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機械工学年鑑2022

2. 人材育成・工学教育

2.1 人材育成・工学教育の動向

2.1.1 最近の動向

新型コロナ感染症の影響により,日本人の働き方が大きく変わりつつあります.そこで,本稿では,働き方に関する最近の動向についてオムニバス形式で紹介することとします.読者の皆様が今後のキャリア形成を考える上で参考にしていただければ幸いです.

a. 働き方改革法案の施行1

長時間労働の撲滅,正規・非正規労働者の格差解消,生産労働人口の減少抑制などを主たる目的として,2018年6月に「働き方改革法案」が成立し,2019年4月から「働き方改革関連法」が施行されました.これらの法案により,労働基準法や労働安全衛生法などに以下のような変更が加えられました.

  • 時間外労働(残業)の上限規制の強化:原則として,残業時間の上限が月45時間,年360時間となった.
  • 勤務間インターバル制度の導入:勤務終了から翌日の出社までに一定時間以上の休息期間を確保することが努力義務となった.
  • 年5日の年次有給休暇の取得:10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して,年に5日以上の年次有給休暇を取得させることが,事業主の義務となった.
  • 残業の割増賃金率引き上げ:これまで,月60時間を超える残業には,大企業50%,中小企業25%の割増賃金率が定められていたが,中小企業も大企業と同様に割増賃金率が50%に引き上げられることとなった.
  • 労働時間の客観的な把握:裁量労働制の労働者や管理者なども含めて,労働者の労働時間を把握することが,事業主の義務となった.
  • 高度プロフェッショナル制度の導入:職務範囲が明確で一定以上の年収を有する労働者が,高度な専門知識を要する業務に従事する場合,一定の条件を満たす場合に限り労働基準法の規定に縛られない自由な働き方が,労使委員会の決議と本人の同意の上で認められることとなった.
  • 不合理な待遇差の禁止:「同一労働同一賃金」の考えに基づき,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の待遇差を設けることが禁止された.
  • その他:フレックスタイム制における清算期間延長,産業医・産業保健機能の強化,労働者に対する待遇に関する説明義務,行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続の規定の整備についても改正が行われている.

b. 週休3日制の導入

ヨーロッパでは,週休3日制が労働時間の主流(およそ80%)となっている.例えば,ドイツのフォルクスワーゲン社では,ワークシェアリングに基づく週休3日制が導入されている.一方,日本では,現在,週休2日制が主流である.厚生労働省が2021年度に実施した就労条件総合調査2によれば,実質的に週休を3日以上としている日本の企業は全体で8.5%であり,社員1,000人以上の企業に限定しても12.6%である.佐川急便,日本IBM,ヤフーなどの企業が週休3日制(選択的週休3日制を含む)を導入済であり,パナソニック,日立,NECといった企業が導入を決定したり検討中というニュースが流れている.また,70歳までの就業機会を付与する「70歳就業法」(改正高年齢者雇用安定法)が2021年4月に施行されたが,65歳以上の従業員の働き方として週休3日制の導入を検討している企業も多いようである.

2021年4月5日の記者会見でも加藤勝信官房長官が「選択的週休3日制」の導入に言及しており,週休3日制の導入によって,子育てや介護などとの両立の実現,多様な人材を複数の企業がシェアして競争力の低下を防ぐことで少子高齢化による労働力不足を補うといったことを,政府としても大いに期待しているようである.

なお,週休3日制には,1日10時間・週40時間勤務,1日8時間・週32時間勤務などの勤務形態が考えられるが,生産性を向上させつつ給与を下げないためには様々な工夫が必要と考えられている.今後どのような形で週休3日制が普及して行くかは不明であるが,完全週休2日制が社会制度として定着するのに約20年かかったことを考慮すると,2035年頃には完全週休3日制の社会が実現しているかもしれない.

c. ジョブ型雇用の導入

現在,日本では多くの企業でメンバーシップ型雇用が採用されているが,世界的にはジョブ型雇用が主流となっている.しかし,日本でも,エンジニアなど専門職人材の不足から,ジョブ型雇用の採用を導入・検討する企業が出始めている.例えば,富士通は2020年度,三菱ケミカルは2021年度にジョブ型雇用を採用し,日立は2024年度中にジョブ型雇用に完全移行する予定で検討を進めている.このような流れは働き方改革の一環であるが,新型コロナウィルス感染症の影響により,テレワークが普及したこともジョブ型雇用への移行を後押ししているようである.また,高度経済成長期に確立したメンバーシップ型雇用の基本になっている終身雇用制や年功序列制をデフレ経済下で維持することが困難になってきたことも一因として挙げられている.なお,労働者にとってのジョブ型雇用は,自分の専門分野の仕事ができること,スキルが給与に直結する(高いスキル=高い給与)ことなどが長所となるが,専門分野に関連した仕事がなくなれば解雇の可能性が大きいこと,自己責任で継続的にスキルアップが必要なことなどが短所となっている.ジョブ型,メンバーシップ型雇用のいずれにも長所と短所があるため,どちらが望ましいかは一概に決められないが,これからのエンジニアは,個人のスキルや指向に合わせて選択することが必要になると考えられる.

以上,働き方に関する最近の動向を紹介しましたが,日本における労働環境が大きく変わろうとしていることが理解できたかと思われます.昭和に確立したこれまでの働き方は,令和には完全に時代遅れになったと言えるでしょう.機械技術者もこれまでとは異なる働き方になる(あるいは,求められる)可能性が大きいと思われますので,キャリア形成について日頃から考えておくことが大切ではないでしょうか.

2.1.2 工学系高等教育機関での学生の動向3

大学数は803校となり,前年と比較して8校増加した.少子化にもかかわらず,大学数は微増傾向を維持している.

大学生数は2,918千人で前年より2千人増加した.学生数の内訳は,学部が2,626千人,大学院が257千人で,学部が2千人増,大学院は3千人増であった.学部の学生数は,大学学部への進学率が54.9%(0.5%増)に達したため,2020年度に続いて過去最多を更新している.大学院の学生数のうち,修士課程は162千人で2千人増,博士課程は75千人で増減はなかった.また,大学院の学生数のうち,機械工学関係を専攻する学生は8千人で全体の4.9%を占めていた.学部の女子学生数は1,197千人で,2020年度より3千人増加し,2020年度に続いて過去最多となった.女子学生が占める割合は,学部が45.6%(0.1%増),大学院が32.6%(増減なし)となり,過去最多となっている.

大学の本務教員数は188千人で,前年に比べて2千人減少した.このうち女性教員の割合は50千人で1千人増となっており,全体の26.4%(0.5%増)を占めていた.教員数が減少する中で,女性教員数の増加傾向が続いている.

 大学生の学部卒業後の進路調査によれば,学部卒業者のうち,大学院への進学者は69千人で4千人増,就職者は433千人で14千人減であった.進学率は11.8%で前年に比べて0.5%増,就職率は74.2%で3.5%減であった.就職者のうち,製造業,情報通信業,建設業へ就職した学生はそれぞれ43千人,47千人,23千人であった.大学院修士課程(博士前期課程を含む)修了者の博士課程への進学者は7.3千人(増減なし),就職者は54千人(3千人減)であった.進学率は10.1%で前年より0.3%増,就職率は75.8%で2.1%減であった.博士課程(後期課程を含む)修了者は16千人(0.4千人増)であり,そのうち就職者は11千人(増減なし),就職率が68.4%で前年より1.4%減少した.就職率は増加傾向が続いていたが,8年ぶりに減少に転じた.

学部,修士,博士の就職率がすべて減少しており,新型コロナウィルス感染症による経済状況の悪化が影響しているものと考えられる.

2.1.3 日本機械学会の活動

「人材育成・活躍支援委員会」は2019年度に発足し4,小中学生からシニアに至るすべての階層の人材をターゲットとして,日本機械学会における人材育成および人材の活躍支援に関する様々な施策の検討・策定および実施を担っている. 2021年度は,11名の委員および1名のオブザーバにより活動し,様々な施策について検討を行った上で,その一部については以下のような具体的取組として実施した.

(1)小中高校生向け企画:小中学生の理科・もの作り離れを防ぐため,またジュニア会友へのサービス向上の一環として,年間を通して「もの作り」に触れる機会を提供すべく,関東支部シニア会のご協力のもと,「エンジニア塾」を開催した.エンジニア塾では,2021年6月から2022年2月にわたって,もの作り・こと作りの体験,大学祭・工場等の見学などを企画・実施し,参加者は7名であった.詳細は,URL:https://kt-senior.hatenablog.com/entry/2021/04/02/101656をご覧いただきたい.

(2)年次大会での啓発活動:年次大会において人材育成・活躍支援に関するワークショップを毎年実施しており,学会員に対する啓発活動に取り組んでいる.2021年度の年次大会(千葉大学)では,「アフターコロナにおける大学教育の質保証」と題して,4件の講演および総合討論を実施した.2022年度の年次大会(富山大学)では,「DX時代に求められる機械技術者像」をテーマとして同様のワークショップを実施する予定である.

(3)キャリアマップの作成:小中学生から大学生に機械技術者としてのキャリアを知ってもらうため,キャリアマップを作成し,本会ホームページ「機械系に進む中高生を応援!!(URL:https://www.jsme.or.jp/career-mech/)」にキャリアパスとして公開した.

(4)社会への提言:本会の活性化を図り,機械技術者の地位を向上するため,社会に向けて提言を行うことを検討している.2021年度は産業界で働く若手技術者に本会の魅力を伝えるため,本会ホームページに「産業界の皆様へ・学会に参加しませんか(URL:https://www.jsme.or.jp/human-resources-support/message)」というメッセージを掲載した.より多くの若手技術者が本会の活動に参加してくれることを期待している.

(5)技術相談窓口の開設:企業等からの技術相談を以前から実施してきたが,認知度が低く,有効活用されていなかった.このため,部門・支部・シニア会等にご協力いただき,より利用しやすい技術相談制度に再構成した.相談の申し込み等については,本会ホームページ(URL:https://www.jsme.or.jp/human-resources-support/consultation)を参照していただきたい.

(6)講習会のパッケージ化・出前講習会:本会では,毎年,部門・支部の主催で400件を越える講習会やセミナーが開催されている.機械技術者あるいは特別員が利用しやすい教育システムを構築すべく,部門・支部のご協力のもと,講習会・セミナーをレベルやテーマで分類してまとめたリストをホームページに掲載した.現時点では,4力学,設計技術,生産技術,e-learningから成る「対象レベル別,分野別 講習会リスト(基礎編)」,および計算力学,計測技術,設計技術,生産技術から成る「対象レベル別,分野別 講習会リスト(応用編)」に講習会・セミナーを分類したリストとなっている.詳細は,本会ホームページ「イベント・事業」の中の「対象レベル別,分野別 講習会リスト(URL:https://www. jsme.or.jp/event_project/basic/)」を参照していただきたい.

(7)インターンシップの学会枠設置:インターンシップが単なる会社説明会になってしまっている現状を改善し,長期インターンシップの活性化とともに,学生員・特別員のメリットを向上するため,本会がインターンシップ希望の優秀な学生員を特別員企業に紹介する制度の新設を検討した.理事会の承認が得られたため,2022年度夏から,特別員企業からインターンシップ情報の収集,およびインターンシップ希望学生への紹介を実施する予定である.

最後に,本委員会では今後も様々な人材育成事業を進めて行く予定であり,会員の皆様には人材育成・活躍支援委員会が実施する各種事業への一層のご支援・ご協力をお願いする次第である.

〔山本 誠 東京理科大学〕

参考文献
(1)厚生労働省:働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編),https://www.mhlw.go.jp/content/000611834.pdf(2020.3).

(2)厚生労働省:令和3年就労条件総合調査 結果の概況,https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/21/dl/gaiyou01.pdf(2021.11).

(3)文部科学省:学校基本調査―令和3年度結果の概要―, https://www.mext.go.jp/content/20211222-mxt_chousa01-000019664-1.pdf(2021.12).

(4)日本機械学会:人材育成・活躍支援委員会,https://www.jsme.or.jp/human-resources-support/(2022.5).

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2.2 技術者教育プログラム認定の動向

2.2.1 ISO18436準拠機械状態監視診断技術者の認証

我が国の産業界は,競争力維持,強化のため,機械設備の安定安全操業が不可欠な環境にある.本会では,その一助として,2004年よりISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)を,また,2009年からは日本トライボロジー学会と協力して,ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)の資格認証事業を実施している.以下に,両診断技術者の2021年度の資格認証試験の概要と現況のトピックスを示す.

a. ISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)

第1回試験を6月26日に,第2回試験は11月20日(カテゴリIVの記述,面接試験は12月11日)に実施した.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/III/IVでそれぞれ,12名(92%,13名)/161名(88%,184名)/20名(62%,32名)/1名(50%,2名)であった.2021年度末での合格者数総数は,5,764名となった.

b. ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)

第1回試験(カテゴリI/II)を12月4日に実施した.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/IIでそれぞれ,46名(100%,10名)/11名(100%,11名)であった.2021年度末での合格者数総数は,1,425名となった.

c. その他の活動

機械状態監視診断技術者(振動)については,年1回,コミュニティを開催し,資格認証者間での情報交換,共有を推進している.2021年度のミーティングは,2020年に引き続き新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から延期とした.2022年度は10月に神奈川での開催予定である.コミュニティに関する情報は,本会のホームページを参照されたい.本ホームページには機械状態監視診断技術者の認定試験の詳細についても記載されている

海外での実情を把握し,国内における認証事業を推進するため,引き続き韓国KSNVE,米国VIと定期的に会合を行っていく.当該資格認証事業が,機械技術者,機械状態監視診断技術者の技術レベルおよび社会的地位の向上に貢献できるよう,更に事業推進していく.

〔藤原 浩幸 防衛大学校〕

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2.3.2 計算力学技術者認定

機械設計プロセスにおける計算力学(CAE)の急速な普及とともに,産業界においては計算力学技術者の品質保証が重要な課題となっている.本会では,CAEに携わる技術者の能力レベルを認定・保証するために,2003年度から計算力学技術者認定試験を実施している.2021年度も,本会関連部門・支部の協力,国内53学協会の協賛,日本機械工業連合会,日本産業機械工業会,日本電機工業会の後援を得て,固体力学,熱流体力学及び振動分野の上級アナリスト試験を9月19日(日)・25日(土)に,1・2級認定試験を12月9日(木)・10日(金)・16日(木)に実施した.新型コロナ感染症対策として,本年度からComputer Based Testing(CBT)方式を1・2 級認定試験に導入した.CBT導入により全都道府県において受験可能となり,39都道府県において1350名を超えるCAE技術者が試験に臨んだ.合格者数および合格率は,固体力学分野が上級アナリスト:4名(44.4%),1級:97,2級:173名(33.2%),熱流体力学分野が上級アナリスト:1名(100.0%),1級:74名(53.6%),2級:160名(61.8%),振動分野が上級アナリスト:受験者無し,1級:28名(42.4%),2級:78名(52.7%)であった.また,書類審査による初級認定者は,固体分野が47名,熱流体分野が17名,振動分野が8名であった.本年度は,コロナ禍により初めて受験者数が減となったが,認定試験開始以来,順調に合格者を輩出されており,累計で10,835名という多くの認定CAE技術者が誕生している.

また,2014年度から開始した非営利組織NAFEMS(The National Agency for Finite Element Methods and Standards)におけるPSE (Professional Simulation Engineer)資格と上級アナリスト資格との国際相互認証の協定に基づき,固体分野上級アナリスト1名,熱流体分野上級アナリスト3名がNAFEMSのPSEとして新たに認定された.

計算力学技術者の認定試験の詳細や合格者のリストなどについては,https://www.jsme.or.jp/cee/ をご覧いただきたい.

〔店橋 護 東京工業大学〕

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