Menu

産業・化学機械と安全部門

部門長挨拶

日々鍛錬

部門長の写真

2022 年度(100 期)

産業・化学機械と安全部門長

科学警察研究所

新井 裕之

  この稿をご覧になる方全員が、実感しておられ、改めて書き記すものでもありませんが、2021 年度は、2020 年度での予想をはるかに超える、混乱の増した1年でした。新型コロナウイルスの影響は2年に渡り、各種社会活動に制限が加わりました。世界的にも、コロナ禍以前から、物流や、その一環でもある半導体不足といった、経済に密接に関係する分野での問題が懸念されていたところに、コロナ禍で更に、産業界にインパクトを与えました。ワクチン接種が進み、ポストコロナへ舵を切り出した年明けの 2022 年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、エネルギー供給体制へのダメージや、経済制裁といった、地政学や安全保障の観点からの影響も、否応なく及ぼされることになり、不安定な状況が解消される目途は、当面付きそうにない状況です。

  一方、我が国の昨年(令和3年)1 年間の労働災害の状況に目を向けてみますと、新型コロナウイルス感染症り患によるものを除いた件数(令和4年1月速報値)において、死亡者は、コロナ禍前の平成29年比で約17%減少しているものの、休業4日以上の死傷者数は、同年比で約9% 増加しています1)。NHKの報道によると、「新型コロナの影響で出勤できない人が相次いだり、感染防止で少ない人数で業務を進めたりした結果、1人当たりの業務量が増え労災事故が増加している可能性がある」との見解を厚生労働省が示しているとのことで 2)、新型コロナウイルスは、労働安全にも直接、大きな影響を与えていることが、数字でも表れています。 

  ところで、2021年度後半のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、3 人のヒロインがバトンをつないで、大正から令和までの一世紀を描いたドラマでした。このドラマを見る中で、安全対策も同じように、大正時代から何代にも渡り、紡がれてきたことに気付きました。1900 年代初頭にUS Steelで立ち上げられた安全運動のスローガンである “Safety First” の概念が、我が国でも大正初期に「安全専一」「安全第一」として導入され、以来100年以上、激動の時代も多くあった中、労働者、安全担当者、部署や企業を挙げて、または行政による各種規制等により、様々な安全対策がなされてきました。例えば今回のコロナ禍は、我が国でも急激なDXを強いられるなど、従来のやり方を変えざるを得ないものであり、安全に対しても、従来とは異なる観点によるアセスメントが要求されます。従来の対応を基本として行うのに加え、最新の考えやツールも導入することで、環境の変化に着実に対処できるようにしたいものです。

  当部門では、年次大会、講習会、トワイライトセミナー等の各種企画を通じて、機械安全に関する情報を発信しています。ユニークな活動として、機械の衛生リスクをテーマにした市民フォーラムや、 産業安全行動分析学に関する特別講演会なども行っています。これらの企画が、部門登録をしていただいている会員の皆様の、更なる 安全対策の一助になるよう、今年度も部門の活動を展開していきたいと考えています。また、そのためにも、皆様の忌憚ないご意見をお待ちしております。

  先に挙げたドラマの中で、後半のキーとなる脇役のセリフに、次 のようなものがありました。「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ 機会に備えよ。」「続けないと見えない景色がある。」まさに、安全対策そのものです。

1) 厚生労働省 , 労働災害発生状況 , https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/,2022 年 4 月11 日閲覧

2) NHK, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220215/k10013484041000.html,2022 年 4 月 11 日閲覧