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産業・化学機械と安全部門

部門長挨拶

機械安全の将来を見据えて

2023 年度(101 期)

産業・化学機械と安全部門長

千代田化工建設株式会社

上田 毅

2019年12月に中国武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19の流行は、未だ完全に収束状況に至ってはいないが、この3年余りの歳月で私たちが得た教訓も多くある。ワクチンの開発、 接種も新型コロナ対応策のーつとして全世界的に行われてきたが、接種をした人はワクチン接種についてどう考えてこれを受け入れてきたであろうか。多くの人は医療関係者や政府・自治体から発せられた情報から、ワクチン接種を行うことにより副反応がおきるリスクより、感染リスクが低減し、感染したとしてもその症状が軽減されるということを期待してワクチン接種を受け入れたものと思慮する。すなわち、ワクチンによるマイナスの効果よりプラス効果が大きいと自身で判断した結果の行動と言える。 今回の新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの人々は感染リスクについて状況と対応策を個人レベルで判断し、対応を行うことをしてきたのではないだろうか。

このことを「機械安全」にあてはめるとどうであろうか。 私たちが生活を便利に送るために利用している機械製品、もしくはその機械製品を作るための機械、設備における安全について考えてみよう 。 わが国の機械安全に関する企画としては、2001年に国際的な安全規格であるISO12100のDIS(Draft International Standard/ 国際規格案)を参考に作成された「機械包括安全指針」がある。その後、2007年の全面改正を経て現在に至っている。機械の製造者による危険性または有害性の調査・リスク低減の手記を記したもので、機械が持つリスクがどこにあるか、どんなことがリスクになるのか(リスクの同定)、そのリスクの大きさ・影響度はどの程度のものなのか(リスクの見積)といった内容を検討し、そのリスクを回避するための対応策を策定し、実施していくということを行っている。機械安全を専門とされている方には釈迦に説法になるが、安全設計の手順としては、まず本質安全設計方策(リスクのない機械設計)の検討、次に安全防護、付加保護方策の実施、そして消し去ることにできないリスクに対しては使用上の情報提供・明示というステップを踏むことになる。ここで言えることとして、提供された機械は必ずしも100%安全な状態ではないということであり、ある範囲でのリスクは使用者も許容し、そのリスクが元で事故にならないように使用者が注意を払って使っているということである。 もちろん機械設計、製作ミスが元で人命にかかわるような事故を起こしてはならず、そのような重大事故につながるリスクを回避する安全設計の手法は各所でおこなわれている。

機械設計者は安全第一の観点から常に上述のステップを踏んで機械設計をしていくのであるが、機械安全と一言で言っても機械の種類、使われ方、使う人、使う場所や環境など、機械設計者が意図していない状況や環境で使われることも多々あることを想定しておかなければならない。当部門のもうひとつの柱である産業機械、化学機械を含むあらゆる種類の機械に対する安全設計について、今後機械設計技術者がどう立ち向かっていくかを皆様と一緒に考えていきたい。

さらには、これまで安全設計というと、事故を起こしてはならないための設計、すなわちマイナスをゼロにするために必要な設計、極論すればそれ自体は利益を生み出さないものとしてネガテイブなものと捉えられる傾向があった。しかし、近年安全設計が対象の機械を使う人すべてにプラスの喜びを与えるものとしてポジテイプな設計として 捉えていくという考え方が出てきている。私たちの部門においても、機械安全に対し前向きな取り組みで活動をしていきたいと考えている。機械設計に携わる皆様の積極的なご参加と、今後の機械安全のあり方について議論、意見交換、活動へのご協力をお願いしたい。