森山 和道

「ChatGPT」とOpenAI

最近、「ChatGPT」というAIチャットがとても話題になってます。皆さんも体験してみましたか? アカウントを作れば誰でも体験できます。

「ChatGPT」の「GPT」とは「Generative Pre-trained Transformer」の略です。つまりChatGPTとは、Transformerというアルゴリズムを使った、事前に訓練されたネットワークを使ったチャット生成という意味です。「OpenAI」という会社が2022年11月に公開しました。

ちなみにこのOpenAI、以前は強化学習を使ってルービックキューブを解くロボットの研究を発表していましたが、今はロボットの研究はいったんお休みしています。

さて「ChatGPT」は、様々な種類の質問に対して、さらさらと答えを吐き出してくれます。答えの中身は必ずしも正解ではありません。ですが少なくとも何かの返事は返ってきます。考えているわけではありません。それっぽい文章を作り出して、返事を返してくれるのです。ロールプレイのように「なんとか風で」と指定すると、それに合わせた返事をしてくれます。

今までにないほどよくできた答えを返してくれること、そして単なるテキストだけではなく文章の要約、作詞やプログラムのコードまで返してくれることから、いろいろな応用方法がありそうだということで、多くの人が可能性を探っています。2023年3月には大幅に性能が向上した「GPT-4」という言語モデルも公開され、大いに話題になっています。テキストだけではなく、画像も認識できるようになりました。新しい技術は常に人の注目を集めます。

世界を変える新しい技術

このお話の第一回で、「この世界は色んな人の仕事でできている」と言いました。一言で仕事といっても、いろいろな仕事があります。社会は複雑です。複雑な物事を理解するときの最初のやり方の一つは「分類する」、つまり「分ける」ことです。観察した対象を、何かの基準を作って分けていくことによって、共通点や違いを見つけやすくなります。また、この作業自体が理解を深めることに繋がっていきます。

仕事にもいろいろな分け方がありますが、たとえば一つの分け方として、世の中をどんどん変えていくような仕事と、変えないための仕事があります。

まったく新しい製品、特にこれまでに存在しないカテゴリーの製品を送り出し、社会を変えるような仕事が世の中をどんどん変えていくタイプの仕事です。新しいものを生み出すことは、とてもかっこいいですね。しばしばロボットにも、こちらの役割が期待されます。

たとえば「掃除ロボット」は今では普通に家電売り場で売られています。みなさんの家庭にもあるかもしれません。ですが、ちょっと前には世の中に存在しない種類の製品でした。特定のメーカーの特定の製品がなかったという意味ではありません。「家庭用の掃除ロボット」という機械自体が存在しなかったのです。

おそらく皆さんの手元にもあるでしょうが、スマホやタブレットも、そんな新しい製品の一つです。昔はそういう製品自体がなかったのです。ですから、スマホの上で動く様々なアプリやサービスも存在しませんでした。最近使っている人も多い「○○ペイ」もありません。

広くいろいろな人が使う製品・サービスを生み出すことが、いかに多くの人に影響を与えるか、つまり新しい仕事を生み出すことができるのか、想像すると、ちょっと分かるのではないでしょうか。

世の中を維持し、変えないための仕事

いっぽう、世の中を変えないための仕事もあります。「変えない」というのはどういう意味かというと「今の状態を維持する」という意味です。今の世の中を維持する。そのための技術は常に必要とされています。

同じ状態を維持するだけでいいなら同じ技術でいいじゃないかと思うかもしれません。ですが今は本当に急激に人手が減っているのです。

アルバイトをしたことがある人ならご存知だと思いますが、今でも多くの現場は人手が足らなくて、てんてこまいです。皆さんが社会に出る5年後、10年後には、いま行われている多様な作業を、より少ない人数で行わなければなりません。そのために人手を支えたり、人手に変わることがロボットにも期待されているのです。

ロボット活用の新しい現場・物流

今の社会のありようを維持するために、工場だけではなく、いろいろな分野でロボットが使われはじめています。特にロボットが急激かつ大量に使われはじめている分野が「物流」です。

物流とは、モノを運び、動かす業種です。スーパーやコンビニに並ぶ商品やスマホを使って家まで届けてもらう商品、そして工場に運び込む材料などなど、大から小まで、様々なレベルで物流技術が活躍します。社会を支える「縁の下の力持ち」のような業種です。

物流のなかにも単にものを運ぶだけではなく、箱から出したり、新たな箱に入れたり、仕分けをしたり保管したり、必要に応じて加工したり、それら全体を「最適化」したりと様々な仕事があります。

たとえばドラッグストアやスーパーに並ぶ商品のことを考えてみましょう。工場から出荷された商品は、いったん物流倉庫に運びこまれ、保管されます。まず、トラックに積み込まれている段ボール箱などをおろして運び入れなければなりません。いったん「パレット」と言われる台に一定数量ごとに積んでいきます。こういう作業にもロボットが使われはじめています。

パレットはフォークリフトで運ばれるのですが、フォークリフトも自動で走行するタイプのものが登場しはじめています。

段ボールの荷下ろしやパレットへの積み上げは言うまでもなく重労働です。ロボットを使うことで、負荷を下げることができます。

次に段ボール箱のなかに入ったものを取り出して、出荷に備えていったん保管します。それを注文に応じて集めて、再び箱に入れて、出荷します。この一連の作業にもロボットが使われています。

たとえば自動倉庫と呼ばれる装置は、棚と棚とのあいだの通路がなく、ぎゅっと商品が積められたかたちになっています。注文が入ってくると、そのオーダーにしたがってロボットが動作し、必要な品物を人のところにまで持ってくるのです。人が必要なものを探して歩く必要はありません。

ただ、この仕組みは大掛かりです。普通の棚をズラっと並べた倉庫もまだまだ多いのが現実です。ほとんどの倉庫がまだこちらです。人が注文表を見ながら棚の間を歩き回って、必要な商品をピックアップして梱包エリアまで運んでいます。
この作業を助けるタイプのロボットも登場しています。人が歩き回る範囲を限っておき、そこに搬送ロボットがやってきます。

棚から商品をピックアップするのはやっぱり人が行うのですが、ロボットに載せてしまえば梱包エリアや他のピッキングエリアへの移動はロボットがやってくれます。人とロボットの協働作業です。

こちらで紹介した動画ではロボットがものを運んでいます。ですが多くの現場では、これらの作業をすべて人力で行っています。すべて人が運んでいるところを想像してみてください。

物流分野でのロボット活用はまだまだ始まったばかりです。これからも新しい技術がどんどん出てくるでしょう。今は夢のような話ですが、将来は完全無人倉庫もあり得ると思います。