6.機械材料・材料加工
6.1 機械材料
6.1.1 鉄鋼材料
a.生産
日本鉄鋼連盟の報告書(1)によると,日本経済は緩やかな回復が期待されているものの,力強さを欠く状況にある.国内鉄鋼需要産業では,住宅,四輪車,半導体製造装置などの生産量の増加は見られたものの,水準は依然低調である.2024年度の日本の国内粗鋼生産量は8,295万トンで,前年度比4.5%の減少となった.2024年度の鉄鋼生産概況は以下である.
・銑鉄生産は6,045.2万トンと前年比3.7%減,3年連続の減少であった.
・粗鋼生産は8,295.0万トンと前年比4.5%減,3年連続の減少であった.
・炉別生産では,転炉鋼が6,136.8万トン(前年比3.9%減),電炉鋼が2,158.2万トン(同6.1%減)であった.
・鋼種別にみると,普通鋼が5,793.0万トン(前年比5.1%減),特殊鋼は1,523.7万トン(同3.9%減)で,前年比では普通鋼,特殊鋼ともに3年連続の減少であった.
以上の3年間の減少の理由は建設や自動車向け需要の低迷などが挙げられる.

図1 過去10年間の粗鋼生産量の推移
図1に過去10年間の粗鋼生産量の推移を示すが,2015年度に1億2000万トンあった生産量は減少してゆき,コロナの2020年度は8000万トンまでに低下した.2021年度はやや持ち直したが,その後の3年間は8700-8300万トン程度へと推移している.
各社の生産概況を述べる.
日本製鉄は,粗鋼生産量は3349億トン(前年比100万トン減)で売上高が前年度微減の8兆6955億円,経常利益は7937億円であった.JFEホールディングスは,粗鋼生産量は2240万トン(前年比200万トン減)で売上高が前年比やや減の4兆8560億円,当期利益も減少し1353億円となった.神戸製鋼所は粗鋼生産量600万トンで売上高は2兆5431億円,経常利益1609億円と前年度の好調を維持した.特殊鋼では,大同特殊鋼が売上高5749億円,経常利益450億円,山陽特殊製鋼売上高3538億円,経常利益122億円,愛知製鋼が売上高2965億円,営業利益120億円とつづいた.
なお,日本製鉄は,最大の高級鋼需要国の米国市場において,2023年12月8日,米国子会社である NIPPON STEEL NORTH AMERICA, INC.を通じ,2024年4月に開催されたUSスチールの臨時株主総会での合併の承認を得た.日本の新聞テレビはトップニュースで伝えた.U. S. Steel労働組合の反対やアメリカ大統領選での駆け引きに利用され,CFIUS(対米外国投資委員会)の審 査を経て,2025年1月にバイデン前大統領が本合併を阻止する禁止命令を下した.これに対し,日本製鉄は当該禁止命令の無効化及びCFIUS の再審査を求めて訴訟を提起している.米国の鉄鋼業にとって今後の展開・発展を見いだすものである.トランプ大統領の理解を得て,合併は成功することを期待したい.
世界の鉄鋼生産に関して,図2に粗鋼生産量の10年間の推移をまとめる.2024年の世界全体の粗鋼生産量の合計は18億8,260万トンとなり,2023年の18億8,820万トンから0.8%と微減であった.第1位の中国が10億510万トンで,2023年比で1.7%減であった.第2位のインドは2023年比6.3%増の1億4,960万トンとなった.第3位が日本で,2023年比4.5%減の8,295万トンである.そのあと米国7,950万トン,ロシア7,070万トン,韓国6,350万トン,ドイツ3,720万トン,トルコ3,690万トンと続く.この中で順調な伸びを示したのはインドである.粗鋼生産量1位の中国は全世界生産量の50%を占めている.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままである.

図2 世界の粗鋼生産量の推移
b.新設備(2)
神戸製鋼所は,加古川製鉄所厚板工場の仕上げ圧延機を50年ぶりに新規更新した.2024年1月より営業運転を再開している.主機モーターの更新に加えて,圧延機の剛性向上等の機能を拡充することで,安定した品質・納期の製品供給体制の強化はもとより,高機能厚鋼板,製造技術の開発を図るものである.特に,圧延機の剛性が業界トップとなったことで,高い競争力が期待されている.
電気自動車の駆動モーターに不可欠な高級無方向性電磁鋼板の生産能力の増強が顕著である.日本製鉄は,瀬戸内製鉄所広畑地区および阪神地区(堺)と九州製鉄所八幡地区へ約 2,130億円を投資し設備増強を図っている.JFEスチールは,西日本製鉄所(倉敷地区)の電磁鋼板製造設備の能力増強を図り,2024年9月より生産を開始した.この設備稼働により高級無方向性電磁鋼板の製造能力は従来比2倍となった.
2024年末時点の国内稼働高炉数は2023年末と同じ20基であり,そのうち内容積5,000m3以上の高炉数は13基である.
c.研究
カーボンニュートラル実現のための公的資金を利用した大型の研究プロジェクトが進行している.NEDO「グリーンイノベーション基金事業鉄鋼が継続中である.以下,その目的を抜粋する(https://green-innovation.nedo.go.jp/about/).
2020年10月,我が国は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し,2050年までに,温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げました.この目標は,従来の政府方針を大幅に前倒すものであり,並大抵の努力で実現できるものではありません.エネルギー・産業部門の構造転換や,大胆な投資によるイノベーションといった現行の取組を大幅に加速することが必要です.このため,グリーンイノベーション基金事業(以下「基金事業」という.)により,NEDOに2兆円※(2021年3月時点)の基金を造成し,官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で,これに経営課題として取り組む企業等に対して,最長10年間,研究開発・実証から社会実装までを継続して支援します.令和4年度第2次補正予算により3,000億円,令和5年度当初予算により4,564億円が積み増しされ,総額2兆7,564億円となりました(2024年11月現在).
鉄鋼関係のプロジェクトを以下に列記する.
1)グリーンイノベーション基金事業「製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト(2021~2030年度)」が進められている.本プロジェクトの研究開発項目の一つである「水素だけで低品位の鉄鉱石を還元する直接水素還元技術の開発」の新たなテーマとして,「直接還元鉄を活用した電気溶融炉による高効率溶解等技術開発」を行っている.2030年までにCO2排出量を50%以上削減する技術の開発を目指すものである.https://green-innovation.nedo.go.jp/project/utilization-hydrogen-steelmaking/
2)「グリーンイノベーション基金事業/次世代蓄 電池・次世代モーターの開発」(2022~2030年度)」.①蓄電池やモーターシステムの性能向上・コスト低減,②材料レベルからの高性能化,省資源化,③高度なリサイクル技術の実用化に向け,技術的な課題の解決を図ることで,将来的な自動車の電動化を支える基盤技術や蓄電池・モーターの産業競争力の強化,サプライチェーン・バリューチェーンの強靱化を目指している.(https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-storage-batteries-motors/).
その他EDO事業として,
3)「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)研究開発・実証関連事業(2018~2026年度)」が継続中である.CCUSとは,CO2(Carbon dioxide)を回収(Capture)し,貯留(Storage)する技術で,CO2を地中に閉じ込めることで,CO2を削減するための一連の技術のことである.この事業では,2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の2050年カーボンニュートラルを目指し,できるだけ早期のCCS導入に向けて,CO2貯留技術の研究開発,並びにCO2有効利用などに関連する技術の調査を行うものである.「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を踏まえ,分離・回収したCO2の貯留地や有効利用先への輸送にも取り組むことで,CO2の分離・回収から輸送,貯留,有効利用の技術開発を一体的に進め,CCUS技術の早期の確立及び実用化を狙っている.https://www.nedo.go.jp/koubo/EV3_100280.html
4)「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発(2016~2026年度)」が継続中である.大幅なCO2の排出削減に寄与するCO2フリー燃料(バイオマス,アンモニア等)を用いた発電技術,再生可能エネルギーの大量導入時の系統安定化のための負荷変動対応発電技術等,革新的な次世代火力発電技術に取り組んでいる.また,排出されるCO2を低コストで分離・回収する技術,そのCO2を資源としたカーボンリサイクル技術開発を推進している.これらの技術開発により,カーボンニュートラル社会の実現を目指している.https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100115.html
5)競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業(2023~2027年度)」がまった.水素サプライチェーン構築に際して,安定的で安価な水素の供給基盤を確保するため,水素を製造・貯蔵・輸送・利用するための設備や機器,システム等(貯蔵タンク,充填ホース,計量システム等)の更なる高度化・低コスト化・多様化につながる技術開発等を行うとともに,規制改革実施計画等に基づき,規制の整備や合理化,国際標準化のために必要な研究開発等を行う.https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100259.html
6)「重希土フリー 磁石の高耐熱・高磁力化技術(2024~2027年度)」.
7)「CCVD技術によるCO2からの炭素材製造技術開発事業(2024~2026年度)」.
などがある.
d.新技術・製品
1)Cyber Physical Systems の開発,JFEスチール
DX推進の一貫として,製造プロセスのCyber Physical Systems(CPS)の実行をクラウド領域で一元的に行うことができるプラットフォーム『J-DNexus™』を構築し,運用を開始した.これは,製造プロセスの仮想モデル(Cyber)と,現実のプロセス(Physical)のリアルタイム融合化技術であり,異常予知・完全自動運転・仮想実験などにより,革新的な生産性向上と安定生産が可能になるものである.
2)鉄製自動車部品一体化技術の開発,日本製鉄
複数の部品を一体成形することで,部品点数の削減に基づいた,製造コストの低減,省力化,CO2排出量削減を可能とした.例えば,先進ハイテンである1.0, 1.5,2.0 GPa級ホットスタンプ鋼板,レーザ溶接・スポット溶接による テーラードブランク,高度な成形技術を駆使して9部品を1つのモジュールとして一体化することに成功した.
3)ギガキャストに対応する大型でも割れにくい金型用鋼「DHA™-GIGA」,大同特殊鋼
自動車軽量化や部品点数削減の施策のひとつとして,車体骨格部品をアルミニウム合金で一体鋳造する「ギガキャスト工法」の活用が進んでいる.製造設備は型締力が6000トンを超えるような超大型ダイカストマシンのため,金型も超大型サイズとなる.従来の金型用鋼では鋳造中の金型損傷が課題となっていた.大同特殊鋼は,ギガキャストに対応する超大型ダイカスト金型用鋼「DHA™-GIGA」を開発した.焼入性の向上により,大型の金型でも表層から中心部にかけて微細で良好な金属組織を得られ,高い靭性を確保できるため,鋳造使用中の割れが抑制できる.
4)MIDREX™プロセス,神戸製鋼所
還元鉄を高炉に装入することで,CO2排出量を削減するMIDREX™プロセスであるMIDREX H2™プロセスが,Blastr Green Steel社の主要プロセスとして採用された.
5)水素サプライチェーン,JFEスチール
2024年7月,JFEホールディングス,JFEスチールと日本水素エネルギーは,日本水素エネルギーが実施する「液化水素サプライチェーンの商用化実証」を目的に,Jスチール東日本製鉄所(京浜地区)扇島の土地(約21ha)を賃貸借することで合意した.
まとめ
2024年度もCN(カーボンニュートラル),DX(デジタルトランスフォーメーション),GX(グリーントランスフォーメーション)の推進が各社共通の課題となった.素材として鉄鋼材料はCNの中核である.水素活用プロジェクトとともに注目してゆきたい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
6.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム
アルミニウム産業7団体(※)から構成されるアルミニウム調査会によると,2024年度のアルミニウム板類・押出類の生産量は板類が3年ぶりに前年度比0.7%とプラスに転じた一方,押出類が前年度比-2.4%となり,合計では約1,673千トンで前年度比-0.5%と3年連続のマイナスとなった.また,箔についても前年度に比べて生産量が減少する見込みである(1).缶材は前年度比微増し,電気機械,一般機械などは堅調に推移した一方,自動車材の認証不正問題や生産トラブルを背景にした自動車材の不調や,住宅着工戸数の低迷による建材不振が影響した結果,総需要見込みは3,644千トンと前年度比2.2%減と3年連続のマイナスの見込みとなった(2).
近年の世界的な資源循環活用の流れを受け,2024年も非鉄金属材料のサプライチェーンの追跡や環境負荷の定量化などといった環境配慮型機械材料の展開を意識した報道発表や開発・研究が進んだ.研究分野に関しては第31回機械材料・材料加工技術講演会 (M&P2024)(3)やThe 14th Asia-Pacific Conference on Fracture and Strength(APCFS2024)(2024年の材料力学カンファレンス(M&M)はAPCFS2024の枠組の中で実施された)(4),日本金属学会講演大会(5)(6),軽金属学会講演大会(7)(8)等の様々な学会で数多くのアルミニウムに関する講演発表がなされた.また,アルミニウムに特化した国際会議「第19回アルミニウム合金国際会議(ICAA19)」(9)が米国アトランタにて開催された.対象分野は溶解鋳造,力学特性,リサイクル,組織制御,計算科学,粉末冶金,発泡・複合材料,溶接・接合,腐食・防食,水素脆化,積層造型技術,機械学習やAIを活用した特性予測など多岐に渡った.更に2024年はアルマイト発明から100年となる節目の年でもあり,表面処理技術に関する講演発表等も多数行われた.
※アルミ缶リサイクル協会,軽金属製品協会,日本アルミニウム合金協会,日本サッシ協会,日本ダイカスト協会,日本電線工業会,日本アルミニウム協会
b.マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2024年(年度ではないことに注意されたい)の国内マグネシウム需要量は,自動車分野の回復の遅れ等に起因したここ数年の需要減少が止まり,構造材向けが前年度比6.3%像,添加剤向けが同1.0%減,防食その他向けは増減なしで,全体では前年比0.4%の30,130トンとなり,2022,2023年のマイナス値からプラスに転じた(10).添加剤向けの需要減はチタン精錬部門の需要が前年度から25.0%減となった影響が大きい.
研究分野では,M&P2024ならびにAPCFS2024,日本金属学会講演大会,軽金属学会講演大会等の学会で,力学特性,組織制御,溶解・鋳造,塑性加工等の他,高熱伝導特性,生体材料,マグネシウム二次電池向け負極用材料,加水分解性など機能性に着目した研究発表も行われた.
c.銅
日本伸銅協会によると,2024年度の総生産量見込みは約640千トンで,年度始めの見通しよりも低下したものの,前年度から0.2%増となった(11).
研究分野では,日本銅協会2024年第64回講演大会(12)をはじめ,M&P2024ならびにAPCFS2024,日本金属学会講演大会等の学会で,鉛フリー銅合金技術,力学特性,組織制御,接合,めっき,腐食・防食,塑性加工,伝熱,トライボロジー,溶解鋳造,環境・評価技術など,多くの講演が行われた.
d.チタン
財務省の貿易統計によると,スポンジチタンを主にする「チタン塊・粉」の2024年(年度ではないことに注意されたい)輸出量は前年比1.4%減の36,200トンと,2023年までのプラス水準から反転する結果となった.
研究分野では,第4回日本チタン学会講演大会(13)をはじめ,M&P2024ならびにAPCFS2024,日本金属学会講演大会(日本鉄鋼協会との共同セッションを含む),軽金属学会講演大会等で力学特性,組織制御,接合,塑性加工,積層造型技術,生体材料,低コスト化など多くの講演が行われた.
〔鈴木 真由美 富山県立大学〕
6.1.3 無機材料
a.生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査速報値(1)によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2018年に3.2兆円となって3兆円を超え,2019年,2020年に3.1兆円へと減少した.2021年度以降は持ち直し,これまで連続して3兆円を超え,2024年度は3.8兆円と見込まれている.1990年代と比べても生産額は倍増加しており,セラミックスが各種産業で当たり前のように利用されていると言えよう.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「熱的・半導体関連」部材,「機械的」部材と続きそれぞれ全生産額の1割となっている.特に2024年度の見込みを見ると,熱的・半導体関連」部材は130%ほどと大きく生産額を伸ばしている.昨今の半導体製造産業の勢いを反映する形になっている.
b.研究
2024年9月に開催された日本機械学会年次大会は,愛媛大学での開催となった.本大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画運営され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで8件の講演があった.M&P最先端など,その他のセッションでもセラミックス関連講演が散見された.また,2024年12月にはASMP2024がインド工科大学マドラス校で開催され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで21件の講演があった.講演内容としては,構造用セラミックスやセラミックス複合材料(CMCs)の機械的特性や破壊力学,ハイエントロピセラミックス,コロージョン/エロージョンなど,多岐にわたっていた.その他のセッションでも,力学的特性やコーティング技術など,15件ほどの講演が散見された.
近年,構造用セラミックスは産業界に一定量利用されるようになり,上述のように生産額も顕著に増加している.これまでの構造用セラミックスの特性向上や生産性改善,品質保証技術なども非常に重要なテーマになっている.その一方,SiC/SiC複合材料や自己治癒セラミックス,ハイエントロピーセラミックス,MAX相セラミックスなどという最先端分野も盛んに研究されている.新しい熱源として水素燃焼やアンモニア燃焼などが検討される中で,耐熱セラミックスや耐火物などもその対応に迫られ,種々の検討が進められている.一方,環境問題や資源枯渇の観点から,セラミックスや耐火物でもリサイクル材料の利用やサーキュラーエコノミー化が検討され,ライフサイクルアセスメント(LCA)を含め,これまでとは異なる研究開発が必要とされる.従来の機械工学や材料工学ではない知見が今後一層重要になっている.また,材料開発に盛んに人工知能や機械学習が広く活用されるようになっている.これらの分野は,近年,マテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれ,実験による検証が難しい分野や材料組成の最適化,特性予想に基づく材料設計などで多くの成果が上がられている.この分野の今後の進展は波及効果も大きく,極めて重要であるといえよう.
〔南口 誠 長岡技術科学大学〕
6.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料(1)
2024年における我が国のプラスチック原材料の生産実績は前年比5.6%減の840万tである.過去20年間で最も低い値となった.熱硬化性樹脂全体の生産量は74.1万t(3.7%減)である.主な内容は,フェノール樹脂(23.2万t(2.0%減)),ユリア樹脂(4.1万t(5.9%減)),メラミン樹脂(6.2万t(4.5%減)),不飽和ポリエステル樹脂(8.8万t(13.2%減)),エポキシ樹脂(9.7万t(2.1%増)である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は746万tで2023年比5.8%減となった.主な内容は,ポリエチレン(194万t(5.5%減)),ポリスチレン(90.2万t(2.2%減)),ABS樹脂(29.2万t(8.6%増)),ポリプロピレン(193万t(7.3%減)),メタクリル樹脂(12.4万t(5.2%増)),ポリビニルアルコール(15.0万t(12.4%減)),塩化ビニル樹脂(146万t(5.7%減)),ポリカーボネート(21万t(11.8%減)),ポリエチレンテレフタレート(29.8万t(7.9%増)),ポリブチレンテレフタレート(9.5万t(6.8%減))などとなっている.
b.炭素繊維生産(2)
2023年の炭素繊維出荷量は前年比26.6%減の18,249トンと大幅に減少した.分野別でみると国内は航空宇宙用がコロナ前の水準には及ばないものの90.6%増加した.産業用が10.8%減,スポーツ用が24.2%減となった.輸出はコロナ禍で不振であった航空宇宙用が34.7%増と2年連続で増加した.一方,産業用が38.7%減,スポーツ用が21.6%減となった.
c.複合材料研究
国内で開催された複合材料に関わる行事について,新型コロナウィルス感染症の影響から脱却し,対面式での講演会が行われた.国内で代表的な複合材料研究に関する学会は日本複合材料会議が挙げられる.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.2025年2月には第16回日本複合材料会議(JCCM-16,日本複合材料学会,日本材料学会主催)が東京農工大学で開催された.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.また,歴史ある国内会議として,2024年9月に第49回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催)が豊橋商工会議所で,2024年10月に69回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX,強化プラスチック協会主催)が大阪科学技術センターで開催された.国際会議について,2024年7月に複合材料関係の会議としてはヨーロッパ最大の欧州複合材会議(ECCM-21)がフランス,ナントで,2024年8月にアジア最大のアジア・オセアニア複合材料会議(ACCM-13)が同志社大学で開催された.いずれも世界中から多くの研究者,技術者が集い活発な意見交換がなされた.2025年には7月に北海道大学で複合材料の疲労に関する国際会議(ICFC-10),11月に機械材料・材料加工部門が主催する国際会議(ICM&P2025)がグアムで開催予定である.
〔細井 厚志 早稲田大学〕
6.2 材料加工
6.2.1 鋳造
生産量において,2024年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は451万tであり,総生産量485tの2023年度に比較して93%と減少した.銑鉄鋳物(調査対象事業所30人以上)は287万t(前年度比93%)と減少した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が205万t(前年度比94%),産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は70万t前年度比93%)と一般・電気機械用の減産が目立つ.鋳鉄管は17万t(前年度比89%)と減少した.可鍛鋳鉄(調査対象事業所30人以上)は2.7万t(前年度比94%)と減少した.鋳鋼品(調査対象全事業所)は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計11万t(前年度比87%)と減少した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物(調査対象事業所10人以上)が5.7万t(前年度比100.1%)で横ばい状態であった.アルミニウム鋳物(調査対象事業所20人以上)は36.4万t(前年度比93%),ダイカスト(調査対象事業所30人以上)は91万t(前年度比94%)と減少し,一般機械と2輪自動車の減産(前年度比93%)が大きい.精密鋳造品(調査対象事業所30人以上)は4,070t(前年度比96.7%)で減少した.2024年の鋳物の総生産金額は,2兆053億円(前年度比96%)と減少した.個別の生産額は,銑鉄鋳物は7,275億円(前年度比93%),鋳鉄管615億円(前年度比98%),可鍛鋳鉄は132億円(前年度比103%),鋳鋼は915億円(前年度比87%),銅合金は1,065億円(前年度比107%),アルミニウム鋳物は2,867億円(前年度比96%),ダイカストは6,935億円(前年度比97%)であった(1).銅合金以外の鋳造品の生産量は減少した.銅合金の生産額の上昇は,銅価格が上昇基調にあり,銅鋳物単価が2023年1月期の2.03に千円/kgから2024年10月期には2.47千円/kgとなっている(2).
鋳造業界の温室効果ガスの排出量の削減のため,カーボンニュートラルの観点から鋳造技術の開発が進められている.省エネ施策の一環として,鋳物工場における2023年度エネルギー使用量やCO2排出量の調査結果が日本鋳造協会から鋳鉄・鋳鋼編と軽合金・銅合金編が報告された(3)-(4).
材料リサイクルに向けたアルミニウム合金鋳物の諸特性に及ぼす微量不純物の影響(5),キュポラのカーボンニュートラル(6)-(7),精密鋳造材料における鋳造技術ならびに評価法の開発(8),生砂型特性の把握と管理技術(9),鋳造CAEのバリデーション(10)に関する研究会が組織され,鋳造工学会のオーガナイズドセッションで研究報告がなされている.
〔長船 康裕 室蘭工業大学〕
6.2.2 塑性加工
加工工程の省エネルギ化・最適化,部材の高比強度化を題材にカーボンニュートラルを掲げた研究・技術開発が増加した.加工状況のモニタリング・センシングによる異常現象の検知・予知や人工知能(AI)・機械学習の活用による加工の最適化・自動化・予知に対して,産官学いずれからも高い関心が寄せられた.一方,各種塑性加工技術の基盤である塑性変形特性,トライボロジー特性,そして工法に関する基礎的研究から実製造プロセスにおける実践的技術開発まで幅広く産官学で取り組まれた.
圧延分野では,鉄鋼では熱間,冷間問わず,高張力鋼をはじめとする高強度鋼を対象とした形状・組織制御,潤滑,荷重・変形理論モデルに関する研究報告が多数を占めた.またカーボンニュートラルに主眼を置いた省エネルギ化に関する研究報告が産業界からいくつかあった.アルミニウム合金等の非鉄金属を対象とした研究報告が少なく,材質(組織)や機械的特性の変化に関する報告に留まった.押出し分野では,アルミニウム合金の熱間押出しを対象に,潤滑,金型表面処理,押出し材の材質や機械的特性に関する研究報告が多数を占めた.
鍛造分野では,国内外問わず,材料,工法(薄肉化,中空構造化)の観点から部材の高強度化に主眼を置いた研究・開発,および自動車の電動化に対応する鍛造品(モータ・バッテリー部品,駆動系部品)を対象とした技術開発が活発であった.また金型に取り付けた各種センサからの信号と金型の状態との関係をAI・機械学習により分析し,金型異常の自動検知システムの開発や金型寿命の予測手法の研究が産業界を中心に取り組まれた.同じく産業界からは,カーボンニュートラルに対する取り組み事例やそれらの効果についていくつか報告があった.
板材成形分野(プレス成形,せん断,インクリメンタル成形等)では,国内外問わず,有限要素解析の高精度化に主眼を置いて,高張力鋼,アルミニウム合金等の難成形性材料の変形特性の測定と数式モデル化に関する研究報告が多数を占めた.特に結晶塑性有限要素法やAI・機械学習を活用したものが精力的に研究報告された.他にはCFRP等の複合材料の変形特性や成形法に関する報告,板材成形における微視的・巨視的な塑性現象の塑性理論に関する報告も多数あった.
塑性接合分野では,鋼とアルミニウム,銅とアルミニウム,金属とCFRPの組み合わせを中心とした異種材料の固相接合に関する研究・開発が,国内外問わず,活発であった.圧接,メカニカルクリンチング,摩擦攪拌接合を中心に,鍛造,押出し,圧延を応用した接合法も多く取り組まれた.
第31回機械材料・材料加工技術講演会(M&P 2024)では塑性加工・変形に関するオーガナイズドセッションが設けられ,さまざまな塑性加工における変形挙動に関する加工実験,有限要素解析,機械学習の講演発表がなされた.その他のセッションにおいても塑性加工・変形を応用した講演発表が多数あった.2024年度塑性加工春季講演会(1)ではプレス成形,押出し加工,圧延加工,引抜き加工,粉体加工成形,材料モデルに関するテーマセッション,第75回塑性加工連合講演会(2)では鍛造,レーザ加工,ポーラス材料,塑性加工シミュレーション,結晶塑性シミュレーション,塑性論に関するテーマセッションが設けられた.国際会議では国際生産工学アカデミー(CIRP)第73回総会が2024年8月にギリシャにて開催され,塑性加工部門では11件(7ヶ国.日本からは3件)の講演発表があり,加えて塑性加工におけるAI技術に関するキーノート講演が行われた.
〔松本 良 大阪大学〕
6.2.3 プラスチック加工
高品質なプラスチック成形品を効率よく生産するためには,射出成形機本体だけでなく,周辺機器を含めた総合的な品質管理や生産管理が求められる.この背景を受け,デジタル技術を活用した知識集約型の経済社会構造(Society 5.0)への転換が進められており,インダストリー4.0と呼ばれる製造手法が広く採用されている.射出成形分野においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され,成形条件と実際のデータを比較することで射出成形機の挙動を監視し,不良の検出や成形条件の最適化を支援する技術が期待されている.また,金型内の樹脂状態をセンシングし,不具合を検知・制御する技術も開発されている.さらに,ベント式射出成形における樹脂挙動の評価は,スマート生産の実現に向けた重要な試みといえる.今後も,ニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速すると予想される.
プラスチックの高付加価値化において,押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.押出成形に関しては,高混練,高精度,省エネルギー化の要求が高まり,多軸化,高トルク対応,高速回転,スクリュー深溝化が進んでいる.また,CAE(Computer Aided Engineering)を活用したスクリューの混合性能評価や,プロセスインフォマティクスに関連する技術開発が進み,高機能化とプロセス合理化が両立されつつある.SDGsを見据えた研究も進み,リサイクル材を活用したブレーカープレートの開発や,高度な異物除去と粘度均一化を実現する造粒機の研究が進められている.今後も,スマート生産性を向上させる研究開発が継続すると考えられる.
ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,ガソリンタンクなどの自動車部品に適用されている.近年,製造工程へのアプローチとして,機械学習や統計的手法を用いたデータ駆動型の予測モデルの適用が進んでいる.インフレーション成形においては,空気圧アクチュエータによるフィルム膜厚の均一化や,サーボポンプの採用・電動化によるポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形における省エネルギー化,ハイサイクル化,低コスト化が進展している.
地球環境改善を目的とした自動車の脱炭素化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料の採用が進んでいる.繊維の配向制御,連続成形技術の開発,成形プロセスの最適化,界面密着性の評価,物性予測技術の開発が継続して行われている.一方,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形技術の報告も増え,他の繊維を活用した三次元造形の研究も進められている.さらに,天然繊維や木粉に加え,セルロースナノファイバーによる機械的特性の向上やバイオマス比率の向上,植物由来のバイオプラスチックや生分解性プラスチックを用いた複合材料の研究開発が活発化している.
また,自動車産業をはじめとする様々な分野で部品の軽量化が重要視され,金属やセラミックスから高分子材料への移行,異種材料を組み合わせたマルチマテリアル化が進められている.この異種材料複合化においては,物理処理や化学処理による機械的接合技術,接着剤の研究が進み,自動車部品などへの実用化が期待される.
2024年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系廃プラスチックのリサイクルでは,プラスチック容器包装と分別収集物を合わせた回収量は約66万トンで,ここ数年ほぼ一定の水準を維持している.落札量の内訳は,材料リサイクル(プラスチックパレット等への再加工)が約57%,コークス炉化学原料化が約32%,ガス化が約8%,高炉還元剤としての利用が約3%である.これらの手法はCO2排出削減やバージンプラスチック使用量の削減に貢献している.
近年,資源の経済価値を維持しつつ効率的に活用する「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換が,特に欧州を中心に進められている.また,プラスチックごみによる海洋汚染の深刻化や,中国による廃棄物輸入規制強化を背景に,国際的な資源循環の枠組みが変化している.これを受け,日本政府は2020年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し,関係省庁は「プラスチック資源循環戦略」を策定,さらに2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」を施行した.
一方,繊維強化プラスチックの廃棄問題も深刻化している.コークス炉化学原料化や高炉還元剤としての利用では多量の残渣が発生し,日本の埋立地には限りがある.容器包装材に関しては,事業者側で開梱後に高精度の選別が行われるが,未利用廃材の多くが焼却処分されており,実際の材料リサイクル率は統計上の比率より低い可能性がある.このように,プラスチックを取り巻く社会環境は劇的に変化しており,研究者はこれらの現実を真摯に受け止め,持続可能な技術開発を進めることが求められている.
〔高山 哲生 山形大学〕
6.2.4 溶接,接合
溶接学会の全国大会より,溶接・接合の日本国内での研究動向を総括する(1),(2).2024年度の春季全国大会および秋季全国大会の講演総数は294件であった.溶接プロセスに関して,溶融溶接ではTIG溶接やMIG溶接などのアーク溶接,抵抗スポット溶接,レーザ溶接など,固相接合では摩擦攪拌接合(FSW),摩擦攪拌点接合(FSSW),摩擦圧接・線形摩擦接合などに関する研究発表があり,中でもFSWおよびFSSWについては,異種金属のほか,金属と樹脂・複合材の異材接合,プロセスモニタリングやシミュレーションなど,新技術開発に関する多くの発表があった.ほかに,ろう接合や接着接合に関する研究発表もあった.実際の製品,構造物では強度特性および強度信頼性が重要となる.そのため,溶接割れ,疲労,破壊など強度・力学特性と,それらに影響を及ぼす残留応力や溶接変形,そしてその測定・評価法や予測法に関する実験的・解析的な研究報告があった.また,異材接合に関して,プロセスとしては上記の摩擦攪拌接合のほか抵抗スポット溶接やろう接合など,材料としては金属,樹脂・複合材,セラミックスに関しても報告があった.春季全国大会では,シンポジウム「ゼロカーボン発電を支える溶接・接合技術」,フォーラム「ステンレス鋼溶接のイノベーションとクリーンエネルギーへの貢献」が,秋季全国大会ではワークショップ「北海道GXにおける接合技術の役割と期待」が開催され,溶接・接合の分野でも持続可能社会の実現へ向けた取り組みが活発に進められていることがわかる.他には,金属積層造形に関して,秋季全国大会で「AMへの新規な取組み」,「レーザAM」,「AMシミュレーション」といったセッションが企画され,プロセス,材料組織,機械的性質,熱処理,シミュレーションなどに関する幅広い研究発表が行われていたことに加え,春季全国大会では,溶接連合講演会「入門:金属3Dプリンター技術 ― AMを始める人に向けて ― 」も開催されており,この分野の研究がますます活発になっていることがわかる.また,機械学習やAI,デジタルツインなどの情報工学と融合した,溶接プロセスや残留応力などに関する研究,数値解析・シミュレーション,モニタリングやセンシングなどデジタル技術を活用した研究も進められている.また,デジタル技術を応用した溶接技術者の教育や技能伝承に関する検討も行われており,溶接・接合関係の人材不足が重要な課題であることがうかがえる.
日本機械学会機械材料・材料加工部門講演会(3)で,溶接・接合に関連しては「界面,接合,接着の力学とそのプロセスおよび信頼性評価」が材料力学部門との合同セッションとして企画され,「材料・プロセス」と「力学・評価」の技術者・研究者が一堂に会し,溶接,接着,機械締結のプロセスと接合部の強度信頼性に関する実験的および解析的な研究に関する計19件の講演発表が行われ,活発な議論と情報交換の場となった.また他にも溶接・接合関連としては「摩擦応用加工」や「表面改質およびコーティング」などのセッション,複合材や3Dプリンタ関係の講演発表が行われていた.日本機械学会関連では,ほかに2024年度年次大会で,プロセスと力学・強度の両者に関する「異種材料の界面強度評価と接合技術」と題したオーガナイズドセッションが企画され,9件の講演発表,10件のポスター発表があった(4).また,機械材料・材料加工部門が共同で開催した7th Asian Symposium on Materials and Processing(ASMP2024)では” Surface Engineering, Thin Films and Coatings – Adhesion and Interface, Welding and Bonding”と題したセッションが企画されたほか(5),材料力学部門が主催したAsia-Pacific Conference on Fracture and Strength 2024(APCFS2024/M&M2024)でも接合材や溶接材の破壊・疲労に関する講演発表が行われていた(6).
以上に述べた溶接・接合に関する動向では,金属積層造形のような新しいプロセスの開発や異材接合に関する研究・実用化が進められていることがわかる.他方,溶接・接合部の強度信頼性,溶接欠陥や残留応力の評価・予測も重要であり,モニタリングやセンシング,シミュレーション,AI,機械学習,デジタルツインなど,情報工学やデジタル技術と融合した技術開発が,技術者教育や技術伝承といった観点からも,今後さらに進められると考えられる.
海外の動向として,2024年に発刊されたIIW(International Institute of Welding)のジャーナル”Welding in the World(Volume 68,Issue 1-12)”に掲載されたResearch Paperは216件であった(7).日本国内と同様,異材接合,摩擦攪拌接合,シミュレーション・数値解析,継手強度・疲労などに関する研究が進んでいることが読み取れる.また,Additive Manufacturing関係の論文は20件で全体の9%であった.同分野の論文に関しては,2022年が8%,2023年が18%であったことから(8),(9),近年,世界的にもこの分野の研究・技術開発が活発に進められていることがわかる.
〔宮下 幸雄 長岡技術科学大学〕
6.2.5 粉末加工
粉末加工に関する日本国内の研究・開発動向は,粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演状況にて確認できる.2024年度春季大会および秋季大会において,合計306件の講演発表,約720名の参加があった(1)(2).春季大会では8つの講演特集が組まれ,「多種粉末を用いた焼結技術や焼結機構」では,最も発表数と聴講者数が多かった.固相焼結や液相焼結,パルス通電焼結に関するプロセス技術や焼結体特性評価,レーザやBJTによる3次元粉末積層造形条件の最適化や造形体の特性評価に関する取り組みが多岐にわたって報告された.また,イオン伝導性材料,硬質材料,金属ガラス・ナノ結晶材料,磁性材料,傾斜機能材料に関する研究が報告された.秋季大会では,新しい負熱膨張材料の開発や熱膨張制御に関して企画特集が組まれて22件の講演があった.さらに,粉末積層3D造形に関わる材料および技術の最先端と題した講演特集は,最も聴講者数が多く高い関心が寄せられ,粉末特性評価,種々のプロセス技術開発,積層造形材の軽量化と高機能化などに関する研究報告があった.
国際会議は12年ぶりに日本でWORLD PM2024(横浜)が2024年10月に開催された.322件の研究発表と98社138ブースの展示があり,800名超の参加があった.カーボンニュートラルやリサイクルなどSDGsに関連した研究・技術開発の報告が盛況であった.アトマイジング法による金属粒子合成や粉末流動性,熱間等方圧加圧(HIP)や超高速焼結技術,機能性材料,超硬合金,電池・熱電材料などの研究・技術開発事例が報告された.特にAdditive Manufacturing(AM)に関する講演が全体の20%あり,国内外を通してAM研究開発が継続的に活発であることが分かる.
日本粉末冶金工業会(3)の統計によると,2024年1月~10月の粉末冶金製品の累計生産重量は,前年同期比6.5%減であった.軸受や機械部品は低調な一方で,摩擦材料,電気接点や集電材料では増加傾向を示した.
〔梅田 純子 大阪大学〕
6.2.6 特殊加工
特殊加工分野の中でも,レーザ加工の世界の市場規模は2024年に約240億ドルに達し,2030年までに年平均成長率(CAGR)約10%での拡大が予測されている(1).この成長を支える主な要因は,自動車や航空機分野における需要に加え,高精度かつ低熱影響を特徴とするレーザ加工が,次世代半導体製造に適していることから,半導体業界が重要な需要源となっている点にある.特に,金属加工との親和性の高さ,優れたエネルギー効率とメンテナンス性,金属積層造形との適合性,さらに近年の高出力化の進展により,ファイバーレーザがレーザ加工機の主役となっており,今後も高い成長が見込まれている.
現在,ファイバーレーザを搭載したレーザ切断機の主流出力は10kW程度だが,建設機械や橋梁部品などの厚板加工,高強度鋼材の切断といった高負荷な加工ニーズに対応する高出力機の開発が加速している.たとえば,TRUMPFのTruLaserシリーズ(2024年モデル)は最大24kWに対応している(2).さらに,ファイバーレーザ発振器で大きなシェアをもつIPG Photonicsは最大40kWクラスの切断用ヘッドを発表し,50kW級にも言及されている(3).
ビーム制御技術においては,アマダが波長合波技術により,高いビーム品質を維持しながら26kW出力を実現したファイバーレーザ加工機をJIMTOF2024で発表した.また,自動車の電動化に伴い需要が拡大している純銅材の加工で注目される青色半導体レーザ光源では,島津製作所が6台のレーザ光源を独自のコンバイン技術で束ねた6kW青色半導体レーザ光源を開発し,それぞれのビームを独立制御することで,加工対象に応じたビーム形状の動的調整を可能とするオンデマンドプロファイル制御技術を実装した(4).
国家レベルでも,レーザ加工技術は日本の産業競争力を支える重要技術と位置づけられている.NEDOの経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)では,非線形光学現象により発生する特定波長のレーザ光を高出力領域で選択的に除去・低減可能なファイバ技術を活用し,従来にない高出力シングルモードファイバーレーザの開発に取り組む川崎重工のプロジェクトが,2024年から5年間・44億円規模で採択されている(5).
レーザそのものの高性能化に加え,レーザ加工機のシステム面の進化も顕著である.近年登場している加工機は,Industry 5.0やスマートファクトリーの潮流と連動し,工程の集約や自動化の進展とともに,生産性とコスト競争力の強化が図られている.たとえば,TRUMPFの3次元レーザ加工機TruLaser Cell 7040は,切断・溶接・表面処理を同一プラットフォーム上で切り替えながら実行でき,航空機・自動車分野での導入が進んでいる(6).また,三菱電機の二次元レーザ加工機GX-Fシリーズは,AIを搭載し,レーザ加工条件を自動調整する機能やノズルの状態を画像判定し自動交換する機能等を搭載し「とまらない加工機」を提唱している(7).学術分野でもレーザ加工におけるデジタルツイン技術やAIとの融合が進展しており,加工パラメータの最適化,プロセス予測,ビーム経路の自動計画などを扱う研究成果が報告されている(8)(9).
レーザ加工技術は,従来の加工技術を凌駕する高性能化・多機能化・自動化の進展により,産業界での存在感を一層強めている.国家プロジェクトによる研究支援,さらにはAIやデジタルツイン技術との連携が進む中で,今後も市場成長と技術革新の両面から,さらなる進化と応用展開が期待される.
〔青野 祐子 東京科学大学〕
6.3 評価
6.3.1 非破壊検査・ヘルスモニタリング
非破壊検査は,輸送機械やインフラ設備が整備された国では必要不可欠であり,その市場は年々拡大している.矢野経済研究所のレポートによれば,2024年の非破壊検査世界市場規模は約3.7兆円,日本市場規模は約0.24兆円に上るとされ,2030年にはそれぞれ,約5.5兆円,約0.28兆円に達すると予測されている(1).
本業界の成長に合わせて非破壊検査を担う人材を育成するため,2024年1月より千葉県市原テクノスクールで新たに非破壊検査科が始まった(2).これは日本で唯一の非破壊検査専門コースであり,浸透探傷試験や磁気探傷試験などの資格を取得するサポート体制が整っている.訓練修了後は,京葉臨海コンビナートにおけるプラント設備の点検業務などでの活躍が期待されている.
産業界に注目すると,2024年5月にブルーイノベーション株式会社が,超音波板厚計測機器を搭載したドローン「ELIOS3 UT検査ペイロード」の提供を開始した(3).これを用いれば,船体検査において,検査員のための足場を組み立てる必要がなくなり,検査時間を数千時間短縮できる.
また,2024年には,日本非破壊検査協会(JSNDI)と米国非破壊試験協会(ASNT)との相互承認制度が始まった.これは,日本のJIS Z 2305資格保持者が,それと対等な米国のASNT 9712資格を申請でき,逆にASNT 9712資格保持者はJIS Z 2305資格を申請できるという制度である.この認証申請は2024年11月1日から30日まで受け付けられた.なお,ASNTの資格者の活動は世界に広がっているため,この制度により,米国のみならず世界の多くの国との交流が促進されると期待される.
ヘルスモニタリングの研究動向を探るために,学術誌Structural Health Monitoringでキーワード検索を行った.”Machine learning”で検索すると,2022年は77本,2023年は117本,2024年は122本であった.また,”Deep learning”で検索すると,2022年は65本,2023年は110本,2024年は117本であった.このように,機械学習や深層学習に関連する研究は,2022年から2023年にかけて著しく増大し,2024年は2023年と同程度の水準を維持している.なお,この学術誌で2024年に出版された論文数は205本であるため,機械学習や深層学習を用いた研究が過半数を超えていることが分かる.この高い水準は次年以降も続くと考えられる.
学会の動向に関して特筆することは,2024年5月27日から31日にかけて,韓国の仁川で国際会議20th World Conference on Non-Destructive Testing(WCNDT)が開催されたことである.このWCNDTは4年毎に開催され数千人が参加する大規模なものであり,当初は2020年に予定されていた.しかし,コロナ禍のために数回延期され,ようやく2024年に開催が実現した.12の会議室で並行して行われた講演数は768に上り,ポスターは174件,企業の展示ブース数も211と盛況であった.世界各国から集まった研究者の交流によって,本業界のさらなる発展が促進されたと考えられる.一方,国内では,「第31回超音波による非破壊評価シンポジウム」(東京,2024年1月23日),「第24回アコースティック・エミッション総合カンファレンス」(佐賀,2024年9月26-27日),「第31回機械材料・材料加工技術講演会M&P2024」(富山,2024年11月1-3日)が開催された.さらに,2024年12月20日に日本非破壊検査協会が主催する「第2回NDE4.0シンポジウム」が東京都の亀戸センターで開催された.このシンポジウムは,デジタルデータの利活用で非破壊検査を改革するというスローガン(NDE4.0(4))に基づいて開催され,様々な大学・企業から計24件の講演があった.セッション名を見ると(5),「DX・効率化」「IoT・センシング」「機械学習・AI」など,現在急速に発展中の題材が並んでいる.
最後に授賞について述べる.2024年度の日本機械学会奨励賞(技術)が発表になり,「水素ステーション用Type2蓄圧器および非破壊検査法の開発」,「自動外観検査向け光学検査技術の開発」,「インフラ設備の保守性を向上する診断技術の開発」などが表彰された(6).
〔齋藤 理 追手門学院大学〕
6.3.2 強度・機能性評価
強度・機能性評価に関する研究・開発動向を把握するため,第31回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2024)における関連する話題を中心に取り上げる.
複合材料に関する強度評価の研究は,ナノ粒子や繊維の分散制御による力学特性の向上,および多成分・多層構成による相反性能の両立に焦点が当てられている.特に,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の疲労損傷メカニズム,マトリックス樹脂の延性向上,異種材料の複合化による多機能性設計などが活発に行われており,スケールをまたいだ物性評価・構造制御技術の融合が進んでいる.例えば,CFRP中のエポキシ樹脂の蓄積ひずみに着目し,疲労寿命予測式と蓄積ひずみ関数を用いてCFRPの疲労損傷解析によって疲労破壊挙動を予測する手法が検討されている(1).シリカとカーボンブラックの複合ナノ粒子をポリプロピレン(PP)に分散させることで,球晶構造の微細化による伸び性能および耐衝撃性の向上が報告されている(2).ポリ乳酸にエポキシ化大豆油と炭酸カルシウムを添加したナノコンポジットにおいて,可塑化と無機粒子の複合作用により破断ひずみが大幅に改善されることが示されている(3).Ni基超合金Alloy718を対象とし,積層造形後の再結晶組織とδ相析出挙動がクリープ破断寿命に及ぼす影響が明らかにされている(4).短繊維強化熱可塑性プラスチックにおけるノッチ付き衝撃強さと界面せん断強度の関係について,繊維長と配向が与える影響を系統的に評価する研究が行われている(5).
異種材料の接合体における強度評価では,接合部の構造・界面形成過程の詳細な観察および接合条件と力学特性の相関評価に注目が集まっている.熱可塑性CFRPと金属の接合,3Dプリンティングによる直接積層,超音波接合など多様な手法を用い,界面形態や微視的応力分布に基づいた信頼性評価の高度化が進められている.炭素繊維(CF)/PP複合材の角棒と積層板の超音波融着において,ホーン押し込み量やフィレット形成が接合強度に与える影響が検討されている(6).CF/ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とアルミニウム合金の接合に対し,レーザー処理による金属表面粗化と接合温度の変化が接合強度や界面破壊挙動に与える影響が報告されている(7).超音波接合による一方向CFRPとアルミ板の接合において,カーボンナノチューブ(CNT)添加によるエネルギーダイレクタの影響および加熱治具の有無が接合強度に与える影響が評価されている(8).熱可塑性CFRPを64チタン基板上に直接3Dプリントすることで得られた接合構造について,接着層の溶融条件と強度特性の関係が有限要素解析により検討されている(9).
近年の金属およびセラミックス材料における強度評価の研究は,微細構造制御による強度と延性の両立,複合材料の積層設計による異機能性の融合,および極限環境下での耐久性評価と界面設計といったキーワードで要約できる.ナノ結晶合金に代表される高強度材料の創製,金属・炭素材料の複合化による新規電極材料の開発,そして高温・水蒸気環境下でのセラミックス基複合材料(CMC)の酸化劣化挙動の解析など,多様な材料系において,それぞれの構造特性と力学応答の相関に関する定量的な知見が蓄積されつつある.Fe-Ni多層ナノ結晶合金における積層比と機械特性の関係について検討されており,Ni-rich層70%で最適な引張特性が得られることが報告されている(10).フェライト系耐熱鋼(SUH409L)では,低角粒界の分布制御が強度と延性の両立に有効であることが示されており,粒界工学手法の適用による強化設計が進められている(11).Al基三層複合材料に関しては,炭化ケイ素(SiC)粒子および炭素繊維を用いた層状構造が,熱伝導性を維持しつつ機械的強度と可塑性を高めることが報告されている(12).炭化ホウ素(B4C)粒子を分散したカーボンモノリスは,熱防御材(アブレータ)としての適用を想定し,B4C添加量と力学特性の関係について検討されており,粒子凝集がヤング率に及ぼす影響が評価されている(13).Cu系合金を多孔質炭素材料に含浸するプロセスが開発され,Cu-Zr系合金において含浸量増加によりヤング率と硬さが向上することが示されている(14).高温水蒸気環境下におけるSiC繊維およびSiC/SiC複合材料の酸化劣化挙動が明らかにされており,窒化ホウ素(BN)コートによる酸化抑制と強度低下の抑制効果が報告されている(15).La₂Zr₂O₇やSiAlONをマトリックスとする酸化物系CMCでは,繊維界面の炭素コーティング回数がヤング率に及ぼす影響が検討されており,繊維とマトリックスの接着性が力学特性を支配することが示唆されている(16).膜沸騰法によって作製されたSiC/SiC複合材料においては,界面近傍に微細なミルフィーユ構造が形成されており,層構造が破壊挙動に与える影響が評価されている(17).
近年の機能性評価に関する研究では,熱伝導・断熱特性の制御による熱マネジメント性能の向上,電気・機械応答を利用したスマート材料設計,および表面構造による生体適合性・抗菌性の付与といった多面的な材料機能の付与・最適化に注目が集まっている.特に,金属や樹脂系の基材に微細構造や機能性材料を組み合わせることで,エネルギー効率・快適性・安全性の向上が実現されつつある.また,積層造形技術や超音波接合技術などの先端加工法を応用した評価手法や,新たな機能性材料群(多元素酸化物,金属基圧電複合材,シリカエアロゲル,配向性BN複合体等)の応用が進展している.例えば,垂直衝突噴流下におけるラティス構造の熱伝達性能が評価され,トポロジー最適化により伝熱性能が最大化される設計手法が報告されている(18).シリカエアロゲル(SA)を用いた3Dプリント断熱構造において,支柱によるヒートブリッジ効果の影響を実験的に評価し,構造と断熱性のトレードオフに関する知見が示されている(19).アルミニウムと銅の異種材超音波接合過程における摩擦挙動と接合強度の関係が詳細に調査され,摩擦状態から接合遷移への力学的解析が行われている(20).銅粉末を超音波振動により低温・短時間で接合し,導電薄膜を形成する技術が開発されており,せん断塑性変形による接合メカニズムが解明されている(21).局所的分極制御を施した金属基圧電複合材料において,多軸応力に対する出力電圧の変化を解析し,多軸ひずみセンサとしての応用可能性が検討されている(22).航空機用ガスタービンの熱遮蔽・耐環境コーティング材として,多元素酸化物セラミックスが合成され,構造・熱的・機械特性との相関が評価されている(23).シリコーンゴムとBNナノシートを配向分散させた熱伝導複合体が開発され,縦方向熱伝導率が13倍以上に向上した機能性材料としての可能性が示されている(24).チタン合金表面に施した酸処理および引張試験による微細テクスチャーが,撥水性・抗菌性・生物付着抵抗性に与える影響が評価され,表面構造と機能性の相関が解析されている(25).
〔白須 圭一 東北大学〕
6.3.3 トライボロジー
機械材料・材料加工部門からみたトライボロジーに関する内容について2024年の動向を報告する.
日本機械学会論文集では,仕上げ抜き加工におけるダイ刃先丸みが平滑面形成に及ぼす影響についての報告があった.加工中の材料変形観察から,刃先半径が平滑面形成メカニズムの変化に及ぼす影響を報告し,デジタル画像相関法により最大主ひずみと最小主ひずみの変化を明らかにし,被加工材の変形の形態についても報告している(1).他には,ショット加工したマルエージング鋼に関する研究報告が2件あり加工影響層と疲労特性に関するもの(2)と特異な疲労破面(3)に関するものがあった.
次に,日本トライボロジー学会が発行するTribology Onlineでは高強度アルミニウム合金の板加工に関してCaCo3を潤滑剤として使用する事例が報告されている(4).また,同学会の研究会である「テクスチャリング表面のトライボロジー研究会」に関連する特集では研究主査のreview(5)をはじめ,多くの研究例が報告されている.さらに,「塑性加工のトライボロジー研究会」からは,研究会がリードする最新動向が解説記事として紹介されている(6).
この分野に関連する講演会としては,愛媛で開催された日本機械学会年次大会や富山で開催された機械材料・材料加工部門の部門講演会がある.その中では, 真実接触部の接触圧力が表面反応膜の生成過程に及ぼす影響を調査する目的で,ZDDP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛,zinc dialkyldithiophosphate)添加油中において,AFM摩擦面その場観察ならびに接触解析を実施し,真実接触部おける表面反応膜の生成過程を調査したものがある(7).ZDDPは摺動により,pad-like構造を有する表面反応膜を生成しているとのことである.
他にも,宇都宮で開催された日本銅学会では摺動部材などに利用される銅合金の鉛フリー化の最新動向に関する報告があった(8).鉛や鉛を含む合金は古くから親しまれてきたものの,ここ数十年の間に環境保護の観点から鉛フリー化が進んでおり,各種規制に対する技術開発の結果,代替品へ置き換わっている.このような各種規制の中で欧州発のReach規則,ELV指令およびRoHS指令はよく知られている.ところで 2024年現在,これら欧州の規制において,Reach規則では,鉛が「認可対象物質」に追加するよう提案された.また,ELV指令とRoHS指令の「銅合金中の鉛」に関しては最大4質量%までの含有が認められているカテゴリーがある.技術面での課題なども踏まえて,何度か適用除外期間が延長されており,現在の適用除外期間は ELV指令が 2025年7月,Reach指令が 2026年7月に有効期限が切れるため,期限までに延長可否が判断される予定である.次の改正により適用除外が延長されないことが決定した場合には,鉛フリー材の新規需要が予想される.そこで上記銅学会内のテーマセッションでは現時点の鉛フリー銅合金の最新動向について,いくつかの講演が報告された.
〔佐藤 知広 関西大学〕