森山 和道

本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。

プラント自律運転ソリューション「PlantPilot」

化学合成や石油精製などを生み出すプラント業界では、深刻な人手不足や熟練技術の継承問題、さらに世界的なコスト競争の激化といった課題に直面しています。これまでプラントの安全な運転は、長年の経験を持つベテラン運転員(オペレーター)の「匠の技」や「勘」に支えられてきました。しかし、少子高齢化による人手不足やベテランの引退が進み、その貴重な技術が失われそうになっているのです。

また、現場での改善活動や従来の制御技術だけでは限界が見え始めており、安定操業と競争力を維持するためには新しい技術が必要です。

こういった課題を解決するためにAIスタートアップのPreferred Networks(PFN)は、ENEOSと共同でプラント自律運転ソリューションを開発しました。2024年からは、ENEOS川崎製油所の常圧蒸留装置において、AIによる自動運転が実際に行われています。さらにそのその知見を活かしたプラント自律運転ソリューション「PlantPilot」を開発しました。

 

なぜこれまでの技術ではダメだったのか

昔から自動制御の仕組みはありました。しかし、従来の「モデル予測制御(MPC)」と呼ばれる技術は、単純な数式で表せる(線形の)現象には強いものの、温度や圧力など無数の要素が複雑に絡み合う(非線形の)化学プラントの挙動を完璧に捉えることは苦手でした。

一方、AI技術は高い性能を発揮するものの、判断の理由が人間にとって分かりにくい「ブラックボックス」になりやすく、現場での信頼を得にくいという課題がありました。もしもの時に爆発や事故につながる危険があるプラントでは、理由の分からないAIの指示に従うわけにはいきません。現場の人たちも安心できる、賢くて「説明ができる」システムが必要だったのです。

 

ベテランの暗黙知と最新AIの融合

「PlantPilot」は、こうした問題を解決するために、深層学習と従来のMPCを組み合わせた仕組みを採用しています。過去の操業データやシミュレーションデータだけでなく、熟練オペレーターの経験やノウハウといった「暗黙知」も制約条件として取り込み、プラントの特性に合わせた制御を行います。複数の制御対象を同時に最適化でき、数十個の信号をまとめて扱える点が特徴です。ENEOSの川崎製油所では、なんと930個ものセンサーの数値を監視しながら、バルブなどの操作機器を同時に調整する、複雑な制御を実現しています。

システムは、センサー値の変化を予測するモデルと、最適な操作を計算するコントローラーから構成されています。エネルギー効率やコスト、製品品質、環境負荷など、重視したい指標を数式として設定し、それらが最も良くなるように操作を自動で提案します。また、既存の制御システムに後付けできる設計のため、導入のリスクが低く、必要に応じて人による手動運転へすぐに切り替えることも可能です。


プラント自動運転AIソリューション“PlantPilot”の概要

「なぜ?」が分かるから信頼できるシステム

「PlantPilot」は説明しやすさにも配慮しています。「コストフォースプロット」という機能により、AIがなぜその操作を選んだのかを可視化することで、オペレーターは判断の根拠を理解し、安心して使うことができます。は画面上で「品質を優先するためにこの数値を上げたいけれど、そうするとコストがこれくらい上がる」といった判断の根拠を、色付きのグラフで分かりやすく示してくれるのです。


可視化技術の例

「PlantPilot」の実力は、現場で証明されています。特に注目すべきは、原油の種類を切り替える際の制御です。製油所では、原料となる原油の種類を切り替える作業が頻繁に発生します。産地によって原油の性質がガラリと変わるため、切り替えのタイミングでは工場の状態が不安定になりやすく、これまではベテランがつきっきりで調整する必要がありました。この難しい作業を、AIが安定してこなせるのです。

このシステムは、今ある工場の設備を大きく変えることなく「後付け」で導入することもできます。問題があれば人間の手動運転に切り替えることもできます。PFNは今後、この技術を他のプラントやサプライチェーン全体へ広げることを目指しています。プラントの自律運転は、すでに現実のものとなりつつあります。


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