2. 人材育成・工学教育

2・1 人材育成・工学教育の動向

2・1・1 工学教育の動向

2000年頃から大学改革が叫ばれ始め,文部科学省主導による各種改革が精力的に進められてきた.大学設置基準における自己点検評価,FD(Faculty Development),キャリア教育,3ポリシーの策定・公開の義務化,PBL(Project-Based Learning),アクティブ・ラーニング,e-ラーニングの普及など,これまでの約15年間で大学の組織体制や教育内容・方法が大きく変容したことは多くの読者が実感していることではないだろうか.また,推薦入試やAO入試の拡大が続いており,2020年には現在のセンター試験に代わる新たな入試として大学入学共通テストが開始される予定で,大学入試そのものが大きく変わることになりそうである.人材育成という観点から大学を眺めたとき,現在また近い将来実施される大学改革が真に効果的なものとなり,我が国の人材育成に貢献することを期待している.

この原稿を書いている最中の6月27日に,文部科学省「大学における工学系教育の在り方に関する検討委員会(座長:小野寺正KDDI会長)」の中間まとめが公表された[1].この中間まとめによれば,工学系教育の改革プランとして,学科ごとの縦割り構造の抜本的見直し,コアカリキュラムの策定など工学基礎教育の強化,卒業論文のPBL化,学士・修士の6年一貫教育など教育年限の柔軟化,博士課程におけるダブル・メジャー・システムの推進など主たる専門分野に加えた副専門分野の修得,教員組織・雇用形態の多様化,情報科学技術の強化による融合技術の創出,産学協同教育体制の構築,国際化の推進,工学系人材の量的拡大など,多数かつ多様な抜本的改革項目が提案されている.工学系人材に対する社会的かつ将来的な要求を反映した内容となっている点は十分理解できるが,機械工学分野においてこれらの改革プランを実現して行くためには極めて多大な努力を払う必要があり,今後の慎重な議論に基づいて,実現可能な最終答申にまとめられることを強く希望する.

2・1・2 工学系高等教育機関での学生の動向[2]

大学数は777校となり前年と比較して2校減少したが,大学生は2 874千人で前年より14千人増加した.学生数は学部が2 567千人,大学院が250千人で,学部が11千人増,大学院が増減なしであった.女子学生および社会人が占める割合はそれぞれ43.4%(0.3%増),23.6%(0.6%増)となり,いずれもここ数年の微増傾向が続いている.大学および大学院の専門別では,工学系の学部生が全体の15.0%で0.2%減,大学院修士課程は41.4%で0.4%減,博士課程は17.6%で0.3%減であった.

大学生の学部卒業後の進路調査によれば,卒業者の大学院への進学は全体で11.0%,就職率は74.7%(男子69.7%,女子80.7%)であり,正規の職員等に就職した者は71.3%を占めていた.

修士課程(前期課程)修了者の博士課程への進学率は9.4%(男子9.2%,女子9.8%)で前年より0.5%減,就職率は77.5%(男子81.9%,女子67.0%)で1.3%増加している.このうち74.2%が正規の職員等に就いている.就職者総数を産業別に見ると,製造業が42.7%と最も高く,次いで情報通信業が11.2%,教育,学習支援業が8.3%となっており,例年とほぼ同じ傾向であった.

博士課程(後期課程)修了者は,就職率が67.4%(男子71.3%,女子58.8%)で前年度より0.2%増加した.正規の職員などは51.7%,非正規職員などが15.7%となっていた.職業別に見ると,専門的・技術的職業従事者が92.5%を占めていた.ポストドクター等の数は1 436人で,修了者に占める専攻分野別の割合は工学が28.2%で最も高かった.

2・1・3 日本機械学会の活動

イノベーションセンターは2009年度に設立され,技術者の人材育成・活用,技術者資格の認証・認定,産業界の技術開発・生産活動を支援することにより,機械工学分野のイノベーションを牽引し,産官学の連携強化,外部資金の導入促進による学会事業の拡大と学会プレゼンスの向上を目的として活動を続けている.この目的を達成するため,①技術者教育委員会,②人材活躍・中小企業支援事業委員会,③JABEE(日本技術者教育認定機構)事業委員会,④機械状態監視資格認証事業委員会,⑤計算力学技術者資格認定事業委員会,⑥研究協力事業委員会,⑦技術ロードマップ委員会を設け,各種テーマごとの検討・諸施策の企画・実施を行っている.

人材育成は成果が明確に現れるまでに時間を要するため,PDCA(Plan/Do/Check/Act)サイクルを着実に回しながら,継続的に事業を進めていく必要がある.イノベーションセンターが実施している各種事業へのご支援・ご協力をお願いする次第である.

〔山本 誠 東京理科大学

2・2 技術者教育プログラム認定の動向

日本技術者教育認定機構(JABEE)が行う高等教育機関における技術者教育プログラムの認定審査において,当初から本会は機械及び関連の工学分野審査委員会の幹事学会として活動を行っている[1].2015年度(2016年4月認定)には,修士課程と海外教育機関のプログラム各1を合わせて8プログラムが新たに認定され,JABEEにおける全16技術分野の認定プログラムの累計は173教育機関で494プログラムになり,認定プログラムからの修了生の累計は約24万人に達している.2016年度にはJABEEプログラム修了者の中から1 906名が技術士二次試験に臨み249名が合格しており,合格率も一昨年度の9.1%,昨年度の10.2%から13.1%へと順調に向上している[2].これに伴い合格者の平均年齢も全体では43.0歳であるのに対JABEE修了者は30.8歳と,若い技術士を生み出すことに寄与している.

2015年度の審査対象は,中間審査が13%,認定継続審査が79%であり,新規審査は8%と昨年に続いて減少した.機械及び関連の工学分野は,2002年度からの認定プログラム(旧基準の機械および機械関連分野のプログラムを含む)の累計は80プログラムと16技術分野中で最多(約16.2%)で,引き続き認定分野の中核の位置を占めている.認定プログラムの一覧は,JABEEのホームページ上で公開されている[3].

2015年度は,2012年度に改訂された新基準[4]が適用可能な経過措置期間の最終年度にあたるため,新規審査は100%,認定継続審査の92%,中間審査の62%が新基準で受審した.新基準では,教育のアウトカムとPDCAサイクルによる教育改善が重視されており,教育プログラムにもこうした概念が浸透しつつあるが,新たに加えられた育成すべき知識・能力項目である「チームで仕事をするための能力」については審査側でも咀嚼が不十分な面が見られた.特にワシントン協定等で提示されている「異なる専門分野にまたがる学生のチームワーク教育」は日本の教育の実情から直ちに実施することが難しい状況であるものの,2016年12月に改訂された認定基準の解説[5]において異分野を意識した教育が必要であるとの認識を明示し,2015年度認定の最終調整審議もこれに基づいて行われた.同時に審査チームの質を一層向上させるため,JABEEとして審査員研修などの内容の強化を図っている.本会でも,前年に引き続き,2016年度年次大会会期中の9月12日に九州大学において,イノベーションセンターJABEE事業委員会の主催で審査員研修フォーラムを開催した.

JABEEはアジア諸国における技術者教育認定団体設立の動きに合わせて国際協力機構(JICA)に協力する形でインドネシアでの認定制度立ち上げの準備作業を実施しており[6],昨年度に引き続き2015年度にも同国の1プログラムが認定されている.他方,JABEEは認定する技術者教育の国際的同等性を担保するためのワシントン協定へ継続加盟が認められているが,これを確固たるものとするため「国際的に通用する技術者教育」に関するワークショップを継続的に開催するなどして啓蒙に努めている.各教育プログラムにおいても,技術者教育の国際的動向を注視しつつ,継続した改善を期待したい.

〔佐藤 勲 東京工業大学

2・3 技術者資格認定・認証の動向

2・3・1 ISO18436準拠機械状態監視診断技術者の認証

我が国の産業界は,競争力維持,強化のため,機械設備の安定安全操業が不可欠な環境にある.本会では,その一助として,2004年よりISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)を,また,2009年からは日本トライボロジー学会と協力して,ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)の資格認証事業を実施している.以下に,両診断技術者の2016年度の資格認証試験の概要と現況のトピックスを示す.

(1)ISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)

第1回試験が6月25日に,第2回試験が11月19日(カテゴリIVの記述,面接試験は12月10日)に実施された.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/III/IVでそれぞれ,18名(95%,19名)/231名(90%,258名)/37名(77%,48名)/0名(0%,3名)であった.また,10月22日には,マレーシアにて,第3回目となる資格認証試験を実施し,カテゴリI/IIで合格者数(合格率,受験者数)はそれぞれ4名(100%,4名)/6名(77%,9名)であった.2016年末での合格者数総数は,4 571名となった.

(2)ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)

第1回試験(カテゴリI)を7月9日に,第2回試験(カテゴリIII)を9月17日(面接試験は実施せず),第3回試験(カテゴリI/II)を12月3日に実施した.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/IIIでそれぞれ,72名(89%,81名)/16名(80%,20名)/0名(0%,2名)であった.結果,2016年末での合格者数総数は,1 081名となった.

(3)その他の活動

機械状態監視診断技術者(振動)については,年1回,コミュニティを開催し,資格認証者間での情報交換,共有を推進している.第8回目となった2016年は名古屋で開催され,技術交流の幅を広げている.2017年度は7月21日に千葉での開催予定である.コミュニティに関する情報は,本会のホームページhttps://www.jsme.or.jp/conference/joutai/を参照されたい.本ホームページには機械状態監視診断技術者の認定試験の詳細についても記載されている.

2014年より開始されたマレーシアにおける認証事業も3回目の認証を無事終えることができた.また,海外での実情を把握し,国内における認証事業を推進するため,韓国KSNVE,米国VIと定期的に会合を行っている.当該資格認証事業が,機械技術者,機械状態監視診断技術者の技術レベルおよび社会的地位の向上に貢献できるよう,更に事業推進していく.

〔藤原 浩幸 防衛大学校

2・3・2 計算力学技術者認定

機械設計プロセスにおける計算力学(CAE)の急速な普及とともに,産業界において,計算力学技術者の品質保証が重要な課題となっている.本会では,CAEに携わる技術者の能力レベルを認定・保証するため,2003年度から計算力学技術者認定試験を実施している.2016年度も,イノベーションセンターの主催により,本会関連部門・支部の協力,国内53学協会の協賛,日本機械工業連合会,日本産業機械工業会,日本電機工業会の後援を得て,固体力学,熱流体力学,振動分野の上級アナリスト試験を9月10日(土),9月17日(土)に,1・2級認定試験を12月10日(土)に実施した.固体分野は全国5会場(関東,東海,関西,北陸,九州地区),熱流体分野と振動分野は全国4会場(関東,東海,関西,九州地区)で試験が行われた.合格者数および合格率は,固体分野が上級アナリスト:3名(60%),1級:94名(54%),2級:220名(32%),熱流体分野が上級アナリスト:4名(80%),1級:45名(32%),2級:143名(57%),振動分野が上級アナリスト:0名(0%),1級:32名(38%),2級:99名(63%)であった.また,書類審査による初級認定者は,固体分野が99名,熱流体分野が39名,振動分野が7名であった.認定試験開始以来,各級の受験者数・合格者数は共に順調に増加し,これまでの累計で7 583名という多くの認定者が誕生している.

また,2014年度から開始した非営利組織NAFEMS(The National Agency for Finite Element Methods and Standards)におけるPSE(Professional Simulation Engineer)資格と上級アナリスト資格との国際相互認証の協定に基づき,固体分野上級アナリスト5名,熱流体分野上級アナリスト4名がNAFEMSのPSEとしてあらたに認定された.

計算力学技術者の認定試験の詳細や合格者のリストなどについては,http://www.jsme.or.jp/cee/cmnintei.htmをご覧いただきたい.

〔長嶋 利夫 上智大学

2・1の文献

[ 1 ]
文部科学省:「大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」, http:/​/​www.mext.go.jp/​b_menu/​shingi/​chousa/​koutou/​081/​gaiyou/​1387267.htm,(2017.6).
[ 2 ]
文部科学省:学校基本調査―平成28年度結果の概要―, http:/​/​www.mext.go.jp/​b_menu/​toukei/​chousa01/​kihon/​kekka/​k_detail/​1375036.htm,(2017.6).

 

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