2015年度環境工学部門長
 遠藤 久(月島機械株式会社)

自己紹介

 昨年度に引き続き、民間企業所属である私が2015年度の環境工学部門長を拝命いたしました。宜しくお願いいたします。

 私は大学の化学工学科を卒業し、月島機械株式会社に入社しました。入社当初は下水汚泥処理の計画部署、今で言うエンジニアリング部署に配属になり、汚泥濃縮、消化、脱水設備の計画および商品開発に携わった後、ちょうど平成元年から下水汚泥処理の熱プロセス(乾燥、焼却、溶融)の計画部署に異動し、以来国内外の熱プロセスプロジェクトのエンジニアリングを経験してきました。開発した汚泥溶融結晶化技術の国際学会でのプレゼンテーションも行ってきましたが、主にはライン業務が中心であり、機械学会環境工学部門長として、“将来を見据えた新規技術の探索、研究、検証を通して社会に貢献すること”を牽引してゆけるのかどうか不安でした。さらに、居並ぶ著名な大学の先生方、企業の研究開発の方々を差し置いて自分が引き受けてよいものだろうかとも思いましたが、推薦いただいた第3 技術委員会の方々の熱意にもよりまして、拝命の次第となったわけです。

 機械学会環境工学部門との出会いは、2006 年度に第3 技術委員会に加えさせていただいたことから始まり、2009 年度および2010 年度に第3 技術委員長を経て、現在に至っております。引き受けさせていただいた上は、部門を盛りたててゆく所存ですが、なにぶん不慣れなものですから、行き届かない点はご容赦願います。

環境工学部門を取り巻く情勢

 さて、昨年2014 年度は前年度に小保方氏らによるSTAP 細胞発見の一大トピックスが公表され、女性研究者の躍進報道が一転、データの信憑性に端を発してついには論文撤回の結末となり、多くの研究者が非常に残念な思いをしたと思います。

 発想・着目・発見・直感等は研究に着手する大きなきっかけになると思いますが、改めて客観的な検証、ダブルチェックの重要性を思い知りました。企業でのプロポーザルも大なり小なり同じようなことが言えます。顧客への画期的な提案は、発想者にとっては早く伝えて早く世の中に出したい思いがあります。そこに思いすごしはないか、間違った見方はないか、もちろん計算ミスの有無、データの信憑性などなど、間違ったものが社外に提出されないよう、ある意味必然的な人間の不完全な部分を補う、組織的なチェック体制が重要であることを再認識しました。

 また、昨年度は自然環境が一段と変革していることが具現化してきているように思えてなりません。御嶽山の噴火は記憶に新しい方も多いでしょう。猛暑の記録更新、記録的豪雨の頻発とそれに伴う大規模土砂災害の発生など、かつて経験したことがないような事象が毎年のように起こっています。

 一方、暗い話題ばかりではありません。
 日本人のノーベル物理学賞受賞に加え、リニアモーターカーの公開運転がいよいよ開始、燃料電池車が実用化するなど、過去には未来の夢の技術として考えられていたことが、次々に実現化しつつあります。また、ハイブリッドカーの普及など環境に配慮された技術へのニーズがさらに高まってきています。
かつてヒットした映画「Back to the Future part 2」で主人公が向かった未来世界は2015 年4月でした。
我々はまさに、未来にいるのです。新しい技術の実用化は新たな環境問題への挑戦の時ともいえるのではないでしょうか。

環境工学部門の役割

 環境工学部門は機械学会の中では言わば応用分野になり、基礎研究や各単位操作を利用して、我々人類はもとより、地球生物全般の環境を保護、改善してゆくことを使命とした工学部門と思います。

 環境工学部門を構成する技術分野は「第1 技術委員会:騒音・振動評価・改善技術」、「第2 技術委員会:資源循環・廃棄物処理技術分野」、「第3 技術委員会:大気・水環境保全技術」、「第4 技術委員会:環境保全型エネルギー技術分野」であります。
それぞれの技術委員会の活動については、各技術委員長の方々の“活動報告と計画”を参照いただくとして、各技術分野は、まさに上にあげた世間の情勢に直接関係するものです。

 鉄道や交通機関の高速化に伴う騒音・振動対策、バイオマス発電技術、PM2.5 対策技術、再生可能エネルギー利用などはその具体例です。これらの技術の研究開発を通して地球環境へ貢献することは環境工学部門の大きな役割であり、醍醐味ともいうべきと考えます。
これらの成果を広く公表し、現代・将来に活用していただけることを目指したいと思います。しかし、せっかくの公表場である環境工学総合シンポジウムは年々参加者、発表件数とも減少し、活発な会とは言い難い状況と思います。

 また、企業の発表件数は少なく、これは、企業にとってあまりメリットが感じられていないことの表れと思います。このことは、企業の目指すもの、実用化の現状などを官学の研究者に伝えることをも不十分にさせ、相互デメリットになっていやしないかと危惧します。産官学の発表がバランスよく増加することは、同時に産官学それぞれにとってのメリットにつながるものと信じます。

 この状況に鑑み、昨年度から事例発表も歓迎することで発表件数の増加に努めてまいりました。今年度も引き続きこの方針でゆく所存ですので、皆様ふるって投稿いただきたいと思います。また、ここ数年来ワーキンググループで検討を進めている「先進サステイナブル都市構想」について、状況報告し今後の方向づけができないかと考えています。

部門の活動

 環境工学部門は、工学の応用分野である故の性格上、他部門との掛け持ち所帯、あるいは他学会にも環境工学分野は多々存在し、それらの組織との線引きは難しい部門です。事実、機械学会会員の方で環境工学部門を選択する方は、第二番目、第三番目の選択としている方が多くなっています。

 このことは、専門分野の知識や経験を持った方々がそれをどう実用するかということを議論できる恰好の場所とも考えられます。

 昨年度某テレビ局で「教えて学会」という番組がありました。視聴者の無理難題とも思えるお題に対し、機械学会を含む各学会のメーリングリストを活用し、学会会員からのアイデアを紹介するというものでした。一般の方が学会に持つイメージは“硬い”“お偉い”“近づきがたい”などでしたが、実は我々の身近な疑問や要望に応えてくれる頼りになる組織であることがアピールされ、まさに目からうろこの番組でした。もちろん、それだけが学会の役割ではありませんが、特に工学系学会は社会に直結した課題の解決、提案をわかりやすく提供してゆくことが重要だと感じました。

 当機械学会環境工学部門も、日ごろの研究開発成果を実用化してゆくことはもちろん、広くわかりやすくその成果を発信し、他分野の研究者へのアイデアの提供、一般社会への課題解決策を提示、加えて将来環境工学を担う若者達を育ててゆく使命があると考えます。

 これらを進めるために、従来からの環境工学総合シンポジウムでの情報発信を軸に、各部門の地域社会への貢献、学術講演、講習活動を支援してゆきたいと考えています。

 加えて、新しい技術委員を積極的に迎え入れ、新しいニーズやシーズを吸収し、環境工学部門が小さく狭く凝り固まらないよう、常に刷新し続けていけるような場つくりをしてゆきたいと考えます。

 なお、今年度の環境工学総合シンポジウムは、ホームページで公開している通り、(独)産業技術総合研究所殿の臨海副都心センターを利用させていただき、7月8 〜 10 日に開催いたします。会員の皆様にあっては、大いに盛りたてていただけますようお願い申し上げます。

 最後に、環境工学部門が今後どのような組織となるか、さらに盛況な組織へと発展するかは、部門に参加いただいている会員の方々のご協力しだいです。我々部門運営陣は、会員の方々が活動しやすいよう、代弁者として運営してゆきたいと考えます。

 皆さまの更なるご発展を祈りつつ、新任の挨拶とさせていただきます。

ページの先頭へ戻る

2014年度  歴代部門長一覧  2016年度