8.熱工学
8.1 伝熱および熱力学
8.1.1 概説
2024年の社会の特徴を一言で述べるとするならば,”物価高“に尽きるのではないだろうか.店頭に並ぶ米の価格は,2024年年初と比較すると2024年末においては,およそ2倍(1)の価格になっているだけでなく,天候不順などに起因した生鮮食品の価格も不安定な状況であった.また,2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻に伴って,燃料の価格高騰も続いており,ガソリンや電気料金も政府の補助金による価格抑制で落ち着きを保っているものの,今後の値上げが予定されている.
世界規模でのエネルギー供給の不確実性や2050年に向けたカーボンニュートラルの実現を背景として,資源エネルギー庁は,「省エネルギー・非化石エネルギー転換技術戦略2024」を策定し(2),脱炭素社会実現に向けた更なる省エネルギー技術の研究開発や社会実装の促進を目指している.また,本誌2024年1月号に,2030年,2050年に向けた技術ロードマップに関して概説されており(3),その中では,新しいエネルギー源の開発,持続可能なエネルギーシステムの構築,持続可能なエネルギー供給における貯蔵技術の革新などが謡われており,これらの分野には熱工学の果たす役割は極めて大きい.これらの基礎研究,研究開発の進展のためには,学会などでの研究者間の交流が極めて重要なことは言うまでもなく,学会での研究発表を通して,これらの研究課題に繋がる取り組みを垣間見ることができる.ここでは,2024年に開催された熱工学分野の活動内容を中心に概観する.
2024年10月5~6日の二日間,日本機械学会熱工学部門主催の熱工学コンファレンス2024(4)が,山口市KDDI維新ホールで開催された.オーガナイズドセッションとして,「外燃機関・排熱利用技術」,「乱流伝熱研究の進展」,「燃料電池・電解・二次電池関連研究の新展開」,「マイクロエネルギーの新展開」,「熱工学からみたバイオマス変換の新展開」,「沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展」,「濡れ性制御と液滴ダイナミクス」,「ナノスケール熱制御」など,14件のセッションが実施された.中でも,発表件数の多い順に「未来型エネルギー変換・推進システムのための燃焼研究」で28件,「多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応用」で23件,「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント」で22件の発表がなされた.熱機関での動力の取り出しに直結する燃焼研究,多孔質体を用いた熱機器の特性,電子機器を対象とした熱制御という,喫緊の課題に対する研究が多くみられた印象である.
2024年12月15~19日には,日本機械学会熱工学部門が幹事学会として,第3回環太平洋熱工学会議(The 3rd Pacific Rim Thermal Engineering Conference,PRTEC2024)が,米国ハワイ州オアフ島で開催された(5).この会議は,1983年から4年ごとに日米で実施されてきた日米熱工学合同会議が2016年に新たな枠組みに変更され,第1回環太平洋熱工学会議としてハワイ州ハワイ島で実施され,第2回が2019年12月にハワイ州マウイ島で開催されたことに続く,第3回として実施されたものである.第2回の直後にCOVID-19のパンデミックにより,様々な活動に規制がかかり,各国の往来も難しくなったため,5年ぶりの開催となったものである.「Convective Heat and Mass Transfer」,「Phase Change Phenomena and Heat Transfer」,「Radiative Heat Transfer」,「Thermo-Physical Properties」といった熱工学の基礎的な現象に関するセッションの他,「Fundamentals in Combustion」,「Heat and Mass Transfer in Energy Devices」などの熱機器に関連したものなど,16のセッションが実施され,キーノートなどと合わせて約230件の講演発表が行われた.各セッションの発表件数を2019年に実施されたPRTEC2019の発表件数(6)と比較して,表8-1-1に示す.第2回とは発表件数に違いがあることから,割合も併せて示している.研究活動にも制約があったこの5年において,研究対象や研究方法の変更を余儀なくされた研究者も少なくない中で,研究分野にも変化や偏りが生じる可能性も考えられた.しかしながら,結果的には,各分野の割合に大きな変化はなく,制約の多かったこの5年,各研究者がそれぞれの研究分野の発展のために努力されてこられたのではないかと思う.以前と変わらず,熱機器に関する研究,沸騰・凝縮などの相変化に関連する発表が多く,省エネルギーを目的とした要素技術の発展に寄与する研究が目立つ.
2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップに示された主課題の一つに,「材料開発と熱工学的最適化」が挙げられている.従来のような,熱・物質の輸送機構の解明だけでなく,材料科学,分析技術,化学反応などを含めた広範囲な視点での取り組みが要求されている.さらには,熱工学分野で培ってきた熱工学的最適化をそれらの視点に組み合わせることにより,更なる省エネルギー,エネルギー効率の向上,持続可能なエネルギー源の開発を目指すことが期待されている.
表8-1-1 PRTEC2019とPRTEC2024での各セッションでの発表件数(5),(6)
| セッションタイトル | 2019 | 2024 |
| 対流・衝突流・熱輸送促進・冷却 | 56(13.2%) | 24(10.8%) |
| 数値解析 | 44(10.4%) | 24(10.8%) |
| 沸騰・凝縮・ヒートパイプ | 55(13.0%) | 37(16.6%) |
| ふく射 | 12(2.8%) | 6(2.7%) |
| バイオ | 6(1.4%) | 8(3.6%) |
| 計測・診断技術 | 12(2.8%) | 4(1.8%) |
| 製造技術 | 12(2.8%) | 6(2.7%) |
| 熱物性 | 18(4.3%) | 6(2.7%) |
| 燃焼・火炎・着火・消火 | 25(5.9%) | 13(5.8%) |
| 燃焼器・システム | 15(3.5%) | 10(4.5%) |
| 内燃機関 | 13(3.1%) | 5(2.2%) |
| エネルギー変換・熱交換器・燃料電池・蓄熱 | 84(19.9%) | 32(14.3%) |
| 冷凍・空調 | 20(4.7%) | 19(8.5%) |
| ナノ・分子スケール輸送 | 18(4.3%) | 16(7.2%) |
| MEMS | 8(1.9%) | 5(2.2%) |
| 計 | 423 | 223 |
〔熊野 寛之 青山学院大学〕
8.1.2 熱物性
熱物性は科学技術における知的基盤情報としての役割を担っている.本稿では2024年に開催された国内講演会・国際シンポジウムにおける研究発表,および学術誌の掲載論文について概観したい.
日本熱物性学会主催の第45回日本熱物性シンポジウム(1)が2024年10月28日~30日の日程で,新潟県長岡市で開催された.高温融体と材料プロセス,宇宙に関わる熱物性と制御,ナノスケール熱物性の評価といった8つのオーガナイズドセッションに加え,流体および固体の熱力学性質・輸送性質,ふく射性質をはじめとする8つの一般セッションについて,合計96件の講演論文が発表された.また,本会から新しく混合物質の熱物性のセッションが立ち上げられた.また,日本熱物性学会では,オンラインによるセミナーシリーズ第6回「液体構造と熱物性」,第7回「高温融体物性と材料プロセス」を開催した.
本部門が主催する熱工学コンファレンス2024(2)が2024年10月5日~6日に山口県山口市で開催された.現在は熱物性と銘打ったオーガナイズドセッションは開催されていない.しかし一般セッションの他,電子機器・デバイスのサーマルマネジメント,凝固・融解を伴う伝熱と流れ,ナノスケール熱制御といったオーガナイズドセッションにおいてサーモリフレクタンス法,セミクラスレートハイドレート他を対象とした熱物性に関する研究が報告されている.
日本伝熱学会主催の第61回日本伝熱シンポジウム(3)が2024年5月29日~31日に兵庫県神戸市で開催された.国際ワークショップ(International Workshop for Sustainable Energy Conversion Systems 2024,IWSEC2024)との併設開催となった.一般セッション「熱物性」での講演は3件のみであったが,優秀プレゼンテーション賞セッションでも熱物性に関する研究報告がなされた.熱工学コンファレンスや日本伝熱シンポジウムでは,熱物性に関する研究報告がやや減少傾向にあるように感じる.一方,化学工学会主催の年会(4)(3月18日~20日)や秋季大会(5)(9月11日~13日)では,基礎物性のセッション,部会シンポジウムにおいて,相平衡,密度,粘度といった熱物性に関する研究が30件程報告されており,機械系分野とはまた異なった視点からの研究報告がなされているところは非常に興味深い.
2024年度冷凍空調学会 年次大会(6)が9月3日~6日に九州産業大学(福岡県福岡市)で開催された.冷媒の熱物性は冷凍サイクル計算に必要不可欠であり,地球温暖化への影響が小さい,新しい冷媒候補物質の熱物性測定,モデリングおよび潤滑油との溶解性に関する研究が計12件報告された.
2024年の国際会議においては,第22回アメリカ熱物性会議(Twenty-Second Symposium on Thermophysical Properties,STP)(7)が6月23日~28日にかけて,いつものコロラド州ボルダー,コロラド大学ボルダー校で開催されたことが大きなトピックとして挙げられる.熱物性と題する国際会議は,アメリカ熱物性会議,アジア熱物性会議(Asian Thermophysical Properties Conference,ATPC),ヨーロッパ熱物性会議(European Conference on Thermophysical Properties,ECTP)と毎年順番に開催されており,中でもアメリカ熱物性会議は最も大きく,主に米国NIST(National Institute of Standards and Technology)が運営に携わっている.第22回の今回は,Eighteenth International Conference on the Properties of Water and Steamとの併設開催で,コロナ禍でオンライン開催であった前回から久しぶりの対面開催となり,24のセッション,389件の口頭発表と99件のポスター発表があった.また,ソフトウェアのデモンストレーションも行われた.近年では液相を含め,流体の音速測定の不確かさがかなり小さくなってきており,盛り上がりを見せていて,音速と題する研究報告だけでも12件あった.
第3回アジア熱科学会議(Third Asian Conference on Thermal Sciences,ACTS2024)(8)が2024年6月23日~27日に中国上海で開催された.ACTSでは21のセッションが設けられ,Thermophysical Properties and Measurementsのセッションがあり,アメリカ熱物性会議と同日での開催となってしまったが,流体物性における研究報告が比較的多いアメリカ熱物性会議に対し,本会議では,サーモリフレクタンス法や薄膜をはじめとするKeynoteを含めた14件の熱物性に関する論文が発表された.
本部門が韓国機械学会(KSME)および米国熱流体学会(ASTFE)と主催する第3回環太平洋熱工学会議(The Third Pacific Rim Thermal Engineering Conference,PRTEC2024)(9)が12月15日~19日に米国ハワイで開催された.コロナ禍の影響等により開催が1年延期となり,第2回(2019)から5年ぶりの開催となった.Thermophysical Propertiesのセッションがあり,コバルトアンチモン化物印刷熱電薄膜の熱電特性やイオン液体を用いた吸収前後のR22冷媒含有量の実験的比較といった計5件の発表があった.
熱物性学会の学会誌「熱物性」においては,2024年に,自然対流下で成長する霜層のみかけの密度,短波長赤外顕微分光法による水分子回転緩和時間の二次元分布測定,2光子マイクロ光造形とフェムト秒レーザアブレーションを用いた熱駆動ソフトマイクロアクチュエータ作製の基礎検討,ふく射伝熱を利用した熱バリスタといった4報の論文が掲載された.
熱物性に関わりの深い国際誌に関しては,Journal of Physical and Chemical Reference Data,The Journal of Chemical Thermodynamics,Journal of Chemical & Engineering Data,Fluid Phase Equilibriaなど多数存在するが,International Journal of Thermophysics誌は査読期間が短く,上述の3大国際熱物性会議に合わせて,論文賞(Ared Cezairliyan Best Paper Award)を贈呈するなど,その存在感が高まっている.実験において不確かさまでしっかり評価した論文が受賞している傾向が伺える中,2024年はCCS(Carbon Capture and Storage)を対象とした混合系に対するHelmholtz自由エネルギーを用いた高精度状態方程式の論文が受賞した.なお,IJTでは2024年に177件の論文が掲載された.
〔迫田 直也 九州大学〕
8.1.3 伝熱
2024年の関連研究の動向を概観するために,この分野の代表的な学術雑誌であるASMEのJournal of Heat and Mass Transfer(Vol.146, Issue 1-12)(2022年までJournal of Heat Transferとして刊行)にて発表された論文のトピックスを調査した.また,国内雑誌として日本機械学会論文集(90巻 929~940号)および機械学会熱工学部門と日本伝熱学会が共同編集を行う論文誌Journal of Thermal Science and Technology(JTST Vol.19, Issue 1-2)で発表された論文のうち伝熱に関するものを抽出し,同様の分類を行った.以上三誌の結果を表8-1-2にまとめる.本記事および表8-1-2は,分類のカテゴリーも含めて機械工学年鑑2020~2024における「伝熱」の小節に合わせて作成した.
表8-1-2 伝熱関係の主要論文誌と分野別論文数(2024)
| ASME J. Heat Mass Transfer | 日本機械学会論文集 | J. Thermal Sci. Tech. | |
| 多孔質 | 4 | 1 | 1 |
| 強制対流 | 14 | 0 | 0 |
| マイクロ・ナノ伝熱 | 3 | 1 | 1 |
| 二相流と伝熱 | 7 | 2 | 0 |
| 蒸発・沸騰・凝縮 | 21 | 1 | 1 |
| 熱伝導 | 16 | 0 | 0 |
| 伝熱促進 | 1 | 0 | 0 |
| 熱交換器 | 6 | 1 | 1 |
| 噴流・後流・衝突冷却 | 8 | 0 | 0 |
| 自然対流・共存対流 | 9 | 0 | 1 |
| ふく射伝熱 | 5 | 0 | 1 |
| 生体の熱・物質移動 | 5 | 1 | 0 |
| 実験技術 | 2 | 1 | 0 |
| 融解・凝固 | 12 | 0 | 0 |
| 電子機器冷却 | 4 | 0 | 1 |
| 生産における伝熱 | 1 | 0 | 0 |
| 熱・物質輸送 | 2 | 0 | 0 |
| 冷凍・空調 | 0 | 0 | 1 |
| 燃料電池・反応 | 0 | 0 | 1 |
| モデリング・最適化 | 2 | 0 | 2 |
| 熱システム | 2 | 0 | 0 |
| 燃焼 | 2 | 3 | 10 |
| その他 | 13 | 1 | 0 |
| 合計 | 139 | 12 | 21 |
2024年のASME Journal of Heat and Mass Transferの論文総数(review article,technical brief,special papersを含む)は139件であった.表8-1-2は掲載誌のカテゴリーに基づいた集計結果であり,複数のカテゴリーに跨る論文の集計で偏りが生じ易い点に注意されたい.掲載論文が多かったカテゴリーは「蒸発・沸騰・凝縮」,「熱伝導」,次いで「強制対流」.「融解・凝固」,「その他」の順となった.なお,「その他」はガスタービンの冷却に関わる論文がその多くを占めた.2024年に論文数が顕著に増加したカテゴリーは,「熱伝導」と「融解・凝固」で,前者は薄膜多層体の逆問題や移動境界を伴う順問題や逆問題の解析的解法,後者は相変化材料を用いた電子機器やバッテリーの熱マネージメントに関する論文であった.全体を通して,EV搭載電池の冷却,スマート電子機器の省スペース熱輸送デバイス,表面改質による沸騰伝熱制御,ガスタービン関連の研究が活発であることが窺えた.また,近年様々な工学問題への応用が進む機械学習や深層学習などのAI技術を用いた研究に注目すると,画像認識,熱設計最適化,数値計算結果からの学習モデル生成など4件が報告された.さらに幅広く研究動向を探るためにScience Direct社のScopusを用いて2024年のInternational Journal of Heat and Mass Transfer(IJHMT)とApplied Thermal Engineering(ATE)誌に掲載されたResearch articles,それぞれ1,299件と2,721件を対象に”Machine learning” or “Deep learning”でキーワード検索すると,42件と60件がヒットした.IJHMT誌42件のトピックスを分類すると,沸騰【9】,分子動力学【5】,CFD【4】,熱交換器【3】(【 】内は論文件数)が上位を占めた.沸騰分野では沸騰熱伝達率データベースを用いた機械学習モデルによる熱伝達率の予測だけに留まらず,限界熱流束(CHF)や極小熱流束(MHF)の予測への展開,既知の支配パラメータや整理式などの知見を埋め込んだ機械学習モデルで従前の予測式を上回る予測精度が得られる(1)などの報告もあった.AI技術が物理モデルの構築が難しい伝熱研究分野での予測手法として,実用的に有用となっている.
日本機械学会論文集の伝熱関連掲載論文は12報であり,水素混焼やエンジンシステム,自励振動ヒートパイプ熱輸送特性,吸湿材充填層の減圧乾燥,電解析出多孔質面上のプール沸騰限界熱流束促進,地中熱熱交換器の採熱特性,配管漏洩蒸気による人体の熱傷評価などが報告された.また,JTSTの掲載論文は21報であり,最多の燃焼研究以外に微小構造面上の沸騰伝熱促進,自然対流モードの分岐・安定性,SOFC多孔質電極のガス透過率評価,固体相変態蓄熱体を用いたスマートデバイスの熱マネージメント性能の評価などの報告があった.近年日本機械学会論文集は,掲載論文数を減らしたが,コロナ禍以前に30報前後あった水準への回復が遅れている.また,JTSTの特長として水素専焼・混焼,バイオマス燃料などカーボンニュートラル見据えた燃焼研究の報告が多い.
続いて,国際会議における研究発表の状況について概観する.主な会議として3rd ACTS(第3回アジア熱科学会議),NanoRad2024(第5回ナノ・マイクロ熱ふく射国際ワークショップ)(2),MNHMT2024(第7回ASMEマイクロナノ熱物質輸送国際会議),ExHFT-10(第10回実験熱流体国際会議),PRTEC2024(第3回環太平洋熱工学会議)(3)が開催され,コロナ禍で中止・延期が続いた国際会議も漸く正常開催サイクルに戻った.ここでは3年延期後の2024年8月26日から30日までギリシャ・ロードス島で開催されたExHFT-10(4)について触れたい.日本からも多数の参加者を集めた本会議では,プレナリー5件,キーノート8件,ポスター41件,オーラル123件,合計177件の発表が行われた.低重力や低GWP冷媒の沸騰・凝縮伝熱,高温材料・生体のクエンチ冷却,二相流,液滴,相変化材料の凝固融解,太陽熱など幅広いトピックスに加えて,伝熱計測技術としてPIV,IRカメラ,レーザー誘起蛍光,超音波,感温ペイント(TSP)を用いた不均一・非定常な場の温度・速度・ボイド率分布計測法に関する多くの発表が行われた.
最後に国内会議の状況について概観する.2024年5月29日から5月31日の日程で第61回日本伝熱シンポジウムがInternational Workshop for Sustainable Energy Conversion Systems 2024との併催で神戸国際会議場において開催された(5).オーガナイズドセッション(OS)では「液滴・濡れ現象の制御と理解【21】」,「水素・燃料電池・二次電池【20】」,「燃焼伝熱研究の最前線【18】」,「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進【18】」,「乱流を伴う伝熱研究の進展【14】」,「化学プロセスにおける熱工学【10】」,「ふく射輸送とふく射性質【10】」,「バイオ伝熱【16】」の8セッション127件が発表された.一般セッション(GS)では「沸騰・凝縮【30】」,「電子機器の冷却【21】」,「ナノ・マイクロ伝熱【18】」,「分子動力学【14】」,「融解・凝固【11】」,「強制対流【9】」,「空調・熱機器【8】」,「自然対流【6】」,「計測技術【6】」,「ヒートパイプ【6】」,「物質移動【4】」,「多孔体内の伝熱【4】」,「自然エネルギー【4】」,「混相流【3】」,「熱物性【3】」の15セッション288件が発表された.さらに,優秀プレゼンテーションセッションとして54件のポスター発表が行われた.OSでは「液滴・濡れ現象の制御と理解」,「水素・燃料電池・二次電池」,「燃焼伝熱研究の最前線」,「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進」,GSでは「沸騰・凝縮」,「電子機器の冷却」,「ナノ・マイクロ伝熱」が多くの講演数を集めた.濡れ現象と関連が深い相変化伝熱,カーボンニュートラル,コンパクト熱輸送素子,分子動力学に関わる分野が多くの研究者の関心を集めていることが窺え,この傾向は先に述べた学術誌の論文数の傾向ともほぼ一致している.
熱工学コンファレンス2024は,2024年10月5日と6日の二日間山口市のKDDI維新ホールで開催された(6).15のOSのみで企画された本会議では,発表件数が多い順に「未来型エネルギー変換・推進システムのための燃焼研究【28】」,「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント【22】」,「多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応用(マクロからナノスケールまで)【22】」,「濡れ性制御と液滴ダイナミクス【20】」,「沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展【19】」,「燃料電池・二次電池関連研究の新展開【18】」,「熱工学からみたバイオマス変換の新展開【13】」,「ナノスケール熱制御【13】」,「火災・爆発【11】」,「乱流伝熱研究の進展【10】」,「凝固・融解を伴う伝熱と流れ【10】」,「マイクロエネルギーの新展開【9】」,「熱工学コレクション2024【9】」,「外燃機関・排熱利用技術【8】」,「ふく射輸送制御【7】」で合わせて218件の発表が行われた.発表件数の傾向は伝熱シンポジウムとほぼ同じであるが,本会議の特徴として燃焼と燃料電池に関連した研究発表が他と比べて多くなっている.
以上,2024年の伝熱研究に関する動向を国内外の論文および学会講演論文を通じて概観した.EVバッテリーや電子機器の冷却、温暖化ガス排出削減に関連するガスタービンの冷却など,社会的ニーズの高い機器開発分野での研究が注目を集めている.また,濡れ性などの表面科学と関連した相変化伝熱領域の研究も依然として活発であり,この傾向はここ数年大きな変化は見られない.さらに,国際会議の完全対面開催の再開がグローバルな伝熱研究コミュニティの活性化に大きく寄与した一年であった.
〔光武 雄一 佐賀大学〕
8.1.4 熱交換器
熱交換器は,冷却・加熱,熱回収,空調,エネルギー変換など,熱エネルギーの有効利用を支える基盤技術として,幅広い産業分野で重要な役割を果たしている.近年では,エネルギー利用効率の向上やカーボンニュートラルの実現に向けて,より高性能・高信頼性かつコンパクトな熱交換器の開発が求められており,伝熱性能の最適化や革新的な材料・構造技術の導入が進んでいる.以下に,2024年の国内外における熱交換器に関する研究動向について述べる.
まず,2024年の国内での研究動向を調査するため,第61回日本伝熱シンポジウム(神戸,5月),2024年度日本冷凍空調学会年次大会(福岡,9月),熱工学コンファレンス(山口,10月)での講演内容を調査した.キーワードとして,「熱交換」,「蒸発器」,「凝縮器」を用いて検索を行った.
第61回日本伝熱シンポジウムでは,「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進」,「ものづくりセッション」,「優秀プレゼンテーション賞セッション」,「強制対流」,「空調・熱機器」の各セッションにおいて,熱交換器に関する講演が7件行われた(第60回では6件).テーマは,蓄熱材を用いた間接熱交換式固定層反応器,拡散接合によるマイクロチャネル熱交換器,ステップ熱交換流路の数値解析,扁平熱交換器,磁気ヒートポンプ,アルミ製プレート式熱交換器,マイクロチャネル熱交換器であった.
2024年度日本冷凍空調学会年次大会では,OS「熱交換器における技術開発展開」,OS「デシカント・吸着・ケミカル系の技術」,OS「空気条件湿度が及ぼす熱交換器の着霜分布への影響」,およびWS「熱交換器の技術開発動向と開発事例」において,熱交換器に関する講演が16件行われた(2023年度では17件).内容は,プレート式熱交換器が3件,地中熱利用3件,シミュレーションが2件,金属積層技術利用2件,マイクロチャネル熱交換器,フィン塗膜特性,植毛蒸発式加湿熱交換器,デシカント塗布型熱交換器,蓄熱型全熱交換器などであった.そのうち,プロジェクト報告として「カーボンニュートラルに向けた先進熱交換技術に関する調査研究」があった.また,国際セッション「アジアにおけるHVAC&R技術の進展」において,スプレー式冷却デバイスと遺伝的アルゴリズムの製造制約条件の2件の熱交換器「Heat Exchanger(s)」に関連した講演が行われた.
熱工学コンファレンス2024では,OS「電子機器・デバイスのサーマルマネージメント」,OS「沸騰・凝縮熱伝達および混相流の最近の進展」,OS「熱工学コレクション2024(熱コレ2024)」において,熱交換器に関する講演が4件行われた(2023年は9件).テーマは,二流体熱交換器の最適化,アンモニアを冷媒としたプレート熱交換,マイクロチャネル熱交換器,台形フィン型渦発生体を用いた熱交換器であった.
2024年に出版された英文査読付き学術雑誌に関しては,過去の本年鑑においても選定されているInternational Journal of Heat and Mass Transfer(Int. J. Heat Mass Transfer),International Journal of Thermal Science(Int. J. Thermal Science),およびApplied Thermal Engineering(App. Thermal Eng.)の3誌を対象とした.次に,ScienceDirect(1)を用い,タイトル・抄録・キーワードに「Heat Exchanger(s)」の語を含む論文数を整理し,その結果を表8-1-2に示す.
これら3誌における論文総数は,2022年の3,320報から2024年には4,806報へと約1.45倍に増加しており,分野全体の研究活動の活発化がうかがえる.そのうち,2024年の熱交換器関連の論文は724件であり,論文数自体は増加傾向にあるものの,2022年および2023年における熱交換器関連論文の割合と比べて,大きな変化は見られなかった.
App. Thermal Eng.では,2024年の論文総数2,822報のうち18%の507報が熱交換に関するものであり,他の2誌と比較して最も多かった.さらに,2022以降,熱交換器関連論文数は年々増加傾向にある.同誌は工学応用に重きを置いており,冷却技術やエネルギー効率向上といった産業応用との親和性が高く,熱交換器研究が数多く掲載されている.一方,Int. J. Heat Mass Transferにおいては,2024年の総論文数1,350報のうち,11.3%にあたる152報が熱交換器関連論文であり,2023年の9.9%の(107報)と比べてやや増加したものの,2022年の12.1%(165報)と比較するとわずかに減少している.同誌は理論・数値解析を中心とした研究を多く扱っており,熱交換器に加えて伝熱の基礎現象に関する論文も多く掲載される傾向にある.また,Int. J. Thermal Scienceでは論文数が他の2誌よりも少ないものの,「Heat Exchanger」関連論文の割合は比較的高く,2023年までは例年13~14%程度を占めていた.一方で,2024年は10.3%(65報)とやや減少し,割合,論文数ともに低下が見られた.
「Heat Exchanger」とともに多く用いられたキーワード,およびその論文数と分類を表8-1-3に示す.論文数の多い順に上位15位を抽出し,キーワードは「未利用エネルギー」「効率」「研究手法」「材料開発」(2)の4分類に整理した.「効率」に分類されるキーワードに関する論文数は合計559件であり,「Heat transfer」(183件)を筆頭に,「Pressure drop」や「Printed circuit heat exchanger」など,伝熱性能および流体力学的性能の向上を主眼とする研究が多くを占めた.実用上の効率向上は依然として主要な関心領域であり,形状最適化や伝熱促進技術(例:フィン,乱流生成構造など)の開発が活発である.また,「Printed circuit heat exchanger」 や 「Plate heat exchanger」 など,構造の新規性やコンパクト化に関するキーワードも多く,装置設計そのものの進化が重視されていることがうかがえる.次に,「Numerical simulation」や「Optimization」など,研究手法に属する論文数が204件あり,前年同様,伝熱面の最適設計や数値解析手法を用いた研究・開発の推進が続いている.また,「Waste heat recovery」(46件)や「Supercritical CO2」(32件)など,未利用エネルギーを対象とした熱交換器のエネルギー回収技術に関するキーワードも上位に挙げられた.材料開発については,2022~2023年に見られた「Nanofluid」や「Nanoparticle」に関する論文は,2024年には上位15位以内には入らなかった.一方で,「Phase change material」(35件)が唯一ランクインしており,熱伝達率の高い相変化を利用した熱交換器の研究において,材料開発の注目度が高まっていることが示唆される.
表8-1-2 英文学術誌のタイトル・抄録・キーワードにHeat exchanger(s)を含む論文数
| 度 | 論文数 | タイトル・抄録・キーワードに Heat Exchangerを含む |
割合 | |
| App. Thermal Eng. | 2022 | 1424 | 293 | 20.6% |
| 2023 | 1980 | 342 | 17.3% | |
| 2024 | 2822 | 507 | 18.0% | |
| Int, J. Heat Mass Transfer | 2022 | 1361 | 165 | 12.1% |
| 2023 | 1082 | 107 | 9.9% | |
| 2024 | 1350 | 152 | 11.3% | |
| Int. J. Thermal Science | 2022 | 535 | 71 | 13.3% |
| 2023 | 686 | 92 | 13.4% | |
| 2024 | 634 | 65 | 10.3% | |
| 3誌合計 | 2022 | 3320 | 529 | 15.9% |
| 2023 | 3748 | 542 | 14.5% | |
| 2024 | 4806 | 724 | 15.1% |
表8-1-3 英文学術誌3誌にHeat exchanger(s)とともに用いられた
キーワード,論文数,分類
| 論文数 | 分類 | |
| Heat transfer | 183 | 効率 |
| Heat transfer enhancement | 85 | 効率 |
| Numerical simulation | 73 | 研究手法 |
| Pressure Drop | 59 | 効率 |
| CFD | 50 | 研究手法 |
| Heat transfer coefficient | 49 | 効率 |
| Optimization | 48 | 研究手法 |
| Printed circuit heat exchanger | 47 | 効率 |
| Waste heat recovery | 46 | 未利用エネルギー |
| Phase change material | 35 | 材料開発 |
| Multi-objective optimization | 33 | 研究手法 |
| Supercritical CO2 | 32 | 未利用エネルギー |
| Plate heat exchanger | 30 | 効率 |
| Thermal energy storage | 29 | 未利用エネルギー |
| Friction factor | 28 | 効率 |
〔鹿野 一郎 山形大学〕
8.2 燃焼および燃焼技術
8.2.1 燃焼
2024年度に開催された燃焼に関連する国内外の学術会議と主要な学術論文をもとに,燃焼の研究動向を述べる.ここ数年のコロナ感染症対策が大きく緩和され,2024年の学術会議はコロナ禍以前のような対面形式で行われた.
燃焼を対象とした研究発表が主体となる学術会議として,第62回燃焼シンポジウムが2024年11月25日〜27日に大阪で開催された.燃焼関連の講演・発表が多い学術会議として,5月22〜24日に自動車技術会2024春季大会(横浜),5月29〜31日に第61回日本伝熱シンポジウム(神戸),6月17〜18日に第28回動力・エネルギー技術シンポジウム(京都),7月17〜19日に第34回環境工学総合シンポジウム2024(和歌山),9月8〜11日に日本機械学会2024年度年次大会(愛媛),10月23〜25日に第52回日本ガスタービン学会定期講演会(高松),10月5〜6日に熱工学コンファレンス2024(山口),10月23〜25日に自動車技術会秋季大会(仙台)が開催された.また,燃焼分野が主体となる代表的な国際会議として,19th International Conference on Numerical Combustionが5月7〜10日に京都で,40th International Symposium-Emphasizing Energy Transitionが7月21~26日にイタリアのミラノで開催された.
ここでは,第62回燃焼シンポジウム,19th International Conference on Numerical Combustionと40th International Symposium-Emphasizing Energy Transitionでの研究動向を述べる.第62回燃焼シンポジウムでは,5件の基調講演「水素燃焼の数値シミュレーション -燃焼振動,フラッシュバック,及び騒音の予測に向けて-」,「炭化水素燃料の燃焼反応モデル構築」,「反応を伴う濃厚粒子系混相流の数値シミュレーション」,「水素・アンモニア火炎に対するステンレス壁の化学的干渉効果」,「乱流場における固体粒子群とガス燃料の球状火炎伝播特性」と2件の招待講演「Chemical looping combustion」,「Exploring methods for generating global reaction mechanisms for ammonia combustion: Genetic algorithms and machine learning」が行われた.一般セッションでは,口頭講演166件,ポスター講演53件が発表され,例年通りのトピックで構成されていた.
19th International Conference on Numerical Combustionでは,4件の招待講演「Fundamentals and Applications of Ammonia Combustion for Carbon Neutrality」,「Do the Thermodynamic Properties of New Fuels Challenge the Current State-of-the-art Modelling」,「Machine-learning for Combustion: Opportunities and Challenges」,「Advances in Simulations of Dual-fuel Combustion」が行われ,ミニシンポジウムと一般セッションを含めた口頭講演472件が発表された.
40th International Symposium-Emphasizing Energy Transitionでは,Plenary Lectureとして,「The Transition to Sustainable Combustion: Hydrogen -and Carbon-based Future Fuels and Methods for Dealing with their Challenges」,「Artificial Intelligence as a Catalyst for Combustion Science and Engineering」,「Fuel Blend Combustion for Decarbonization」,「Roles for Combustion in a Net-Zero CO2 Society」などが講演された.19th International Conference on Numerical Combustionの招待講演と同様,カーボンニュートラル・脱炭素化,AI・データサイエンスが重要な研究キーワードとなっている.第41回目のシンポジウムは2026年に京都で開催されるが,会議名はInternational Symposium-Emphasizing Energy Transitionから従来通りのInternational Symposium on Combustion Instituteに戻される.40th International Symposium-Emphasizing Energy Transitionに投稿された論文数は1761件であり,2年前にカナダのバンクーバで開催された39th International Symposium on Combustion(第39回国際燃焼シンポジウム)よりも増加していた.投稿論文の査読プロセスが従来までの国際燃焼シンポジウムと大きく変わったが,口頭発表とポスター発表に選ばれた論文はさらなる厳しい審査を経て,最終的に582編の論文がElsevier社の学術誌Proceedings of the Combustion Instituteに掲載された.投稿論文の採択率は約33%であり,第39回国際燃焼シンポジウムの採択率(約35%)と同程度であった.
燃焼関連の主要な学術雑誌として,Progress in Energy and Combustion ScienceとCombustion and Flameを取り上げる.2024年度のProgress in Energy and Combustion Scienceで25件の総説論文,Combustion and Flameで517件の学術論文が掲載された.Progress in Energy and Combustion Scienceでは,水素燃焼,アンモニア燃焼,着火,バイオ燃料,二酸化炭素の回収,機械学習のバッテリー安全性への利用などに関する研究内容が報告されている.Combustion and Flameでは,水素燃焼,アンモニア燃焼,液滴燃焼, デトネーション,着火,熱音響不安定,煤の生成,化学反応モデルに関する研究内容が多い.人工知能技術の著しい進展に伴って,近年,ベイズ統計学や機械学習を利用したデータサイエンスが着目されており,マルコフ連鎖モンテカルロ法,自然言語処理やディープニューラルネットワークなどが適用された研究例がCombustion and Flameで報告されている.Progress in Energy and Combustion Science,Combustion and FlameとProceedings of the Combustion Instituteのそれぞれインパクトファクターは32.0,5.8および5.3と高水準を維持しており,これらの学術雑誌は質の高い論文を掲載している.
〔後藤田 浩 東京理科大学〕
8.2.2 燃焼技術・燃料
2024年は世界の平均気温が産業革命前と比べて初めて1.6℃上昇したとされる(1).この気温上昇は,パリ協定において示されている「工業化以前と比較した気温上昇を1.5℃に抑える」という努力目標(2)を上回るものである.この事は気候変動が一層深刻な問題になっていることを示す一つの例であろう.気候変動問題に対応するために「2050カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(3)が2021年6月に示されて以降,大規模な予算投入もありGX(グリーントランスフォーメーション)の動きが加速している.2025年2月には第七次エネルギー基本計画が示された(4).この中では2021年10月の第六次エネルギー基本計画の閣議決定の後,ロシアによるウクライナ侵略の影響,GX・DX(デジタルトランスフォーメーション)進展による電力需要増加など,エネルギーを取り巻く情勢変化が述べられている.これらに対応すべく,S+3E(安全性+エネルギー安定供給,経済効率性,環境適合性)を大原則としながらエネルギーの多層的な供給構造の実現が求められている(4).エネルギー基本計画でも挙げられているように(4),水素やアンモニア,航空分野で重要となっているSAF,合成燃料など種々の新燃料の利用,またCCUS等と組み合わせた火力発電の脱炭素化が一層重要になろう.このような新燃料への転換がエネルギー政策で示されている事とも関連すると思われるが,これらに対する学術的な研究も広がりを見せている.表1はCombustion and Flame誌においてAmmonia,Hydrogen,SAF,e-fuelというキーワードで論文数をカウントした結果である.水素は燃焼反応に多く表れるため論文数が多い理由の一つと考えられるが,いずれのワードも年を経るごとに論文数が増加している.
表1 Combustion and Flame誌でのキーワード検索結果.Elsevier社ウェブサイトで検索(5)
| Year | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
| Ammonia | 22 | 30 | 74 | 93 | 115 |
| Hydrogen | 231 | 268 | 372 | 303 | 352 |
| SAF | 0 | 0 | 2 | 3 | 6 |
| e-fuel | 5 | 6 | 6 | 3 | 9 |
グリーン成長戦略や第七次エネルギー基本計画に記載された新燃料のうち,まずアンモニアについて着目する.表1にも示した通りアンモニアは2020年から2024年で比較すると論文ヒット数が約5倍になっており,特に活発に基礎研究が行われている燃料の一つである.このように注目されているアンモニアであるが,2024年は燃料アンモニアの利用において大きな動きが見られ,社会実装が本格的に始まった年であると言えよう.
特筆すべきは2024年4月~6月にJERA碧南火力発電所において,世界初となる大型の商用石炭火力発電設備でアンモニア混焼試験が実施された事であろう(6,7).これは定格出力100万kWの運転で熱量比20%のアンモニア混焼というものであり,大規模なCO2削減が期待される.公開されている情報(8)によると,本試験においてはローディングアームの他,貯蔵設備,気化装置等が新設されるとともに,アンモニア燃焼が行えるように既存バーナーにアンモニアノズルを組み込んだバーナーが用いられた.燃焼試験の結果,ボイラ出口でのNOx排出量は石炭専焼と同等であることや,未燃アンモニアおよび温室効果ガスであるN2Oの排出が定量下限以下という良好な成果が得られた.将来的には混焼率50%を達成する技術の開発や,アンモニア専焼バーナーの開発に取り組むとされている(6).2024年8月には株式会社IHI原動機と日本郵船株式会社が開発を行っていたアンモニア燃料タグボートが竣工した(9).また株式会社IHIはアンモニアガスタービンの市場投入に向けて,2MW級アンモニアガスタービンの長期耐久性試験を開始した(10).アンモニアの燃料としての利用は海外においても進められている.中国ではアンモニア燃焼をセラミックタイル製造に用いる大規模なデモンストレーションが行われた(11,12).このように基礎研究フェーズから社会実装に向けた開発へと移行が見られている.
2024年9月には中国・上海にて3rd Symposium on Ammonia Energyというアンモニア利用に関する国際会議が開催された(13).この会議では中国を中心に23か国から298件の発表が行われた.発表セッションは基礎燃焼など燃料利用に関するものが多いが,製造,環境インパクトなどエネルギー分野全般にわたるものとなっている.またアカデミアとインダストリーによるワークショップが併催されるなど,社会実装に向けた研究が学術会議においても議論されている.AiAA SciTech Forum 2025において「水素およびアンモニア燃焼」というセッションが設けられた(14).水素を燃料とした航空機についてはGI(Green Innovation)基金事業などで研究が行われているが(15),アンモニアも航空燃料としての利用が注目されるようになってきている.
水素利用に向けての研究開発も継続されている.川崎重工業株式会社は5MWを上回る大型ガスエンジンにおいて水素のみで安定に燃焼させるエンジンを世界で初めて開発した(16).さらに舶用エンジンでの水素利用に向けた研究も進んでいる(17).
このようにカーボンニュートラルを目指した非従来型燃料の燃焼器への適用など社会実装に向けた研究が進められている.諸外国の動向など不確実性が大きい状況にあるが,気候変動に関する問題が深刻化しており時間的余裕が無い点については広く同意される事であろう.大学,国研,企業が,カーボンニュートラル達成に向けて一層の努力を行う必要があろう.世界との競争も激化しているため,非競争領域における協力体制の構築なども必要なのかもしれない.
〔早川 晃弘 東北大学〕