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衛星設計コンテスト

東北大学工学研究科
航空宇宙工学専攻 志和 知子

 「衛星設計コンテスト」というのは全国の大学院や大学,高等専門学校の人達を対象とし,人工衛星の設計や宇宙ミッションのアイデア,企画,その独創性などを競うコンテストのことです.日本機械学会をはじめとして日本航空宇宙学会,電子情報通信学会などの主催で行われ,今年で5回を数えるほどになりました.
 このコンテストは人工衛星に限らず宇宙ミッションのアイデアを競う「アイデアの部」と,大型衛星の相乗り衛星として,重量・寸法に制約のある衛星のミッション設計を競・う「設計の部」の2つがあります.例年全国か30件程の応募があり,これまで様々なミッションが提案されてきました.学校でポスターなどを目にしたことがある方もいると思いますが,だいたい年末頃に各学会誌上などで参加募集のアナウンスがあり翌年の6月に作品の応募を締め切り書類審査による一次審査を行います.それをパスした作品が10月末に行われる最終審査会に臨み,25〜30分のプレゼンテーションをして,アイデア・設計大賞をはじめとする各学会賞を競うというものです.
 私達の研究室では主に人工衛星や惑星探査機,探査ローバーなど宇宙ロボットの制御に関する研究をしていて,昨年4年生の研修の一環として私と,同じく4年生の藤島君,M1の平岡さんの3人で初めてこのコンテストに参加し,その時提案した「Space Worm(宇宙構造物外壁点検マイクロロボット)」が見事アイデア大賞を受賞しました.それはそれで大変嬉しいことなのですが,さらに今年も研究室の4年生,工藤君・小田君・黒須君が参加し,彼らの提案した「The Antlion(ありじごく型惑星掘削ロボット)」が2年連続てアイデア大賞を受賞するという快挙を成し遂げました.
 以下にアイデア大賞を受賞したこの2つのミッションについて簡単に紹介し,衛星設計コンテストがどのようなものなのか,皆さんにも知ってもらいたいと思います.
 では「Space Worm」について説明します.
 今まで一度打ち上げられた衛星は,軌道上で何か不具合が生じてもそれを見ることはできないし,宇宙空間でマイクロデブリと呼ばれる数多くの小さなゴミによる外壁の損傷がどの程度の影響を及ぼすのかは詳しく知られていません.そこで,右の図のようにCCDカメラとレーザーマイクロスコープを搭載した小型ロボットを,宇宙ステーション外壁に設置することで,軌道上の様子をモニターできるようにしようというのがこのミッションの目的になります.
 ここで紹介するロボットはとても小型で,全長が30〜70cmの範囲で伸縮し,幅・高さともに1Op程度に想定しています.
 このロボットの特長は,自律的に衛星表面を歩行・移動してその様子をモニターできるという点と,外壁への吸着に静電引力を用いるという点です.静電引力は一般に弱いと思われがちな力ですが,宇宙のような微小重力環境で小型のロボットが付着するのには十分な力になります.さらに,吸盤で表面に付着するのでこのロボットを衛星に取り付ける時に,今までの衛星の設計を変更する必要がないという利点もあります.
 このロボットは衛星や宇宙ステーションの外壁を移動する時,2つの吸盤が吸着した状態で残りの足を自由に移動し,その足を表面に吸着させてから次の足を動かします.その動き方がまるで尺取虫のように1歩1歩ゆっくりと歩くことから,「Space Worm(宇市の尺取虫)」という名前をつけました.
 次に「TheAntlion」について紹介します.
 1997年夏,アメリカのローバーが火星表面の探査を行ったのは皆さんも耳にしたことがあると思います.月や惑星を探査することは,その天体の地質や資源化の可能性を探るために大変重要で,さらに表面だけでなく穴を掘ることができれば,より重要な下層の情報を得ることが可能になります.しかし月や惑星上でボーリングのような大掛かりな装置を用いることはできません.そこで,簡単で効率よく下層の情報を得ることができる新しい掘削探査方法として右の図にあるような「ありじごく型ロボット」を考えました.例えば月では厚さ約10mのレゴリス層が堆積し,その下には固い岩盤があると考えられています.このロボットはそのようなレゴリス層の最下層まで掘り進み,さらにその下の岩盤のサンプルをベネトレーダ型弾丸で砕いて採取することを目的としています.
 ロボットは表面に切刃のついた下向きの円錐台形状で,ロボット全体を振動させでゆっくりと旋回しながらレゴリスを削っていきます.このロボットは小型・軽量となるよう設計し,移動探査ローバーで複数個搬送できるようにすることで,右の図のような掘削・回収作業を多くの地点で行えるようにします.このミッションが実現すれば月や惑星の地質構造に関して非常に多くの情報を得ることができると期待されます.
 このような学生の手による小型衛星の打ち上げは既に海外では実現されていて,その点で日本は遅れていると言えます.でも,このコンテストで過去に大賞を受賞した方に「ぜひその衛星を打ち上げてみませんか?」という話がきたというのを聞いたことがありますし,実際に私達のプレゼンテーション終了後,宇宙や衛星の専門家である審査員の方々に「これは特許を取って売り出せるよ.」と言われました.
 ただし,適当に奇抜なアイデアを出せば賞を取れ,もしかしたらいつか打ち上げてもらえるかもというような簡単なものではありません.今回の最終審査会でも,ある審査員の方に「それは宇宙でやる必要がないよ.」と厳しいコメントをもらっているグループもありました.ですからミッションの独創性だけでなく,意義・実現性などの考察,さらに発表のインパクトなどが必要になってきます.それからアドバイスとしては,宇宙開発のトレンドを知っておくことが必要です.おもしろいというだけのミッションではなく,宇宙開発では今何が起こっているか,何が求められているかをチェックしておいたほうがいいと思います.
 これを読んで私達の研究室や宇宙ロボット,衛星設計コンテストに興味を持った方,また,来年このコンテストに参加してみたいという方は,ぜひ
http://astro.mech.tohoku.ac.jp を覗いてみて下さい.
 皆さんも宇宙への夢を広げてみませんか?


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