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血の通う機械を!

平成5年度委員長校顧問
 秋田大学  神谷 修

 ある学者によれば人類文明の発展段階は4つにわけられると言う.初めは「軍事」が重要視される段階、そして「政治」さらに「経済」が文明を大きく躍進させる段階があるという.最終段階として「人間」の時代がこなければならないと説いている.私は、以上の観点から「道具」を含めた「機械」について考えてみたい.
 「軍事」すなわち戦うことは、人類の初期から現代まで、機械進歩の大きな推進力となったことは残念ながら事実である.原始時代の「やじり」から始まり、もっと強い武器として「鉄の刀」が発明された.インドのウーツ鋼から作られたダマスカスの剣の切れ味を求めて、合金鋼が発達した.ロシアのチョルノフは、より強い大砲を作るために金属組織学を発達させた.近代になり、人類は武力の頂点とも言える「核兵器」を作り上げてしまった.
 さらに、国家という枠組みの中で「政治」「経済」を高めるため、これまで人間はわき目もふらず突き進んできた.そのエネルギーは、機械技術を著しく発達させた.典型的な例を、アメリカと旧ソビエトのすさまじいばかりの宇宙開発競争に見る思いがする.一時期、全ての新しい機械や素材は、NASAから生み出されるような思いがしたものだ.1986年1月28日、ケネディー宇宙センターから打ち上げられたスペースシャトルは、その直後に大爆発をし7名のクルーの命を奪った.ファインマン等の大統領諮問委員会の調査により原因は明らかになった.低温のためゴムが硬化し燃料が漏れる可能性が高いので「絶対に打ち上げてはいけない」という技術者の声を強引に振り切り、「これ以上の延期は認められない」とする「政治権力」が打ち上げのボタンを押させたのだ.
 軍事、政治、経済を推進力とする機械文明の弊害を反省点とし、私たちはいま「人間」を見直している.この点に、日本機械学会はいち早く取り組んできた.日本機械学会誌では「人間・機械系−人間との融合を目指して」(1990.10)、「生物に学ぶ」(1991.5)、「医療と機械」(1991.11)、「セキュリティ」(1992.2)、「資源回収技術」(1992.3)、「高齢化社会と機械工学」(1993.9)などがあり、最近のメカライフでは「音楽と機械工学」(1993.3)、や「生体/究極の機械」(1993.6)などの優れた特集を学生諸君にもぜひ読んでほしい.
 病める地球号を救うのは君達しかいない、キーワードは「人間」さらには「全ての命」.君達の手で「血の通った機械文明」を築いてほしい.


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