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ウォータージェットの魅力

 東北大学大学院工学研究科
機械知能工学専攻 沢村利洋

 ウォータージェットという言葉を聞いたことがありますか。これは、ただの水噴流ではありません。一言でいうと、水鉄砲の強力なもので、ものを加工するためのものであり、私の研究分野であります。しかし、”ものを加工するといっても、たかが水。加工できるものが限られているんじゃないか?”、とお思いのあなた、あまいあまい。紙、段ボールのようなものから、ステンレス鋼までウォータージェットで切れないものは、ありません(といっても、切削能力を上げるため、小さい砂を混ぜたりするけど)。しかもただ切るだけではなく、水圧を調整することにより、ある組織は残して、別の組織だけ切るという器用なこともできます。
 それでは、なにが問題なのかというと、ぶ厚い材料を切ったときに、その深いところの断面に周期的な縞状の凹凸ができるのです。この原因解明と制御が私の研究テーマなのですが、なかなか答が出ない。切断面を調べてもはっきりせず、それではと、起こすもとである噴流のほうを調べようとしても、分からないことが多すぎる。というのも、300MPaといった高圧力で、しかも、固体、液体、気体の混ざっている噴流については、これまでほとんど研究されていないから情報自体が少ないのです。そのため、研究も手探り状態ということが、多々あります。
 しかし、分からなかったことを自分の手で明らかにしたときの達成感はたいへん気持ちのいいものです。これはスポーツや楽器演奏などでできなかった技ができるようになったときの感じに似ています。もちろんそこまで行くのには、苦労もします。私の実験では、真冬の寒い夜に、材料にあたって跳ね返った水しぶきを、数時間に及ぶ写真撮影の間、頭からかぶって震えていたり、何百枚という写真の現像のため独特の香りのする暗室に泊まり込んだりしたものでした。
 それでもいまだに研究を続けていられるのは、何か大きなこと、自分ではちょっと大変だと最初に思ったことをやり遂げたことのある人なら感じたことがあるでしょう達成感、充実感が感じられるからです。それに、研究の場合、”世界中で今、自分だけがこのことを知っているんだ!”と思うこともできます。そのようなテーマが、ウォータージェットにはまだまだ残っているので、この研究は、なかなかやめられませんね(多分)。


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