の教育的効能を否定するつもりは全くありません.しかし,技術や社会と切り離しては存在し得ない熱工学という学問の将来を考えて,学会(講演会)はどうあるべきか,何のためにあるのか,誰のためにあるのか,をしっかり考える必要があるのではないでしょうか.それが,次の世代の将来にとって大事なような気がします.大変難しい問題ではありますが…

BackTpTop

Valid XHTML 1.0 Transitional Valid CSS!