9. エンジンシステム

9・1 エンジンシステムを取り巻く状況と研究の動向

エンジンシステムを取り巻く状況と研究の動向に関して,日本機械学会による学会講演会の状況を紹介する.エンジンシステムに関わる学術講演会として,2016年には年次大会(9月12日~14日,九州大学),スターリングサイクルシンポジウム(12月3日,宇都宮大学),内燃機関シンポジウム(12月5日~7日,東京工業大学)が開催された.年次大会では,一般セッションに「ディーゼル噴霧,蒸発」,「ディーゼルエンジン」,「化学反応,火花点火」,「排出物,後処理,ピストンスラップ」の4セッションが組まれて18件の講演があった.部門企画セッションは「エンジン制御」,「省エネルギーに貢献するエンジンシステム技術」の2セッションがあり14件の講演があった.また,「炭化水素の分子構造に基づいたディーゼル燃料着火性指標」と題する基調講演,「将来を見据えた燃料・潤滑油とエンジンシステム」というテーマによるワークショップ,「将来を見据えたエンジンシステム新技術」というテーマで先端技術フォーラムが企画された.スターリングサイクルシンポジウムでは6セッションで25件の一般講演があり,「Hondaにおける燃料電池自動車開発と水素社会に向けて」と題する特別講演も行われた.日本機械学会が幹事学会となった内燃機関シンポジウムでは,一般講演として,SI機関,CI機関,ガス機関,HCCI,噴霧,着火,点火,ノッキング,すす,排気,計測・診断,後処理技術,DPF・GPF,代替燃料,潤滑,革新技術に関するセッションが企画され,合計113件の講演があった.さらに,「SIP革新的燃焼技術の研究進捗と持続的な産産学学連携について」および「高過給・高EGR率の大型クリーンディーゼルの研究」と題した基調講演があり,「エンジン制御研究開発から始まる新たな展開」,「進化を続ける計測技術」と題したフォーラムが企画された.

エンジン研究では,低排気を維持した燃費改善,高効率化に向け多岐にわたる取り組みが行われている.火花点火機関では希薄燃焼,ノッキング,そしてHCCIに関連する研究,圧縮着火機関では,噴霧燃焼,すす生成・酸化,燃料噴霧に関する研究,そして後処理技術,代替燃料利用,各機関共通の潤滑に関する研究などが継続して行われている.さらに,高効率化で課題になる熱損失に関する研究,燃焼・排ガスの計測・診断技術に関する研究も活発になっている.

〔木戸口 善行 徳島大学

9・2 各種エンジン

9・2・1 乗用車用エンジン

a.全体概要

2016年の世界乗用車市場は2015年比で4.8%増の6 946万台となり,今後も進展国の経済発展に伴い沿い増加の傾向が続くと予想される.一方,各国のGHG規制強化に伴う燃費改善要請の更なる強まり,排ガス及び燃費の認定試験の世界統一モード(WLTC)の採用,欧州の都市での大気質の改善が進まず,車載計測器(PEMS)による燃費・排ガス試験方法(RDE)が2017年から導入される,更に,世界各地域の自動車用燃料の多様化,進展国市場の都市大気質の悪化など多岐に渡る課題への対応が必要となっている.

b.日本の動向

2016年の乗用車販売台数は416万台(前年比1.6%減:軽自動車11%減,普通車3.6%増)で,乗用車用の32%が軽自動車,25%がHEV,という割合は世界的に日本市場の特異点である.乗用車用ディーゼルは14.3万台(前年比7%減)で乗用車全体の3.4%である.2016年に乗用車エンジンで新たに登場したガソリンエンジンでトヨタのHEV専用1.8 L L4以外は,全てターボ過給エンジンであった.日産からは3.0 L V6 298 kW,ホンダからは3.5 L V6 373 kWのHEV用等の高性能エンジンが発売された.ダウンサイズ過給エンジンではホンダから1.0 L L3,スズキからも1.4 L L4エンジンのモジュラー版1.0 L L3エンジンが発売された.マツダからは3.7 L V6のダウンサイジングとして2.5 L L4の直噴過給エンジンが北米用SUVに搭載された.また日産から世界初の可変圧縮比機構を採用した2 L L4過給エンジンの量産計画発表があった.

c.欧州の動向

2016年のEU28か国及びEFTA全体の乗用車販売台数は前年比6%増加し1 516万台となった.欧州では2017年より導入されるWLTC,RDE対応で,工数が掛る噴射系と燃焼系の適合作業の開発負担を減らすため,エンジンの1気筒の諸元を変えず気筒数と過給レベルと燃料噴射率の違いで幅広い出力レンジをカバーするモジュラーコンセプトエンジンが増加している.BMWはガソリンとディーゼルでシリンダブロック構造を共有しL3,L4,L6の気筒数で100 kWのBカテ ガソリン車から294 kWのFカテ ディーゼル車まで対応した.Mercedes Benzもガソリンとディーゼルでボアピッチを共通とするL4,L6エンジンを発表した.VWからはFord,PSA,Renaultに続き1.3 LクラスL4骨格ベースの1.0 L L3過給エンジンが登場した.

d.北米の動向

北米の自動車販売はSUV,Pick Up等のLDTの販売が増加し,乗用車は6%ほど減少して860万台となった.北米市場ではダウンサイジング過給エンジンの増加傾向が定着し,エンジン排気量の減少傾向が顕著になってきた.一方,市場の一部のNeedsに応じて,GM,FCAからは大排気量V8の過給エンジンの更なる高出力版の新規発売もあった.

〔前田 義男 (株)本田技術研究所

9・2・2 トラック・バス用機関

a.市場動向

2016年の小型四輪車,軽四輪車も含めた国内トラック販売台数は2015年比1%減の80万8 302台であった.車型別としては軽四輪車は2015年比1.1%減の38万493台,小型車は同2.1%減の25万4 560台,普通車は同0.4%増の17万3 249台であった.国内バス販売台数は2015年に続き観光バス需要が堅調で同15.8%増の1万5 498台で2015年(11.7%)を上回る伸び率となった.輸出車はトラックが同17.5%減の38万3 959台,バスが同6.8%減の13万1 642台で大幅に減少しており,中近東ではトラックが同35.1%減,バスが同32.5%減,アフリカではトラックが同34.0%減となったことが大きく影響している.一方で中米ではトラックが同12.7%増,バスが同7.7%増,ヨーロッパではバスが同34.5%増と大幅に増加した地域もあった.

b.国内の技術動向

2016年10月より「平成28年排出ガス規制」がディーゼル重量車を手始めに順次適用開始されたが2016年内に適用した車両の発表はなかった.2017年に各社から規制に対応した車両が発表されると思われる.トラック・バスのトランスミッションにおいてはクラッチ操作が不要な自動変速制御により低燃費化するAMTの採用が拡大した.

三菱ふそうトラック・バス(株)は小型トラックのフルモデルチェンジにおいて4P10(3.0 L)を改良した.冷却効率を高めたEGRシステム,精密な多段噴射を可能にするピエゾインジェクタ等を採用した高性能エンジンにより燃費効率を向上した.またデュアルクラッチ式AMTを採用により動力の伝達効率を高め優れた低燃費を実現し,アイドリングストップ&スタートシステム(以下ISS)付きモデルのほとんどで平成27年度重量車燃費基準+10%を達成した.UDトラックス(株)は小型トラック全車に尿素SCRシステムを搭載することで環境・燃費性能を向上させ,ISS付きモデルで平成27年度重量車燃費基準+10%達成車の拡大および全車で平成27年度重量車燃費基準+5%を達成した.日野自動車(株)は中型路線バスのモデルチェンジにおいて4HK1(5.2 L)を改良した.2ステージターボにより低回転から高トルクを発揮し,低燃費を実現した.さらに6速AMTを採用し,電子制御による自動変速でエンジンの低燃費領域を適切に使用することで燃費を向上させ全車で平成27年重量車燃費基準を達成した.いすゞ自動車(株)は大型トラックに6NX1エンジン(排気量7.8 L)を追加した.2ステージターボにより広い回転域で安定したトルク特性を発揮し,小排気量化によるフリクション低減とISSにより低燃費化した.

c.海外の技術動向

2016年のハノーバーショーでは各社2014年のコンセプトから大きな変化はなかった.

Daimlerは排気圧力の上昇を抑えつつ,EGR量を確保できるアシンメトリックターボを搭載したOM470(10.7 L)を発表した.MANはD26(12.4 L),D38(15.2 L)に高い浄化性能をもつ触媒を用いたSCRシステムを搭載することでクリーンな排ガスを実現しつつ,燃焼改善により燃費を低減した.VOLVOはD13(12.8 L)に噴射系のコモンレール化,ピストン/クランク系のフリクションの低減等の改良により低燃費化した.DAFはPX5(4.5 L),PX7(6.7 L)でエンジンの低回転化によりフリクションを低減しつつ低燃費領域の使用を拡大し,燃費を約4%改善した.また海外でもAMTの搭載が進んでおり,GPS情報を利用して地形変化に応じて燃費を最適化するAMTシフト制御が全社で採用された.

〔島崎 直基 (株)いすゞ中央研究所

9・2・3 オートバイ用機関

2016年の国内二輪車生産台数は,10月以降3か月連続で前年を上回った結果,2015年比7.3%増の約56.0万台で,2年ぶりの増加となった.日本二輪車メーカー4社(以下,ホンダ,ヤマハ,スズキ,カワサキと表記)が2016年に発売した新エンジンについて間単に紹介する.

ホンダは,新開発の250 cm3・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ・並列2気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.スロットルバイワイヤシステムにて上質で安定感のある加速フィールを実現し,選択可能な3つのエンジンモード設定によってニーズに応じたパワーを引き出すことができる.フレームは新設計の鋼管トラス構造とし,強さとしなやかさを両立させており,ヘッドライトにはデュアルLEDを採用している.

ヤマハは,新設計の599 cm3・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ・並列4気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.トラクションコントロールシステム,クイックシフトシステム,スリムなマグネシウム製リアフレーム,ならびにスチール製に対し1.2 kgの軽量化を実現したアルミ製燃料タンクなどの採用などにより,サーキットやワインディングでのスポーツ性能を進化させた.

スズキは,新設計の248 cm3・水冷・4サイクル・SOHC・2バルブ・並列2気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.ロングストロークエンジンの採用と,11 kgの車体質量低減によって,街乗りで多用する低中速域の扱い易さを確保しつつ,定地にて41 km/Lの優れた燃費性能を実現した.

カワサキは,新設計の948 cm3・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ・並列4気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.エンジンは鋭いスロットルレスポンスと高回転域まで心地良く吹け上がるパワーフィーリングを実現した.新設計の軽量鋼管フレーム採用で車体質量を21 kg低減し,高めのハンドルや足つき性の良いシートを採用することで,コントロール性と扱い易さを高次元で両立させている.

〔山口 慎一 川崎重工業(株)

9・2・4 汎用機関

a.エンジン生産の動向

日本陸用内燃機関協会の統計によると2016年の汎用の国内ガソリンエンジンの生産は,349万台前年比96%,金額ベースで546億円前年比95.7%である.ディーゼルエンジンは124万台前年比91.2%,金額ベースで397億円前年比94.6%である.ガスエンジンは,8.6万台で前年比86%であるが,金額ベースでは12.4億円96%でほぼ横ばいである.国内生産台数は2014年拡大基調であったが,2016年は縮小する傾向がうかがえる.海外工場での汎用機関の生産は,ガソリンエンジンは986万台前年比101.6%出力ベースで前年比97.6%,ディーゼルエンジンは,43万台前年比94%であるが,出力ベースでは前年比101.7%で高出力化していると考えられる.海外生産台数も2014年は拡大基調であったが,2016年は減少傾向にあった.

b.排気ガス規制の動向

国内の大気汚染防止法の定置用ディーゼル,ガソリンとガスエンジンのNOx規制値は比較的厳しくなく,唯一GHP用ガスエンジンのガイドラインが10モードで100 ppm以下と低い.地方自治体の条例による排気ガス規制が厳しいので,定置用常用エンジンはガスエンジンしか生産されていない.小形汎用ガソリン19 kW以下では,陸用内燃機関協会の自主規制が行われ,2015年からさらに厳しい規制が行われている.NOxとHCの排出総量は2011年に大幅に低減し,2000年に比較して72.3%低減した.2016年は前年に対し微減した.汎用ディーゼルから排出されるNMHCとNOxがやや増加した.汎用ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質は,2003年に比べて55.2%低減されているが,昨年と比較し微増している.19 kW以下の小形ディーゼルの自主規制は変更がないが,各国の排気ガス規制は,アメリカのEPAとヨーロッパのEuromatに追従する傾向があり,常に動向に注視する必要がある.小形ディーゼルの排気ガス対策は一段落した感がある.しかし,ヨーロッパの19 kW以上ディーゼルoff road stage5では,全てのディーゼルエンジンにDPFが必要になると予想されているので,開発が必要になると思われる.また,カリフォルニアではさらにNOxを低減する動きがある.

c.新技術の動向

新技術としては,ガソリン汎用エンジンではEPA phaseIIIに対応するため,球形燃焼室形状,点火時期変更,バルブ挟み角変更,オフセットシリンダー,キャブレター設定の見直しが行われ,排気ガスの低減,出力向上と燃費低減がなされた.また,携帯用ガソリンエンジンに三元触媒と燃料噴射,酸素センサーのシステムを使用し,大幅な排気ガスの低減を実現したエンジンが開発された.2輪車用に小形の噴射装置,酸素センサーの開発が行われ,汎用エンジンにも適用され,電子制御化が進んだ.キャブレターで開発された汎用ガソリンエンジンに簡単に後付けできるガソリン噴射装置,三元触媒が開発され,排気ガスの大幅な低減が可能になった.一方3Dプリンターによる樹脂吸気管の検討が行われている.汎用ディーゼルでは,欧米の規制が厳しい地域と東南アジアなどの厳しくない地域で,エンジン仕様を変更して性能とコストのバランスを取った機関が開発された.また,無人ヘリ用の4サイクル燃料噴射エンジンで高圧縮比とカムプロフィールの変更,排気圧低減により,高出力化が行われた.

〔中園 徹 ヤンマー(株)

9・2・5 建設機械および鉄道車両用機関

建設機械用機関については,既に2014年から第四次排出ガス規制が米国(EPA Tie4)および欧州(EU StageIV)において実施されると共に,国内においても平成26年規制として特殊自動車(オンロード特殊自動車およびオフロード特定特殊自動車)において施行されている.NOx低減に対しては,ほとんどの機関が尿素SCRシステムによる後処理装置を導入することで対応し,PMの低減についてはパティキュレートフィルタまたは酸化触媒の後処理装置により対応しており,機関本体の改良に加えて後処理装置の導入により規制対応を図っている.本規制への対応によって,建設機械・農業機械・産業車両用機関のエミッションは2006年と比較してNOxおよびPMは1/10まで低減し,環境が改善されてきている.また,排出ガス低減システムが正常に働いていることの故障診断システムと異常時の機械稼働への制限処置(出力および時間の制限)が求められているので,規制に合わせて対応している.日米欧の更なる環境改善の動向としては,欧州においては自動車に続いてオフロード用機関においてもPM(微小粒子状物質)に関して粒子数の規制がstageV(2019年)として開始される予定である.排気ガス対策と並行して,地球温暖化対策としてCO2低減の観点からの機関および車両システムとしての燃費低減が強く求められており,機関はもとより車両システムとしての高効率車両の開発がますます重要な課題となってきている.日米欧以外の地域における排出ガス規制については,中国を始めとして各国で排出ガス規制に対する強化の動きが加速されており,中国では2011年規制レベルへ強化される予定である.

鉄道車両用機関については,ハイブリッドシステムの営業運転が開始されて以降,更なる開発の促進と共にハイブリッド車両の営業運転エリアが拡大している.またJR北海道では,国鉄時代に製作した一般気動車の老朽取替用として新型一般気動車の新製が計画されており,JR東日本との仕様を合わせた電気式気動車として,車両および機関が一新されてH31年以降量産される予定である.

〔岡崎 達 (株)IPA

9・2・6 舶用および発電用機関

舶用ディーゼル主機関を生産している国内主要ディーゼルエンジンメーカー11社の2016年1月~12月の生産実績は,804台,750万馬力であった.2015年の889台,777万馬力より台数,生産馬力ともに若干減少した.また,2016年末の手持ち工事量は11社合計で771台,1 120万馬力で2015年末の775台,962万馬力とほぼ同じ水準を維持している.

IMO(国際海事機構)によるNOx三次規制の適用が2016年から開始されたが,三次規制船の商談は低調であり,実際の適用は大幅にずれ込むと見られている.そのような中,三井造船から,国内初の三次規制船向け主機を受注したとの発表があった.同機関ではNOx低減技術として,EGR(排気ガス再循環)技術が採用される.

さらに,IMOの排気ガス規制については,世界の注目を集めていた一般海域におけるSOx規制が,2020年に開始されることで決定した.これは新造船だけでなく,すでに就航している船にも適用される.今後の新造船では,NOx三次規制の対応技術に加え,SOx規制対応のため,ガスなどを含めた低硫黄燃料の使用,もしくは高硫黄燃料の使用を前提にしたSOxスクラバーの採用等,燃料の選択が必要となる.SOx規制対応の選択肢の一つとして,LNGを始めとする代替燃料が注目される中,三井造船が製造したメタノール焚低速機関「ME-LGI」,さらに川崎重工業が製造したガス焚低速機関「ME-GI」を主機として搭載する船がそれぞれ就航した.日立造船からは,ガス焚きに対応した実証試験設備が完成したとの発表があった.ディーゼルユナイテッドでは低圧ガスを燃料とするガス焚低速機関を追加受注したとの発表があった.

その他,三井造船では,すでに製造した天然ガス焚き機関に加え,世界で初めてエタン燃料を使用して,エタン焚低速機関「ME-GIE」の工場運転を実施することに成功している.

〔東條 温司 三井造船(株)

9・2・7 ガスタービン

低炭素社会に向けて,化石燃料の需要が今後大きく変化する中,国際エネルギー機関は,天然ガス需要は2040年まで年率1.5%程度伸びると予測している[1].ただし天然ガス火力発電所の新設よりも石炭火力発電所の新設の方がベースロード発電としては安価であり,天然ガス火力は電力系統の安定を支えるバックアップ電源としての機能が重要と考えられる.需給ギャップに応じて急速に発電量を変化できるガスタービン発電が期待され,欧米メーカーからは負荷変動対応能力が改善されたガスタービンが発表されたが,我が国でも急速負荷変動対応型ガスタービン発電の研究開発についてNEDOの先導研究の報告が出され[2],欧米メーカーよりも高性能なガスタービンの国家プロジェクト立案が期待されている.一方,再生可能エネルギーの増大への対策として,ヨーロッパではPower to gasが注目され,水素もしくは水素リッチ燃料を用いるガスタービンの注目度が増している.我が国でも水素燃焼タービンについては,これまで川崎重工がNEDOプロジェクトを推進しきたが,MHPSも大型ガスタービンの研究開発を進めている.またエネルギーキャリアであるアンモニアの燃料利用も注目を集め,国内外で研究開発が進められている.

航空用のガスタービンでは,セラミック複合材の高温部材やアディティブマニュファクチャリングによる金属部品の実用化が進められている.ビッグデータシステムの分析技術によるメンテナンスサービスは,ジェットエンジンだけでなく,発電用ガスタービンにも活用が進んできている.我が国の航空エンジンでは,ホンダジェットが北米で100機以上の受注を受けており好調で,2016年10月末までに18機納入して注目された.2016年12月防衛装備庁とIHIはP-1固定翼哨戒機搭載のF7-10エンジンについて,JAXAへの販売に向けた民間転用契約を締結した.JAXAは基礎研究の成果を開発に反映させる実証設備としてF7エンジンを使用できることになり,今後の研究開発が期待されている.

学術分野では,これまで北米とヨーロッパで交互に開催していたASME Turbo Expoがソウルで初めて開催された.ASMEはインドで毎年ASME Gas Turbine India Conferenceを開催しているが,2016年はThe Asian Congress on Gas Turbinesもインドで開催された.ガスタービンはジェットエンジンとしても発電用としても世界的な成長市場であるが,欧米に続き,研究開発でもアジアの国々の重要性が増している.

〔壹岐 典彦 (国研)産業技術総合研究所

9・2・8 スターリング機関

国内外で研究・開発,あるいは製品化されているスターリング機関の用途としては,木質バイオマス燃焼発電,工業炉やごみ焼却炉と組み合わせた排熱利用発電,家庭用ヒートポンプ,さらに一部の海中動力源(潜水艦)などがある.アメリカおよびヨーロッパ諸国のメーカは,これまでに蓄積してきた技術を活用して,これらの用途に用いるスターリング機関の商品化を進めている.

国内では,2014年11月に電気事業法に関連した省令が改正され,発電出力10 kW未満のスターリングエンジン発電設備の設置が容易になった.そのため,木質バイオマスボイラとスターリング機関を組み合わせた給湯・冷暖房・発電設備の開発や太陽熱発電などの研究・開発が活発に進められている.太陽熱発電並びに排熱利用発電を主な用途としたスターリング機関については,一部のメーカによって出力数kW~数十kWの機器を受注生産できる体制となっている.また,学術・研究機関においては,木質バイオマスなどの再生可能エネルギーの有効利用やシステムの省エネ化を目指した研究,熱音響機器を用いた排熱利用発電や冷凍機技術に関連した開発が活発に進められている.

〔平田 宏一 海上技術安全研究所

9・2・9 燃料電池

東京で開催される予定の2020年オリンピック・パラリンピック競技大会において日本の水素エネルギー技術を世界に発信することで水素社会実現の契機とするという方針により,燃料電池自動車などの水素利用システムの普及促進について各方面で検討や推進活動が進められている.

東京都では,2020年までに100台の燃料電池バスの導入を目指す計画であり,2015年に燃料電池バスの走行実証実験を開始し,2017年3月には乗車定員77名の燃料電池バス2台を使用して路線バスでの営業運行を開始した.この燃料電池バスはトヨタ自動車が開発したものであり,車両の屋根部分に容積600 Lの70 MPa高圧水素タンクと合計出力228 kWの固体高分子型燃料電池スタックを搭載し,最大出力113 kW,最大トルク335 N・mのモーターを2基駆動している.

乗用車については,2014年12月にトヨタ自動車から,2016年3月に本田技研工業から,固体高分子型燃料電池を搭載した自動車が発売されたが,2016年8月には日産自動車からエタノールの改質による水素を燃料とする固体酸化物型燃料電池を搭載した自動車のプロトタイプが発表された.この自動車には最大発電出力5 kWの固体酸化物型燃料電池と24 kWhのバッテリーが搭載されているが,30 Lのエタノールで600 km以上の走行が可能ということであり,燃料のエネルギー密度の点で有利である.

二輪車では,スズキが2016年8月にスクーター型の燃料電池二輪車の型式認定を受け,2017年3月に18台の車両のナンバーを取得し,公道走行を開始している.この燃料電池スクーターは,排気量200 ccのガソリンエンジンスクーターの車体を基に開発されたものであり,最大発電出力3.5 kWの固体高分子型燃料電池スタックと2.4 V/2.9 Ahのリチウムイオンバッテリーが搭載されており,最大出力4.5 kW,最大トルク23 N・mのモーターを駆動する.10 Lの70 MPa高圧水素を搭載し,一回の燃料充填により60 km/h定地走行条件で120 kmの走行が可能ということである.燃料電池スタックの冷却に強制空冷方式を採用している点が特徴のひとつであり,燃料電池搭載による車両の重量増を抑えるうえで有利であると考えられる.基となったガソリンエンジンスクーターの装備重量163 kgに対して,この燃料電池スクーターの車両重量は199 kgであり,重量増は比較的小さく抑えられている.

また,船舶では,国土交通省が燃料電池船実用化の促進を目的として水素燃料電池船の安全ガイドラインの策定に取り組んでおり,ヤンマーが開発した発電出力5 kWの固体高分子型燃料電池システムを搭載した小型船舶による実船試験が2017年3月より開始されている.

〔首藤 登志夫 首都大学東京

9・2・7の文献

[ 1 ]
World Energy Outlook 2016, International Energy Agency http:/​/​www.iea.org/​publications/​freepublications/​publication/​world-energy-outlook-2016---executive-summary---japanese-version.html.
[ 2 ]
平成26年度―平成27年度成果報告書 エネルギー・環境新技術先導プログラム 再生可能エネルギー大量導入時代の系統安定化対応先進ガスタービン発電設備の研究開発 http:/​/​www.nedo.go.jp/​library/​seika/​shosai_201606/​20160000000495.html.

 

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