作成 廣安 知之(同志社大学) 2010/5/11

日本機械学会 設計工学・システム部門 

「関西設計工学研究会」(A-TS12-04)

http://www.is.doshisha.ac.jp/kd/

2009年度 研究会活動報告

  本研究会は2002年4月より日本機械学会設計工学システム部門設置研究会とし て関西地区の大学で設計関連の研究を行っているメンバーを中心に発足し、現在 も活発に活動を続けております。

2009年度には、第33回(6月4日)、第34回(3月1日)の2回の研究会を行いました。本研究会では、「現状行っている設計プロセスの見直し・過去の設計を次の設計に生かす方法について」というテーマを中心に、数値解析と 設計プロセスの関連や、設計知識の活用法について議論を行っています。

第33回の研究会では、パナソニック株式会社 松田信英さまをお招きして、主にTRIZについての勉強を行い、議論を行いました。TRIZは発明の思考プロセスにおける創造的手法の一つです。TRIZはどのようなものであるか、どのように利用して革新的アイデアを創出するのかについて、設計例を交えながら、アイディア発想プロセスについて学びました。 多くの発想プロセスや設計手法がありますが、いずれにせよ、具体的な設計例と経験を基にそれをうまく利用するノウハウが必要であることを感じました。

第34回の研究会では、2名の講師をお招きしました。
宇宙航空研究開発機構の大山 聖さまをお招きして、パレート最適解のデータ分析についてお話を聞き議論しました。最近の計算機パワーの増大とアルゴリズムの発展により、多目的最適化問題においても解候補となるパレート解集合を求めることは容易になりました。次のフェーズはそのパレート解集合から、どのように解を候補を決定するかというフェーズです。 大山さんの手法では、得られたパレート解を基に、主成分分析を行い、設計のモード分析とも呼べる非常に興味深い手法を提案されておりました。
つづいて、キャトルアイ・サイエンスの上島 豊 様からR&D Chain Management System Softwareによる大規模データの効率の良い処理についてのお話を伺いました。計算機による設計支援が盛んになればなるほど、過去の設計例の蓄積、シミュレーションによって得られるデータの効率的な保管とその利用、大規模データの保存と転送が大きな問題になります。 上島さんは、それらをうまく取り扱うシステムを構築しておりその紹介を受けました。

最後に 主査である廣安の私見を披露して 本レポートをまとめておきたいと思います。
90年代のバブル崩壊以降、日本における「ものづくり」の重要性と「技術立国」として日本の立ち位置が再三、くりかえしてアナウンスされてきました。さらに、リーマンショック以降の景気低迷をうけて、これを打ち破る手段として、ここでも「ものづくり」と「技術立国」のキーワードがあげられています。しかしながら、この20年の間、一部のうまく立ち上がっている業種はありますが、全体としては人口の減少と同じく尻すぼみの感が否めません。「ものづくり」と「技術立国」という点に対しては、設計工学・システム部門および関西設計工学研究会の果たす役割は大きくなければならず、その意味では、うまくいっていないとすれば、主査である私の力不足であり、反省している次第です。
いろいろとうまくいっていない理由はあげられると思いますがここでは2つの課題を考えてみたいと思います。
まず一つ目が、「ものづくり」さえ行われていればそれで良いのか?という疑問です。確かに「ものづくり」は重要ですが、何かものを作ればそれでよいわけではありません。そこのところをもう一度振り返って考える必要があります。これまで成功してきた日本の「ものづくり」もものを作れば何でもよかったわけではないはずです。これまで何を作ってきたのか、これから何を作るかについてあらためて考える必要があります。日本の「刀」を作るには非常に高い技術が必要でしょう。しかしながら。「刀」では日本の経済の復興を支えることはできません。剣の達人であった坂本龍馬が刀を捨てて新しい海に出て行ったように、新しい分野での「ものづくり」が重要でしょう。
2点目が、これからの設計において、何が重要かという視点です。 ここに「googleはなぜAndroidやChrome OSを無料で配布するのか?」という記事があります。 この図においてグーグルはサービスとコンテンツを押さえようとしているということを解説しています。グーグルやアップルは日本の企業に比べてそれほど売上の大きくない会社です。しかしながら、利益率や会社の時価総額は日本企業を圧倒します。そして何よりもそれらの企業が国と世界に活力を与えています。日本はこれまで"device"と"retail"の最終製品で成功してきました。そして「ものづくり」という響きには、あいかわらずこの"device"と"retail"の最終製品をターゲットにしているように感じます。一方で、グーグルやアップルは自社の製品を中心にサービスとコンテンツによる売上をあげる仕組みをつくりつつあります。では、「ものづくり」におけるサービスとコンテンツは何かといえば、最終製品ではなくて、「設計」であり「設計例もしくはノウハウ」ということになると思います。これまで日本はすばらしい製品をつくり、それらを作り出した「設計」と「ノウハウ」があるはずです。しかしながら、これらの資産がうまく蓄積されておらず、利用されておらず、商品となっていないのではないでしょうか。我々の研究会では、ここ数年、、「現状行っている設計プロセスの見直し・過去の設計を次の設計に生かす方法について」というテーマを中心に考えてきました。これはまさに、"device"と"retail"だけを向いているのではなく、"service"と"contents"を利用していこうということです。これからの日本の「ものづくり」においては、ますますこのフェーズが重要になると考えます。

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