目次へ戻る   前のページ   次のページ


 東北学生会機関誌
 「ComPass」第4号に寄せて

 日本機械学会東北支部長
      箱守 京次郎

 学生員だった頃、講演会の後の見学会が一つの楽しみで、大分お世話になりました。東京での春の大会、緊張した後援も終わって、翌朝、どこかの駅前に集合してバスでの出発です。参加者名簿が配られます。この時は、同業の学生は他に0。車両と食品の会社を見学した後、城ケ島・油壺水族館とよく学びよく遊ぶコースです。大好きだった車両見学にかなり満足した後のキャラメルやアイスクリームの製造プロセスの見学もまた楽し、だったのですが、問題は、その見学後の討論です。水虫対策が中心になったのには仰天し、感心し、その時、私は別な世界の一端を覗いた訳です。ちなみに、学生の私も同じ光景、水を流した床上で女工さん達が甲斐がいしく働く場面はしっかりと見ていました。
 時経て、秋の大会をお世話する立場になり、見学を担当しました。ある時には、会社の見学に併せて、平泉の中尊寺や史跡訪問をコースに加えました。何と、客集めもやったのです。その中には、未だ学生員ではない、学生さんもいました。何を見、何を感じ、何を掴んだか、聞くのは野暮というものです。確かなことは、行く時の曳かれ羊が、帰りのバスの中では生き生きと満足気に見えたこと。それからも一昔を経ました。数は少なかったが熱心な自主参加の学生さんは何をしているのだろう。見学会のことなどふと思い出して呉れているでしょうか。
 時代が変わったといいます。進歩が激しいといいます。一方、工場見学なども、ラインを一目見ても、初学者には本質が益々分かり難くなってきています。環境を制御するために隔離され覆われるなど、五感に直接訴え理解することが難しくなりつつあるのも確かです。一方、解説付きの、あるいはお仕着せのおびただしい情報が、流れています。好奇心、探求心がマスクされ勝ちのこの状況でこそ、自らの目で見、感じ、色々な人(専門家)と交わる機会を求めることが大切になってきていると思います。勿論、東北学生会の活動の狙いも一つはそこにあるのでしょう。また、学会の講演会と同等に、あるいは時としてそれ以上に、懇親会、見学会がそのための絶好の機会なのです。プロフェッショナル・ソサイアテイの所以です。
 東北学生会も十分に存在感のあるものとなってきました。もとより、指導され育成してこられた代々の教官のご努力、熱意を忘れることは出来ません。ここに、敬意と深甚の謝意を表しつつ、なおも、主役は学生諸君であり、先輩から後輩へと引き継がれた「機械を愛する心」だと、皆さんの自覚と自信を促したいと思います。あと、4ヶ月で卒業ですね。学生会活動を一過性のものとすることなく、学生員から准員・正員へ、学生同志から機械同志へと発展されることをここに改めて期待する次第です。いつかどこかでお会いする日、そして議論する日を楽しみに。
 (東北大学機械電子工学科 教授)


目次へ戻る   前のページ   次のページ