17. 生産システム

17・1 生産システムのアルゴリズム

生産システムに関連するアルゴリズム(問題解決のための手順)が対象とする範囲は,製品設計,工程計画,レイアウト設計,生産計画,生産スケジューリング,在庫管理など多肢にわたる.ここでは,2016年中に発行された生産システム部門(以下,本部門)に関連する学術研究論文に基づいて,生産システムに関連するアルゴリズムの研究動向を紹介する.本部門の活動として,2016年は,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol. 10, No. 3において,Advanced Production Schedulingの特集号を企画し19本の論文が掲載されたこと,日本機械学会論文集Vol. 82, No. 835において,「スマートな生産システム」の特集号を企画し8本の論文が掲載されたことをはじめとし,成果の多い一年であった.

生産システムに関連するアルゴリズムの研究として,特に,スケジューリングに関する研究が継続的に活発に行われている.これは,産業界のニーズが高いこともあるが,問題として対象を限定しやすく,モデル化および最適化において学術的に扱いやすいことも関係していると考える.スケジューリングが対象とする範囲も,生産スケジューリング,勤務スケジューリング,プロジェクトスケジューリング,など様々であるが,例えば,生産システム内の生産設備におけるジョブの処理順序などを決定する生産スケジューリングの研究としては,遺伝的アルゴリズムとヒューリスティックルールを用いてジョブショップスケジューリングを行う研究[1],中間バッファを持たないジョブショップスケジューリング問題を混合整数計画問題で定式化し,整数変数を与えることでシンプレックス法で解くことができる線形計画問題にする研究[2],ジョブの処理時間などが確率変数で与えられる確率ジョブショップスケジューリング問題を疑似粒子群最適化とモンテカルロ法を組み合わせたアルゴリズムで解く研究[3]が挙げられる.

また,混合品種組立ラインにおいて,シミュレーティッドアニーリング法を用いて製品の投入順序を決定する研究[4],リサイクル率とコストが異なるパーツから構成された組み立て製品に対して,目標計画法を用いて環境に配慮した経済的な分解部品の選定を行う研究[5]などがスケジューリングの研究動向として挙げられる.

また,航空機乗務員のシフトスケジュールとして,二段階分解アルゴリズムを用いて平均勤務時間と乗務員の標準勤務時間との合計偏差を最小限に抑える研究[6],列生成法のアプローチを用いて乗務員の総勤務日数を最小化する研究[7]があり,これらは,生産システムにおける生産量,作業者の能力などを考慮した作業者のシフトスケジューリングに応用可能であると考えられる.

サプライチェーンおよびロジスティクスに関連する研究に関しても,継続的かつ活発に研究が行われている.サプライチェーンの研究として,グローバルな供給ネットワークの初期段階における戦略的設計として,市場戦略(どの市場にどの製品を販売するか)と製造戦略(生産能力と生産施設数)に基づいて,混合整数計画法を用いて製造施設の位置を最適化する研究[8, 9],ゲーム理論のシャープレイ値を用いて,サプライチェーンにおけるパートナー企業間での利益配分の不均衡を解消する研究[10]などがある.ロジスティクスに関する研究として,交通費やCO2排出量が実際に距離だけでなく積載重量にも依存していることに着目し,同時集配を考慮した運送経路問題をタブーサーチとグラフアルゴリズムの階層的な手法を用いて積載重量を最適化する研究[11],集配を伴う運送経路問題において,一般的な集合被覆問題として定式化し最適解を得る方法および列生成ヒューリスティックを用いてデポが複数ある場合にも近似解を得る方法を提案している研究[12]がある.

また,作業者の能力に注目した研究として,受注状況が変化するセル生産システムにおいて,技能指数を用いたオペレータの割当方法を提案する研究[13, 14],組立ラインにおいて,能力の異なる労働者の最適な就労規則に関する研究[15]などが行われている.

一方,2011年3月の東日本大震災以降,国内のエネルギの状況は大きく変化し,生産システムにおいても省エネルギの意識は非常に高まっている.生産システムにおける省エネルギに関する研究として,エネルギ消費量,ロットサイズおよび生産スループットの関係を定式化し,生産シミュレーションを用いて検証する研究[16, 17],一日のうち最も電力が高価な時間帯に対応するために,生産設備の電気負荷をシフトさせる整数計画法を用いた最適化モデルの提案[18]などの研究が行われている.

以上,2016年度の生産システムに関連するアルゴリズムの研究動向をまとめてみると,冒頭に述べたとおり問題の対象は広範囲に及ぶが,問題を解くためのアルゴリズムとしては,数理計画法により定式化して数理ソルバを用いて解く方法,遺伝的アルゴリズム,シミュレーティッドアニーリング法と言った人工知能を用いて解く方法,複数のシナリオを用意して,生産シミュレーションを行うことでシナリオの妥当性を評価する方法が多い.これは,計算機の能力の向上に加え,高性能な数理ソルバおよび生産システムシミュレータが手軽に入手できるようになっていることが要因の一つと考えられる.一方,人工知能に関しては,近年,深層学習が特にメディアで取り上げられているが,本分野においては,人工知能を用いたアルゴリズムの取り組みは古くから行われており,それが継続していると考える.インダストリー4.0,つながる工場,スマートファクトリと言ったキーワードにより,本部門に注目が集まる中,生産システム関連のアルゴリズムがますます発展することが期待される.

〔岩村 幸治 大阪府立大学

17・2 生産システム関連の要素技術

生産システムにおける要素技術は独立ではなく,常に他の技術との関係をもって発展してきている.本節では,2016年に発行された日本機械学会論文集,英文ジャーナル(JAMDSM),生産システム部門講演論文集,年次大会講演論文集に掲載された文献にみられる要素技術について,要素技術間の関連を含めて研究動向を説明する.

2016年はIndustry 4.0やIoT(Internet of Things)といった,生産システムにおける,ひと,モノ,情報のつながり[1]について注目が集まった.これらの技術は90年代から研究・開発が進められてきたが,近年,特に標準化についての議論が盛んである.生産設備やシミュレーションの統合に向けた標準的なモデル化の方法[2]や,汎用のモデリング言語であるSysMLを使ったモデリング[3]などの研究報告がある.

これらネットワークの活用は,離れた生産設備を統合することが一つの目的となるが,統合状態を確認するために生産シミュレーション技術が不可欠となる.想定される実体の挙動をコンピュータでシミュレーションする技術は継続的に研究が進められており,特に工場におけるエネルギー消費による環境負荷低減を目的としたシミュレーションに関する研究が多い[4, 5].また,環境負荷については,エネルギー消費低減に限らず素材リサイクルに向けた具体的な取り組みの報告[6]などもある.

生産のシミュレーションと同様に生産設備の計画において有用な技術が最適化である.設備を効率的に運用するための生産スケジューリングも最適化の研究であり,前節において説明されたような,多くの汎用アルゴリズムが提案され,応用されている.しかし,生産設備は対象物において多種多様であるので,処理に特徴的な条件を有することが多い.このため,一般のアルゴリズムを適用して最適化をすることが困難な場合も多く,しばしばヒューリスティックな手段を用いることになる.ラインバランシング[7],配送システム[8],自動ピッキングシステム[9],コンテナ積載[10]など,処理の特徴を含めてモデル化し,効率化を図る研究がある.

このように生産システムは生産対象物に固有の設備として設計されて使用されることが多いので,それぞれの対象物の特徴を捉え,適切な製造方法や設備を整えていく研究も必要である.例えば,電着ダイヤモンドワイヤ工具の製造を対象とした製造技術と設備開発の研究[11]などがある.また,生産対象を機械ではなく植物として,植物工場のシミュレーション[12]や農産物の生産管理を行う研究[13]もある.

3Dプリンティングとして知られるAM(Additive Manufacturing)も新しい製造技術であり,加工のタイプも多様であるために,一般に効率化を議論することは現時点では難しく,それぞれのAMプロセスの特徴を追及している段階[14, 15]である.ただし,AMは近い将来に生産システムにおいて重要な位置づけとなると言われている.2016年に発表された生産システム部門ロードマップ[16]では,2030年の工場として,地産地消によるカスタマイズ設計生産が想定され,そこでのAMの有用性が述べられている.次第にAMシステムと既存のシステムとの,それぞれの利点を活かしたシステムの議論がされるようになるだろう.

〔舘野 寿丈 明治大学

17・1の文献

[ 1 ]
Parinya KAWEEGITBUNDIT, Toru EGUCHI, Flexible job shop scheduling using genetic algorithm and heuristic rules, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.1(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0010.
[ 2 ]
Takehiro HAYASAKA, Rei HINO, Optimization problem for feasibility evaluation of schedules considering blocking, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.2(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0016.
[ 3 ]
Kenta ARAKI, Yasunari YOSHITOMI, Stochastic job-shop scheduling: A hybrid approach combining pseudo particle swarm optimization and the Monte Carlo method, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol. 10, No. 3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0053.
[ 4 ]
Aya ISHIGAKI, Tomoyuki MIYASHITA, Development of search method for sequencing problem in mixed-model assembly lines, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0048.
[ 5 ]
Yuki KINOSHITA, Tetsuo YAMADA, Surendra M. GUPTA, Aya ISHIGAKI, Masato INOUE, Disassembly parts selection and analysis for recycling rate and cost by goal programming, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0052.
[ 6 ]
Tsubasa DOI, Tatsushi NISHI, Application of two-phase decomposition algorithm to practical airline crew rostering problem for fair working time, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0036.
[ 7 ]
Wei WU, Yannan HU, Hideki HASHIMOTO, Tomohito ANDO, Takashi SHIRAKI, Mutsunori YAGIURA, A column generation approach to the airline crew pairing problem to minimize the total person-days, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0040.
[ 8 ]
古賀 康隆, 吉田 聡, 貝原 俊也, 藤井 信忠, グローバルサプライネットワークにおける拠点配置設計に関する研究(コスト基準の最適工場配置決定手法の一提案), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.833(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00287.
[ 9 ]
古賀 康隆, 吉田 聡, 貝原 俊也, 藤井 信忠, グローバルサプライネットワークにおける拠点配置設計に関する研究(在庫を考慮した最適拠点配置決定手法の提案), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00415.
[10]
Bo LV, Xugao QI, Profit allocation in collaborative product minor updates supply chain enterprises based on improved shapely value, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.6(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0088.
[11]
Yoshiaki SHIMIZU, Tatsuhiko SAKAGUCHI, Jae-Kyu YOO, A hybrid method for solving multi-depot VRP with simultaneous pickup and delivery incorporated with Weber basis saving heuristic, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.1(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0004.
[12]
Takuya HIROTA, Susumu MORITO, Kento HARA, An efficient column generation heuristic for vehicle routing with multiple use of vehicles for a rental business, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0050.
[13]
原口 春海, 貝原 俊也, 藤井 信忠, 國領 大介, セル生産における技能向上を目的とした作業者の配置に関する研究(第2報, 熟練者による新人指導を考慮したモデル), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00436.
[14]
原口 春海, 貝原 俊也, 藤井 信忠, 國領 大介, セル生産における技能向上を目的とした作業者の配置に関する研究(第3報, オーダ内容に変動を伴う場合の検討), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.843(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00558.
[15]
Xianda KONG, Hisashi YAMAMOTO, Peiya SONG, Jing SUN, Masayuki MATSUI, Special workers' assignment optimization under the limited-cycled model with multiple periods, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0049.
[16]
山口 誠, 小林 高之, 日比野 浩典, 生産システム設計・改善時における生産性と消費エネルギ量のシミュレーションシステム(エネルギ原単位とスループットの定式化に関する考察), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00495.
[17]
小林 高之, 山口 誠, 日比野 浩典, 生産システム設計・改善時における生産性と消費エネルギ量のシミュレーションシステム(設備故障を考慮する場合のエネルギ原単位のロットサイズ依存に関する研究), 日本機械学会論文集 Vol.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00502.
[18]
Jaeil PARK, SeJoon PARK, Changsoo OK, Optimal factory operation planning using electrical load shifting under time-based electric rates, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.10, No.6(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0085.

17・2の文献

[ 1 ]
西岡靖之, ひと,モノ,情報がサイバーにつながる時代における生産システム研究の役割り, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(特別講演)(2016), pp.9–13.
[ 2 ]
森健一郎, フィジカル・システムと連動した生産設備シミュレーション(設備シミュレーションを構築するためのコンポーネント標準化の提案), 日本機械学会論文集, Vo.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00476.
[ 3 ]
村岡祥雄, 関研一, 西村秀和, ポータブル機器における半導体リーク電流特性のばらつきを考慮したシステムモデルの生産システムへの応用, 日本機械学会論文集, Vo.82, No.835(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.15-00480.
[ 4 ]
米本涼, 諏訪晴彦, グリーン製造システムのための物理シミュレータの開発―柔軟製造ラインへの適用―, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2016), pp.45–46.
[ 5 ]
松本壮太, 野山尚明, 松田三知子, 消費電力シミュレーションのための装置のe-カタログを用いたプリント基板ユニット製造ラインの構成, 日本機械学会年次大会講演論文集(2016), paper No.S1440102.
[ 6 ]
M.W.A, Rashid, F. Fuziana, E. Hohamad, M.R. Saleh, T. Ito, T. Moriga, Aluminium Alloy Recycling for Sustainable Manufacturing, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2016), pp.127–128.
[ 7 ]
和田拓己, 荒川雅裕, 生産の平準化と仕掛り量最小化のための混流生産ラインの設計と評価, 日本機械学会論文集, Vo.82, No.835(2016), paper DOI: 10.1299/​transjsme.15-00492.
[ 8 ]
Y. Karuno, K. Furukawa, Heuristic algorithms for a delivery workload balancing problem in an assembly plant, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.10, No.4(2016)paper No.16-00098.
[ 9 ]
S. Imahori, Y. Hase, Graph-based heuristics for operational planning and scheduling problem in automatic picking system, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0039.
[10]
H. Iwasawa, Y. Hu, H. Hashimoto, S. Imahori, M. Yagiura, A heuristic algorithm for the container loading problem with complex loading constraints, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.10, No.3(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0041.
[11]
張宇, 谷泰弘, 桐野宙治, 川波多裕司, ドラム式電着ダイヤモンドワイヤ製造技術の開発, 日本機械学会論文集, Vo.82, No.842(2016), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00180.
[12]
成瀬大貴, 岩村幸治, 平林直樹, 杉村延広, 山口淳一, 木村一貫, 完全人工光型植物工場の生産管理に関する研究―生産シミュレーションのモデル化―, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2016), pp.53–54.
[13]
木村利明, 川畑美沙, 飯塚保, 岡崎孝男, 近藤知明, 大木宏志, 生産技術の農業応用に関する研究(第4報)―栽培情報収集システムの開発―, 日本機械学会年次大会講演論文集(2016), paper No.S1440101.
[14]
T. Tateno, Y. Yaguchi, M. Fujitsuka, Study on parallel fabrication in additive manufacturing(Connector design considering anisotropic strength by deposition direction), Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.10, No.7(2016), DOI: 10.1299/​jamdsm.2016jamdsm0093.
[15]
山下順広, 舟田義則, 村谷外博, 佐藤雄二, 塚本雅弘, 阿部信行, 面直噴射型レーザクラッディング装置開発, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2016), pp.87–88.
[16]
生産システム部門技術ロードマップWG, 生産システム部門技術ロードマップ, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2016), pp.1–8. https:/​/​www.jsme.or.jp/​msd/​html/​RoadMap/​msd_roadmap201603.pdf.

 

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