目次へ戻る   

編入学受験体験談

鶴岡工業高等専門学校

機械工学科5年  高橋 孝治

  6月某日、私は大学受験のため電車に乗り込んだ。N大学の受験は以前から決めていたが、私の心は不安で満ち溢れていた。試験前日の午後にN市に到着.ホテルのチェックインを終えても緊張がほぐれない私は、N市に住む友人を呼び出す.少し気分転換しようと市内を案内してもらい、夕食を共にした。ホテルに帰ると、緊張は大分ほぐれていた。

 時計を見ると、もう7時をまわっていた。「少し勉強しようかな」と思いつつ、テレビをつけてしまった。それが大きな間違いの始まりだった。そのころ2002年W杯の真っ最中でつい試合に見入ってしまった。気がつくと、9時をまわり、まだ風呂にも入ってない.急いで風呂に入ったが,そこでまた間違いを犯した。テレビを消していなかったのだ。自分に甘い私は、風呂上がりに「少しだけなら…」と、またテレビを見た。「ヤバイ!!」と思った時には、時計の針は11時を指し、私を追いつめた。「大きなバッグいっぱいに詰め込んだ勉強道具が役に立ってないじゃないか!」と、自分を責めた。

 急いでバッグから勉強道具を取り出し、最後のチェックのつもりで教科書を開いた。すると、焦っているせいだったのか、日頃、勉強していないせいなのか、まったく頭の中に入ってこない。「こんな公式あったけ?」などと思う始末。時間は刻一刻と過ぎ、さらに私を追いつめる。そんな事をしながらも、なんとか、あと1教科でチェック終了という所まで漕ぎ着けた。そして、その教科が忘れられない教科になろうとは、このときの私はまだ気づいていなかった。

 その教科とは、「水力学」である。初めはスラスラと頭の中に公式が吸い込まれていったが、ピトー管の公式を見た瞬間、私の頭が拒絶反応を起こした。「あれ!?ここどうなってんの?」、こうなってしまったら、もう終わりである。時刻は午前1時をまわっていたため、気力がなく、理解することなど不可能だった。そのことを悟った私は、あきらめて寝ることにした。結局、ベッドに入ったのは、午前2時くらいだった。

 翌日は、当然、寝不足でコンディションは最悪。天気は快晴。普通なら気持ちいいものだが、6月といえば、夏に向けて気温がどんどん上昇していく時期で、スーツを着るには暑い。しかも暑がりな私ならなおさらだった。悪条件は重なり、電車は朝の通勤ラッシュで満員。汗が噴き出して、朝、セットしてきた髪もすでに乱れていて、最悪な気分で試験会場に入った。学科ごとに、部屋を分けられ、自分に順番が来るまで待機していた。そして、運命の時がきた。自分の受験番号が呼ばれ、試験会場に向かった。そこには、地獄に通じる2つの扉があった。

 1つ目の扉を開いた。試験官が4人いた。さっそく、面接が始まり、志望動機を聞かれ、その後、野球を11年間続けていたことなどに触れられ、そこまでは、予定通りだった。すると、すぐに口頭試問に移った。数学の問題を渡され、それはなんとか解くことができた。次に、水力と熱力からの選択問題だった。水力を選んだ私は、問題を見て驚愕した。そう、昨日の夜に解らなかった、ピトー管の問題があったのだ。「わからない!」そう思った私は、とっさにどうごまかすか考えていた。どうごまかしたかは、記憶がとんでいるため覚えていない。なんとか切り抜け、撃沈して1つ目の部屋を後にした。

 しかし、悲劇はこれだけでは終わらなかった。2つ目の部屋へ入ると、さっそく英語の問題が渡された。先のこともあって、パニックになっていた私は、英単語がわからず、ほとんど英語のまま訳してしまった。次に、材力と工力の選択問題で、材力が得意だった私は、迷わず、材力を選んだ。問題が渡され、見てみると得意なはりの問題だった。「これは、イケル!」と、思い自信満々で黒板に式を書いていく。しかし、式を書いている途中で、「もうそれで図かけるでしょ。」と、試験官の一言。それが、私を狂わせた。そう言われた以上、その先の式を書くことはできない。冷や汗が頬を、背中を流れていく。焦った私には、そのはりが、とても複雑なはりに見えてきた。そして、書いたのは、まったく違う答え。そこで、試験官の一言。「どうしてそうなるの?」焦った私は、さらにまた、意味不明な答えを書いた。もう既に試験官は、呆れ顔。3度目の正直で、なんとか当った。最後に、英語の試験官から「単語わからないの多かったね。習ってないの?」、材力の試験官から「常識的に考えて、あの答えにならないでしょ!」とキツイ言葉を浴びせられ、このとき、落ちたと確信した。1週間後、合否がわかったときには驚いた。なんと、受かっていたのだ。落ちると思っていた私は、まさに天にも昇る気分だった。

 しかし、これまでも、このような失敗を何度も繰り返している。そのたび「今度からは、余裕を持てるようにしよう」と、思うが成功したためしがない。これから先、何度同じ失敗をするのだろう…と思いつつ、私の受験失敗談(でも、受かったから成功談なのか?)を終わりにしようと思う。



  
目次へ戻る