森山 和道

本記事は日本機械学会連載「AI/Robot/IoT で変わる製造現場」のジュニア版です。

「VLA(Vision-Language-Action)」モデルと呼ばれるAI技術を活用したヒューマノイドロボットの実用化を進めるため、ツムラ、レオン自動機、INSOL-HIGH、山善の4社は2026年3月、「J-HRTI(Japan Humanoid Robot Training & Implementation)」という民間コンソーシアムを設立しました。目的は、ロボットが現場で働くために必要な学習データを集め、日本国内でフィジカルAIの実用化を加速することです。


ロボットを遠隔操作して模倣学習用のデータを収集する

 

近年、生成AIの発展によってロボット分野でも大きな変化が起きています。その中心にあるのがVLAです。従来のロボットは、人が細かくプログラムを書かなければ動きませんでした。しかしVLAは、「見る」「言葉を理解する」「行動する」を一つのAIモデルで学習できるため、人間に近い柔軟な作業が可能になるのではないかと期待されています。

ただし、VLAには大きな課題があります。それは、大量の高品質な学習データが必要なことです。人間が遠隔操作したロボットの動きや、作業中の映像などを大量に集めて学習させなければなりません。大規模言語モデルが膨大な文章を学習して賢くなったのと同じように、ロボットも膨大な実世界データを学習する必要があります。しかし日本は残念ながら、このデータ収集の分野でアメリカや中国に遅れを取っています。

図1 VLAモデルによってロボットを動かすには高品質データが大量に必要

そこで「J-HRTI」では、千葉湾岸エリアに約1400平方メートルのデータ収集センターを整備します。最大50台のヒューマノイドロボットを稼働させ、人間が遠隔操作しながら動作データを集めます。集めたデータには「アノテーション」と呼ばれる「タグ付け」を行い、AIが学習しやすい形に整理します。そしてAIモデルを学習させて実際の作業ができるように改善します。

学習データとしてロボットの動作、カメラ画像などの連続データを取得する

背景には深刻な人手不足があります。製造業や物流業界では、働き手の確保が難しくなっています。INSOL-HIGHの磯部宗克氏は、AIとロボットによる作業支援や人手不足の補完が必要だと説明しました。将来的には、専門家がプログラムを書かなくても、ヒューマノイドロボットが自律的に作業できる環境を目指しています。

この取り組みでは、中国のロボットメーカーAgiBotのヒューマノイドとVLAモデル「GO-1」を活用します。まずは基本的な作業データを共同で収集し、その後、各企業が自社の現場データを追加して学習させます。企業ごとのデータは秘密を守りながら管理され、完成したAIモデルは各社の資産となります。

参加企業も具体的な活用を計画しています。ツムラは漢方薬工場での箱詰め補助や資材運搬などを検討しています。レオン自動機は食品工場で、生地の運搬や機械間の受け渡し、箱詰め作業などへの活用を目指しています。いずれも、今は人が行っている単純作業や、繰り返し作業をロボットに任せることが狙いです。

J-HRTIが重視しているのは、単なる技術開発ではありません。実際に生産性向上やコスト削減につながることです。その考え方をJ-HRTIでは「PX」(フィジカルAIトランスフォーメーション)と呼んでいます。デジタル技術による変革のことを「DX」(デジタルトランスフォーメーション)と言いますが、「PX」はAIとロボットによって現場の働き方を変えることを目指そうという試みです。

今後は10社以上の参加を見込んでおり、まずは「ピック・アンド・プレース」と呼ばれる、「物を取って置く」作業から導入を進めます。その後、より複雑な作業へと対象を広げていく計画です。J-HRTIは、中国など海外企業の技術を活用しながらも、日本独自の高品質な現場データを蓄積することで競争力を高めようとしています。

実際に現場で使われ、生産性を向上させることが重要だというのがこのプロジェクトの考え方です。J-HRTIの取り組みは、日本がフィジカルAI時代において存在感を発揮できるかどうかを左右する重要な挑戦として注目されます。

左:INSOL-HIGH 代表取締役 磯部宗克 氏
中左:ツムラ 執行役員 生産本部長 熊谷昇一 氏
中右:山善 専任役員トータル・ファクトリー・ソリューション支社長 中山勝人 氏
右:レオン自動機 常務執行役員 生産本部長 兼 ロボット事業担当 堺義孝 氏
両袖のロボットはAgibot製

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