分科会報告

日本機械学会IIP部門「画像技術を応用したデジタルマイクロ加工に関する研究分科会」
第1回分科会開催報告

主査 早稲田大学 川本広行
幹事 富士ゼロックス(株)中山信行

1. 開催概要

 下記のとおり,日本機械学会IIP部門「画像技術を応用したデジタルマイクロ加工に関する研究分科会」第1回分科会を開催した.参加者は,委員ほか大学・企業関係者15名、および学生諸君である.

開催日時: 10月5日(金)13:30-17:00
開催場所:  早稲田大学 理工学部 55号館S棟第2会議室
プログラム:
(1)分科会計画説明   (川本)
(2)自己紹介   (全員)
(3)早稲田大学川本研究室における研究紹介  (川本)
(4)組織工学・再生医療の最近の流れと研究会に期待すること  (東京医科歯科大 中村先生)
(5)早稲田大学川本研究室見学

 近年ニーズが高くなっているメカトロニクスやエレクトロニクス,再生医療などの分野での,2次元,3次元の微細構造作製技術に対して,画像形成装置として目覚しい発展を遂げているインクジェットプリンタやレーザプリンタの技術を利用する研究が盛んに行われている。本分科会の主旨は,このような多岐にわたる研究開発に携わっている研究者・技術者が一堂に介することによって,各分野で個別に進められている研究開発を効率化・高度化し,さらに新しい技術を創生しようとするものである.

  第1回会合では,機械工学,精密工学,熱力学,画像工学,化学,バイオ,医学といった多分野の委員の方々にご参加いただき,上記のような分科会設置主旨と今後の計画を主査から説明し,2件の講演,ディスカッションと研究室見学を行った.

2. 講演

2.1 早稲田大学川本研究室における研究紹介

  主査からは,研究室で行っているテーマの概要と画像技術(レーザプリンタ,現像プロセス)の概要説明に続き,現像技術を応用した「磁性粒子ゲルビーズのパターン形成」を紹介した.磁性粉を混入し透磁率を制御した粒径40 mm程度のゲルビーズを作製し,磁界下で磁化させたビーズによる3次元構造形成を試みたもので,周期構造を持つ基体を利用して磁界を制御することでパターン形成を行っている(図1).粒子法を用いた数値シミュレーションにより,最適な磁気パラメータを探索しながら実験的に構造形成を検証した.


図1 磁性粉を混入したゲルビーズによる磁界中のパターン形成


図2 静電インクジェットにおけるインク吐出挙動モード

 続いて,オンデマンド静電インクジェット技術を解説し,印加電圧によるインクの吐出挙動モードの違いと,それぞれのモードの特徴を利用した吐出・印字性能の検証結果を紹介した(図2).モードを使い分けることで,高解像度化や,特に高粘性流体の吐出性能向上を図ることができ,メカトロニクスやエレクトロニクスへの応用だけでなく,再生医療・組織工学への応用が期待できる.

  参加者からは,これらの技術で作製した構造を利用するうえで重要となる強度(構造の結合強さ)に関する質疑がなされた.磁性ゲルビーズを応用する際には,遠心分離機での加速度に耐える必要があり,20 G程度の重力に耐えられることが数値シミュレーションで検証できている.現状の遠心分離では最大100 G程度の加速度を与えており,構造の強度向上,低加速度での利用方法開発などが課題となる.

2.2 組織工学・再生医療の最近の流れと研究会に期待すること

 東京医科歯科大学の中村先生からは,先生が現在取り組んでいるバイオプリンティングプロジェクトのこれまでの研究成果を中心に,組織工学・再生医療での課題に対する機械工学,画像技術の応用状況が紹介された.

  臓器移植要請に対応できている割合はきわめて低く,人工臓器の開発が急務となっているが,従来は薄膜構造,単一細胞の人工臓器が主であり,より大きく複雑かつ血管機能を持つ人工臓器を開発するため,ミクロ化,多種細胞化,三次元化,毛細血管の付与などが研究課題である.そこで,光造形などの三次元構造作製技術を応用する研究がなされているが,先生のプロジェクトでは,インクジェット技術を利用して,ミクロ円柱・二重円柱といった三次元構造形成を行って成果を上げている.

 講演の後半では,このような研究は異分野の専門化がそれぞれの強みを共有したコアネットワーク型の研究として進めることが不可欠であり,本研究会を通じた工学と医学・化学の強い連携に対して,大きな期待が述べられた.この点に関して,大学での教育体系(異分野にまたがる学問の習得機会)に関する質疑がなされ,各大学で「生命」「バイオ」と工学の融合が進みつつある状況が紹介された.

Last Modified at 2007/10/28