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機械工学年鑑2020
-機械工学の最新動向-

19. 産業・化学機械と安全

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章内目次

19.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング
 19.1.1 業界の現状
19.2 産業機械
 19.2.1 業界の現状

 


19.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング

19.1.1 業界の現状

 わが国のエネルギー政策は2011年に発生した東日本大震災以降,大きな変革を求められている.それまでは一次エネルギーの約9割を占める化石燃料を輸入に頼る構造的な脆弱性を認識したうえで,海外での資源確保強化が主に論じられてきたが,これに加えて災害時の設備安全性,エネルギー供給の補完性(サプライチェーンの強靭化)を考慮した対応が必要となった.一方海外に目を向けると,①米国の純エネルギー輸出国化,②中国・インドのエネルギー需要国としての存在感の高まり,そして③中東地域における新たな地政学リスクの顕在化などが近年新たな懸念として出てきている.

 さらには国内では2019年にかつてない大型台風が千葉県,長野県を襲ったように,気候変動の影響と考えられる異常気象が世界各地で頻発している.これらを背景に2016年に発効したパリ協定(世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑えるとともに,1.5℃高い水準まで抑制するための努力を継続)を遵守すべく,各国の企業や,わが国の産学官は達成に向けた技術開発に取り組んでいる.このような状況下でわが国のエネルギー政策として「3E+S」(安定供給:Energy Security,経済効率性:Economic Efficiency,環境への適合:Environment,安全性:Safety)を基本的な視点とした国際資源戦略立案の必要性が示された.国内の各プラント設備・施設においては,これらの戦略に基づいた新設,および既設設備の改良が求められている.

 一方,オイルメジャーなど海外の資源上流開発企業は,一時期の油価低迷等を受け生産・流通コスト削減,競争力強化に向け,近年急速な発展をとげるAIやIoTなどの高度デジタル技術を適用した事業モデルの構築に注力してきている.中下流事業においても,新設,既設を問わずプラント運転・保安の分野において,これらの高度デジタル技術を活用し,プラント安全性・安定運転性の向上,プラント運転の最適化,生産品質の向上,生産コスト削減,プラント保守最適化による設備延命化などに取り組みだしている.これらの取組みは我が国の国際資源戦略にも合致するものである.

 私たち機械エンジニアはこれらの技術革新・改良の中においても,新たな開発やトラブルが起きた際の解決にあたっては,常に機械工学の基本・原点に立ち返り,デジタル技術で得られる膨大なデータの中から問題解決に必要なデータを選別・抽出し,それらのデータを正しく理解したうえで,適切な解を導く能力が問われる.このように機械工学,機械安全設計に高度デジタル技術を自由に取り込みことができる機械エンジニアの活躍に期待する.

〔上田 毅 千代田化工建設(株)〕

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19.2 産業機械

19.2.1 業界の現状

 内閣府の2020年3月機械受注実績報告(1)は,「機械受注は,足踏みがみられる」である.昨年の報告同様,図2-1に同HPの統計データをグラフ化したものを示す.2020年4~6月期の受注総額見通しは対前期比4.7%減少であり,特に外需の受注見通しが対前期比13.7%減少と落ち込みが大きい.これは,新型コロナウィルス禍による世界同時不況を織り込んでいるものと考えられる.一方で,(一社)日本工作機械工業会の2020年4月受注速報(2)は,2019年4月比で48.3%の受注減少となっており,新型コロナウィルス禍による産業機械売上への影響は,予断を許さない状況となっている.

図2-1 機械受注推移

 合わせて,国内の「ものづくり」は,少子高齢化などによる構造的な人手不足や,次々と寿命を迎えるインフラ関連装置・設備のメンテナンスなど,大きな課題にも直面している.世界的に製造業のデジタル化が加速する中で,わが国の強みは「人間中心のものづくり」であると考えている.匠の技,カイゼン,品質の作り込みなど,「人,技術,現場のつながりを,組織の枠を超えて強化していくエコシステム」が,課題解決やものづくりの付加価値を向上させるカギであり,経済産業省が提唱するConnected Industriesは,まさしく日本の強みを生かすコンセプトと言える.

 Connected Industriesの実現を図るためには,企業・大学・個人が,「ものづくりの競争領域・独自技術」を強化していくことが必須である.さらに,「ものづくりの協調領域・共通技術」であり,安全,保守・保全,セキュリティなど当部門が担う機械工学分野については,部門活動を通じてさらに普及・深化・継承を図り,わが国産業機械の付加価値向上に貢献していく.

〔戸枝 毅 富士電機(株)〕

参考文献

(1) 令和2年3月の機械受注実績及び令和2年4~6月の受注見通し,内閣府
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/2020/2003gaiyou.pdf (参照日 2020年5月22日)
(2) 2020年4月分 受注速報,(一社)日本工作機械工業会
https://www.jmtba.or.jp/wp-content/uploads/sokuhou2004djkg.pdf (参照日 2020年5月22日)

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