第100期部門長挨拶
![]() 第100期部門長 株式会社東芝 研究開発センター 先端デバイス研究所 研究主幹 冨澤 泰 |
このたび、第100期日本機械学会情報・知能・精密機器(IIP)部門の部門長を拝命致しました、株式会社東芝 研究開発センターの冨澤 泰と申します。第100期という節目の折に部門長という重責を担うことに身の引き締まる思いですが、部門の更なる発展のために誠心誠意努めさせて頂く所存です。
昨今、世界が直面している課題が複雑化の一途を辿っている中、個々の技術分野における単独の技術進展のみでこれらを解決することは困難と考えられ、複数の技術分野の研究者が互いに連携することによる技術の融合がより一層強く求められています。IoT、CPS、DXといった様々なバズワードが次々に現れては消費されていく中、こうした技術融合のよりどころとなるものの一つが「情報・知能」であることは疑いようがないでしょう。翻って昨年度で設立30周年を迎えたIIP部門は以前から、機械工学の基幹となる材料力学、流体力学、熱力学、機械力学等を「縦糸」に例えた上で、情報・知能・精密・医療等をキーワードとしてこれらを束ねる「横糸」の役割を標榜し、活動を続けてきました。今日の社会を先取りしたかのような部門の先人たちの先見性には頭の下がる思いです。
しかしながら、異分野の研究者をどれほど同じ場に集めたとて、双方が互いの抱えている課題の本質を理解し、その解決のために互いの技術を学びあうような真摯なディスカッションがなされない限り、技術の融合は果たせません。コロナ禍の影響で社会のオンライン化、リモート化が著しく進展した結果、多くの分野の研究者やその成果をオンライン上の一つの場に単に「集める」ことや、その中から自身に役立つ情報のみをオンデマンド的に獲得してくることは、今や容易に実現できるようになりました。ですがその代償として、自身の「直近の」業務にとって有用でないトピックスに関して自由な議論を展開する場はほぼ途絶えてしまったと感じています。単にコロナ前に戻すということではもはや解決策にはなり得ず、何らかの新たな方法を模索していく必要があります。日本機械学会としても、先ごろ策定された今年度運営方針の中で同様の危機意識を表明し、コロナ後の社会における研究者間のコミュニケーションのあり方を検討項目として挙げています。
折しも今年度は8月に名古屋大学で、国際会議MIPE2022がオンラインとのハイブリッドで開催されます。前回の開催から4年ぶり、国内での開催は実に7年ぶりのこととなります。実は私の研究者としての原点は、1997年に開催された第1回のMIPEにあります。当時まだ碌な技術的バックグラウンドも持たない学生だった私は、東京国際フォーラムの広大なホールを埋め尽くさんばかりの大量のポスターを前にして、世界には自分の知らないこんなにも多くの研究分野があり、その研究者たちがお互いの技術についてこんなにも熱心に議論を戦わせていると知って、ただただ興奮し血沸き肉躍る思いだったことを鮮明に覚えています。コロナ後の社会においても、次世代を担う若者たちに同じような興奮を味わってもらえる場を提供し続けることが、現世代を担う我々の使命なのではないかと思います。今回のMIPEを契機として、部門関係者や会員の皆様方と、そのための施策について議論していきたいと考えています。どうぞ宜しくお願い致します。