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浮動ヘッド

flying head

 気体潤滑の原理により,走行する記録媒体上に微小なすきまを介して浮上する磁気ヘッド.リジッドな媒体を使用する磁気ディスク装置磁気ドラム装置において,非接触の相対運動を実現するために使用される.磁気ドラム装置は現用されていないため,磁気ディスク装置用の浮動ヘッドのみが現用されている .データの記録再生を行うヘッドとデータを記録しておく磁気ディスクとの間の浮上すきまが狭いほど記録密度を高めることができるため,浮上すきまが記録密度と等価な指標となっている.
 最初の磁気ディスク装置(1954年に開発されたIBM社のRAMAC350)では,静圧型気体軸受(浮上すきま20 μm)であったが,それ以降は動圧型気体軸受となり,1961年~1971年の間(浮上すきま2.5→1.3 μm)は,浮上面が円筒状で磁気コアが浮上面内部に埋め込まれていた.1973年には,スライダ材とヘッド材とが同一のフェライトで構成されたモノリシック型が採用され,浮上面は平面スライダの流入側の一部にテーパを形成したテーパーフラット型が採用された(IBM3340型,浮上すきま0.51 μm).1979年には,スライダ材料としてセラミックス(Al2O3・TiC,CaTiO3)を用い,流出端壁面に薄膜ヘッドを形成した最初の薄膜ヘッドが開発された(IBM3370型,長さ4 mm,押圧力95 mN,浮上すきま0.2~0.3 μm).このスライダの長さはミニ型とよばれ,これ以降に急速に進むダウンサイジングのスタンダードとなった.浮上面形状はテーパフラット型であったが,スライダ幅は,従来の研磨仕上げに代わり,エッチング加工で仕上げされた.ダウンサイジングの過程では,マイクロ型(同2.8 mm,60 mN,0.1~0.2 μm),ナノ型(同2 mm,35 mN,0.05~0.1 μm),ピコ型(長さ1.25 mm),フェムト型(長さ1~0.75 mm,押圧力20 mN)が実用化されてきた.また,マスキングによるイオンミリング加工によって,境界形状やステップ深さを任意に設計・製造できるようになり,有限要素法などによる大規模シミュレーションによって,多段ステップで入り組んだ複雑な境界をもつ浮上面形状の採用が可能となっている.微小すきまの気体潤滑膜では,気体の粒子性の影響が顕在化するため,浮上特性の解析には分子運動論に基づく潤滑理論(修正レイノルズ方程式分子気体潤滑方程式)を適用する必要がある. 浮上面形状の最適化の評価は,動作すきまにおいて,垂直方向変位に対する剛性を高くするとともに,ピッチング,ローリングに対する剛性をも高くし,また,内周と外周における速度差とヨーアングルの変化に対しても,すきま変動を最小限にすることである.最新の代表的な浮動ヘッドスライダは,フェムト型で shallow step,deep step,main cavity の三段の平面をもち,流出端の垂直壁面上には薄膜ヘッドとその上側にヒータが形成されている.ヒータは加熱用のコイルであり,記録再生時に電流を流して加熱して,熱膨張によりヘッドをディスク側へ突き出す働きをする(TFC: thermal flying height control).記録再生しないときの代表的な浮上すきまは 8 nm,記録再生中はヘッドが突き出されることによって,ヘッドとディスクとのすきま(ギャップと呼ばれる)は 1 nm の極限状態まで接近している.

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