森山 和道

本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。

2025年12月に開催された「2025国際ロボット展」では「工場長サミット in 国際ロボット展~ AI for Industry 」というイベントも行われました。そのなかの一つ「スタートアップAIセッション」では大企業とスタートアップの連携や、アメリカと日本の環境の違いなどが議論されました。

 

大企業とスタートアップの「新しい協力関係」

日本の製造業をさらに進化させるためには、歴史ある「大企業」と、新しいアイデアを持つ「スタートアップ企業」が協力することが不可欠です。しかし、「PoC(実証実験)」といわれる「試しにやってみる」段階で終わってしまい、実際の製品やサービスとして世に出ないケースが非常に多いのが課題となっています。

そこで提案されたのが「ベンチャークライアントモデル」という仕組みです。これは、大企業がいきなりお金を出すのではなく、まずはスタートアップの「お客さん」になって製品を使ってみる、という方法です。実際に使って効果が確認できてから投資や本格導入に進むため、成功率が高くなります。

大企業にとっては少ない予算で技術を試せるメリットがあり、スタートアップにとっては最初のお客さんを確保できるメリットがあります。この方法をとると、実験で終わらずに本格的な導入につながる成功率が50%まで上がるそうです。

大切なのは、お互いが「何を解決したいのか」という目的をしっかりと話し合い、まずは小さく、同時にたくさんの試みを始めるスピード感です。


㊧イマクリエイト 代表取締役CEO 山本 彰洋 氏
㊨パナソニック チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼CVC推進室長 郷原 邦男 氏

㊧ベンチャークライアント CEO 木村 将之 氏
㊨〔モデレーター〕 Monozukuri Ventures 執行役員 オープンイノベーション担当長 横溝 真衣 氏

「フィジカルAI」が変える製造現場

今、注目されているのが「フィジカルAI」です。AIが、ロボットなどの「体」を使って現実の世界を認識して、実際に働きかける技術のことです。

こちらのセッションには、2つの最先端企業が登場しました。指先にカメラを搭載し、人間のような「触った感覚(触覚)」をロボットに持たせる技術を持つFingerVisionと、工場全体をコントロールし、たくさんのロボットを効率よく動かす技術を持つKidou Systemsです。


㊧FingerVision 代表取締役 濃野 友紀 氏
㊨Kidou Systems Co-Founder&CEO 塩野 皓士 氏

〔モデレーター〕 Monozukuri Ventures CEO 牧野 成将 氏

AIを進化させるには、実際の現場で泥臭くデータを集め続ける必要があります。この「現場での地道な努力」は、日本の得意分野でもありますが、日本とアメリカとでは、投資とビジョンの違いが話題になりました。

アメリカでは、まだ形になっていない技術であっても「世界をどう変えるか」という大きな未来像があれば、何億円ものお金が集まります。一方、日本では「具体的な事業計画書」が求められることが多く、慎重になりがちです。そのため、日本のスタートアップは限られた資金の中で、地道に実績を積み上げていく必要があります。

ただし、「地道さ」は弱点だけではありません。地道にデータをためることで真似できない強みを作ることができます。特に製造業では、日本の高い技術力と現場力が大きな武器になります。

これからの時代においては、製品の価値は「中身のソフトウェアがアップデートされること」で決まるようになると考えられています。このような考え方は「ソフトウェア・デファインド」と呼ばれています。スマホのように、買った後でアプリが改善されていき、機能がどんどん良くなっていくような製品のことです。最初からアップデートを前提にした設計が求められます。ハードウェアとソフトウェアを一体で考えることが、製品の価値を高めるポイントになります。

全体を通して強調されたのは、日本の製造業には大きなチャンスがある一方で、変化への覚悟が必要だということです。これまでのやり方にとらわれず、リスクを受け入れ、スピードを重視することが求められます。特に重要なのは、迷わず決断してすぐに動き出すことです。データの蓄積が競争力になる今の時代、一日でも早く始めることが何よりも重要だと考えられるからです。

日本企業は一度動き出せば強い実行力を持っています。「これだ」と思った瞬間に、すぐ行動に移す「即決着火」がイノベーションの鍵になるとまとめられました。


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