熱工学部門長あいさつ


第99期熱工学部門長

東北大学 流体科学研究所
教授 小原 拓
2021年4月1日

 2021年4月から第99期の熱工学部門長を務めます.皆様よろしくお願い申し上げます.
 この30年間, 熱工学部門にはずっとお世話になってきました.特に,皆さんと親しくお付き合いをさせていただき,楽しく仕事ができる環境を得たことや,プロフェッショナルな刺激を沢山もらったことは,とても幸運なことでした.独力で正しい方向に進める一握りの方々を除いては,多くの方々にとって学会(界)の意義が ,切磋琢磨の中で研究が磨かれることと,協力により成果を拡大することにあるのだと思います.特に熱工学部門は,燃焼・伝熱・熱物性など熱現象を支配するフィジックスに沿って水平的に現象やメカニズムの解明を目指す研究分野を縦に貫いて,機械という応用目的に向かってマルチフィジックスな研究を行うところですから,垂直的な研究者間の干渉,すなわち多様な背景をもつ研究者間の貴重な交流を提供していると思います.
 さて, コロナウィルス感染症の影響が我々の生活を覆うようになってから,もう1年が経ちました.皆様いかがお過ごしでしょうか.ご健勝をお祈りしております.自宅やオフィスに引きこもったこの1年間は ,一人一人の健全な精神や研究生活に何が必要で何がそうでもないかがわかってきた時間でもありました.これは人によってそれぞれでしょうが,日々の会議が全てオンラインになり,移動の時間が節約されると共に,時には2つの会議に同時に出席することが可能になったことは,大いに歓迎しています.熱工学部門でも,世話役の方々のご尽力によりコンファレンスがオンラインで整然と開催され,セミナーや研究会で講演を拝聴する機会もむしろこれまでより増えました.やはりこれらの必要不可欠な活動は,皆さんの献身的なご貢献によって,プラットフォームが変わっても維持されています.
 その一方で,この1年間,私は一度もオフラインの(「物理的な開催」)講演会に参加するチャンスがなく,人間関係を消費する(これまでの人間関係に頼る)ばかりで生産する(新しく築く)ことがほとんどできませんでした.うっすらとした閉塞感があります.自分のモチベーションや思考が,論文や口頭発表,テーマを定めた議論といった定型の研究活動だけでなく,自由な会話や叱咤激励など,かなりあいまいなものにドライブされていたことを改めて自覚しました.
 これからさらに1年以上をかけて,我々のコロナ生活は終息あるいは定常状態に向かって変わってゆくことでしょうが,単にコロナ前に戻るのではなく,変化を恐れず進みながらも,必要なものを大切に守ってゆきたいと思っています.
 先に学界の意義について触れましたが,これは主に学界の構成員にとっての内向きな意義でした.学界の外の市民に対しては,正しい科学的知見を発する権威であることが重要であり,科学者により自律的に運営される組織による自由な思索や行動が市民に信頼され,その支持を得られるものでなければなりません.論理が大きな力をもたず,専門知や専門家がとかく軽視されがちな当節の風潮を顧みると,明るい未来を期待して安心する気持ちにはとてもなれず,身が引き締まる思いです.一つの積極的な要素としては,これは危機でもあって無邪気に喜ぶことは憚られますが,地球温暖化に対応したカーボンフリーなエネルギー変換や電動化に関連した熱・物質輸送の問題など,熱工学の研究はいまとても重視されて世界中で活発になっています.これを日本で機械学会が展開し次の芽を育てることに,皆様のお力をお借りしながらお手伝いをさせていただきたいと思います.




BackTpTop

Valid XHTML 1.0 Transitional Valid CSS!