部門将来検討委員会2024~2025年度報告書

 

 本報告書は、第99期にエンジンシステム部⾨に設置された部⾨将来検討委員会において、第102期から第103期までの2年間にわたり⾏われた議論と検討の成果を取りまとめたものである。
 2015年のCOP21パリ協定採択以降、化⽯燃料使⽤に起因する地球規模の気候変動を抑制するため、脱炭素化を軸としたエネルギー政策が各国で推進されてきた。特に欧州連合(EU)は再⽣可能エネルギーへの急速な転換を主導してきたが、2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻を契機としたエネルギー供給不安や価格⾼騰を受け、近年はエネルギー安全保障を重視し、原⼦⼒や⼀部化⽯燃料の活⽤を含めた現実的な政策修正も進めている。また、⽶国では政権交代に伴う国際的な気候枠組みへの関与の揺らぎが⾒られる⼀⽅、中国は電動⾞(EV)および関連サプライチェーンにおいて圧倒的な存在感を⽰しており、脱炭素化と産業競争⼒が強く結びつく局⾯に⼊っている。
 このような国際情勢の変化を背景に、各国のエネルギー政策は「脱炭素⼀辺倒」から、「脱炭素・安定供給・経済成⻑の同時達成」を志向する⽅向へと転換しつつある。我が国においても、2020年10⽉に2050年カーボンニュートラル達成を⽬指すと宣⾔して以降、再⽣可能エネルギーの導⼊拡⼤が進められてきたが、近年は国際的なエネルギー需給の不確実性を踏まえ、政策にも変化が⽣じている。2025年に策定された第7次エネルギー基本計画では、再⽣可能エネルギーを最⼤電源と位置づけつつも、原⼦⼒を基盤電源として活⽤する⽅針が明確化され、エネルギー安全保障と脱炭素の両⽴がより強調されている。
 こうしたエネルギー政策の転換は、運輸部⾨にも⼤きな影響を与えている。運輸部⾨における⼆酸化炭素排出量は我が国全体の約18.5%(2022年)を占めており、他の産業部⾨と⽐較して電動化による排出削減の余地が⼤きい分野である。⼀⽅で、電動⾞の普及はエネルギー供給構造や国際的な産業競争とも密接に関係しており、単純な電動化推進のみでは対応が困難な状況にある。このため国⼟交通省は、乗⽤⾞については2035年までに新⾞販売で電動⾞100%を⽬指す⽅針を維持しつつ、商⽤⾞については⾞種や⽤途に応じて電動⾞と脱炭素燃料対応⾞を組み合わせた段階的な導⼊を進めるとしている。これらの施策は、脱炭素化と産業競争⼒、エネルギー安全保障を同時に考慮した、より現実的かつ戦略的なアプローチへの移⾏を⽰すものである。
 このような社会的要請の下で、脱炭素、エネルギーの安定供給、経済成⻑を同時に達成する持続可能社会において、内燃機関が果たすべき役割とは何か。その問いに対する答えを⽇本機械学会内外に明確に⽰すことは、内燃機関に関する研究者・技術者を主要構成員とするエンジンシステム部⾨に課せられた重要な使命である。社会情勢や要請の変化に柔軟に対応しつつ、⻑期的かつ合理的な視点に基づいて継続的に議論を⾏うことが不可⽋である。
 以上の認識の下、当委員会は第99期に設置され、第100期から第101期にかけて30〜40歳代の若⼿産学メンバーを中⼼に議論を開始した。議論にあたっては「内燃機関ありき」を前提としない⽴場から出発し、内燃機関の将来ビジョンおよび部⾨運営に関する提案について、3つのワーキンググループ(WG)に分かれて、同⼀テーマを少⼈数・全員参加型で検討した。各WG での議論内容は全体委員会で共有され、2回の合宿を含む2年間にわたる集中的な議論を通じて、委員間の共通認識の形成と論点の整理が進められ、委員会としての提⾔策定に向けた基盤が整えられた。
 第102期から第103期における当委員会の活動は、これまでの3つのWG での議論を⼀本化し、より具体化することを⽬的として位置づけられた。すなわち、社会で共有可能なエンジンシステムの将来ビジョンを策定するとともに、その実現に向けて必要となる技術課題、⼈材育成課題、産学連携課題を明確化し、今後10年間を⾒据えた具体的な部⾨活動施策案として部⾨へ提⾔することを⽬標とした。議論の継続性を重視し、委員には原則として継続参加を依頼したうえで、「将来ビジョン策定」「⼈材育成」「産学連携」の3つのタスク別にWG を再編成し、議論の集約と具体化を進めた。
 その成果として、詳細は本⽂に譲るが、「マインドマップ」等のツールを活⽤した活発な議論を通じ、社会で共有できるエンジンシステムの将来ビジョンと、それに関連する技術課題として「これからのエンジンができる10のこと、そのために克服しなければならない10のこと」を策定した。また、⼈材育成については「内燃機関の担い⼿となる⼈材」および「新たな⽅向性を発想できる⼈材」の育成のあり⽅について整理を⾏い、産学連携については「熱機関と融合させる分野の拡⼤」という課題認識と、「RC 分科会への橋渡し」という具体的な取組⽅針を⾒出すことができた。
 ⼀⽅で、部⾨へ提⾔する活動施策案のうち、とりわけ「具体化」の段階については、なお道半ばである。今後は、本委員会からの提⾔を起点として、部⾨内外に向けた具体的なアクションへとつなげていくことが重要な課題である。
 なお、当委員会ではこれらの検討に加え、第102期中の2024年12⽉に開催された第35回内燃機関シンポジウム(於 九州⼤学)においてフォーラムを企画・開催した。前期(第100期〜101期)のWG リーダーを中⼼に構成された現・第102期〜103期のWG1が企画を担当し、当委員会での議論内容を広く紹介する機会を得た。フォーラムには部⾨内外から多数の参加者を迎え、講演およびパネルディスカッションを通じて、エンジンに関する学理と技術について活発かつ熱のこもった議論が展開され、成功裡に終えることができた。今後は、学⽣やエンジン分野以外の研究者・技術者にもこのような議論を広げていくことが期待される。
 最後に、本務で多忙な中、本委員会に参加し、⻑時間にわたる議論ならびに本報告書の作成に多⼤なご協⼒を賜った当委員会の全ての委員に深く感謝の意を表する。また、第103期よりオブザーバとして参加いただき、エンジン博物館(オンライン)の創設やWG での議論におけるマインドマップの活⽤など、数多くの重要なアイデアをご提供いただいたKPMG コンサルティング 轟⽊⽒に、ここに記して感謝申し上げる。

2026年3月 部門将来検討委員会委員長 相澤哲哉

 

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