11.宇宙工学
11.1 宇宙輸送
2024年度はH-IIAロケット49号機,H3ロケット3号機~5号機,およびカイロスロケット2号機の合計6機のロケットが打ち上げられた.
H-IIAロケット49号機は,「情報収集衛星レーダ8号機」を搭載し,種子島宇宙センターから打ち上げられた.当初は2024年9月16日に打上げ日を設定していたものの,高層風が打上げ制約条件を満足しないことから打上げを中止した.その後は悪天候の影響で打上げ日がなかなか設定できなかったものの,最終的には2024年9月26日に打上げを実施し,H-IIAとしては連続43機の成功(H-IIA/Bを合わせると連続52機の成功)を収めることとなり,高い信頼性をあらためて示した.H-IIAロケットは2025年度に打ち上げが予定されている50号機が最終号機となる.50号機のコア機体は既に種子島宇宙センターに出荷され,打上げの時を待っている状態である.2001年に初号機を打ち上げて以来,6号機での失敗を経験しながらもその後信頼性を立て直し,20年以上にわたって多くの衛星を打ち上げてきたH-IIAロケットの退役にあたり,見事に有終の美を飾ってほしいところである.
一方,H3ロケットは,2023年3月の試験機1号機の打上げ失敗を経て,原因究明と対策を反映した試験機2号機の打上げを2024年2月に成功させ,2024年度はいよいよ本格的な打上げ運用開始の試金石となる1年であった.まずH3ロケット3号機は,H3-22形態でペイロードとして「ALOS-4(だいち4号)」を搭載し,2024年7月1日に打ち上げられた(図11-1-1).ロケットは計画通りに正常に飛行し,所定の軌道に衛星を分離した.この3号機では,試験機2号機までに得られた知見や反映事項をカウントダウン作業に反映し,その妥当性を検証するために極低温点検(F-0)を実施するなど,慎重を期して臨んだ打上げであり,期待通り確実に打上げを成功させ運用段階に移行することができた.続く4号機は,同じくH3-22形態で「Xバンド防衛通信衛星(きらめき3号)」を搭載し,2024年11月4日に打ち上げられ,所定の軌道に衛星を分離した(図11-1-2).4号機は,H3ロケットとしては初の静止トランスファ軌道(GTO)への衛星投入であり,これを成功させるとともに,将来のロングコーストGTOミッションに向けたデータ取得を行うなど,今後の幅広いミッションへの対応に向けて着実な一歩となった.さらには,5号機は,H3-22形態で「準天頂衛星(みちびき6号機)」を搭載し,2025年2月2日に打ち上げられ,所定の軌道に衛星を分離した.
図11-1-1 H3ロケット3号機打上げ

図11-1-2 H3ロケット4号機打上げ
このように,H3ロケットは2024年度には計画したミッションのすべてを着実に成功させ,安定運用への道を歩み始めた.2025年度には,初のH3-30形態(SRB-3を搭載せず,1段メインエンジンLE-9を3基コア機体に搭載した形態)に,飛行実証のための性能評価用ペイロードおよび複数の超小型衛星を相乗りさせて打ち上げる予定がある.また,その後にはH3ファミリーで最大の打上げ能力を持つH3-24形態(LE-9を2基,SRB-3を4基搭載した形態)の初の打上げも控えており,H3ロケットの開発完了に向けて重要な1年になる.これらの打上げを確実に成功させ,全形態の打上げ運用を盤石なものにするとともに,さらに今後の基幹ロケットの国際競争力の強化に向け,成熟度向上や打上げ高頻度化,さらにはH3高度化といった取り組みを推し進め,H3ロケットをさらに魅力あるロケットに磨き上げていくことが期待される.なお,H3ロケットの高度化は,2024年7月の宇宙開発利用部会においてJAXAから報告された基幹ロケット開発方策の一部として,基幹ロケットを総合システムとしてアップグレードしながら各システム性能を段階的に向上させるブロックアップグレード方式で実行していく方向性が示された.
スペースワン株式会社のカイロスは,2024年3月の初号機は打上げ直後に指令破壊措置が取られる結果となったが,2024年12月18日にはカイロスロケット2号機の打上げを行った.2号機では第1段の燃焼完了・分離およびフェアリング分離を行い,第2段の点火までシーケンスを進めたが,その後飛行中断措置を行った.しかし,この結果は,宇宙開発分野のスタートアップ企業による民間小型ロケットの開発が着実に前進していることを示すものであり,引き続き早期の原因究明と次号機の打上げに臨むことが期待される.成功した暁には,我が国の宇宙輸送分野の裾野が大きく拡大することに貢献するであろう.
イプシロンロケットについては,第2段モータの燃焼試験の結果を受けて原因究明・対策検討を継続している状況である.2023年7月に能代ロケット実験場で実施した地上燃焼試験では爆発事象が発生し,その対策を反映して,2024年11月には種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場に場所を変えて再地上燃焼試験を実施したが,点火後約49秒でモータが爆発する事象が再度発生した.本試験結果を受け,あらためて試験データの詳細な評価や,設計・製造に係る詳細な検証を網羅的に実施し,原因調査を行っている.今後,再度地上燃焼試験を実施するための設計変更や,燃焼試験設備の復旧など必要な作業を継続して実施する計画である.
将来の宇宙輸送システムに向けた研究開発としては,ロケット第1段の再使用化を目指した研究が行われている.その実現に向けて,誘導制御技術,推進薬マネジメント技術,ヘルスマネジメント技術に関する知見を蓄積すべく,1段再使用飛行実験機(CALLISTO)の開発が,フランス国立宇宙研究センター(CNES),ドイツ航空宇宙センター(DLR)との国際協力により進められている.また,そのフロントローディング研究活動として,JAXA独自の小型実験機(RV-X)による飛行試験を目指した研究も実施されている.
さらに,宇宙輸送に関する国の政策に基づき,大幅な低コスト化を目指す「次期基幹ロケット」および民間主導による「新たな宇宙輸送システム」の実現に必要な革新的な技術を獲得するための研究として,「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」がJAXAにより推進されている.このプログラムでは,着実に成果を創出するため,海外動向や事業成立性の調査,システム検討による技術課題の識別と技術ロードマップの設定及び更新,宇宙産業と異業種産業のオープンイノベーションによる共創等の活動が多面的に実施され,これらを通じて我が国の宇宙活動を支える総合的基盤の強化が期待される.
〔寺島 啓太 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構〕
11.2 科学・実用衛星
2024年の動向について,国内の大・中型実用衛星,国内の小型・超小型実用衛星,海外の実用衛星,国内海外の科学観測衛星の順に示す.
国内の大・中型実用衛星の打上げは1月の「情報収集衛星光学8号機(IGS-Optical 8)」(1),7月の「先進レーダ衛星だいち4号(ALOS-4)」(2)および9月の「情報収集衛星レーダ8号機(IGS-Rader 8)」(3)であった.また,5月に日欧共同の雲エアロゾル放射ミッション「はくりゅう(EarthCARE)」が打ち上げられた.
IGS-Optical 8はH-IIAロケット48号機により,またIGS-Rader 8はH-IIAロケット49号機によりそれぞれ所定の軌道に投入され,打ち上げは成功した.ALOS-4はH3ロケット3号機で打ち上げられ,2025年4月から定常観測運用が開始された.ALOS-4は2014年に打ち上げられた「だいち2号(ALOS-2)」の後継として開発され,だいち2号の分解能(3m)を維持しつつ観測幅を約4倍(約200km)とした衛星であり様々な分野での活用が期待されている.なお,今後の政府が整備するレーダ観測衛星については2025年度に新たな衛星の開発検討を行い,2026年度より取組を開始するとされている(4).地球観測分野は民間でのサービス開発が進んでいるが,利用ニーズを見極めたうえで民間と協調できるよう戦略的に衛星開発を進めるとしている(5).小・中・大型それぞれの衛星サイズによってメリット・デメリットがあり,どちらか一方で全てのニーズを賄うことは難しいだろう.また,急速に進むAI分野は強い追い風である.観測とAIの関係者がコミュニケーションを密にし,次の一手が生まれることを期待したい.EarthCAREはSpace Exploration Technologies Corp.(SpaceX)のFalcon 9により米国のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた(6).概念的な検討から数えると20年を超える長期のプロジェクトである.開発に携わった関係の方々に敬意を表したい.今後の観測を通して観測分野の新たな地平が開拓されることを願う.
国内の300kg級未満の超小型・小型の実用衛星・技術試験衛星については表11-2-1に示す.株式会社Synspectiveおよび株式会社QPS研究所の小型SAR衛星の他,光学観測衛星,技術試験衛星の打上げが続いている.また,Cubesat技術試験衛星のISS放出も相次いだ.宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証(CRD2)の実証衛星として株式会社アストロスケールが開発した「ADRAS-J」はH-ⅡAの2段機体へのランデブー観測に成功した.なお,表11-2-1には記載していないが,3月と12月にスペースワン株式会社のカイロスロケットの打上げが行われた.それぞれ,内閣衛星情報センターの短期打上型小型衛星実証機,テラスペース株式会社の技術試験衛星TATARA-1,合同会社Space Cubicsの技術試験衛星「SC-Sat1」,広尾学園と株式会社ラグラポの技術試験衛星「ISHIKI」などが搭載されていた.残念ながら,いずれも衛星を軌道に乗せるには至らなかったが,挑戦は継続されるとのことであり,国産の小型衛星打上げ機会の拡大に向けた事業を応援したい.
海外も含めた宇宙機の打上げ状況については,2024年はここ数年と明らかな傾向の違いがある.図11-2-1に過去10年間の年間(1月1日から12月31日)打上げ宇宙機数を示す.2020年から2022年の3年間に急激な伸びをみせたが,2023年には若干の鈍化がみられ,2024年には打ち上げ機数の頭打ちとも見える状況になった.これは,SpaceX社のStarlink以外の大規模通信衛星コンステレーションの新規配備がなかったことが一因と考えられる.この鈍化が一時的なものかを検討するため2025年第一四半期(1~3月)の打上げ機数を4倍にしたものを同じ図中に示しているが,その結果は年間3500機を超えるペースとなっており,現時点ではこの鈍化は一時的なものと推測される.今後の宇宙分野の発展に関する重要な指標として引き続き注視したい.2025年以降は米国Amazon社,中国Guowang社,中国LandSpace Technology社などが大規模な通信衛星コンステレーションの配備を本格化させるため,打上げ宇宙機数が大きく伸びることも予想されるが,それらの配備が終わった後にはまたピークを迎える可能性もある.なお,SpaceX社の通信衛星「Starlink」シリーズは2024年には1949機が打ち上げられた.また,2024年に打上げ機数の多かったシリーズ衛星は,中国Shanghai Spacecom Satellite Technology社の通信衛星「Qianfan Jigui」シリーズが54機,ロシアSPUTNIX社の船舶識別システム衛星「SITRO-AIS」シリーズが44機,米国Planet Labs社の光学観測衛星「Flock-4」シリーズが36機,中国Geespace社の民間測位衛星「GeeSAT」シリーズが21機,フランスKineis社の「Kineis」シリーズが19機などとなっている.中国長光衛星技術有限公司の地球観測衛星「Jilin-1」シリーズ,フィンランドICEYE社の地球観測SAR衛星「ICEYE」シリーズも着実に衛星機数を増やしているが,従前の20機を超えるような大規模な配備はなかった.
国内の科学観測衛星については,打ち上げがなかった.
海外の科学観測衛星については,中国が着実に存在感を増している.2024年1月9日に中国科学技術部(MOST)がX線天文観測衛星「Einstein Probe」を長征2Cロケットで,6月22日に中国科学院(CAS)が欧州と共同のガンマ線バースト観測衛星「Space Variable Objects Monitor」とX線天文観測衛星「Chasing All Transient Constellation Hunter 1」を2機相乗りで長征2Cロケットで,11月27日に精華大学が主導するガンマ線バースト観測計画「GRID」の関連衛星2機が中国LandSpace Technologyの朱雀2号ロケットでそれぞれ打ち上げられた(23~25).また,欧州宇宙機関は12月5日に太陽コロナ観測ミッション「Proba-3」の衛星2機をインドのPSLV-XLロケットでサティシュ・ダワン宇宙センター(インド)から打ち上げた.Proba-3(26)はOcculter衛星とCoronagraph衛星の2機からなり,編隊飛行を用いるミッションである.Occulter衛星が太陽光を遮り人工の日食状態をつくることで,Coronagraph衛星が太陽コロナを観測することができるようになる.科学衛星に限らず,編隊飛行技術は今後の宇宙利用の鍵となる重要な技術の一つである.ミッションの成功に期待する.
表11-2-1 2024年に打ち上げられた日本の小型実用衛星・技術試験衛星
| 宇宙機名称 | 宇宙機概要 | 宇宙機所有組織 | 打上げ日 | 輸送機(射場) |
| StriX-3(7) | 小型SAR衛星 | 株式会社Synspective | 2024年
3月13日 |
Rocket Lab Electron(ニュージーランド) |
| StriX-4(8) | 小型SAR衛星 | 株式会社Synspective | 2024年
8月3日 |
Rocket Lab Electron(ニュージーランド) |
| StriX-2(9) | 小型SAR衛星 | 株式会社Synspective | 2024年
12月21日 |
Rocket Lab Electron(ニュージーランド) |
| QPS-SAR 7号機(ツクヨミ-Ⅱ)(10) | 小型SAR衛星 | 株式会社QPS研究所 | 2024年
4月8日 |
SpaceX Falcon 9(米国ケネディ宇宙センター) |
| QPS-SAR 8号機(アマテル-Ⅳ)(11) | 小型SAR衛星 | 株式会社QPS研究所 | 2024年
8月17日 |
SpaceX Falcon 9(米国ヴァンデンバーグ宇宙軍基地) |
| CE-SAT-1E(12) | 小型光学観測衛星 | キヤノン電子株式会社 | 2024年
2月17日 |
H3ロケット試験機2号機(種子島宇宙センター) |
| TIRSAT(13) | 技術試験衛星 | 宇宙システム開発利用推進機構,セーレン株式会社,福井大学,東京大学 | 2024年
2月17日 |
H3ロケット試験機2号機(種子島宇宙センター) |
| ADRAS-J(14) | 技術試験衛星 | 株式会社アストロスケール,宇宙航空研究開発機構 | 2024年
2月18日 |
Rocket Lab Electron(ニュージーランド) |
| PYXIS(15) | 技術実証衛星 | 株式会社アクセルスペース | 2024年
3月5日 |
SpaceX Falcon 9(米国ヴァンデンバーグ宇宙軍基地) |
| CosmoGirlSat(Emma)(16) | アマチュア無線衛星 | コスモ女子アマチュア無線クラブ | 2024年
8月5日 ※ISS放出 8月29日 |
SpaceX Falcon 9/Northrop Grumman Cygnus 21号機(米国ケープカナベラル宇宙軍基地) |
| SaganSat0(17) | 技術試験衛星 | 佐賀県,佐賀県立宇宙科学館,他 | 同上 | 同上 |
| SAKURA(18) | 技術試験衛星 | 千葉工業大学 | 同上 | 同上 |
| AE1b(YODAKA)(19) | 技術試験衛星 | 株式会社アークエッジ・スペース,合同会社SPACE VALUE,SpaceBD株式会社,岩手県立花巻北高等学校 | 2024年
11月5日 ※ISS放出 12月9日 |
SpaceX Falcon 9/Cargo Dragon C208(米国ケネディ宇宙センター) |
| ONGLAISAT(20) | 小型観測衛星 | 台湾国家宇宙センター,株式会社アークエッジ・スペース,東京大学 | 同上 | 同上 |
| DENDEN-01(21) | 技術試験衛星 | 関西大学,福井大学,名城大学,株式会社アークエッジ・スペース | 同上 | 同上 |
| LignoSat(22) | 技術試験衛星※1 | 京都大学,住友林業株式会社 | 同上 | 同上 |
| YOMOGI(23) | 技術試験衛星 | 千葉工業大学 | 同上 | 同上 |
※1 通信が確立できていない.

図11-2-1 過去10年に打ち上げられた年毎の世界の宇宙機数の合計(筆者調べ)
※2 2025年は第1四半期(1~3月)からの予測値
〔柳瀬 恵一 宇宙航空研究開発機構〕
11.3 宇宙探査
2024年度は宇宙探査における産学官の活動の融合が本格化した1年となった.
2024年1月20日に月面ピンポイント着陸を実現したSLIM(小型月着陸実証機)は,4月23日までに3回の越夜を達成した.4月29日に休眠状態に入った後は通信が復旧せず,8月23日の停波をもって運用を停止した(1).SLIMが獲得した高精度着陸技術は今後の月面探査で広く用いられることが期待されている.
また,JAXAとISRO(インド宇宙研究機関)が共同でLUPEX(月極域探査機)の開発を進めている.LUPEXは月の極域にある水の量や質を調査し,人類の持続的な活動の検討材料とすることを目的としている.日本は打上ロケットのほか,ローバーシステムを担当し,月面探査活動に必要な「移動」「越夜」「掘削」等の技術の確立も目指している(2).
LUPEXで得られる成果の貢献が期待される一つとして,アルテミス計画が挙げられる.米国が主導するアルテミス計画は2019年に立ち上げられ,同年に発表されたアルテミス合意について日本は最初に署名を行った国の一つである.2024年4月9日には,盛山正仁文部科学大臣(当時)とNASAのビル・ネルソン長官(当時)が,「与圧ローバーによる月面探査に関する文部科学省と米航空宇宙局の実施取決め」に署名し,アルテミス計画における初の国際協力協定となった(3).翌10日の日米首脳会談でも,宇宙分野で両国の連携を深める方針が確認された.これにより,我が国が有人与圧ローバーを提供して運用を維持する一方で,NASAは将来のアルテミス・ミッションにおいて日本人宇宙飛行士による月面着陸の機会を2回提供することとなった.アルテミス計画では,2026年のアルテミス2で有人の月周回ミッションを実施した後,2027年のアルテミス3以降で有人の月着陸ミッションを実施する.
有人与圧ローバーは,2名のクルーがシャツスリーブで一定期間居住可能な機能と空間を備え,クルーによる操縦および遠隔/自動操縦により月面上を自由に移動することが可能なシステムである(4).月面有人運用は,日照条件のよい月面の夏季に28日間にわたり,週6日(地球日)の頻度で実施され,月南極域で1日あたり20kmの走行を実現する.その一方,月面無人運用は,クルーの帰還直後から次回の月面有人運用までの期間で実施する.総走行距離は10,000km,10年にわたるオペレーションは月面の特殊な温度・放射線環境等を考えると大きなチャンレンジであり,JAXAがトヨタ自動車を始めとする広範なパートナーとコンソーシアムを形成して実現に向けた取組を進めており,また,与圧ローバーを利用して獲得できるサイエンスミッションについてもスタディを展開中である.
アルテミス計画等に対応するためのCLPS(商業月面輸送サービス)も活発化している.これまでインテュイティブ・マシーンズ社がIM-1,IM-2,ファイアフライ・エアロスペース社がブルーゴーストで月面に着陸した(5).さらに,ispace社も2025年1月15日にHAKUTO-R M2ランダーを打ち上げ,6月6日に月面着陸に再挑戦する予定である(6).
アルテミス計画で月面への輸送機会が増えることを念頭に月面科学観測の検討も進められている.特に月面天文台,月面サンプルリターン,月震計ネットワークの月面3科学は,我が国の強みを生かし第一級の科学成果が期待できる.月面3科学はいずれも多点観測・長期観測を前提としているため,観測機器を自立パッケージ化し,運搬・設置・展開・エネルギーマネジメント等を実施する必要がある.これらの技術は我が国の探査活動の自在性の拡大に資するため,月面3科学をまとめてプリカーサーミッションとして早期実証するシナリオが提案されている(7).
火星圏探査についてはNASA/Mars 2020計画のPerseveranceローバー(8)が健在で火星表面での観測・分析を続けており,また,後続のNASA/ESA火星サンプルリターンミッション(2030年頃の打ち上げを目指した研究開発を実施中)で回収するサンプラーの準備を進めている(9).火星圏からの最初のサンプルリターンは2026年以降に打ち上げられるJAXAの火星衛星探査機(MMX)(10)で実現し,火星衛星の一つであるフォボスからサンプルを持ち帰る計画となっている.この他にも2020年台の後半以降,各国による多様な火星圏探査計画が示されており,2030年代以降の有人火星探査へ向けて先進的なサイエンスと人類の活動圏拡大のため技術実証が加速しそうである.
月・火星以外の太陽系探査(無人探査)の進展も著しい.2020年12月に帰還したはやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料の分析が進み,塩や有機物を含む炭酸水や生命の活動に関わりが深いアミノ酸が見つかっており,リュウグウのような小天体が太陽系の内側に移動することで地球に水や有機物をもたらした可能性を見出した.はやぶさ2はその後も拡張運用を続けており,2026年7月に小惑星トリフネにフライバイする(11).2023年9月に帰還したNASAのOSIRIS-REx(12)が小惑星ベンヌで得た試料の分析により,生命の鍵となる分子とこれらの化合物が相互作用して結合するための「ブロス」として機能した塩水の歴史を明らかにした.拡張ミッションOSIRIS-APEXでは,2029年に地球に最接近する小惑星Apophisにランデブーする.2021年に打ち上げられたNASA/LUCY(13)は木星トロヤ群小惑星等のフライバイ観測を7回実施するものであり,これまでに2023年11月と2025年4月にフライバイを達成した.2023年打ち上げられたNASA/Pshche(14)は2029年8月に金属を主体とする小惑星プシュケにランデブー予定である.2028年度に打ち上げ予定のJAXA/DESTINY+(15)は枯渇彗星フェイトンを目指す.さらに,深宇宙往還機と小型着陸機を組み合わせた次世代小天体サンプルリターン計画や薄膜太陽電池パドルを用いた小型土星探査機OPENS-0計画が検討されており,今後は深宇宙探査のプログラム化が進んでいくと考えられる.
2024年度に民間による宇宙活動を後押しする宇宙戦略基金事業がスタートした.この事業は、「輸送」「衛星等」「探査等」の3つの分野において「市場の拡大」,「社会課題解決」,「フロンティア開拓」の3つの出口に向け,技術開発テーマを設定し,スタートアップをはじめとする民間企業や大学等が複数年度(最大10年)にわたって大胆に技術開発に取り組めるよう支援するもの(総額1兆円規模)である(16).この第一期として,2024年7~8月に22テーマの公募が開始され,2024年11月~2025年1月に採択結果が発表された.特に「探査等」の分野ではポストISSや月・火星探査を想定した9件のテーマが選定された.
一方,JAXA宇宙探査イノベーションハブでは,主に非宇宙分野の企業・大学とオープンイノベーション型共同研究を行うことで,将来探査技術の獲得と地上産業競争力の強化をめざす「Dual Utilization」を進めてきたが,2024年度からはこれを「Space Dual Utilization」に更新し,宇宙探査ミッション化と宇宙事業化を積極的に進めることにした(17).新規プレイヤーがJAXAとオープンイノベーション型共同研究を実施した後に,宇宙戦略基金で主体的に活動することで,相乗効果が期待できる.
以上の状況も踏まえ,日本の国際宇宙探査シナリオ(案) 2021年版の改訂が進められている(18).これまではJAXAの活動が主に記載されていたが,2025年度版では政府関連活動,産業化の取り組みなどについても記載される予定である.
〔森 治(国研)宇宙航空研究開発機構〕
11.4 有人宇宙活動
国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)の「きぼう」日本実験棟(図4-1)は,2025年に,2009年の完成から17年目を迎える.
地上からISSへの物資補給は,現在,米国・ロシア・日本の3カ国が分担して行っており,日本の「こうのとり」(HTV:H-II Transfer Vehicle)シリーズは,2009年の技術実証機の打ち上げ以降,全9機すべてにおいて物資補給を成功させ,ミッションを完遂した.現在,輸送能力や運用性の向上,コスト低減,新たな機能や発展性を具備した新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を開発中であり,2025年に1号機の打ち上げを予定している.また,HTV-XのISSへの物資補給機会を活用し,国際宇宙探査時代において重要な技術となり得る軌道上拠点への自動ドッキング技術の実証等,複数の技術実証ミッションの搭載も計画している.
「きぼう」における実験環境の整備として,地上技術の進歩や軌道上実験に対するニーズの拡大等を踏まえ,ハイスペックの民生部品を活用し,「きぼう」全体の通信高速化(Gbpsオーダ)に向けたシステム改修も進めている.さらに,「きぼう」運用・利用における宇宙飛行士の時間をより複雑かつ高度で付加価値の高い業務に充てるため,例えば船外ミッションにて使用する「きぼう」エアロックの操作については,地上からの遠隔操作が可能となっている.更にカメラ撮影や打上げ・保管用バッグの取り扱いなどの汎用タスク,高頻度な実験支援タスク等についての遠隔操作化・自動化・自律化についても研究開発も進めており,2023年には船内での状況監視やクルー作業の撮影を地上から遠隔で実施可能なドローン「Int-Ball2」を打上げ,2024年6月に定常運用に移行し,クルーとの協調作業(図4-2),ドイツ宇宙機関DLRの開発したドローンとの国際協力ミッションに向けた取組みを実施している.
船内実験では,小動物飼育装置(MHU:Mouse Habitat Unit)を使用したミッションを継続実施しており,これまでの実施成果として,多くの学術論文が発表されるとともに,微小重力環境での血液(血漿)中で変化する代謝物質の同定や腎機能変化と骨量減少の関係など,分子レベルでの解析データが蓄積されてきている.これらデータは,将来の有人宇宙探査に資する,他天体の重力環境の生体への影響に関する研究の礎となることが期待される.更に,ISSの利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(JP-US OP3)のもと,有人火星探査に先立ち,火星などの低重力が生体(動物個体)に及ぼす影響を評価するため,2023年春にJAXA-NASAと共同で低重力ミッションが実施された.現在日米の研究チームにより帰還後の生体解析が進められている.
また,月や火星の重力環境を模擬できる人工重力発生装置を使って,将来の月探査に向けて実施した月のレゴリスを模擬した粉粒体の低重力環境の下での挙動確認実験の成功に続き,有人与圧ローバの1/6G環境下を想定した水や潤滑オイルの低重力環境下での挙動に関するデータの取得に成功した.今後も,「きぼう」が宇宙探査への応用を目的とした基礎実験や技術実証等に効果的に活用されていくことが期待されている.
更に,我が国独自の環境制御・生命維持システム(ECLSS:Environmental Control and Life Support System,水再生,空気再生等)の技術開発・ISSにおける技術実証等も推進している.これは,物資補給量の制約が大1きい月・火星等の低軌道以遠における有人宇宙活動のために不可欠であり,国際宇宙探査における我が国からの大きな貢献となり得る技術として期待されている.特に,米国が提案する国際的な月探査計画(アルテミス計画)の一部である月周回有人拠点(Gateway)において,我が国は,将来的な水再生・空気再生機能の搭載を視野に入れた,温湿度制御,全圧・酸素分圧制御,二酸化炭素除去,有害ガス除去等の環境制御・生命維持機能を提供する計画である.
タンパク質結晶生成実験(PCG:Protein Crystal Growth)においては,年に複数回の実験機会の提供のほか,創薬研究需要に応える結晶化温度条件(4℃と20℃)を提供し,アカデミアや民間に広く利用されている.また,2025年3月には膜タンパク質の結晶化を促進する技術の特許(特許第7657406号)が成立し,膜タンパク質構造研究の需要に応える研究開発を進めている.現在,タンパク質実験の一部の民間企業への事業移管を進めており,更なる利用の拡大と成果の創出が期待される.
静電浮遊炉(ELF:Electrostatic Levitation Furnace)は,年間を通じて安定運用を実施しており,地上では得ることができない酸化物等の高温融体の熱物性データを取得している.2024年には,トルコの研究者によるハイエントロピー合金(複数の金属を比較的等濃度に固溶させた合金)の熱物性測定実験,高充填密度酸化物ガラスのガラス化メカニズム解明を目指した実験等を実施した.公募で選定した科学実験,民間の有償利用,国際協力に基づく米国実験を実施して,密度,表面張力,粘性の測定を継続的に進めている.
この他,船内での物質・物理科学系の実験として,固体燃焼実験装置(SCEM:Solid Combustion Experiment Module)を用いた固体材料の可燃性データ取得実験,温度勾配炉(GHF:Gradient Heating Furnace)を用いたSiGe半導体の結晶成長実験も進められている.前者の実験においては,世界初の重力影響を考慮した材料の可燃性評価手法の妥当性実証を目的としたデータ取得が進行中であり,アルテミス計画における材料選定への活用や,有人宇宙分野における材料選択の自由度拡大等への貢献が期待されている.
船外実験では,ISSでもユニークな特徴である「きぼう」独自のエアロックとロボットアームを組み合わせた船外利用を中心に,各国の宇宙機関だけでなく,国内外の様々な企業等から多くの利用要請を受けている.中規模の船外実験を簡易に実施可能な中型曝露実験アダプタ(i-SEEP:IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform)については,利用事業者がサービス提供を進めており,民間企業等による研究開発や技術実証利用が進められている.i-SEEP上でキューブサットサイズの小型実験を複数実施可能な実験支援装置(SPySE:Small Payload Support Equipment)がサービスインされ,軌道上で初となる全固体電池の性能実証を2023年に成功裏に実施した.また,材料曝露実験などの軌道上実験運用も継続的に実施している.今後,船内カーゴとして打ち上げた複数の構成要素をエアロックから搬出し,ロボットアームで組み立てることにより,大型のアクティブセンサを持つISS搭載ライダー実証ミッションを計画している.
エアロックから船外に搬出し,ロボットアームにて超小型衛星を地球周回軌道に投入する衛星放出ミッションは,NASA等の海外ミッションを合わせて,衛星の放出実績が合計350機を超え,超小型衛星の軌道投入手段として定着している.JAXAでは本プラットフォームを国連との連携を通じた加盟国の宇宙開発技術底上げの場として毎年一定枠の放出機会を提供している.現在では民間事業者による放出サービスも開始され,また,九州工業大学が主導する海外の超小型衛星群(BIRDSシリーズ)を始めとする諸外国での宇宙開発基盤の構築,人材育成の場としても活用されており,これらの活動はSDGsへの貢献としても重要なものとなっている.
また,2030年までの「きぼう」の安定運用を支えるために,ロボットアーム,エアロック等の構成品の補用品を開発している.単なる予備品の準備にとどまらず,運用性向上のための工夫を施しており,例えば,ロボットアーム(子アーム)の把持確認用のカメラを高解像化し,軌道上機器の状態確認用の機能を提供したり,エアロックの監視駆動装置に関して,ステータス確認用のリミットスイッチの故障時に備え視覚情報を基に安全運用するための機能追加,船外ビデオライトユニットのLED化などの高機能化・低コスト化開発などを実施している.船外ビデオライトユニットのLED化,新型のエアロックの監視駆動装置については,新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機で打ち上げることを計画している.
これらの「きぼう」で培った技術は,将来の有人ミッションを支援するロボティクス技術として発展・活用していく.
観測ミッションの場を提供する船外実験プラットフォームにおいて,高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET:CALorime- tric Electron Telescope)は,2024年に観測運用9年を超え,現在も順調に観測を継続している.全天X線監視装置(MAXI:Monitor of All-sky X-ray Image)は,良好に観測およびデータの速報等を継続しており,2025年度から観測運用16年目に入る.また,経済産業省が開発・運用を担当している「HISUI」(Hyperspectral Imager SUIte)も,2022年度にこれまでに計測・分析したデータの一般公開を開始している.同ミッションは地表の材料分析を目的としており,石油や金属・鉱物などの資源調査等への活用が期待されている.
日本人宇宙飛行士については,古川聡宇宙飛行士が「クルードラゴン」の運用7号機に搭乗し,2023年8月~2024年3月までの197日間ISS長期滞在を行った(自身2回目の宇宙飛行,通算宇宙滞在日数は366日).2025年3月15日には,大西卓哉宇宙飛行士が「クルードラゴン」の運用10号機に搭乗し,現在,約半年間の予定でISSに船長として長期滞在中である.また,油井亀美也宇宙飛行士は,2025年夏以降にISSでの長期滞在が予定されている.星出彰彦宇宙飛行士,金井宣茂宇宙飛行士は,日本人宇宙飛行士の長期滞在ミッションを支援しつつ,次の搭乗員任命に向け訓練等を継続している.また,2023年2月に4000人を超える応募者から選抜された諏訪理,米田あゆ宇宙飛行士候補者(当時)は,2024年10月に宇宙飛行士として認定され,初飛行に向けて訓練を継続している.
国際宇宙ステーションは,2030年まで運用される計画となっており,上記のようなこれまでに獲得した様々な技術やノウハウを活用し,引き続き「きぼう」利用成果の最大化を図っていく計画である.一方,2031年以降(ポストISS)の地球低軌道活動については,米国では,民間企業が運営する地球低軌道拠点(Commercial LEO Destinations:CLD)を構築し,NASAはその利用者となっていく方針が打ち出されており,現在,複数の企業が拠点の研究開発を進めている.日本においても複数の企業がこれらの米国企業と連携し,ポストISSにおいて自らが事業主体となることを目指し事業開発等を進めている.JAXAとしても,地球低軌道活動をISSからポストISSへとシームレスに移行させ,日本の地球低軌道活動を引き続き拡大・発展させるべく,これらの民間企業に対して,軌道上での技術実証や事業運営の機会を提供するなど各種支援策を推進している.また,2024年から公募が開始された宇宙戦略基金においても,政府によりポストISSを見据えた地球低軌道活動に関する3テーマが設定され,第一期公募で選定された企業が2025年より開発を開始している.また,第2期についても公募に向けた準備等が進められている.今後,JAXAによる有人宇宙活動と宇宙戦略基金を通じた民間による技術開発との相乗効果により,ポストISSに向けて,我が国の地球低軌道活動が更に拡大・発展していくことが期待されている.

図4-1 「きぼう」外観(JAXA提供)

図4-2 大西宇宙飛行士と協調するInt-Ball2(NASA/JAXA提供)
〔宮崎 和宏 宇宙航空研究開発機構〕
11.5 小型宇宙システム
11.5.1 小型輸送系
スペースワン(株)は,独自に開発した固体ロケットであるカイロスの初号機をスペースポート紀伊から2024年3月18日に打ち上げたが,機体は発射直後に爆発した(1).高度50~60mまで上昇したところで,搭載する自律飛行安全システムが作動して飛行中断シーケンスが行われたものである.スペースワン社によると,推力が予測をやや下回り,設定された飛行履歴を逸脱したために同システムが作動したとのことである.同社は2024年12月18日に再度の打ち上げを行い,計画通りに初段を分離して2段目に点火したが,その後は姿勢を制御出来ず,ミッションは中断された(2).
文部科学省はスタートアップ支援を目的とするSBIR(Small Business Innovation Research)事業に「民間ロケットの開発・実証」枠を設け,2023年9月に4社(インターステラテクノロジズ,スペースウォーカー,将来宇宙輸送システム,スペースワン)を選定していたが,この事業の第1回ステージゲート審査の結果を2024年9月19日に公表した(3).フェーズ2に進んだのはインターステラテクノロジズ,将来宇宙輸送システム,およびスペースワンの3社であった.本事業では2027年度までの飛行実証が求められており,2回のステージゲートを経て最終段階で2社程度に絞り込まれる予定である.
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,2024年3月,JAXA-SMASH(JAXA-Small Satellite Rush Program,産学官による輸送/超小型衛星ミッション拡充プログラム)で開発された超小型衛星を軌道投入する「基本協定締結事業者」に,商社と宇宙輸送ベンチャーをそれぞれ2社ずつ選定した(4).選定された商社は三井物産エアロスペースとSpace BD,宇宙輸送ベンチャーはインターステラテクノロジズとスペースワンである.JAXA-SMASHはスタートアップ企業が技術開発に挑戦する機会を創出すると共に,民間小型飛翔機会の需要を創出することも事業目的としている.
低融点熱可塑性固体推進剤を用いた低価格でスケーラブルな固体ロケットを開発するロケットリンクテクノロジーは,2024年3月17日,北海道スペースポートの滑走路から小型ロケットの打ち上げ実証に成功し,機体は高度5kmに到達した(5).低融点熱可塑性固体推進剤は加熱により溶融し,冷却により可逆的に硬化するため,小規模連続生産や保管が可能な革新的固体推進剤として注目されている.同社は2024年6月にインキュベイトファンドから1.5億円の資金を調達し,高度100km級まで飛翔する弾道飛行ロケットの開発を本格化させた.
神奈川大学は2024年12月14日にハイブリッドロケットの打ち上げ実験を行い,パラシュートによる機体の回収まで成功した(6).テレメトリが高度9kmで途切れており,国内高度記録10.1kmの更新を目指していた到達高度については取得出来なかったが,その後の分析により,日本記録に迫る10.055kmであったと発表された(7).
気球から小型ロケットを打ち上げるロックーン方式での事業展開を目指す南相馬市のベンチャー企業,AstroX社は,2024年11月9日,南相馬市の沿岸で小型ハイブリッドロケットの打ち上げ実証に成功した(8).打ち上げられた機体は全長6.3m,外径330mmで,千葉工業大学との共同研究により開発された.機体は高度7kmに到達後,予定通り南相馬市沖の海上に落下した.
〔永田 晴紀 北海道大学〕
11.5.2 小型・超小型衛星の動向
2024年における100kg以下の宇宙機は416機が打ち上げられ,2022年の444機,2023年の590機よりも減少した結果が見られている.背景には,FALCON-9の小型衛星クラスタ打上が打上げ遅延したことによる影響,そして小型衛星の大型化により101-150kgクラスの小型衛星が13機→42機と軌道投入数が増加したことなどがある.
通信メガコンステは,Starlinkが1983機,ONEWEBが20機,中国QIANFANが54機となっている.また,Starlink派生型の米国防ミッション専用衛星StarShieldが107機打ち上げられている.Onewebはサービス開始したこと,中国が初の通信LEOコンステ,そしてStarShieldという通信傍受もしくは地球観測とみられる衛星が初めて打ち上げられたことが新規と言える.また,このStarShield衛星は,FALCON-9に単独でクラスタ打ち上げられたり,Starlink衛星と混載して打上げられたりという特徴が見られている.
民間ビジネスの小型衛星のプレーヤーも拡大している.2024年に地球観測衛星ではPlanet社(36機,1機ハイパー),Satellogic(4機),Orbital Sidekick(2機),ベルギーAerospacelab(4機),Satlantis(1機),中国ADA Space(6機),Synspective(3機),QPS(2機),ICEYE (9機),Capella Space(3機),Umbra (2機),中国Piesat(7機)がある.通信解析関連では,HawkEye 360(12機),Unseenlabs(4機)が上がっている.また,通信では露Sitronics(45機),仏Kineis(15機),トルコPlan-S(4機),SPIRE(12機),伊Apogeo space(9機),スペインSateliot(4機),中Geospace Tech(21機),台Satoro Space(1機)がある.軌道上サービス:D-Orbit(1機)が打ち上げられている.
探査軌道については,米国のIntuitive Machines LLC社がIM-1 ODYSSEUS(月着陸船)にEAGLECAMを小型宇宙機として含めて搭載している.また欧州ESAがMILANI,JUVENTASという2機の6Uサイズ欧州小惑星探査機Hera内蔵の小惑星探査を打上げている.そして中国がCHANG‘E 6 LUNAR MINI-ROVERとTIANDU-2という月探査を打上げており,パキスタンも ICUBE-Qという小型月探査機を打ち上げている.
Cubesatの動向としては,12U(18機)と16U(24機)サイズが過去最高となっている.しかもこれら大型Cubesatの殆どが民間衛星である.また,ロシアが初の大量Cubesatクラスター打上をSoyuzにて実施し,54機のロシアを中心としたCubesatが打ち上げられている.以上から,Cubesat打上総数は減少傾向だが,サイズは大型化しつつあると言える.
この他のトピックとしては,小型衛星における民間光学ハイパーセンサーを搭載した衛星として,Planet社,Orbital Sidekick社,Satellogic社が打ち上げられている.また,米国以外の民間衛星ビジネス事業者の参入も拡大し,フランス,イタリア,スペイン,中国,ロシア,トルコ,台湾の参入が2024年に見られている.
小型衛星の利活用は,予算制限に直面しているNASAでもユニバースミッションにCubesatを含む小型衛星の活用する方針発表し,センサーの小型化,高機能化を進めている.特に2024年は小型衛星向けセンサーとしてLWIR波長でヘリウム式冷却器を搭載した16Uサイズの衛星ACMES衛星をNASAが開発している.また,米仏共同で大気汚染観測衛星GRASPが発表された.また,ノルウェー政府が暗視対応の海洋監視用高分解能観測カメラを搭載した光学衛星開発を発表している.このように,NASAをはじめ政府機関が特殊な目的に応じた小型衛星向けセンサー開発を進めている.(1)(2)
次にデータ通信における高速化及びセキュリティー対策における動向である.光通信における技術は,米国,欧州,中国等が開発中であるが,Cubesat等へ搭載可能な通信機は米国とドイツが開発中であることが2024年に発表されている.衛星-地上間に加えて、さらに衛星間光通信の開発も進められており,米国がSDAによる標準化を進めており,欧州はこれら標準化に対応しつつ,自身の経済権益とセキュリティー確保のため,量子暗号通信技術の開発を加速している動向がみられ,2024年に入り数多くの量子暗号を使った光通信技術の発表が見られている.これら超高速通信時代の先にあるのは,生成AIを活用したエッジ処理システム,衛星データサーバ時代に対応した通信網の確立であり,これら基盤技術の開発へ向けて生成AI搭載エッジコンピューティング処理や,小型光通信装置及び地上と衛星双方に有するサーバー衛星技術として小型衛星を活用した技術開発が進められている.(3)
これら未来需要にむけて,産業界も小型衛星量産化に向けた量産にむけた体制を加速している.米Solestial社とMeyer Burger techが提携し,アリゾナ州に1メガWatt宇宙太陽電池工場を計画を発表した.衛星コンステ需要の拡大により,太陽電池パネルが不足傾向にあり,増産体制を確立している.また,独Morpheus社はドレスデンに新工場建設した.電気推進の年間製造能力を100→500機と増強するためである.また,米Muon Spaceが$56.7M調達.$100Mの衛星受注残があり,SNC社と連携することで,気候変動監視衛星の量産体制を構築している.これら小型衛星の需要が引き続き,堅調に推移していることが見られ,2024年に公表された今後10年の小型衛星需要は14500機としている.(4)
〔金岡 充晃 シー・エス・ピー・ジャパン(株)〕