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酔っぱらい

弘前大学 理工学部 知能機械工学科 4年
横田頌平

 私は昔から乗り物が好きで,幼いときには飛行機のパイロットや船乗りなどに憧れていた. しかしあるとき,自分がそれらの仕事に決定的に向いていないことに気付かされた.それは,乗り物を見るのは好きで問題無いのだが,乗って動くと酔って気分が悪くなるのである.この体質は乗り物の運転士には致命的である.この自分に課された体質を受け入れ,それではと思い, 乗り物に関係のある学問を学ぶことを考え機械系の学科へ進学することを決心した.その結果,知能機械工学科所属という現在に至っている.

 この電子コンパス執筆の依頼を指導教員から受けたとき,自分の平和な大学生活について書こうかと思った.だがしかし,そのような内容の文章は,すでに他の先輩方が書いてそうであり, また,これまでの大学生活は,自分にとってただただ平穏な毎日が続いていただけなので, あまり面白そうな話も書けそうもないと思った.そこで,ここは私自身の人生行路に少なからず影響を及ぼした『乗り物酔い』について書きたいと思う.

 私は小さい頃から乗り物酔いがひどかった. 家族でキャンプに出掛けるたびに,その道々で気分が悪くなり吐いていた気がする. 小・中学校の修学旅行のときも乗り物で出発するやいなや,すぐ具合が悪くなっていた. ただ,そんな体質ではあったけれど,年を重ねることで己を知り,対処法を学ぶことで,高校生になるころには乗り物酔いは随分と改善・軽減されていた. そして気が付けば,高校3年生ごろには乗り物酔いを心配することさえ全く忘れていた. そう, 初めて札幌から弘前へと来るときまでは.

私が初めて弘前の地に足を踏み入れたのは,大学から合格通知を受け取ったあとに様々な入学手続きをするために訪れた時である. そのころはまだ北海道新幹線などというものは無く,札幌から特急を乗り継いで移動すると言うのが,鉄道で弘前に至る道であった. このときに乗った特急が問題であった. 乗った経験のある人はわかるかもしれないが,北海道を走る特急はディーゼル機関車であるため,その走行には独特の揺れや音などがある.それに加えて,札幌から弘前への道のりは非常にカーブが多い. それらの条件が,初めて弘前に訪れようとした私に襲いかかり耐えきることができなかった. 長い鉄道での移動の中,ただただ吐き気を抑えつつ,電車に乗り換え, 息絶え絶えの状態で弘前に到着した. その後,初めて弘前大学に訪れた(入試は札幌会場で受けたため)が気持ち悪くて,ほとんど記憶が無い. 今想えば,乗り物酔いのせいで弘前大学の第一印象は最悪であった.ただ往路の経験を踏まえて,帰路は酔い止めを飲んだため札幌への帰り道で気持ち悪くなることはなかった.

すでに弘前大学の第一印象が最悪だった日から4年近くが経過した.しかし未だに遠出の際には,当時のつらい記憶がよみがえり酔い止めが必須となる. 周りにいる人たちからは『酔い止めなんて飲まなくても大丈夫だよ』とか言われたりするが,そんな言葉に酔い止め効果はまったく無い.とにかく,気分が悪くなる本人にとっては,万が一でも酔いたくなので, 最悪を想定してできる限りの事前対策を惜しみたくない. 最近では,基本的な移動に飛行機を使用することが増えてきたため,相対的に特急に乗る機会が減っている.だとしても,未だに酔い止めは常時携帯している. とにもかくにも,冬期の北海道は天気が荒れる日も少なくないので,年末などの帰省のときに飛行機が過剰に揺れないか非常に心配である.  社会人となると乗り物での移動の頻度は今と比べものにならないほど増えだろう.今は,年齢を重ねることでもう少しは乗り物に慣れ, 人生に影響が出ないほどに酔わなくなることを願うばかりである.







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