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ロビン・フッドの故郷で学んだKISS

東北大学 工学部
機械知能工学科
祖山 均

 日本学術振興会の海外特別研究員として,1994年10月より2年間にわたり英国のノッティンガム大学にて研究生活を送りました。学生会員の皆様の参考になれば,と思い,その折のことを記します。
 そもそも,英国での研究を希望したのは,研究内容や受入れ研究者のリヒタロビッチ先生の人柄に魅かれたのは当然のことですが,以前にケンブリッジでの国際会議に参加した折にノーベル賞受賞者を多数輩出しているキャベンディッシュ研究所を見学し,実験装置などが非常にシンプルなのに驚いたこと,また,ちょうどその頃に英国での研究生活について書かれた本(1)を理想の研究生活だと紹介して下さった先生がおりまして,英国での研究に対する考え方に非常に関心を持ったことも理由の一つです。
 さて,私が2年間過ごしたノッティンガムは,その昔ロビン・フッドの仇敵であるノッティンガム代官の居城があった所で,ノッティンガムの北方にはロビン・フッドが住んでいたシャーウッドの森が広がっています。とはいっても,世界の海を制覇した英国海軍の軍艦建造のために,樫の大木はほとんど切られ,現在,そこには年老いた大木が一本大切に保護されて残っているだけですが。ノッティンガム大学の機械工学科の学科長をしているクレイトン先生は,ノッティンガムをロビン・フッドではなく,ノッティンガム大学で有名にすると意気込んでおられます。その甲斐あってか,最近行われた英国内大手企業105社を対象とした企業の目から見た各大学のランキング調査では,オックスフォード,ケンブリッジに続き,マンチェスター,ノッティンガム,リーズの各大学の人気があるそうです。
 国が違い,物事の考え方が違うために,学ぶことも数多くありました。ComPassということで,機械の設計について学んだ一つを記しておきます。ある時,実験装置を一部改良すべく,図面を書いて共同研究者のリヒタロビッチ先生に持って行きました。ちなみに,リヒタロビッチ先生は,機械工学科のデザインの授業を担当していました。その授業では,グループに単純な課題を与えて実際に図面を描かせ,そして実際に製作します。その授業でまず第一に教えているのがKISSだそうです。黒板に,KISSと書くと寝ていた学生も起きるそうですが。これは,Keep It Simple Stupid の略です。同じ目的,性能を果たすために,極力シンプルにすること,簡単なようでこれほど知恵が要ることはありません。したがって,私の図面もシンプルにして工程を減らすために,大幅に直されてしまいました。ですから,キャベンディッシュ研究所の装置も,今にして思うにはそれぞれ知恵を絞った熟考された装置であると思います。今後,皆様が機械を設計もしくは何か作る時に,このKISSを思い出していただけたら,と思います。
参考文献
(1)松原一郎:劇場街の科学者たち,朝日新聞社,1992.


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