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お!,ところで君,夕食は?

鶴岡工業高等専門学校
機械工学科
坂井徹也

 世間一般の人に「熱を説明して下さい.」というと.ほとんどの人は「お湯を沸かすもの.」とか,「風邪をひいたときに体が熱くなること.」「氷を溶かすもの.」などといった答が,返ってくるだろう.しかし,科学や工業に関する知識を持っ人ならば,「物体の温度を変えるエネルギーである,」という答がかえってくるに違いない.辞書を引くと,「物の温度を変える.」,「高温」,「体温」,「心を打ち込む.」とかかれている.熱というものは,色々な解釈の仕方があるのである.
 私の卒業研究のテーマは,「導体の密度と形状が熱流に及ぼす影響」である.つまり熱の伝わり方,即ち物体の温度の変化を扱うのである.研究の概略を説明しよう.まず金属棒の一端をヒーターで加熱し,つぎに他端方向に各部の温度を測定する.それを無次元表示で表し,消費電力の大きさや棒の形状の変化によって,各部の温度がどのように変わるかを調べるのである.金属棒の形状は,断面が一様なものから,連続的に変化したりまたは急変したり様々である.機械学会誌の広告の欄に有限要素法による熱伝導解析のきれいなカラー写真が載っている.それの簡単な場合と思っていただけぱよい.
 実験の温度範囲を室温から約300℃までとし,各部の温度を熱電対により測定する.熱電対は銅−コンスタンタンであり,水銀温度計の示す値と比較して誤差の少ないものを用いた.10分間の加熱を行い,この間2分毎に各部の温度上昇を測定した.この行程を数回繰り返し1回の実験とする.現段階では、工具鋼とアルミニュームの熱伝導率と形状係数を求め,理論値との比較を行っている.実験値と理論値との間に多少の誤差があったが,密度の測定の際に生じた誤差と温度を測定する時間の間隔からでる誤差によるものと考えている.卒業研究が終了する二月までには,もう二種類の金属で同じ実験を行う予定である.
 私の卒業研究は、解析によりほぼ答がでていることを確かめているだけであるが,目に見えないものの動きが,解析という手段によって,容易に可視化されることに驚いている.これから先,企業に就職すると,答のでていない研究が多くなるであろう.今行っているこれらの実験を,ただ漠然と繰り返すことなく,また,基礎的な知識の積み重ねが,新しい理解と創造を生むことを信じ,夕食前の空腹と闘っている.指導教官がやって来た.「お!,ところで君,夕食は?」…謎めいた言葉だ.


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