「画像形成技術の高度化のためのシミュレーションに関する
研究分科会」が発足

  早稲田大学
理工学部
川 本 広 行

 2002年10月,「画像形成技術の高度化のためのシミュレーションに関する研究分科会」が発足しました.

 インクジェットやレーザプリンタなどの画像形成装置の進化には目覚しいものがあります.しかしながら,このような画像形成装置の研究は,製品開発主導の実用化研究が先行しており,情報処理装置や記憶装置にくらべてその基礎的な研究は遅れているといわざるを得ません.意外に思われるかもしれませんが,プリンタの開発は,経験と試行錯誤によるところが多く,他の分野では当然のように行われているシミュレーションを活用した開発は十分ではありません.これには2つの理由があると思います.第一に,現象があまりに複雑で,画質などの高度な要求に答えられる実用的な理論と計算手法がないことが挙げられます.第2は,機械の試作が比較的容易であり,シミュレーションによらないじゅうたん爆撃的なtry-and-errorも不可能ではないこと,また短期間に開発を仕上げるためには,それに頼らざるを得ないことにあると思います.しかし,プリンタに対する要請(美しく,早く,使いやすく高機能で,環境にやさしく,しかもより安く)は一昔前では考えられないほど高くなっており,このままではたちゆかない,というのが開発関係者の共通の問題意識になってきました.

 このため本研究会では,特に画像形成技術の基礎をなす理論とシミュレーションに関する研究を目的としています.主査は私(川本)で,委員には,大学と関連企業の第一線の研究者・開発担当者に加わっていただきました.

 第1回の会合は,2002年10月,早稲田大学で開催しました.約40名の方にお集まりいただき,(1)川本研究室における画像形成工学研究紹介(早大)と(2)リコーにおける電子写真のシミュレーション技術(リコー)の講演と討論を行いましました.また会合の後で,当研究室の見学をしていただき,さらにその後新宿で懇親会を行いました.第2回は,2003年1月,(1)電磁界中における電磁粒体のダイナミクスと画像形成技術への応用に関する研究(早大),(2)球形高分子粒子の衝突帯電機構(同志社大),および(3)トナーの現像特性に関するシミュレーション(同志社大)の発表がありました.これからも,3〜4ヶ月に1回のペースで,毎回2〜3件の発表と討論を行ってゆきたいと考えています.開催場所は,基本的には早稲田大学ですが,ご了解が得られれば,委員のどなたかの研究開発拠点で行うことも計画したいと思っています.

 最後に,研究事例を紹介します.カラーレーザプリンタの現像系では,磁界を利用して,トナーの付着したキャリア(磁性粒子)を感光体表面に搬送します.キャリアは磁界によってチェーン状に穂立ちしており,チェーンの先端が感光体を掃くように接触することで現像が行われるのですが,このチェーンの力学特性が画質に大きな影響を及ぼします.動画1は,キャリアに磁界を加えたときにチェーンができる様子を高速度カメラで観測したもの,動画2はこれを個別要素法でシミュレーションしたものです.計算は観測結果をよく再現することができました.そこで,このような手法を用いて,チェーンの形状や硬さ,固有振動数などを評価し,現像系の設計に役立てています.

 多くの工業分野でわが国の技術の後退が危惧されていますが,プリンタの分野ではむしろ世界をリードするようになってきたと思います.日本人特有の繊細さと浮世絵の伝統を継ぐ画質へのこだわりがその背景にあるように思いますが,本研究会で推進する理論とシミュレーションによる技術の体系化が,この優位性を強固なものにするための一助になればと思っています.

 なお,本研究会は委員以外の方にもオープンですので,関心のある方は,川本(kawa@waseda.jp)にコンタクトしてください.


動画1


動画2

Last Modified at 2003/2/25