活動報告
2006年年次大会レポート


 本会の2006年度年次大会が9月18日(月)から22日(水)まで, 熊本市の熊本大学工学部で開催されました.このうち,当部門に関連する活動をレポートします.

1.特別テーマ講演と関連企画セッション
 本会は,現在の社会におけるいくつかの重要課題を取り上げ,部門横断的な協力による企画行事を実施して社会に情報発信しよう, との考えから,今年の年次大会から特別テーマ講演と関連企画セッションなどのイベントを設定することになりました. 初年度の本大会では「エネルギー」「バイオ医療」「人材育成」の3つのテーマが取り上げられましたが, 当部門は「人材育成」に対する企画運営を本会の他部門・組織と協力して行いました.
 まず,「人材育成」の特別テーマ講演として「キャリア開発と学会」と題する大橋秀雄氏(工学院大学理事長, 元本会会長)による講演が行われ,その後,関連企画セッションとして,次の3つのテーマ

(1)「足元から崩れる人材育成 ―初等中等教育における技術・技術科教育の危機―」(当部門 協力)
(2)「大学院教育を考える(パート2)」(大学院教育懇談会およびLadies' Association of JSME 協力)
(3)「これからの技術者人材育成」(能力開発促進機構 協力)

に対するワークショップが開催されました.当部門が協力した(1)は,大会2日目の9月19日(火) 9:30から第4室にて行われ,技術者育成の出発点ともいうべき初等中等教育における技術教育の危機的状況の認識とこれから進むべき道について講演と討論が行われました.
 今山延洋氏(静岡大学)に中央教育審議会の答申と技術教育・技術科教育の変遷を紹介頂いた後,土井康作氏(鳥取大学) と安東茂樹氏(京都教育大学)に初等中等教育における技術教育・技術科教育の危機的状況を報告頂きました. また,初等中等教育で技術科教育に携わる教員を養成する立場から,大学の教員養成課程における技術教育の実情を大阪教育大学の橋本孝之氏に紹介頂きました. さらに,これらの現状を打開するための提案が,このワークショップの企画者の一人である渡邉辰郎氏(東京大学)からなされました.
 活発な意見交換がなされ,大変有意義なワークショップでしたが,惜しむらくは時間が足りませんでした. しかしこのワークショップが「よく考えれば一番肝心なはずの幼少期からの技術教育・技術科教育の現状がこんなものか」 ということを参加者が認識できたことは確実で,これを広く知らしめるために今後も同様な企画を各地で開催すべきでは, と感じました.

「足元から崩れる人材育成」講演会場の風景

2.ワークショップ
 前項のワークショップとは別の,当部門が継続的に開催しているワークショップも2つ開催されました (いずれも川上顕治郎氏が企画).
 まず,ワークショップ「産業考古学シリーズ」(19日10:30-12:00)では,熊本大学の安井平司氏に 「熊本大学工学部研究資料館について」と題した講演により,熊本大学工学研究資料館(旧機械実験工場) の紹介をして頂きました.当資料館は,熊本大学工学部の前身である熊本高等工業学校(旧制第五高等学校の工学部が独立したもの) 時代に建てられた由緒ある建物で,長年にわたって機械工学関連学科の機械実験工場として使用され, 国の重要文化財指定も受けたものです.当ワークショップ開催後,参加者全員で安井氏の案内により当資料館を見学しました. 建物自体もさることながら,多数の歴史ある工作機械や試験機,測定器など(その多数が国指定重要文化財) が状態良く保存されており,参加者は驚きの声を上げていました.また,それらを通して当時の技術や教育方法などもうかがい知ることができ, 大変すばらしい産業遺産であると感じました. (なお,当資料館および五高記念館は本大会の付帯行事として会期中開放されていました.)
続くワークショップ「戦後の技術開発史を語る」(同日15:00-16:00)では,三菱重工業長崎造船所の高木祐介氏に 「戦後造船技術の変遷をかえりみて/戦後のタンカーの変遷」と題する講演を頂きました. 我々は,日本のタンカーが戦後大型化の道を辿ってきたことだけは知っていましたが,大型化の方にだけ目がいき, 納期の短縮によるコストダウンや航行時の燃料消費率の大幅な低減など,広範囲にわたって大変な技術革新が進められてきたことについてはその認識が希薄でした. 船は大変古くからありながら今も進化を遂げている,夢のある乗り物であることを,高木氏の講演により改めて知りました.

部門ワークショップ1(「産業考古学シリーズ」,熊本大学 安井氏)

部門ワークショップ2(「戦後の技術開発史を語る」,三菱重工業 高木氏)

部門ワークショップの会場風景

ワークショップ講師の紹介(企画・司会の川上氏)

熊本大学工学研究資料館(旧機械実験工場)の見学風景

3.オーガナイズドセッション
 オーガナイズドセッションは例年通り「S-91 技術教育・工学教育(オーガナイザ 渡邉 辰郎,吉田喜一)」 「S-92 機械技術史・工学史(オーガナイザ 緒方正則,堤 一郎 )」の二つが企画されました.
 前者は,高専や大学教育の教育プログラムの紹介や評価,教育論に関連するもの,CAI・CAD・CAE関連の教育プログラムの開発, 技術と社会連関に関するものなどで,合計21件の発表がありました.
 また,後者は,各研究者が精力的に続けている技術史や産業遺産に関連する調査研究の成果紹介などで, 合計7件の発表がありました.

4.部門同好会
 部門登録者の懇親会である部門同好会は,9月19日(火)18:30から会場にある学内食堂で行われました. 会の中で,恒例の部門表彰式が行われ,業績賞受賞者の鈴木 孝氏(元 日野自動車)に村田部門長から表彰状と記念品が手渡されました. 2時間足らずの同好会でしたが,大変和やかな会でした. (部門表彰の詳細については,本ニュースレターの「2005年度部門賞および部門一般表彰報告」をご覧ください. )

同好会:村田部門長の挨拶同好会:鈴木 孝氏の表彰式

同好会:会場の風景

5.終わりに
 年次大会は年々発表件数が増え,講演室数も増加しているため,自分が第一順位に登録する部門の講演会に参加するだけで精一杯というのが実情のようです. が,年次大会は多くの異なる専門分野の研究者や技術者同士の情報交換の場として有効です.当部門も教育,産業史, 工学倫理などを通して本会の全会員に共通して必要な情報を発信していきますので, 来年度の年次大会(2007年9月9日(日)〜12日(水),関西大学)も是非,当部門のイベントにご参加ください.

(報告 吉田敬介(九州大学))

      

目次へ
日本機械学会
技術と社会部門ニュースレターNo.17
(C)著作権:2007 社団法人 日本機械学会 技術と社会部門