これからの工場はソフトウェアで進化する 仮想化や効率化の先にある夢
本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。

Unitreeのヒューマノイド「G1」。代理店のTechShareが出展し注目を集めていた
2025年1月、東京ビッグサイトで開催された「Factory Innovation Week東京」では、製造業におけるDX(デジタル変革)や、AIを活用した新たなロボット技術の最新動向が紹介されました。展示会には、スマート工場やロボティクスに関する講演も多数行われ、業界の注目が集まりました。
新技術活用のためには「ソフトウェアに合わせた組織づくり」を
Boston DynamicsのMarc Theermann氏は、同社のヒューマノイドロボット「Atlas」や物流向けロボット「Stretch」、4脚ロボット「Spot」などを紹介し、今後5~7年でロボットが自然言語を理解し、倉庫や工場の中を自律的に動き回るようになる未来像を示しました。

Boston Dynamics,Inc. CSO(最高戦略責任者) Marc Theermann氏
NVIDIAの中嶋雅浩氏は「デジタルファーストな工場」の実現に向けたバーチャルファクトリー(仮想工場)構想を紹介しました。NVIDIAでは、工場の計画や運用をまず仮想空間で行う時代が来ると考えています。その中核となる3Dファイルフォーマットが「OpenUSD」であり、物理現象まで再現可能な「Omniverse」という統合プラットフォームです。これらの技術により、工場内での光の当たり方なども仮想空間で再現でき、現実に近い環境で設計やレイアウトが可能になります。

エヌビディア シニア・ビジネスデベロップメント・マネージャー 中嶋雅浩氏
しかし、日本ではこうした先進的な考え方の導入が遅れています。理由のひとつとして、中嶋氏は「生産技術部門が全体最適を目指す組織になっていない」ことを挙げ、ソフトウェアの特性に合わせた組織づくりが今後必要になると指摘しました。

2024年11月「NVIDIA AI Summit」でのシーメンスによるデジタルツイン関連の出展。シーメンスのソフトウェアとNVIDIA Omniverseを接続する
ソフトウェアディファインドなロボットシステム
京セラもAIを活用したロボティクスの取り組みを紹介しました。ロボティクス事業部の可児守氏は、協働ロボットの知能化を進める中での課題として、製造現場に合った学習用データセットが不足している点を挙げました。

京セラ ロボティクス事業部 副事業部長 可児守氏
京セラは2023年からロボティクスサービスを開始。バラ積みされた部品を正しい向きで並べる作業や、キラキラと反射する小さな部品の認識など、難易度の高い作業にも対応できる技術を提供しています。また、購入後もソフトウェアのアップデートによって性能を向上させる「ソフトウェアディファインド」な仕組みも整備されています。たとえばPythonのバージョンアップによって物体認識の処理速度が最大2倍になることもあったそうです。

京セラによる出展の一つ、AIを活用した高精度認識を使った高反射微細ワークのバラ積みピッキング
効率化以外の新しい価値の創出
デンソーの成迫剛志氏は、効率化だけでなく「新たな価値創出」に目を向けるべきだと強調しました。日本では工数削減や省人化が重視されがちですが、欧米では顧客満足度の向上や社会的価値の創出が重要視されています。これはインターネットやクラウド技術の登場時にも似ています。

(株)デンソー 研究開発センター シニアアドバイザー 成迫剛志氏
成迫氏は「夢を語ること」がこれからの技術開発には必要であるとし、人とロボットが共に暮らし、喜びを分かち合う未来を描くことが新たな社会価値につながると語りました。具体的には協働ロボットがカフェやバーで働く例を紹介し、「人とロボットが共生する嬉しさがあふれる世界を実現する」と述べました。

2024年9月「Japan Robot Week」でのデンソー、ユカイ工学、Preferred Roboticsによる共同デモ。LLMを使って人と自然言語でデンソーウェーブの「COBOTTA」ほか3種類のロボットがやりとりしてサービスを提供する
新たな価値創出のためには夢を語らなければならない
「Factory Innovation Week東京」では、「効率化」だけにとどまらず、「組織構造の変革」や「人と技術の共生」といった新しい価値の創出に向けた考え方が示されました。ソフトウェアを中心とした開発や運用が当たり前となりつつある今、技術にふさわしい組織づくりと、未来を見据えた発想がより重要になっているのです。特に、技術活用を考える際に夢や理想が軸になるという視点は、これからの製造業にとって重要だと思います。