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機械工学年鑑2021

17. 生産システム

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17.1 生産システム関連の要素技術


17.1 生産システム関連の要素技術

生産システムにおける要素技術は常に他分野の技術との関係を持って発展してきている.本節では,生産システムの技術を広範囲に捉え,2020年に発行された日本機械学会論文集,生産システム部門研究発表講演会講演論文集,年次大会講演論文集に掲載された文献から関連する研究を,IoT(Internet of Things)活用および技能伝承とAI化,生産システムモデリングシミュレーションおよび自動化アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing, AM)に大別して説明する.

2020年はSociety 5.0やIoTなどの近年に話題とされている技術に加え,デジタルトランスフォーメーション(DX)の導入による生産システムの革新が大きな話題となり,企業がデータとデジタル技術をどのように活用するのかの議論が行われるようになっている.2020年3月に開催された生産システム部門講演会では「これからが本番,IoTの発展浸透に向けた新技術」との題目で特別講演(1)が企画され,多数の参加者を得て一層の広がりが確認された.IoT活用の研究としては,生産システム運用を支援する際にIoTを用いるプロセスネットワークモデル(2),リアルタイムにAGVを高度に制御するサイバーフィジカル工場の開発(3),再帰型オートエンコーダーを用いた工場設備の故障予知手法(4)などの研究の報告がある.また,これらの取得データを用いた技能伝承とAI化では,欠陥検出のために外観検査に少ないサンプルからの学習を可能とする転移学習を導入する試み(5)や事例ベース推論に基づく部品加工の作業設計支援(6)や過去の工程設計事例に基づく類似形状抽出システムの開発(7),製造工程からの手戻りを防止するための設計ルールの自動チェックを可能とするCADシステム(8),シミュレーションによる学習データ生成とネットワーク表現によるデータ圧縮を実施するホブ加工の診断システム(9)等が報告されている.

生産システムモデリングシミュレーションでは,ブーリアン演算による加工面性状の予測(10),ラジアスエンドミルを対象にした表面粗さの解析(11)など,それぞれの生産プロセスに応じたモデル化とシミュレーションの研究報告がある.

生産の自動化では,数値制御工作機械を対象としたものとして,エンドミル加工における加工条件の適用可否判定および修正の研究(12),複合加工機による加工において幾何公差や表面粗さの影響を考慮可能なCAPPの研究(13),5軸制御マシニングセンタにおける切削送り速度の最適化計画手法の研究報告(14)などがある.また,ロボットによる自動化や組み立て支援においても,深層学習と自律移動ロボットを組みあわせて航空機用ワイヤハーネス配線作業を支援するシステムの研究(15),微小磁性部品組み立てを対象としたバイテラル操作システムの開発(16),産業用マニュピレータのSLAM統合機構キャリブレーションによる高精度化(17)などが報告されている.

アディティブマニュファクチャリングAM)の研究では,CFRP複合材料の機械的異方性を制御するための炭素繊維の積層時における配置設計方法の研究(18),セルロースナノファイバーといった新しい材料を対象とした造形法(19)など,AMの特長を捉えた研究報告が多い.また,AMの複雑な形状を有する高性能な構造を低コストで製作することが可能な特徴を生かした事例として,大変形を伴う柔軟翼の空力特性解析(20)といった研究が報告されている.

〔金子 順一 埼玉大学大学院〕

参考文献

(1)石橋基弘,人と機械が共に成長するデンソーのFactory IoT,日本機械学会生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2020),pp.27-38.

(2)近藤伸亮,高木仁志,古川慈之,IoTを用いた生産システム運用を支援するプロセスネットワークモデルの提案,日本機械学会生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2020), pp.83-84.

(3)山本秀彦,上門建斗,山田貴考,伊藤和晃,佐藤惇哉,伊澤仁,市來健吾,牧原義人,リアルタイムにAGVの行動を制御するサイバーフィジカル工場の開発,日本機械学会年次大会講演論文集(2020), S14405, DOI: 10.1299/jsmemecj.2020.S14405.

(4)朝日翔太,松井彩華,田村哲嗣,速水悟,井指諒亮,古川輝,内藤孝昌,再起型オートエンコーダを用いた振動データによる工場設備の故障予測手法の提案,日本機械学会論文集(2020), Vol.86, No.891, DOI: 10.1299/transjsme.20-00020

(5)山下遥介,木下祐介,梅田靖,増田周弥,濱田徳亜,転移学習を用いた外観検査の自動化,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.77-78.

(6)柳本哲志,斎藤清和,中本圭一,加工事例に基づいた工程設計のための類似形状抽出システムに関する研究,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.63-64.

(7)塚本涼,淺野哲也,中本圭一,事例ベース推論による部品加工の作業設計支援システムに関する研究,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.63-64.

(8)板林勇気,小野寺誠,片岡絵里香,きづき支援CADシステムにおける製造性に関する設計ルールの開発,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.55-56.

(9)河野邦俊,射場大輔,瓜生耕一郎,野田英克,井上大暉,森脇一郎,人工知能を用いたホブ盤診断システム(ホブ切りシミュレーションによる学習データの生成とネットワーク表現によるデータ圧縮),日本機械学会論文集,Vol.86,No.886 (2020), DOI: 10.1299/transjsme.20-00026.

(10)林晃生,小林夢人,堤坂光揮,森本喜隆,3DCADを用いたブーリアン演算による加工面性状の予測,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.57-58.

(11)成田浩久,傾斜面を対象としたラジアスエンドミルの走査線加工における表面粗さと特徴,生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020),pp.53-54.

(12)西田勇,堀本凌輔,佐藤隆太,白瀬敬一,エンドミル加工における切削条件選択可能領域を用いた切削条件の適用可否判定および修正方法,日本機械学会論文集,Vol.86, No.887 (2020), DOI: 10.1299/transjsme.20-00153.

(13)井上友貴,中本圭一,設計情報を反映するための加工フィーチャ認識手法の提案,日本機械学会論文集(2020),Vol.86, No.882, DOI: 10.1299/transjsme.19-00414.

(14)鈴木尊丸,岩間翔哉,廣垣俊樹,青山栄一,アプローチパスを考慮した5軸制御マシニングセンタにおけるエンドミル切削点送り速度ベクトル一定化制御法,日本機械学会論文集,Vol.86, No.889 (2020), DOI; 10.1299/transjsme.20-00175.

(15)松下光次郎,佐々木実,3DARと深層学習と自律移動ロボットを組合せた航空機用ワイヤーハーネス配線作業支援システムの開発,日本機械学会年次大会講演論文集 (2020) paper No.S15101, DOI: 10.1299/jsmemecj.2020.S15101.

(16)文字山竜,水野毅,石野裕二,髙崎正也,山口大介,微小磁性部品組み立てにおけるバイラテラル操作システムの開発,日本機械学会論文集,vol.86,No.888 (2020), DOI: 10.1299/transjsme.20-00004.

(17)伊藤聡利,李景輝,前田雄介,産業用マニピュレータのためのSLAM統合機構キャリブレーション(SKCLAM)におけるチェッカーボードを用いた高精度化,日本機械学会論文集,Vol.86, No.891 (2020), DOI: 10.1299/transjsme.20-00028.

(18)神保康紀,舘野寿丈,CFRP-AMによる三角形構造の剛性異方性の設計と制作,日本機械学会生産システム部門研究発表講演会2020講演論文集(2020)pp.71-72.

(19)館野寿丈,藤沢太一,竹内健仁,セルロースナノファイバー複合材料のアディティブマニュファクチャリング,日本機械学会生産システム部門研究発表講演会講演論文集 (2020), pp.75-76.

(20) 津島夏輝,玉山雅人,槙原幹十郎,有薗仁,3Dプリンティングによる大変形を伴う柔軟翼の空力弾性特性,日本機械学会論文集(2020), Vol.86,No.890, DOI; 10.1299/transjsme.19-00452.

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