LastUpdate 2015.11.4


J S M E 談 話 室

ようこそ、JSME談話室 「き・か・い」 へ


JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.142 「世界産業遺産とイノベーション」

日本機械学会第93期企画理事
川本 要次(三菱重工業(株)執行役員)

川本 要次

 今年7月、全国23施設が「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録されました。この中には、私が勤める三菱重工の長崎造船所内にある次の5施設も登録されました。(1)小菅修船場跡(通称、そろばんドック)、(2)第三船渠、(3)ジャイアント・カンチレバークレーン、(4)旧木型場(現在、三菱史料館)、(5)占勝閣(長崎造船所の迎賓館)

 この中で、三菱史料館は、1898年(明治31年)に木型場として建設された赤煉瓦造りの建物です。現在は、1857年(安政4年)に長崎造船所前身の長崎溶鉄所建設が着手された時から現在まで900点を展示する史料館となっています。日本最古の工作機械や海底調査に使用された泳気鐘、日本初の国産陸用蒸気タービンなどの展示を通して、長崎造船所の歴史的変遷や造船・エネルギー技術の発展も紹介しています。一般の方々にも公開されており、予約が必要ですが休日も見学できます。ちなみに、本会機械遺産第1号は、小菅修船場跡の曳上げ装置です。また、機械遺産第4号の国産初の陸用蒸気タービンは、史料館に展示されています。

 私も9月末久しぶりに三菱史料館を訪れ、近代工業の発展の足跡を改めて振り返りました。特に、幕末から明治時代初期の展示に強い印象を受けました。400年に及ぶ鎖国が明けて、数十年の間に先進の欧米に肩を並べるほどの設備と技術力を身に着けたのです。当初はオランダ人技術者の指導を受けて、見よう見まねで造船所を建設しました。その後は、欧米の先進企業から技術導入を積極的に行い、その技術を自らさらに発展させるまでになりました。当時の資料や写真を見ると異国の言葉と悪戦苦闘しながら、技術の習得・改良に努力された先人の苦労が伝わってきます。また、そのスピードには驚嘆します。

 翻って、現在の技術開発の状況を鑑みると、質、量、スピードいずれも後塵を拝していると言わざるを得ません。私自身も、「産学官連携だ」「オープンイノベーションだ」と言って、研究開発を進めていますが、ちょん髷を結ったまま羽織袴で海外の人たちと渡り合った先人のことを思うと忸怩たる物があります。結局、「使命感」なのではないかと思い至りました。当時の技術者は「日本の将来」を思い、力を発揮したのだと思います。当社は「この星に確かな未来を」という言葉で我々の使命感を示しています。改めて、この言葉を噛み締めて研究開発を進めたいと思います。

 来年の本会の年次大会は、九州大学伊都キャンパスをメイン会場として開催されます。九州には長崎のほかにも今回世界文化遺産に登録された施設が数多くあります。現在、年次大会に合わせて、「世界産業遺産」を訪ねる見学会を計画しています。みなさんには是非、見学会に参加し、先人たちの苦労と心意気を感じてもらいたいと思います。

JSME談話室
J S M E 談話室 バックナンバーへ

日本機械学会