日本機械学会倫理規定
日本機械学会倫理規定の改定について
2025年度(第103期)理事会
日本機械学会は,1999年12月14日開催の評議員会において「日本機械学会倫理規定」を制定し,本会細則第1条を「本会に入会する者は,定款第2条に掲げる目的並びに別に定める倫理規定に賛同する者とする」と改め,会員が倫理規定を理解し,支持することを重視してまいりました.制定から本年で26年を迎えます.その間,本会は社会の変化を踏まえて見直しを行い,2007年度および2013年度の2回にわたり改定を実施しております(詳細は「日本機械学会倫理規定の一部変更について」(2012年度)をご参照ください).
制定当時を振り返れば,事故や失敗は担当者個人のレベルで発生したものも多く,専門職たる技術者・研究者が事故に対する倫理的責務を自覚して行動するべきだとの問題意識が多くの学協会で共有されていました.本会においてもその認識に立ち,初めての倫理規定を制定したものです.規定条文はいずれも「会員は・・・する」と会員個人の責務を社会に宣言する形で構成され,学会の役割は会員の倫理的自覚を促すことにあると理解されていました.
しかし四半世紀を経た今日,倫理的課題は一人の技術者や一つの組織では担えない規模へと拡大しています.科学技術の高度化と複雑化により,個々の技術者が必要な全体像を把握して判断することは困難になりつつあり,生成AIがもたらす可能性と課題はその典型例です.このように,倫理的判断は会員個人の努力のみに委ねられるものではなく,学会自体が会員とともに社会における機械工学の倫理的課題に積極的に取り組むことが求められています.
本会は,この変化を二つの問題に集約いたしました.第一に,会員個人が倫理的行動を心がけるだけでは,これまで頻発してきた組織による不祥事に十分に対応できなかったという事実です.組織的な不祥事に対しては,従来の倫理規定や倫理教育が前提としてきた個人レベルの行動だけでは不十分であり,学会としての行動が必要であります.第二に,科学技術の進歩が加速する中で,会員個人では判断が難しい課題が今後ますます増えると予想されることです.倫理的課題はますます複雑化し,個人単独では対応困難な状況が広がっております.
もっとも,本会がこれらの問題について直ちに具体的な解決策や実行可能な行動を提示することは容易ではありません.そこで本会は,この問題意識と行動の限界を認識した上で,会員が直面する倫理的課題に関して議論の場を設け,倫理的な行動を支援する環境を積極的に整備していくとの宣言を新たに倫理規定に組み込むことにいたしました.
今回の見直しにより,本会は,倫理的課題の複雑化・大規模化に対応し,学会自らが会員とともに社会における機械工学の倫理的課題に積極的に取り組む姿勢を新たに倫理規定に明記いたしました.会員各位におかれましては,本規定の趣旨を十分にご理解いただき,学会とともにその役割を果たす主体として,倫理規定に則った真摯な行動を実践されることを期待いたします.
日本機械学会倫理規定
1999年12月14日 評議員会承認
2007年12月11日 評議員会改訂承認
2013年1月16日 理事会一部変更承認
2026年2月17日 理事会一部変更承認
(前文)
日本機械学会は,学術と技術の発展を通じて持続可能な社会の実現と人類の福祉に貢献することを使命とし,機械工学・機械技術の進歩を通して豊かな社会の形成と人々の幸福に寄与してきた.科学技術は地球環境や人類社会に重大な影響を及ぼしており,機械工学・機械技術に携わる者には社会の一員として倫理的行動が常に求められる.本会は,会員の倫理的行動を希求し,また,組織や制度の問題や新しい科学技術がもたらしうる問題を常に考慮しつつ,個々の技術者では対応が難しい倫理的課題にも取り組む.日本機械学会は以下の綱領を定め,機械工学・機械技術に関わる倫理的課題へ積極的に取り組むことをここに宣言する.
(綱領)
1.技術者としての社会的責任
会員は,技術者としての専門職が,技術的能力と良識に対する社会の信頼と負託の上に成り立つことを認識し,社会が真に必要とする技術の実用化と研究に努めると共に,製品,技術および知的生産物に関して,その品質,信頼性,安全性,および環境保全に対する責任を有する.また,職務遂行においては常に公衆の安全,健康,福祉を最優先させる.
2.技術専門職としての研鑽と向上
会員は,技術専門職上の能力と人格の向上に継続的に努める.自らの専門知識を,豊かな持続的社会の実現に最大限に活用し,公衆,雇用者,顧客に対して誠実に対応することを通じて,技術専門職としての品位,信頼および尊敬を維持向上させることに努める.
3.公正な活動
会員は,立案,計画,申請,実施,報告などの過程において,真実に基づき,公正であることを重視し,誠実に行動する.研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し,ねつ造,改ざん,盗用などの不正行為をなさず,加担しない.また科学技術に関わる問題に対して,特定の権威・組織・利益によらない中立的・客観的な立場から討議し,責任をもって結論を導き,実行する.
4.法令の遵守
会員は,職務の遂行に際して,社会規範,法令および関係規則を遵守する.
5.契約の遵守
会員は,専門職務上の雇用者または依頼者の受託者,あるいは代理人として契約を遵守し,職務上知りえた情報の機密保持の義務を負う.
6.情報の公開
会員は,関与する計画と事業が人類社会や環境に及ぼす影響を予測評価する努力を怠らず,公衆の安全,健康,福祉を損なう,または環境を破壊する可能性がある場合には,中立性,客観性を保ち,自己の良心と信念に従って情報を公開する.
7.利益相反の回避
会員は,自らの職務において,雇用者や依頼者との利益相反を生むことを回避し,利益相反がある場合には,説明責任と公明性を重視して,雇用者や依頼者に対し利益相反についての情報をすべて開示する.
8.公平性の確保
会員は,人種,性,年齢,地位,所属,思想・宗教などによって個人を差別せず,個人の人権と人格を尊重する.また,個人の自由を尊重し,公平に対応する.
9.専門職相互の協力と尊重
会員は,他者と互いの能力の向上に向けて協力し,専門職上の批判には謙虚に耳を傾け,不公正な競争を避けて真摯な態度で討論すると共に,他者の知的成果などの業績を正当に評価し,知的財産権を侵害せず,非公開情報の不正入手や不正使用を行わない.また,複数の関係者によって成果を創出した場合には,貢献した者の寄与と成果を尊重する.
10.研究対象,研究協力者などの保護
会員は,研究対象を含む研究協力者の人権,人格を尊重し,安全,福利,個人情報の保護等に配慮する.動物などに対しては,苦痛への配慮や生態系への影響を考慮し真摯な態度で扱う.
11.職務環境の整備
会員は,不正行為を防止する公正なる環境の整備・維持も重要な責務であることを自覚し,技術者コミュニティおよび自らの所属組織の職務・研究環境を改善する取り組みに積極的に参加する.
12.教育と啓発
会員は,自己の専門知識と経験を生かして,将来を担う技術者・研究者の指導・育成に努める.また得られた知的成果を,解説,講演,書籍などを通じて公開に努め,人々の啓発活動に貢献する.
13.学会の役割
本会は,専門的な学術および技術に関する団体としての社会的責任を自覚し,倫理的な行動を普及し促進し支持する.組織や制度の問題,新しい倫理的問題など,個人では対応が難しい問題に対しては,議論の場を持つ,意見を発信するなど,内外への働きかけに努める.また会員が倫理的に発言し行動しやすい環境づくりに配慮する.
- 日本機械学会技術倫理委員会
- 日本機械学会倫理規定の改定について(2025年度)
- 日本機械学会倫理規定の一部変更について(2012年度)
- 倫理規定を基本にした技術倫理委員会から会員へのメッセージ
- 研究と研究発表・投稿に関する倫理の第1歩(2008年版)Word版
技術倫理協議会*作成(2008年3月)
*12学協会でつくる技術倫理に関する協議会