現場発DXによる「付加価値ファースト」 旭鉄工とi Smart Technologiesの挑戦
本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。
現場を「楽」にするためのIoT革命
愛知県碧南市にある旭鉄工は、トヨタ自動車向けのエンジンや足回り部品をつくる自動車部品メーカーです。同社は、人手不足や市場縮小という厳しい環境の中で、IoTや生成AIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)により、会社の体質を大きく変えてきました。その中心にいるのが、代表取締役社長の木村哲也氏です。

旭鉄工/i Smart Technologies 代表取締役社長 木村 哲也 氏
旭鉄工の売上は約169億円、従業員は400名以上。ですが木村社長は大きな危機感を持っていました。少子高齢化が進み、人を集めることが難しくなっています。一方で自動車業界は電気自動車(EV)へのシフトなど、100年に一度の大変革期にあります。何もしなければ赤字になってしまい、モノが作れなくなります。
そこで旭鉄工は、既存の設備にIoTセンサーを取り付け、工場の稼働状況をリアルタイムで「見える化」しました。これにより、0.01秒単位で機械の動きが記録されるようになりました。すると、「機械がほんの少し止まっている時間(チョコ停)」がたくさんあることが分かったのです。

独自のIoTセンサーを導入している旭鉄工
データを現場で共有して、現場の社員たちはデータを見て話し合い、0.1秒単位で無駄を削る工夫を重ねました。
その結果、残業時間を大きく減らしながら、生産性を約30%向上させることに成功しました。重要なのは、これで「人を減らしたわけではない」ということです。無駄な作業が減って仕事が「楽」になり、利益が出た分は給料アップなどで社員に還元されています。「DXは人間が楽をするためのもの」。これが木村社長の考え方です。
ただ数字を表示するだけでは意味がなく、現場の仕事が楽になり、改善が楽しいと感じられる仕組みをつくることが重要なのです。小さな改善を積み重ね、成果が数字として返ってくることで、社員の主体性も高まりました。

ラインの稼働状況がリアルタイムに見える化されている
自分たちの成功を、世の中へ
こうした現場での成功をもとに、旭鉄工は2016年に自分たちで作ったこのシステムを他社に販売する会社「i Smart Technologies」を立ち上げました。主力製品「iXacs」は、今ある機械に後付けできる安価なIoTシステムです。中小企業でも導入しやすいため、すでに多くの製造ラインで使われています。現在では1,300以上のラインで使われており、海外展開も視野に入れています。

「iXacs」は既存設備に導入できる
「エコ」は「儲かる」
さらに旭鉄工は電力使用量の見える化にも取り組みました。工場の電力消費を調べてみると、機械が動いていないのに電気だけ流れている「待機電力」などの無駄が見えてきました。これらをカットすることで電力使用量を約33%削減し、年間約2億円のコスト削減を実現しました。カーボンニュートラルはコスト増ではなく、利益につながる取り組みでもあるのです。
AIが「部長」に
2024年からは生成AIの活用も本格化しました。「AI製造部長」は毎日の稼働データを分析し、改善案を自動で提案します。ベテラン社員の知識や経験をAIに学習させ、若手社員が困ったときにすぐ答えを教えてくれる仕組みも作りました。これにより、技術の継承もスムーズになっています。
「付加価値ファースト」な未来へ
木村氏は、こうした改革を「付加価値ファースト」という言葉で表現しています。無駄な時間を減らし、本当に価値のある仕事に集中することです。 そのために「イマドキフキソガチ」という9つの視点(「要るの?」「待ちを無くす」「同時に行う」などの頭文字)を掲げ、徹底的に効率化を進めています。 さらに、社長自身の考え方を学習させた「AIキムテツ」まで開発し、経営判断のサポートや講演の準備などに活用しています。
「DXの本質は、デジタルツールを入れることではなく、会社や人の意識を変えること」だと木村氏は語ります。トップ自らが変わり、現場が「楽しい」「楽になった」と思える環境を作る。そうすれば、会社は自然と強くなるのです。
トップ自らが変わり、現場が前向きに動ける環境を整える。その積み重ねが、旭鉄工の「付加価値ファースト」を支えています。