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 夢と冒険、僕はこの2つを

 八戸工業大学工学部
 機械工学科4年  鈴木 武敏

 国道338号線を1台のバスが北に向かって走っている。左には広い荒野、その向こうには山並が小さく見える。右を見ると、木が青々と繁っている姿が夏の
強い日差しを覆いかぶせていた。その先に光り輝く海がある。ただ呆然と手足も出せなくて、つっ立っている木たちの中を一本道が堂々と伸びている。それが1台のパスを六ヶ所原燃PRセンターへ誘導していた。
 むつ小川原港。大企業がこの土地を開発しているので日本の重要拠点と思わせる雰囲気になる。また、柵の中に建物があるから何か不気味な存在に思える。ひどいものになると、外から建物が見えないように壁が続いていた。そして警備が厳しい。
 PRセンターに着いた。本物の工場の中に入れないので、ここで模型の工場を見学する。工場の仕組みや放射線管理が分かる。また展望ホールへ行くと、ウラン濃縮工場、再処理工場、低レベル放射性廃棄貯蔵センターの建設用地、国家石油備蓄基地、六ヶ所村の場所へ連れて行かれた。そこは内緒。
 突然ゴジラが出現し暴れまくっている。六ヶ所村が危ない。放射能が漏れる。早く秘密の場所から逃げだそうと思い、必死にもがいた。遠くの方で声が聞こえる。「左に見えますのは三菱製紙工場です。ここで宮沢りえの写真集が・・・。」とバスガイドが大きな声で言うもんだから、はっと目覚めた。
 僕の名は鈴木武敏という。今は八戸工業大学機械工学科4年で流体研究室に所属している。わけの分からぬまま研修会に参加させられてしまった。八六ヶ所原燃PRセンターに来たのは今日が初めてではない。今回が4回目になる。この研修会の下見に来たのが初めてで、2回目は新入生のオリエンテーションの付き添い、3回目が下北半島に行く途中でおしっこをしたくなり、PRセンターのトイレを利用した。
 わらぶき屋根の家があちこちにあるというのが、僕のイメージする村。この考えをくつがえされたのは大学2年生の時、原付バイクで六ヶ所村に行ったときだった。
普通の家が建っているではないか、少しがっかりしたことを覚えている。
 さて、八戸市の工業団地をバスガイドさんに案内してもらうと、普段何気なく通り過ぎている工場がすごく立派にみえてしまう。不思議な力を秘めているよ、バスガイドは。そう思うと僕はパスから降りた。
 次の日の朝、冒険が始まった。潮風を受けて海の男に化ける。漁船を改造した観光遊覧船がちょっとした波で大きく上下に揺れる。ものすごいスピードをだして走るから海に投げ出されないよう、手すりに必死こいでしがみついた。海の冒険家。
 この研修会があった年の10月12日、スペインを出たコロンブスがカリブ海の小島に到達して500年を迎える。海から見る八戸の工業地帯を新大陸と考えれば、まさに僕はコロンブスの世界に入り込もうとし、海から見る大陸の美しさに感動を覚えていた。コロンブスを生んだのは、ルネサンスの自由な精神の躍動だという。そこで、自由な考えを持てる現在、計り知れない夢とそこに到達するまでの冒険、この2つをいつまでも持ち続けたいと僕は思っている。
 こうして思い出に変わるのを感じ、僕はシャープペンで書くのをやめた。


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