部門紹介
81期 部門長挨拶
第81期部門長 九州大学 宮崎則幸 |
計算力学部門は1988年に機械学会に部門制が発足したのと同時に設立され、今年で16年目を迎えました。計算力学という分野は、まだ数は少ないものの、現在ではその名を冠した講座が大学にできていますが、設立当時はその認知度は低く材料力学、流体工学等の伝統的な機械工学分野の一部と考える傾向の強かったのではないでしょうか。しかし、当部門の現在の登録者数は約5400名で、流体工学、材料力学、熱工学、機械力学・計測制御といった伝統的な機械工学の諸分野の部門に続いて全20部門中で5位に位置しています。このことは設立に携わった方々の先見の明と歴代の部門長の努力の賜ものと考えます。
機械学会全体の会員数、および各部門の登録者数が減少しているなか、計算力学部門の登録者数はここ5年ほど5400名前後で推移しています。部門を運営していくにはお金が必要ですが、機械学会からの部門交付金は部門登録者数だけでなく、部門活動の活性化度も考慮されるようになってきています。そこで、今年度、部門長に就任するに当たり部門の現状を把握し、今後の部門運営に反映させるため当部門の活動状況を点検してみました。
このための参考になる資料として「日本機械学会支部・部門活性化委員会」から出された「部門活動の評価の経緯と評価結果について」があり、学会誌の今年の1月号に掲載されています。ここでは、部門活動の評価項目として
- 学術普及・発展活動:①学術普及・発展活動の実績、②独自の学術成果公表・普及活動、③当該学術の育成・支援活動
- 対外的部門活動:①国際交流の実績、②関連学協会・他部門等との連携活動、③社会貢献、地域・支部との共同事業
- 部門活性化活動:①登録会員へのサービス、情報提供、②会員増強、財政健全化活動、③将来戦略、新領域開拓活動
の3項目があげられています。これらの評価項目を点検した結果、当部門は総合評価としてA、B、Cの三段階評価でAが与えられています。
さて、前記の評価項目を参照して、これまでの活動を自己点検してみたいと思います。まず、学術普及・発展活動ですが、これの中心は部門講演会(計算力学講演会)です。これの最近8年間の動向をグラフにまとめてみました。
発表講演総数は増加傾向にあります。また、この種の講演会では、大学関係者の発表ばかりで、企業の方の発表が少ないとよく言われますが、その発表割合は、講演総数が増加した11回から13回までは低下しましたが、その後次第に増加し10回以前の水準に戻りつつあります。これは、たとえば15回の「設計・開発における計算力学」等、企業の方が発表しやすいオーガナイズドセッションのテーマ設定によるところも大きいと考えられます。機械学会の中で企業の方が占める割合は非常に大きいので発表割合が20%でもまだ小さいくらいで、今後とも企業の方の研究発表がしやすいテーマ設定等の努力は怠るべきではないでしょう。
次に対外的部門活動についてですが、計算力学部門は本質的に部門横断的な性格を持っていますので、これまでも機械学会の年次大会、講習会等も積極的に他部門と連携して行ってきました。今後もこの路線は継承していくべきでしょう。また、機械学会としても新しい学問分野は境界領域にあるとの認識に立ち、部門の活性化を点数化する際にプレミアをつけるなどして、各種講演会において部門横断型の企画を奨励するような方策を採るべきであることを当部門としては主張していく必要があると考えます。計算力学に関連する学問領域は機械工学だけでなく、土木、建築、航空、船舶海洋、化学工学(筆者自身の大学での所属も機械工学ではなく化学工学です)、情報工学、電子・電気工学等あらゆる工学分野に関連しています。実際に計算力学講演会には機械工学以外の分野からの参加も少なからずあります。5400人の登録者がある計算力学部門は、理工学における計算力学分野で大きな求心力を持つ存在であることは間違いありません。当部門が核になってこのような他の理工学分野の方々を取り込む企画をするとともに、機械工学の枠にとらわれずに他の学協会に積極的に協力し、計算力学全体の発展に貢献していこうではありませんか。
次に国際交流について検討してみましょう。ASMEとのJoint Conferenceなど定期的に開催可能な国際会議を持っている部門もありますが、当部門ではこのような国際会議を持っていない点が一つの弱点となっています。しかし、不定期に開催する国際会議としてISAC (= International Symposium on Advanced Computing) というものを持っています。過去に1993年に仙台で齋藤武雄先生(東北大学)がお世話をされて計算力学一般を対象として第1回目を開催、第2回目は白鳥正樹先生(横浜国立大学)が電子デバイス/電子機器にはたす計算力学の役割をテーマとして幕張で 1994年に開催しています。また、第3回は松本洋一郎先生が混相流の数値解析のテーマで1997年に東京で開催しています。計算力学に関する国際会議としては、世界規模のもとしてWCCM(=World Congress on Computational Mechanics)、アジアー太平洋地区のものとしてAPCOM (=Asian-Pacific Congress on Computational Mechanics)、ヨーロッパ地区のものとしてECCOMAS (=European Congress on Computational Methods in Applied Sciences and Engineering)、米国地区のものとしてUSNCCM (=US National Congress on Computational Mechanics)があり、いずれかが毎年どこかで開催されている状況にあります。したがって、計算力学全般に関する国際会議を部門として立ち上げるのは困難ですので、ISACを活用してテーマを絞った中小規模の国際会議を不定期に開催することと、上記のような国際会議に積極的にコミットしていくことが必要と考えます。ISACについては1997年以降途絶えていますので来年開催くらいの予定でテーマを募集したいと思いますので、皆様方の積極的なご提案をお願いいたします。
社会貢献、地域・支部との共同事業に関してですが、前記の日本機械学会支部・部門活性化委員会の評価委員の当部門に対するコメントでは、このような共同事業がないということが記され、改善が求められています。この点については最近改善の方向に向かっていると考えます。当部門の社会への貢献の最たるものとして「計算力学技術者認定事業」への貢献があげられます。現在、この事業は学会の工学教育センター直轄の事業となっていますが、その基礎固めを行ったのは吉村忍先生(東大)が委員長を務めて2001年に発足した当部門の技術委員会「計算力学教育認定検討委員会」であり、現在もこの認定事業実施のための「計算力学技術者基準と認定に関する検討委員会」では、吉村先生が委員長を務められているほか、計算力学部門推薦の委員が多数参加してこの事業を軌道に乗せるために努力されています。当部門としては本事業の成功のために今後も貢献が求められています。次に、地域・支部との共同事業ですが、九州地区では2年前に九州地区計算力学研究会を発足させ、地域に根ざした計算力学の普及活動を始めています。これがモデルとなって他の地区へ広がることを期待しています。
最後に部門活性化活動ですが、登録会員へのサービス、情報提供に関してはcmd-listによる情報の提供に早くから取り組み、機械学会の枠にとどまらず計算力学関連の多様な情報がこれによって提供されています。しかし、cmd-listに登録されていない計算力学部門登録者も多いかと思います。下記のホームページより簡単に登録することができますので是非ご登録ください。
http://www.jsme.or.jp/cmd/Mailinglist/Index.html
将来戦略、新領域開拓活動は、既存機械工学の狭い枠にとらわれないことにつきると思います。計算力学という理工学の広い領域にまたがる特性を生かしていけることが当部門最大の強みです。毎年開催される計算力学講演会でも機械学会会員以外の他の理工学分野の方々を巻き込めるようなオーガナズドセッション等の企画し、今以上に外に開けた講演会としていく必要があると考えます。そのことが新領域開拓、会員増強につながると思います。
以上、学会誌の1月号に掲載された「部門活動の評価の経緯と評価結果について」に関連して若干の所見を述べさせていただきました。ここに書いたことを参考にして、計算力学部門が皆様方に有益なものになるよう部門長としてこの1年努力してゆく所存ですので、皆様のご協力を宜しくお願いいたします。