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弘前大学 理工学部 機械科学科 4年
田中英祐

 みなさんは火を見るとどんな気持ちになるだろうか。日々の生活でガスコンロやロウソクの火を目にする人は多いと思うが、大体の人は特に何も思わないだろう。私も1年前まではそうであった。
 この1年間、私は火と向き合ってきた。というのも、私の研究は消火に関するものだからだ。目的は非常に明確で、誰もが消火器を用いて火災を確実に消せるように,適切な消火動作を明らかにするというものだ。人が行う消火器を用いた消火動作を模した装置で小スケール消火実験を行い、火炎消火の最適条件を探す。というわけで、バーナ(学校の理科の実験で用いるガスバーナではない)に火炎を形成しては消すという、燃料の無駄遣いと怒られてしまいそうな実験をしていた。人によっては消火器での消火なんてただノズルを持って振ればいいだけでしょ、と思う人もいるかもしれないが、そんな甘い話ではない。火というやつは本当に厄介な相手で、しつこいし粘り強いし全く言うことを聞かない。実験結果は消火確率という形で、試行回数に対する消火成功回数の割合で評価する。ある条件では消火がうまく達成されていて、あと一回消火に成功すれば消火確率1を取るというところで最後の一回の実験を行うと、見事に消火に失敗することがよくある。なんなんだこいつらは、さっきまでは大人しく消えてくれていたじゃないか、と日々思う。難しい話はしないが、火炎は燃料と周囲の空気が混合している可燃性予混合気層にあっという間に伝播してしまう。簡単に制御不可能な火災となってしまうのも頷ける。この一年間、消火をより確実に達成するために様々な試行錯誤を重ねてきた。うまくいかないことも多く、火を手懐けることは難しい。まだまだ明らかになっていないことは多いし、みなさんにこれこそが完璧な消火法だと言い切ることはできない。確実に言い切れるのは、火の取り扱いには十分に注意を払い、消火器を使うことがないように徹底することだ。
 ただ火炎に対して愚痴を言うだけではもったいないので、消火器消火のアドバイスをここに記しておこう。消火の際は、手前から順序よく消火器ノズルを左右に振りながら火源に近づき、できるだけ短時間で消火を達成できるようにすることが重要である。このノズルを振る周波数は6-7 Hz程度で、これは人間の場合だと全力で振る気持ちで振らないといけない。時々、カラーコーンに消火器から噴射した水をちょろちょろかけるだけで拍手喝采が起こるような、名ばかりの防災訓練をしていることがよくある(私の出身校ではそうだった記憶がある)。あのイメージだけを持っていると実際に消火器で消火をしなければならない時に太刀打ちできないので、実際の消火を経験しておくことが望ましいが、それが厳しい場合は消火器で消火をしている映像を一度見ておくことを勧める。
 最後に、ゆるい感じの文章となってしまったが、火は扱い方を間違えると本当に危険であることに間違いはない。今一度、身の回りに火災の危険がないか確認して欲しい。







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