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「研究成果にならないこと」

秋田県立大学大学院 修士二年  斉藤 恒英


  研究を行うと,大きく分けて2つの問題にぶち当たる.1つはその研究で解決するべき問題すなわち研究テーマ.そしてもう1つは直接研究テーマとは直接関係ないところで生じる問題である.実際に研究を行うと後者の(研究成果とはならない)問題の数が非常に多く,たくさんの時間を使うことになるのだが,僕はそれを知らなかった.
  僕の研究は自動制御と言い,車を走らせたりロボットを意のままに動かしたりするのに役立っている.この度僕が行った研究は,複雑な物体をいかに簡単なアルゴリズムで動かせるかというもので,理論だけの研究であれば最低限制御の知識があれば問題に取り組むことができるのである.しかし,僕の研究の場合は実機で動かないことには意味が無く,いくらプログラム上でうまくいったとしても単なる机上の空論となってしまうので,物を動かしてみることを決意した.そこで,研究成果とはならない多くの問題と直面した.例えばモータを動かすためのプログラム作成や電源の正しい配線など,電子部品の中身を全く触ったことの無い僕にとっては難しい問題であった.さらに戸惑ったのが『実験材料の発注』という授業では絶対に教えてくれない問題である.僕の大学は創立10年にも満たない新設校であり,実験装置の数がいまだに少ない.僕の場合はモータ,パソコン,ネジにいたるまで,すべて新しく発注しないといけない状態だった.しかし,そのおかげで,取引先とのやり取り,実験材料の発注,見積書,請求書,納品書の取り扱い等,実験を1から始める場合の一連の流れを経験することができた.実際に作ったものは,モータ2つをバネで繋げただけの比較的簡単なものではあったが,モータの動特性も精密に見ると仕様書通りではなく,シミュレーションと実測値を合わせるためのパラメータチューニングをしたり,発注した材料が届くまで時間がかかったりと,実験をするための準備に時間を費やし実験が先送りになることが多々あった.
  一見すると無駄とも思えるような論文に載らない試行錯誤も,やらないことには研究は進まない.たくさんの無駄なことがあってはじめて1つのことが成し遂げられるのだと研究活動を通して実感した.


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