森山 和道

本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。

印刷業には「紙に印刷する仕事」というイメージがあると思いますが、実際には紙の準備、印刷、断裁、製本、梱包、出荷まで行う製造業の一種です。

印刷業にも他の製造業と同じく人手不足や効率化といった課題があります。紙を扱う作業は人の熟練に頼ってきました。しかし近年は高齢化や人材不足で、従来のやり方では成り立たなくなっています。

富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)は2018年、神奈川県海老名市に「Future Edge」という施設を作り、ロボットやIoTを使った自動化の仕組みを顧客と検討しています。目標は「印刷業界のマインドセットを変える」ことです。その第一歩として注目されるのが、人間でしかできないとされてきた「紙さばき」の自動化です。

印刷会社に届く紙は束になっており、印刷機に入れる前に「風入れ」と呼ばれる作業で紙の間に空気を入れて重なりを防ぐ必要があります。紙は束になると重たいので、この作業は習得に時間がかかるだけでなく腰を痛める人も多い重労働です。断裁や製本にも同様の作業があります。

2025年に発表された「Revoria Kamisa PH12」は、この紙さばきを自動化するために開発されたロボットです。安川電機のロボットアーム2本を使い、専用ハンドで紙束を持ち、イオン風で静電気を取りながら空気を入れます。3Dセンサーを使って紙を確実につかみ、人並みの繊細さを再現できます。サイズも小さく、場所の余裕がない工場にも短期間で導入可能です。人を重労働から解放しつつ、既存工程をそのまま置き換えられるロボットとなっています。


紙さばきロボット「Revoria Kamisa PH12」による紙さばき

独自開発されたハンド(紙をつかんで除電して空気を入れる)

 

富士フイルムBIでは、この紙さばき以外にも、紙束の仕分けや搬送などを行うロボットも開発しています。さらに生産全体を管理する「Revoria One Production Cockpit」を開発しています。これは工場で生産管理を担う製造実行システム(MES)にあたるシステムで、印刷工程をリアルタイムで見える化。複数メーカーの機械もまとめて管理できます。ライン全体をデジタルで再現するデジタルツインも構築でき、生産性の向上が期待できるといいます。

印刷業界では少量多品種や短納期への対応が必要となっており、効率的な統合管理が必要になっています。富士フイルムBIは、まず重労働をロボットで省力化し、次に管理システムを普及させるという段階的な方法をとって、印刷業のマインドセットを変えようとしています。

最終的な目標は「最適な設備とコストで利益を生み出すこと」です。単に印刷機を動かすのではなく、全体を最適化して持続可能な印刷業を実現することです。


順次市場導入を目指している断裁後の作業向けの協働ロボット

「Revoria One Production Cockpit」が印刷工程全体を統合管理し自動化・見える化

 

印刷業はすべての工程が人に依存しています。そのため、いきなり無人化を目指すことは難しいですが、まずは大変な作業から置き換えることで、働き方を徐々に変えていこうとしています。富士フイルムBIの「Future Edge」は、顧客と課題を話し合い、現場に合うソリューションを探る場でもあります。こうした挑戦が、印刷業の未来を形づくっていくのです。


富士フイルムビジネスイノベーション(株) グラフィックコミュニケーション事業本部
DX事業部 ソリューション開発統括グループ
統括グループ長 丸林 一憲 氏(右)
同グループDX2グループ グループ長 高橋 孝典 氏(左)

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