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“At your owm risk.”

(杜)日本機械学会 東北支部長
              庄司 克雄

 小さな漁船が暴風雨に遭い、若い漁船員が死んだ。生き残った船長がこう言った。「こんな暴風雨になるなんて。天気予報はそうは言ってなかったもんで……。」
 昨年、サンフランシスコの北にある海岸に行ったときのことである。浜辺の『ここは波が荒い、泳ぐなら at your own risk.』という大きな看板か目に入った。日本なら、さしずめ『遊泳禁止』というところであろう。訴訟の多い米国では、この表現をよく見るという。つまり、『あなた自身の責任で』という意味である。波が荒いとか、潮の流れが速いとか、持っている情報はすべて教えて上げますが、あとは誰も責任は負わぬ。やるなら自分自身の判断でどうぞということだ。少々極端な話になるが、ロンドンでは横断舗道の信号が赤でも横断して構わない。もちろん、櫟かれ損を覚悟なら。車も容赦なく突っ込んでくる。北京でもそうであるし、アメリカでも同じ様な経験をした。
 責任を負うと言うことは必死になることで、そこには自ずと創意工夫が生まれる。しかし我が国では近ごろ、この自己責任の考え方が少し薄れてしまっているのではないかと思う。多くのことが規則が、そうでなくとも暗黙の了解で決まっていて、自己責任で判断することが少なくなっている。皆に倣って生活する限り、居心地の良い社会である。
 特に教育の場は、本来、自己責任による判断能力を育てるところのはずである。しかし、いま問題になっているがんじがらめの校則を例に出すまでもなく、最近の学校教育は、むしろこれに逆行しているように思えてならない。「最近の若い者は、言われたことは良くやるが、言われたことしかやらない」と言われる。どこかで、自己責任の教育をしなければと思うのだが、学校自体がその責任を果たし得ないでいる。
 その点、学会は入会するもしないも自由である。学生会の会員諸君は何らかの目的を持って日本機械学会に入会したものと思われる。研究発表、研修会参加、情報の収集など、学会の利用の仕方はそれぞれ各人各様であろうが、日本機械学会を利用することによって、ぜひ自己責任による社会参加の体験をして欲しい。

(東北大学 教授)



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