技術移転および経済的・軍事的戦略:

先端技術におけるココム規制および国際競争 1945 - 1990

Associate Prof. Jacqueline McGLADE

Monmouth University, USA


Abstract:
1940年代末から米国に指導されたヨーロッパ諸国同盟は、西側諸国からソビエト連邦とその同盟国への先端技術の流出を規制することを試みた。1949年、NATO後援の下でココム(対共産圏輸出統制委員会)が設立され、高感度技術リストがまとめられた。それは現実の軍事技術、または軍事能力を助長する可能性を持つとみなされる技術を対象としていた。以後数十年間を通じてココムは高感度技術リストにより軍事技術を制限しようとし、通商停止製品の輸出の監視・制限を求めた。この貿易管理は容易なことではなかった。ココム・リストの内容と、規制が適用されるレベルは、西欧諸国同盟の様々な地理的経済的野望によって調停され交渉された。事実、隠された、あるいは平行して進む「冷戦」は、とりわけ米国、英国、日本、フランス、オランダ、イタリアを取り囲んで進展していった。ココム戦略の効力と強化をめぐって生じた争点は、ココムが米国経済の優位を助長するために利用され、それが米国とヨーロッパの間の「技術格差」を広げるのに貢献しているという懐疑であった。この論争は、共産主義圏を封じ込める、あるいはその基礎を掘り崩す長期的戦略をめぐる、西欧における根本的な見解の相違をも反映していた。最近の研究には、西欧諸国にではなく、ソ連圏諸国に現われたココムによる経済的帰結に焦点をしぼる傾向がある。しかし、ココムによる貿易管理は、軍事用ハイテク製品、特にエレクトロニクス関連、コンピュータ関連、そしてシステム装置の部品といった諸市場への規制と同様に、戦後の西欧における一般市民の発展や配置に関わる、新たな予期せぬ制約を築き、植え付けたことにおいて、きわめて重要な役割を果たしたのである。

戦後の技術貿易について一般的な地政学的歴史を越えて、ココム規制の歴史は、技術移転に含まれる多数の過程中の1つのユニークな事例たりうる。特定の技術の主要素の定義とその描写、暗黙知識の技術および諸工程に対する関係、技術を得る、または代替するための方法、リバースエンジニアリングに拡張された相当の努力とその成功の度合など、これら全ては、ココム規制の歴史が技術移転の解剖学に提供してくれる方法の事例を与えてくれる。本報告は英国、フランス、米国における新たに利用可能となった膨大な資料の調査に基づいている。

Key Words:

(注)
リバースエンジニアリング (reverse engineering):
[経営] 既存のソフトウェアを調査解析し、設計上のアイディアを抽出したり、再文書化をしたりすること。ソフトウェア開発の通常の手順を逆にたどり、プログラムから木構造流れ図、データ流れ図、相互参照表などを生成する。このために、プログラムの構文、制御構造、データ構造などを解析する。ソフトウェア保守業務を改善する手法として活用されている。自社のソフトウェア開発のために他社の開発したソフトウェアをリバースエンジニアリングすることについては、著作権法ともかかわり情報産業界を含めさまざまな議論がされている。(理工学辞典、東京理科大学理工学辞典編集委員会編集、日刊工業新聞社、1996)