7.流体工学
7.1 まえがき
第7章の流体工学では,今回担当の東海地区でご活躍され各項目に造詣の深い先生方に,2024年の研究動向の調査およびご執筆をお願いした.項目としては年鑑としての役割に鑑み従来のものをほぼ踏襲している.具体的には,噴流,圧縮性流れ,混相流,キャビテーション,反応流・燃焼流,流体音,再生可能エネルギーの利用,非ニュートン流体,流体計測・可視化,およびデータ駆動科学と流体工学,である.
噴流については,関連論文誌から,乱流噴流の基礎理論,旋回噴流,噴流の不安定性と乱流への遷移,噴流による熱物質輸送,乱流噴流の混合と制御,機械学習や深層学習を利用した噴流混合に関する研究,圧縮性流体の噴流における空力音響フィードバック共鳴や超音速噴流,等に関する研究が紹介されている.圧縮性流れについては,JFM誌およびPoF誌から,熱化学的非平衡流れ,Hypersonic Internal Waverider(IWI)現象,超音速混合・燃焼,衝撃波境界層干渉,超音速流れと構造連成,数値スキーム,ブラスト波減衰,等に関する研究が紹介されている.混相流については,関連論文誌と各カテゴリーでの論文数が紹介された後,AI関連技術を応用した研究,マイクロチャネルや多孔質などの狭隘流れに対する数値計算および理論的研究,粒子や気泡の直接数値シミュレーション,等に関する研究が紹介されている.キャビテーションについては,本学会論文集における関連論文として水中超音波による水面隆起の直接シミュレーション,CFD結果の機械学習による圧力場の推定,アガロース近傍での気泡の成長および崩壊における弾性の影響の実験,マルチプロセスキャビテーションモデルを考慮したRANSシミュレーションに関する研究が紹介された後,関連する国内および国際会議における講演数と関連国際誌における関連論文数等が紹介されている.反応流・燃焼流については,関連論文誌および国際会議講演論文集から,スクラムジェットエンジン内熱閉そくの発生メカニズム,回転デトネーションやパルスデトネーション,亜音速デフラグレーションから超音速デトネーションへの遷移,高温プラズマ流の空力加熱低減手法,等に関する研究および高温超電導磁石を導入した大型風洞開発,が紹介されている.流体音については,関連する国際および国内会議における流体音に関する講演数が紹介された後,空力音の実験手法,空力音の数値解析,空力音現象の解明,騒音低減手法,空力特性と静粛性の同時達成のための設計最適化,等に関する研究が紹介されている.再生可能エネルギーの利用については,再生可能エネルギーの導入目標と利用の現状報告に次いで,浮体式風力発電,WRFシミュレーションを用いた風況および発電予測,風車後流の実測,等の研究が紹介されている.非ニュートン流体については,レオロジーに関する国際および国内会議およびそれらのレビュー論文が紹介された後,関連論文誌における弾性不安定性と弾性乱流のレビュー論文,乱流中のポリマー伸長と配向に関する数値的研究,3D-PTVによる抵抗低減境界層流れの3次元渦構造の計測,等が紹介されている.流体計測・可視化については,近年着目されている背景シュリーレンと感圧塗料についてExperiments in Fluids 誌で特別セクションが設けられた事が紹介された後,流れ場の可視化技術に関する2024年以降の国内および国際会議が紹介されている.データ駆動科学と流体工学については,国内および国際会議におけるデータ駆動科学とAI・機械学習を掲げたセッション名が紹介された後,数値シミュレーション高速化のための代替モデル,未知のメカニズムや現象を発見するアプローチ,基盤モデルのアプローチとして複数の気象変数の統合予測,等の研究が紹介されている.
ここで紹介される内容は流体工学に関連した国内外の最新研究動向であり,一読される事で読者の問題解決や研究発展の一助となれば幸いである.
〔森西 洋平 名古屋工業大学〕
7.2 噴流
本報告では,2024年に発表された噴流に関する主要な研究成果を,基礎(理学)から応用(工学)までの幅広い視点から概観する.
乱流噴流の基礎的理解は長年にわたる研究の対象である.MalikとHussain(1)は,非圧縮性乱流平面噴流に対する新たな理論を提唱した.具体的には,従来の境界層近似の手法を用いて運動量収支方程式を改良した結果,噴流内部に横方向の圧力欠損が生じることを示した.このとき全運動量フラックスは流下方向に一定ではなく増加するため,噴流の広がりは古典的な線形ではなくなると示唆された.一方、Viggianoら(2)は,一様等方性乱流のデータを活用して,乱流噴流の統計量を高精度に予測する効率的なLagrangianモデルを開発した.乱流噴流シミュレーションの計算コストを削減する可能性があり,今後の応用が期待される.また,密度が周囲流体と異なる噴流におけるエントレインメント(巻き込み)現象について,Agrawalら(3)は,エントレインメント係数のスケーリング則をLESの結果および解析的に考察した.その結果,噴流の遠方場では係数はほぼ一定の値を示す,つまり密度比の平方根に比例するという従来のスケーリング則とは異なることを示した.一方,燃焼器やガスタービンなど多くの工学的システムで見られる旋回噴流に関する研究もおこなわれた.Chevalierら(4)は,旋回乱流噴流におけるコヒーレント構造をレゾルベント解析を用いて調査した結果,旋回なしの場合には軸対称構造が支配的であるが,旋回が増加するにつれて二重および三重の螺旋モードが卓越するようになることを示した.
噴流の不安定性と乱流への遷移は,噴流制御研究の鍵となる現象である.Leeら(5)は,層流環状噴流中の希薄予混合メタン空気V字火炎における自己励起軸対称振動に関する研究を行い,火炎の先端における強い振動を特徴とするグローバル不安定モードを特定した.また,Edgington-Mitchellら(6)は,合流する二重噴流システムにおける上流伝播波,特にガイド付き噴流モードの挙動を調査し,二つの噴流が合流するにつれて等価な単一噴流形状の高次モードを形成することを示した.Xuら(7)は,旋回液体噴流の線形不安定性解析を行い,噴流の回転が増加するとより高い方位波数を持つモードが優勢になることを示した.また,噴流の平均軸方向速度または表面速度が増加すると,せん断応力とガス圧力擾乱の複合効果により支配的なモードがより小さい波数に移行することを明らかにした.また,Liら(8)は非等温粘性液体噴流の線形時間不安定性解析を行い,温度比を減少させると噴流の不安定性が促進されることを明らかにした.特に高温噴流の場合には,マランゴニ数またはペクレ数の増加に伴い最大成長率が増加し,マランゴニ応力と熱伝導率が高温噴流の不安定性を抑制することが示唆された.
Barreiro-Villaverdeら(9)は,熱間めっきにおけるジェットワイピングプロセスに関する基礎シミュレーション研究を行った.その結果,異なる条件下でも気体噴流と液体膜の相互作用は質的に類似しており,液体中の二次元波が気体噴流の振動と偏向に関連していることを示した.
噴流による熱物質輸送も,特に工学的には重要な研究である.Chaudhury(10)は液体噴流における熱伝達に関して,運動量方程式の相似解が利用可能な範囲におけるエネルギー方程式の解析解を導出した.また,移動表面に衝突する乱流噴流アレイの熱伝達特性に関する研究として,Shahら(11)は,表面の移動と壁の閉じ込めが乱流噴流アレイからの熱伝達に与える影響を調査し,表面速度が高いほど熱伝達が向上することを発見した.また衝突噴流に関する研究として,Zhangら(12)は,科学反応を伴う衝突噴流冷却を数値シミュレーションにより調査し,熱および物質移動の促進における渦の役割を明らかにした.
乱流噴流の混合と制御は,様々な工業プロセスの最適化だけでなく騒音低減などとも関連する.Audiffredら(13)は,コヒーレント構造に着目して乱流噴流の反応制御に関する実験的研究を行い,乱流レベルの大幅な低減を達成した.またTanら(14)は,単一の半径方向ミニジェットで操作された超音速噴流のパラメトリック研究を実施し,噴流コア長と誘起コヒーレント構造の周波数に対するスケーリング則を提案した.
機械学習,深層学習を利用した噴流混合に関する研究も行われている.Liuら(15)は大規模渦シミュレーションとこれらの手法を組み合わせることで,混合を促進させるための新しい流れパターンを特定した.Itoら(16)は,深層強化学習を用いて,巻き込みと拡散を制御するための噴流の初期速度分布を最適化する研究を行った.
圧縮性流体に関する研究も数多く行われている.例えばZhangら(17)は,ノズルリップのスパン方向の突起が凸壁上の圧縮性噴流の混合促進に寄与する渦を誘起することを発見した.またRohillaら(18)は超音速衝突噴流における空力音響フィードバック共鳴の緩和への応用方法を示した.さらにParameshら(19)は,超音速非対称噴流の制御における渦発生器の配置の効果を実験により調査し,短軸に沿った配置が混合と騒音低減により効果的であることを示した.一方でMaliら(20)は,溝付きタブを使用して超音速噴流の混合を促進する研究を行い,特に過膨張条件下ではプレーンタブよりも効果的であることを発見した.Goebelら(21)が行った超音速二重流噴流に関する研究では,スプリッタープレート後縁付近でのアクチュエーションが衝撃波構造と共鳴音を効果的に低減できることが示された.関連する研究としては,Yaoら(22)は上流の音響強制によって引き起こされる超音速噴流における不安定波の発生を調査するための解析モデルを開発した.そのほかにも,スクラムジェット燃焼器に関する研究(23)や超音速ジェットエンジンに関する研究(24)も発表されている.
〔伊藤 靖仁 名古屋大学〕
7.3 圧縮性流れ
圧縮性流れは,密度変化を無視できなくなる音速の0.3倍より高速な流れ場が主対象である.そのような流れ場においては,密度勾配と圧力勾配の外積に比例する項が渦生成に寄与するバロクリニック効果の発生や,音速以上の流れで発生する衝撃波と言われる特有の非線形波動現象の発生が特徴として挙げられる.バロクリニック効果が関係する流体力学的不安定生現象として,擾乱を受けた異種流体間界面と衝撃波が干渉した際に発生するRichitmyer-Meshkov Instability(RMI)があり,圧縮性流れ特有の現象として工学的にも興味深い課題となっている.
2024年の圧縮性流れの国際的な研究動向について,Journal of Fluid Mechanics及びPhysics of Fluids(2024年は合計6051報の原著論文を出版)に掲載された論文から,圧縮性流れと関連しなおかつ工学的に興味深い課題を扱っていると思われる論文をざっと拾い上げると,大気を有する惑星探査や地球大気再突入ミッションに関連した高速衝撃波背後で発生する熱化学的非平衡流れに関する論文(1)–(10),Hypersonic Internal Waverider(IWR)に関する論文(11),(12),超音速流混合や超音速燃焼に関する論文(13)–(25),超音速流れ場と構造の連成解析に関する論文(26)–(28),衝撃波境界層干渉に関する論文(29)–(35),RMIに関する論文(36)–(43),数値流体力学の解析スキームに関する論文(44),ブラスト波の減衰特性に関する論文(45)が挙げられる.
非平衡流れの論文の中には,火星等惑星やその衛星の大気を想定した研究(2),(3)もあり,近年の火星を始めとする惑星探査熱の高まりと関連しているものと思われる.超音速混合・燃焼に関する論文(13)–(19)の多くはスクラムジェットエンジンへの応用を目指したものであり,それ以外では,デトネーションエンジン関連(20)–(24)のものが目立った.衝撃波境界層干渉に関する論文は超音速機の空力特性改善に向けた流れ場制御法の開発を目指した研究との印象を受けた.超音速流れ場と構造の連成解析に関する論文においては,柔軟構造体を用いた減速システムに関するもの(27)があり,国内で実施された実証研究をまとめた論文(46)が先行研究として引用されていたことから,国内既往研究(46)に触発された論文と思われる.RMIは,宇宙物理学から超音速機スクラムジェットエンジン燃焼や慣性核融合等幅広い分野における流体現象と関連しており,関連論文のいくつかは,現象理解による技術発展を研究動機として掲げていたことから,RMI現象理解の重要性を示唆していると思われる.
国内の動向について日本機械学会年次大会に注目すると,非圧縮,圧縮,移動変形格子で表現される流れに適用可能な完全保存形差分スキームに関する流体工学部門基調講演(47)が行われた.また,一般口頭セッション(部門横断企画)において,「衝撃波・超音波の医療・産業応用とその現象解明」セッションが組まれ,口頭発表において6件,ポスター発表において6件の研究成果が発表された.日本機械学会から2024年に発刊された論文誌における圧縮性流れに関連すると思われるものとしては,超音速噴流(48),音波集束(49),衝撃波の医療応用(50)に関する論文が出版されている.
〔松田 淳 名城大学〕
7.4 混相流
混相流は気相,液相,固相のうち二つ以上の相を含む流れである.工学的には,発電所や各種プラントにおける冷却配管内流れや液滴の飛翔や衝突,内燃機関などにおける燃料噴霧,微粒子(粉体)の流動,固体面のコーティングや生体内などで広くみられる.近年は加工や測定技術の発達に伴い,高精細・高分解能で観察される(マイクロスケールでの)界面現象までを対象とした研究が増える一方,そうした局所の界面変形と(液滴や気泡,粒子などの)集団やその周辺の巨視的な流れ場と関連付けるマルチスケール性を考慮した研究もなされている.また,液滴や気泡などの形状が大きく変化するなどして検出や認識が困難になるような現象に対してはAIなどの情報技術を活用した研究も急速に増えつつある.
混相流に関連する論文誌としてInternational Journal of Multiphase Flow(271編),日本混相流学会学会誌(19編),Journal of Fluid Science and Technology(10編),日本機械学会論文集(3編)に掲載された混相流に関連する論文をカテゴリーごとに見ると,AIを利活用したもの(18編),微粒化(21編),管内流(15編),キャビテーション(16編),マイクロチャンネルや多孔質などの狭隘流れに関連するもの(14編)のほか,乱流(16編),非ニュートン流体(9編),粉体(8編)や,衝撃波との関連(4編)やファインバブル(3編)などに関連したものが報告されている.
機械学習や深層学習やニューラルネットワークなどのAIと関連付けられた技術を応用した研究に関する論文は18編と2023年に引き続いて数多く掲載されている.例を挙げると,波状管内での二相流におけるボイド率判定(1),気泡流中において変形や移動を繰り返す気泡郡中の個別気泡の追跡(2),沸騰気泡の運動の解析(3)(4),水中翼表面でのキャビテーション気泡の予測モデル構築(5)といった気相領域(気泡)分布や界面形状の検出のほか,乱流中における液滴分裂による微粒化予測モデルの構築(6)や,スプレーによる微粒化プロセスでの液滴分布等の特性把握(7),乱流中を遊動する微細繊維まわりの高解像度粒子画像流速(PIV)測定(8),密度境界における固体粒子の運動(9)の,キャビテーション場の予測(10)といった,現象のランダム性が強く,かつ既存の測定方法では識別や抽出が困難な事象に多く適用がみられる.AI技術そのものの開発や適用性の評価にとどまらず,AIを活用して得られた結果に基づいて議論を深めている論文が多くなってきていることも注目に値する.
また,マイクロチャンネルや多孔質などの狭隘流れを対象とした研究も多く行われているがこのカテゴリーでは数値計算及び理論研究の割合が多い(14編中9編).例を挙げると,多孔質内での水―蒸気系の拡散における流動経路への液相架橋や液膜形成による影響を格子ボルツマン法で明らかにしたもの(11),水-油混合流体の拡散経路選択への毛管力の影響の直接数値計算による評価(12),Darcy則に基づいた多孔質体内での浸透性を考慮した多孔質内流れモデルの開発(13),化学ポテンシャルに基づいた多孔質内での二相流動における支配方程式のモデル化(14),ナノ流路での水―油二相流の分子動力学解析(15)などがなされている.一方で実験的な研究では,2枚の狭隙平行平板間流れ(Hele-Shawセル)への泡(foam)注入による界面活性剤水溶液の界面不安定(16),マイクロチャンネルにおける気液二相流動の流動状態や限界熱流束への液物性による影響の評価(17)といった報告がなされている.
数値計算を用いたものは少なくとも80編あったが,最近の計算機性能の向上に伴い,粒子や気泡などの集団や各種物理量の場を平均化(モデル化)することなく,個々に追跡する直接数値シミュレーション(Direct Numerical Simulation,DNS)が増えている.たとえば,乱流のDNS計算に粒子を乗せた拡散の解析(18),超音波による音場のシミュレーション(19)のほか,きわめて多くの固相粒子が分散する流れにおいて個々の粒子を識別して計算を行う解析などがあった(20)(21).
一方,学会では,2024年11月に開催された日本機械学会流体工学部門講演会で,液滴の衝突やキャビテーション,液膜流など気泡・液滴・界面に関連するオーガナイズドセッションにて11件の発表がなされた(22).また,2024年9月の混相流シンポジウム2024(日本混相流学会主催)では,2023年度同様に産業利用や界面の物理,食品・医薬品,噴流・後流,マルチスケール,熱制御,宇宙システム,ナノ・マイクロ・ミニスケール,自然現象,混相流のダイナミクス,粒子,相変化,ファインバブル,原子力,光・音響・電磁場による計測をキーワードとするOSが設けられ,合計106件の発表が行われた(23).
〔伊藤 高啓 中部大学〕
7.5 キャビテーション
キャビテーションは,流体機械の性能劣化,壊食,振動,騒音等の原因となる液体の蒸発現象であり,流体工学の一分野として古くから研究が行われている.また現象を支配する要因としては,機械の形状や表面の粗さ,流れの圧力や速度,液体の蒸気圧や表面張力,粘性や圧縮性,液体に含まれる核など多岐にわたる.さらに,音響キャビテーションと呼ばれる超音波等の圧力振動による気泡の振動現象も同研究分野に含まれ,時空間共に非常に広範囲のスケールで学際的な研究分野となっている.
キャビテーションに関連した2024年の本学会論文集における発表では,水中超音波による水面隆起を伴う直接シミュレーション(1)が行われた.自由界面の変形と圧力場が直接シミュレーションにより再現されており,加湿器のみならず,洗浄機などでの幅広い応用が期待される.またCFD結果による機械学習より疎な圧力センサからの圧力場の推定(2)が行われており,今後実験との融合が期待される.さらに実験によるアガロース近傍での気泡の成長および崩壊における弾性の影響(3)や,CFDによる組織近傍での気泡崩壊による物質輸送(4)が詳細に報告されている.一方流体機械分野においては,マルチプロセスキャビテーションモデルを考慮したRANSシミュレーション(5)により,遠心ポンプの性能やキャビテーションの生成などが精度良く再現されている.
国内学会においては,流体工学部門講演会や混相流シンポジウムにて,流体機械や界面等のセッションにて複数の講演が行われた.キャビテーションを利用した流体制御(6)など,新たな方向性も示された.2年に一回開催されるキャビテーションに関するシンポジウム(日本学術会議主催)は開催されない年であったが,3年に一度開催されるCAVがギリシャにて開催された.そのCAV2024では,10件の基調講演,169件のオーラル発表など多くの講演がなされた.セッションとしてはPropellers,Turbines,Pump,HydrofoilsやErosionといった古くからの研究対象のみならず,Soft Matter,X-ray Diagnostics,Bubble-Dropletsなど,より複雑な液体,より複雑な境界条件,さらには新たな計測手法による高時空間分解能での解析等が報告された.アメリカ物理学会流体力学部門講演会(APS/DFD)では,キャビテーションに関する招待講演「Bubble dynamics in complex fluids」が行われた.超音波照射による振動気泡と非ニュートン流体との相互作用から気泡をレオメータとして利用する方法や,気泡振動によるコロイド粒子や表面付着粒子の構造化などが報告された.同様の内容はJFMのセミナーとしてWebで視聴が可能である(7).2025年には国際混相流会議(ICMF2025)が開催予定であり,多くのキャビテーション関連の講演が期待される.
2024年の国際誌でのキャビテーションに関連する報告は増加を続けている.Journal of Fluid Mechanicsでは18編,Physical Review Fluidsでは17編,International Journal of Mutiphase Flow(IJMF)では50編となっており,特にPhysics of Fluids(POF)では,タイトルにCavitationを含む論文のみで140件発表された.CAVでの講演と同様に,X線や中性子線による計測や液滴内のキャビテーションなど多岐にわたる報告がなされた.論文の数ではノズル内キャビテーションや微粒化などの応用研究が目立った.また冒頭に述べた流動キャビテーションと音響キャビテーションという性質の異なる二つのキャビテーションを融合した新たな表面処理手法も提案された(8).特筆すべきは中国からの発表数であり,IJMFでは半数,POFでは140件のうち100件を超える発表がなされた.
〔真田 俊之 静岡大学〕
7.6 反応流・燃焼流
極超音速旅客機やスペースプレーンの推進システムであるスクラムジェットエンジン内の超音速燃焼流における保炎技術の確立は,このエンジンを実用化する上で重要な課題の一つであり,流路壁面(1)やストラット(2)にキャビティを設置する方法およびキャビティ背後にもう一つのキャビティ(3)やパイロン(4)を設置する方法が研究されている.いずれの方法も,キャビティ内に生じる循環流を利用しており,キャビティを用いた保炎方法が主流になりつつある.また,スクラムジェットエンジンでは燃焼により気体が加熱されることが原因で熱閉そく(thermal choking)が起こり,エンジン不始動の原因となる.熱閉そくは,レイリー流れで生じる現象として教科書などで一次元定常解析により説明されている現象であるが,スクラムジェットエンジン内で生じる実際の熱閉そく現象は単純ではなく,様々な要因が複雑に関連し合うことで生じる.このスクラムジェットエンジン内の熱閉そくが発生するメカニズムを,燃焼による熱放射,燃料噴射により発生した衝撃波と流路壁面に発達する境界層の干渉,この干渉により生じた境界層の非定常性など,様々な観点から数値解析により議論している研究(5)がある.
超音速で伝ぱする燃焼波であるデトネーション波はその背後で急激な圧力上昇を伴い,この圧力上昇を利用したデトネーションエンジンは熱効率が高い点や機械的な圧縮機構を必要としないため,次世代の高速輸送機の推進システムとして活発に研究されており,回転デトネーションエンジンやパルスデトネーションエンジンに関する多くの研究論文・レビュー論文(6)〜(9)が見られる.また,燃焼波の伝ぱが亜音速のデフラグレーションから超音速のデトネーションの状態へ遷移(DDT: deflagration to detonation transition)する現象は,安全工学やデトネーションエンジンの開発の面で明らかにされなければならない現象として活発に研究されており,流路壁に設置したキャビティ(10)または流路中の障害物(11)がDDTに及ぼす影響を調べた研究や速やかにDDTを起こすための研究(12)が見られる.
大気圏再突入機の前方に生じる衝撃波背後に現れる解離・電離などの化学反応が起こる高温プラズマ流に,強い磁場をかけて電磁流体の性質を利用して制御することで空力加熱を低減する方法が近年活発に研究されている.この制御法が実用化されれば,現在のアブレータを用いた手法では困難であった再突入機の再利用や過酷加熱環境下での熱防御が可能になる.この制御法において数値解析により磁石のサイズや位置が衝撃波や空力加熱低減効果に及ぼす影響を議論した研究(13)がある.また,この制御法を実験により実証するには極超音速気流中に高い磁束密度の磁場を安定的に発生させる必要があるが,これを実現するために高温超伝導磁石を導入した大型風洞もドイツ航空宇宙センター(DLR)にて開発されている(14).
〔半田 太郎 豊田工業大学〕
7.7 流体音
流れに起因する流体音については,2024年も国内外において活発に研究が行われた.流体関連騒音・振動に関する国際学会The 30th International Congress on Sound and Vibration(ICSV 30)が,2024年7月にオランダ(アムステルダム)にて開催され,約600件の講演のうち特に流体音に関するものが67件発表された.フランス(ナント)で開催されたThe 53rd International Congress and Exposition on Noise Control Engineering(Inter-noise2024)では流体音に関連した講演が56件あった.日本機械学会の講演会では,年次大会において流体音関連の発表が11件,第34回環境工学総合シンポジウム2024では12件の発表があった.他学会においても,ターボ機械協会第90回総会講演会,日本流体力学会の年会および数値流体力学シンポジウムにおいて,計10件の流体音に関連する発表がなされた.国際ジャーナルでは,空力音(aeroacoustics)に関連した流体現象について,Physics of Fluids,Journal of Fluid Mechanicsではそれぞれ約20報,Journal of Sound and Vibrationでは約40報,AIAA Journalでは約30報,Transactions of the ASME,Journal of Fluids Engineeringでは約5報,The Journal of the Acoustical Society of Americaでは約25報の論文が2024年に発表された.
発表内容は,空力音の計測・評価手法,数値解析手法,これらを用いた空力音現象の解明,空力音の低減技術および最適化技術に関する研究などに分けられる.実験手法に関しては,ビームフォーミング(1–3)やシュリーレン法(4)などを用いた音場や音源の同定方法,感性を考慮した騒音の評価方法(5,6)が活発に研究されている.空力音の数値解析としては,直接的に流れと音を圧縮性Navier–Stokes方程式に基づき解く手法(7),格子ボルツマン法(LBM)に基づく手法(8)が用いられている.また,音響学的アナロジーを用いた研究も多く,近距離圧力場からFfowcs Williams–Hawkings法により遠方音場を予測する手法(9),流体解析より求めた音源を基にLighthill方程式を解き音場を求める手法(10)が研究されている.
空力音現象の解明として,乱れの影響を受ける翼からの騒音発生機構に関する研究(11),溝部(キャビティ)周りの空力音響場の解明(12,13),衝突噴流による発生音(14),圧力こう配が空力音の発生に及ぼす影響(15,16)などに関して研究がなされている.特に近年,ドローンなどの無人航空機の開発が活発化しており,複数のロータ周りの流れからの発生音(17,18)に関する研究が活発になされている.オリフィスを通る流れからの発生音(19,20),圧縮機やファンからの発生音(21,22)に関しても継続的に研究がなされている.
騒音低減手法に関しては,物体壁面の一部を多孔質材(23,24)や弾性壁(25)とする手法,対象とする物体の近傍に別の物体(ロッドや翼など)を設置し空力音源を制御する手法(26,27)が議論されている.音波の通る管路に対しては,微細構造を有する吸音ライナーの開発(28,29),共鳴管の設置による騒音低減手法(30)などが研究されている.また,生物の構造を参考にした物体形状を用いて低騒音化を図る技術(バイオミメティクス)(31,32)も研究されている.能動的に流体音源を制御する手法として,壁面からの吹き出しもしくは吸い込みを用いた制御(33,34),電気的に流れを制御できるプラズマアクチュエータを用いた手法(35,36)についても研究が進んでいる.
空力的特性と静粛性を同時に達成するための設計の最適化に関しても活発に研究がなされている.壁面摩擦抵抗の低減と音波の減衰を両立させる音響ライナーの設計(37),随伴解析に基づく翼の抗力と騒音の低減に向けた形状最適化(38)などの研究がなされた.近年の機械学習の発達を背景に,サロゲートモデルを用いた無人航空機の空力特性と静粛性の最適化(39),ニューラルネットワークと遺伝的アリゴリズムを活用したサボニウス風車の形状最適化(40)などが報告されている.
〔横山 博史 豊橋技術科学大学〕
7.8 再生可能エネルギーの利用
再生可能エネルギー発電容量は,2030年までに,世界各国の導入目標において2.7倍に増加と予想されており,さらに,COP28において,2030年までに,2022年を基準として3倍となる目標が掲げられている(1).再生可能エネルギー利用は,電力供給,再生可能燃料などがあげられる.我が国においても,COP28に先立って2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され,再生可能エネルギーの主力電源化が今後の対応として挙げられている(2).現在,導入が期待されている再生可能エネルギーは,主に電力供給の風力発電と太陽光発電である.太陽後発電は,2020年代末には,風力発電と水力発電の合計を超え,2027年には,太陽光発電は,風力発電を超え,電力における再生可能エネルギーの割合は2023年の30%から2030年には46%に拡大すると予測されている(3).このため,これらに関連する産業は大幅な成長が期待される.風力発電は,現在,主要な再生可能エネルギーとして大規模導入が進んでいる.世界の風力発電の設備容量は,陸上風力945.5GWで,2023年における増加は105.8GW,一方,洋上風力は75.2GWで増加は10.8GWである.日本における設備容量は陸上5026MW,洋上188MWに達している(4).風力発電のLOCE(Levelized Cost Of Electricity)は他の化石燃料発電と競争力を持つレベルとなり,多く導入されている.
風力発電の研究は,現在,大量導入が期待される洋上風力に関するものが多い.洋上風力は,設置海域の水深による着床式,浮体式に分かれ,特に現在,浮体式風力発電に関わる研究が進められている(5,6).風力発電のLOCEは,サイトの風況に大きく依存するので,洋上での風況観測に関わる研究(7,8)も行なわれている.また,風車運用にかかわるコストは,陸上風車のLOCEの約20%であり,O&M(Operation & Maintenance)に関わる研究開発(9)が進められている.
風況精査は,一般に,風車設置地点でハブ高さに相当する高度で風速観測を行う.風速観測塔の設置にも多くの時間およびコストがかかるので高層大気のシミュレーションを活用する方法が検討されている.後藤ら(7)は,WRFシミュレーションを用いて短期間の現場観測から年間風況を推定する手法を評価している.邉見ら(8)は,WRFシミュレーションを用いた年間発電量の推定誤差を評価している.これら,シミュレーションによる風況精査は今後大いに精度を向上させ活用されるものと思われる.
洋上の風は,平坦な海面上を流れてくるため,変動の小さい安定した風となる.安定した風は,風車に作用する荷重変動を小さくし,安定した発電出力を生み出す.一方で,洋上風力発電所は,複数機の風車を効率的に配置され運用される.このため,風向によっては,上流側の風車を通過した流れが,下流側の風車へ流入することがある.このような流れをWakeと呼び,このWakeは下流側風車の発電量の低下,変動荷重の増加を引き起こす.特に変動分の少ない風で運転される風車のWakeは,乱れた風の中でのWakeに比べ,下流側に長く残る.風力発電所では,Wakeの詳細な検討が必要である.この実機風車のWakeを実測する試みもなされている.内田ら(10)は,UAVを用いて洋上で運用されている風車の後流観測を試みている.谷山ら(11)は,デュアルスキャニングライダーを用いて洋上風力発電所でWake観測を行っている.内田らは,浮体式風車を含む日本型風車Wakeの研究(12-14)を進めてきている.実機風車Wakeの知見は,より効率的は風車配置,風車運用に大きく貢献できる.今後,風力発電はより経済性のある再生可能エネルギーとして,導入が加速され,再生可能エネルギーの主力電源化に貢献できると期待される.
〔鎌田 泰成 三重大学〕
7.9 非ニュートン流体
非ニュートン流体は,粘性と弾性を有する流体である「粘弾性流体」と外部刺激により特定の性質・機能を示す流体である「機能性流体」とに大別できる.また,非ニュートン流体は内部構造の複雑さや変形に着目した場合には「複雑流体」とも言われ,そのレオロジー特性が複雑なゆえに,単純な流れ場であっても特異な流れ挙動を示す.ここでは,高分子水溶液や界面活性剤水溶液,コロイド溶液に代表される非ニュートン流体とレオロジーに関する最近の研究動向を紹介する.
まず,最近の海外動向について,レオロジーに関する国際会議であるThe XIXth International Congress on Rheology(ICR2023)がギリシャのアテネで開催されたことが挙げられる.ICR2023は4年に一度開催されるレオロジーに関する最大規模の国際会議であり,15のTechnical Sessionから成る.その中でも,「Non-Newtonian Fluid Mechanics」は発表件数が50を超える最大規模なOSであり,レオロジー分野において盛んな研究分野であると言える.ICR2023の詳細な分析が土肥(1)によりなされているが,機械学習やAI,サステナビリティといった最近の研究動向を捉えたセッション(例えば,「Machine learning and AI in rheology」)が特徴として挙げられている.また,ICRと同様に4年に一度開催されるレオロジーに関する大規模な国際会議である8th Pacific Rim Conference on Rheology(PRCR2023)がコロナ禍の延期を経てカナダのバンクーバーで開催された.13のTechnical Sessionから成り,「Non-Newtonian Fluid Mechanics and Stability」のセッションにおいて,複雑流体の複雑流動などの最新研究がキーノートを含めて20件発表された(2).PRCRは,Asia-Pacific Rim Conference on Rheology(A-PRCR)と名称が変更になり,2025年7月にはA-PRCR2025が神戸で開催される.国内において最新の非ニュートン流体の研究動向を知る良い機会になると思われる.さらに,理論応用力学分野の最も長い歴史と権威のある国際会議であるInternational Congress of Theoretical and Applied Mechanics(ICTAM)の100周年にあたるICTAM2024が韓国のデグで開催された.「Non-Newtonian and complex fluids」のセッションでは25件の発表がなされ,特に,G. H. McKinley教授(MIT)による弾性-慣性乱流(Elasto-Inertial Turbulence,EIT)(3)に関するPlenary lectureがなされたのは注目に値する.
次に,2024年度の国内の動向に目を向けると,日本機械学会の年次大会においては,OS「複雑流体の流動現象」が,流体工学部門講演会においては,OS「非ニュートン流体の流動現象」と「流れの制御・抵抗低減」が継続的に企画されている.また,日本流体力学会の年会2024においては,OS「非ニュートン」において,粒子流・溶岩流・気泡流など幅広いトピックスについて17件の発表がなされている.さらに,2025年には,The Eleventh JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference (TFEC11)が沖縄で開催予定であり(4),「Complex Fluids」のセッションでは粘弾性流体と機能性流体の双方からの議論が期待される.
最後に,ごく最近のジャーナルに関して幾つか紹介する.まず,弾性不安定性(Elastic Instability,EI)や弾性乱流(Elastic Turbulence,ET)に関する詳細なレビューが報告されており(5),非ニュートン流体の研究におけるこの分野の基礎から応用までの発展を予感させるものである.また,数値計算については,乱流中のポリマー伸長と配向に関する研究(6)が,実験に関しては,3D-PTV計測による抵抗低減境界層流れにおける3次元渦構造に関する研究(7)が先導的である.
以上,非ニュートン流体に関して,AIや機械学習を駆使して複雑挙動を解明する研究や,ETやEITなどの複雑流体中の乱流現象に関する研究など,今後も非ニュートン流体の新しい研究分野が展開していくものと予想される.
〔玉野 真司 名古屋工業大学〕
7.10 流体計測・可視化
2024年発行の日本機械学会論文集(第90巻)(1)およびJournal of Fluid Science and Technology(Vol.19)(2)に掲載された論文中,約3分の1は実験に関する報告で,そのデータの信頼性を支えるのが流体計測技術ということになる.また,今日では画像装置と画像処理技術の発展が相まって,粒子画像速度計測法(Particle Image Velocity,PIV)による流体計測の結果報告が大半を占めるようになってきている(3).これは決してネガティブな意味ではなく,そこで蓄積された画像解析技術が光切断によって可視化された画像の解析だけでなく,様々な手法で直接間接に可視化された流れの分析に貢献している.ここでは,Experiments in Fluids(4)で特別のセクションを設けて,論文投稿を受け付けている2つの技術について,紹介する.一つは,背景シュリーレン(Background-Oriented Schlieren,BOD)であり,可視化された部分の密度勾配を画像数値的処理で評価できるようになり,これまで分析対象がレンズや鏡などの光学系の大きさに制約されていたものが,かなり大きな対象まで流れ場を分析できるようになった.もう一つは感圧塗料(Pressure-sensitive Paint,PSP)・感温塗料(Temperature-sensitive Paint,TSP)である.近年,時間応答性のよい塗料も開発され,画像解析技術と相まって,表面近くの流れのダイナミクスも観察できるようになった.可視化技術は機械学習とも相性がよく,相乗的な発展が今後期待される.
流れ場の可視化計測に関するシンポジウムとして,可視化情報学会の主催,日本機械学会等の協賛により可視化情報シンポジウムが毎年開催されている.2024年には7月19日~21日の会期にて第52回可視化情報シンポジウムが沖縄県那覇市で開催され,263件の講演発表があった(5).2024年7月8日~11日には恒例のthe 21st International Symposium on Applications of Laser and Imaging Techniques to Fluid Mechanics がポルトガル・リスボンで開催された(6).2025年は,東京で6月21日~25日にthe 21st International Symposium on Flow Visualization(ISFV21)(7),6月26日~28日にthe 16th International Symposium on Particle Image Velocimetry(ISPIV2025)(8)が立て続けに開催される.秋には11月4日~7日の会期でオランダ・デルフト工科大学にてthe 17th International Conference on Fluid Control, Measurements, and Visualization(FLUCOME2025)が開催される(9).
流体計測関連の国際会議では,国際計測連合(IMEKO),計測自動制御学会,産業技術総合研究所共催で2026年17日~20日にthe 20th International Flow Measurement Conference(FLOMEKO2026)の開催の案内が出ている(10).実験流体力学で流体計測技術は実現象の可視化から流動理論の検証までを支える重要な位置を占めており,計測技術の開発・発展と情報交換が継続して活発に進められるであろう.
〔牛島 達夫 名古屋工業大学〕
7.11 データ駆動科学と流体工学
AIや機械学習の技術は進歩を続け,近年は流体工学分野へも本格的に導入されている.数値流体力学(CFD)や実験的手法とのハイブリッドアプローチにより,乱流解析・最適化・制御・設計など,多岐にわたる応用が可能になってきた.本節では,データ駆動科学と流体工学の最新動向として,主に国内外の学会および関連ジャーナル論文で見えてきた潮流を概観し,注目技術と今後の課題を述べる.
国内の主要学会や講演会でも「データ駆動科学」「AI・機械学習」をテーマに掲げるセッションが増加傾向にあり,流体工学への応用例も多様化している.日本機械学会 流体工学部門講演会では,専用セッションの有無にかかわらず機械学習を活用する研究発表が見られ,日本機械学会 第37回計算力学講演会(CMD2024)では「逆問題とデータ同化」「サロゲートモデルによる解析・最適化」など,データ駆動技術と流体解析の関連が深いオーガナイズドセッションが4件開催された.流体力学講演会/航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウムでは「航空宇宙流体データ科学の新展開」と題したセッションが組まれ,日本流体力学会 年会でも「AIと流体力学」が毎年立ち上がっている.数値流体力学シンポジウムの「流体データの処理と活用」でも,可視化やプリ/ポスト処理から派生し,機械学習によるデータ補間・解析のテーマが発表されている.また米国物理学会流体力学部門講演会(APS-DFD)でも「Low-Order Modeling and Machine Learning in Fluid Dynamics」や「Machine Learning in Fluids」を冠した複数のセッションが細分化され,低次元モデルと機械学習の融合や,データ駆動型の乱流モデル開発,設計最適化・制御への応用など幅広いトピックスが取り上げられている.サロゲートモデルやベイズ推定といったキーワードが随所で登場する点からも,機械学習やニューラルネットワークを用いた流れ場予測・制御が海外の主要研究トピックに定着している.このように,国内外の主要学会では大小問わず“AI・機械学習”や“データ駆動科学”を掲げるセッションが常設化しつつあり,データ駆動科学が「特別なテーマ」から「汎用的なツール」へと移行しつつある現状がうかがえる.
国内外の研究課題から流体工学におけるデータ駆動アプローチは,大きく二つの目的に分けられる.一つは,既に支配方程式や数値解法が確立している分野で数値シミュレーションを高速化するための代替モデル(サロゲートモデル)を構築するアプローチ(1)である.これにより,計算コストの高い乱流や燃焼問題などを効率的に予測し,最適設計(2)やリアルタイム制御(3)に活かしやすくなる.もう一つは,まだ十分にモデル化されていない複雑現象に対して,実験や高精度シミュレーションデータを機械学習で分析し,未知のメカニズムや現象を「発見」するアプローチ(4)である.さらに,機械学習との統合度(物理法則をどの程度組み込むか)にも幅がある.Physics-Informed Neural Network(PINN)のように支配方程式や境界条件を学習プロセスに組み込み,物理的整合性を重視する手法(5)と,ブラックボックス型の深層学習で大規模データを直接学習する手法(6)では,モデルの汎用性や外挿能力が異なる.また,サブグリッドレベル(7)から流れ場全域まで,どのスケールで学習を適用するか,あるいはDNS/PIVのように膨大なデータが得られる場合(8)と限られたセンサ情報しかない場合(9)など,利用可能なデータ量によってもアプローチが変わる.今後の発展には,これら多角的な視点を踏まえ,目的と現象の特性に応じたデータ駆動科学導入のバランスを見極めることが不可欠である.
さらに,近年注目を集めているのが,言語モデルに代表される基盤モデルの発想である.大規模データで事前学習された汎用モデルを,様々な下流タスクに展開するアプローチは流体科学にも波及し,例えば気象予報の分野では“GraphCast/GenCast”のようにグラフニューラルネット+Transformerを組み合わせて複数の気象変数の統合予測(10,11)が報告されている.基盤モデルのアプローチには学習に膨大な計算リソース・データが必要なうえ,モデルの解釈や検証も容易ではない.そのため現段階ではコンセプト的な要素が強いが,「一つのモデルであらゆる流体工学問題にアプローチする」というビジョンは大きな魅力を持ち,長期的な研究方向として議論が加速している.
〔菊地 亮太 名古屋大学/DoerResearch株式会社〕