Home > ニュースレター バックナンバー > 32号 目次 > 技術紹介:遠隔肩もみシステム

技術紹介:遠隔肩もみシステム

吉田和司,一野瀬亮子,尾坂忠史((株)日立製作所 機械研究所)

1. はじめに

 現在、遠隔にいる他人とのコミュニケーションツールとしては、電話(携帯電話含む)やパソコンを利用したEメールが一般的である。これらのツールでは音声や画像や文字といった視聴覚により情報を伝達している。もし、これらのツールに触覚情報による情報伝達手段が付加できたならば、コミュニケーションはよりリアルで現実感のあるものとなる。このような、視聴覚だけでなく触覚をも利用してより現実感のあるコミュニケーションツールを実現することを目標として遠隔肩もみシステムを試作した。このシステムを利用すれば、例えば遠く離れた場所に住む祖父母に対して孫が肩もみをしながら、まるで同居している家族のように会話や雰囲気を楽しむことができる。本稿では、今回試作した遠隔肩もみシステムと、このシステムに不可欠な圧力センサ要素と圧力再現要素の概要について述べる。

2. 遠隔肩もみシステム

 図1に試作した遠隔肩もみシステムを示す。試作したシステムは、入力部と出力部から構成されており、入力部と出力部はネットワークで接続され、出力部の肩もみ椅子を遠隔から操作できるようになっている。入力部は、接触センサが取り付けられたマネキン型操作部と操作者の映像と音声を取り込むビデオカメラから構成され、出力部はマネキン操作部から入力された押圧を再現する肩もみ椅子と、肩もみをされる者の映像と音声を取り込むビデオカメラ、および操作者の音声を再生するスピーカから構成されている。入力部と出力部に設けられたPCは、単に情報処理を行うだけでなく相手側の画像が表示される。

 ○入力部

 入力部におけるマネキン型操作部の構成を図2に示す。操作者はマネキンに対して肩もみを行い,その肩もみ位置と強さを検出して肩もみデータとして送信する。

  肩もみ位置と圧力を検出するセンサとして、新たに開発した静電容量方式の接触センサを用いた。本センサは、洋裁用マネキンの表面に親指の太さ幅(8mm)の銅箔粘着テープを縦横格子状に貼り,肩もみを行う指が近付いたときの静電容量の変化による電位差を検出して接触位置や圧力の大小を検出するものである。圧力を検出するため、押すと適度に凹むスポンジを銅箔テープの上に被せた。弱い力ではスポンジにより銅箔テープから指が離れているので弱い電位差となり,強い力ではスポンジが凹んで指が銅箔テープに接近するので電位差が大きくなる。
  この銅箔テープに制御ボードから高周波を流し,各テープの電圧値をUSBボードのH8マイコンに取り込み,肩もみを行っていない状態からの電圧差を求める。電圧差はUSBを通じて制御パソコンに送り,制御パソコンでは,電圧差の最も大きい位置を肩もみ位置とし(=Σ(電圧差×各テープ位置座標)/テープ本数),電圧差が押圧強さに比例するとして押圧力を求める(=倍率定数×Σ(電圧差))。パソコンは肩もみ椅子に肩もみ位置及び押圧力データを送信する。

 ○出力部

 出力部における肩もみ椅子の構成を図3に示す。肩もみ方法は,遠隔から制御されていることが容易に理解できるように単純動作の押圧ピン方式とし、市販のマッサージチェアを利用し背もたれ枠に左右押圧ピンユニットを設けた。左右押圧ピンユニットは上下左右に移動可能である。

  押圧ピンは、ラックギア,パウダクラッチを介してピン駆動モータで突出,後退駆動される。押圧力の強弱制御はパウダクラッチの電圧制御で行う。パウダクラッチを滑らせることで押圧力を変化させることができ,0V〜5Vの電圧印加で約3N〜21Nの変化が可能である。押圧ピンの突出量は変位センサで測定する。ピン先端にはゴム製ボールを取り付けている。

 ○制御方法

 肩もみ制御の概略を図4に示す。肩もみ方法は,押圧位置固定で押圧力を加える「指圧モード」と、押圧力を加えながら押圧位置を移動させる「撫でモード」が行えるようにした。

  指圧モードでの指圧位置への移動は背中に接触しない位置まで押圧ピンを後退させてから高速で行う。移動時間は背中を肩もみするときの手の位置移動と同程度とするため,もっとも離れた位置でも2秒以内で移動(ジャンプ移動)するようにした。一方,撫でモードでは押圧力を加えながら移動(撫で移動)する。ジャンプ移動と撫で移動は,現在の押圧位置から新しく指示された押圧位置までの距離の大小で切り替えることにした。押圧力を加えたまま高速で移動すると人体に痛みを与え危険と考え,押圧位置移動速度(撫で速度)は十分遅い速度(27mm/s)とした。

3. おわりに

 試作したシステムを所内ネットワーク接続し,パソコン型遠隔操作部及びマネキン型遠隔操作部から肩もみ椅子を操作した。その結果,制御周期50msにおいてジャンプ移動2秒以内,撫で移動27mm/sで押圧ピンの位置と押圧力の強弱を制御可能なことを確認した。また、被験者からのヒアリング結果からも現実感の点で従来のコミュニケーション機器に比べて高い評価を得た。

  本システムのように、触覚をコミュニケーション手段へ応用する試みは既に多くの研究機関で取り組まれている。情報機器分野において機械技術が付加価値をもたらす取組みでもあり、今後益々盛んになっていくものと考える。

Fig. 1 遠隔肩もみシステムの構成

 

Fig. 2 マネキン型操作部

 

Fig. 3 肩もみ椅子と押圧ピンの構成

 

Fig. 4 肩もみ制御のフロー図

Last Modified at 2007/1/20