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来華12歳の節分

東北大学

工学部機械知能・航空工学科四年 海隅 亜矢

  私の家には12歳になるラブラドールがいる。彼女は、冬の間だけ家の中ですごす。茶色っぽい金色の、ふかふかの体を抱きしめると、ちょっとふくよかな体形にえもいわれぬ安心感が広がる。温厚で、12の歳に似合わない子供っぽさが可愛い。2階の廊下にある昔使っていた古いソファがお気に入りで、今は彼女専用のベッドになっている。ソファがあんまり寝心地がいいものだから、夜になると2階に行きたいと熱烈アピールされる。最近は老犬らしく、私が塾講師のバイトから帰る22:00頃にはもう2階で寝ていることが多い。私はソファで丸くなっている彼女にちょっかいを出す。彼女はクンクン私の匂いを嗅いで、たまに尻尾を振ってくれる。
  でも、一昨日の夜は違った。私が帰ると、彼女はリビングの入り口で私を迎えてくれた。妹が恵方巻きを食べている。私の分もあった。今日は節分だ。私が恵方巻きを食べ終えると、「豆まきするよー」の号令。それにしたがって家族がテーブルを寄せたり食器をさげたりと準備を始める。毎年の豆まき前の光景。それを見た彼女は悪い予感を覚えたのか、挙動不審に陥る。皆から目を逸らし、「こっち見ないで」のポーズをとる。今日は彼女にとって一番嫌いで大好きな日なのだ。厚紙に鬼の絵がプリントされたお面を見てこれから起こることを確信したらしく、尻尾を巻いている。でも逃げない。母にお面をかぶせられて観念したように床に伏せる。
  さて、準備もできたところで豆まき開始。我が家では鬼役を全員で回して豆を投げられる。もちろん彼女も1回は鬼役をする。彼女の一番嫌いな節分。耳を裏返し、目を剥いて飛んでくる豆にびっくりしている。豆は彼女の体に触るぐらいにしか投げていないはずだが、何年たってもこの行事が嫌らしい。「おしまい、おいでー」の声にそそくさと戻ってくる。熱湯喉元過ぎれば何とやら、自分の番が終わると催促するように皆の豆の匂いを嗅いで回る。豆まきが終われば、彼女の大好きな節分。豆を拾い集めて歳の数だけ食べる時間に皆が食べている豆をもらえるのがたまらなく嬉しいのだ。落花生の殻を剥いている腕を鼻でつつき、おねだりする。はじめはあげた豆の数を皆で数えていたが、潤んだ瞳でじっと見つめられると今日ばかりは抗えず、ついついたくさんあげてしまう。今年もやっぱり彼女の食べる豆の量は家族で一番多いのだった。




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