目次へ戻る   

「不安と夢」

 東北支部長 加藤 康司

  日本機械学会東北支部学生会の会員の皆様はそれぞれに、平成15年(西暦2003年)を様々の思いで迎えておられる事と思います。それら「様々の思い」は「夢」、「希望」、「混沌」、「不安」あるいは「絶望」などのいずれかの種類に属することでしょう。

  学生会員の皆様にこれらいずれかの「思い」をもたらすために作用していると考えられる最近の重要な鍵となる言葉(key words)には次のような言葉があるかと思います。

  (1)ロボット、(2)マイクロマシン、(3)携帯電話、(4)ディジタルカメラ、(5)燃料電池、(6)電気自動車、(7)リニアモーターカー、(8)通信衛星、(9)宇宙ステーション、(10)排棄物、(11)環境破壊、(12)地球温暖化、(13)リサイクル、(14)風力発電、(15)太陽光発電、(16)日本からの工場と技術の流出、(17)産業の空洞化、(18)長期不況、(19)国際的競争、(20)高齢化社会

  皆様の「夢」は介護ロボット作りや、排気ガスの出ない車作りへと広がっているのでしょうか。それとも、日本から工場が消えてゆき、3人に1人が60才以上とう老人社会における機械の役割と職場に対する不安が広がっているのでしょうか。それとも機械技術が生み出した環境破壊と排棄物の山を前にして技術者として途方に暮れる思いでしょうか。

  いずれの思いを抱きつつ新年を迎えたにせよ、学生全員の皆様が理解してよい歴史的に確かな事実があると思います。「人間社会の困難な状況に敢然と立ち向かい、目前の問題を解決し新しい状況を作りだしてきたのはいつも若者である」、ということです。若者の前に傲然として立ちはだかり胸を張る既得権勢力や確立された権威は、若者のとらわれない感覚と夢を求める矛盾を突く行動力の前に結局は崩れ去り、明日を若者にゆだねるしか無い、と言うことです。

  織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、勝海舟、西郷隆盛、坂本竜馬、豊田佐吉、本田宗一郎、湯川秀樹、江崎玲於奈、田中耕一。時代をとらえ、意を決し、行動を開始したとき、彼等は誰しもが若かった。これらの人々はほんの一例です。世界の歴史を広く展望すれば、若者の感性と行動力が常に新しい時代を作りだしてきたことが良く分かると思います。

  機械技術者として、あるいは機械の研究者として、これから社会での活動に加わって行こうとしている学生会員の皆様にとって今大切な事は、地球、人類そして日本の社会が非常に危機的な状況にある事を多面的に理解した上で、「不安」を抱きつつもこの状況を打開できるのは「若さが持つ夢への情熱と行動力だ」という事を理解することであると思います。「夢の設定と行動の方策」を権威者の言うに頼らないようにする事であろうと思います。

  自分の目と耳で捜し、自分の判断で行動することが大切である事を歴史は教えていると思います。羅針盤(Compass)の針は、それを支える軸との摩擦や周囲の圧力に拘束されない時に進むべき方向を感じ取ることが出来ます。学生会員の皆様の「若さ」がそのような針なのだという事を自覚し、己の内なるものの声に耳を澄まし、自信を持って行動する事が非常に大切であると思います。

                   (東北大学大学院工学研究科 教授)



目次へ戻る