12.環境工学
12.1 環境工学を取り巻く状況
環境工学部門は,騒音・振動評価改善技術分野,資源循環・廃棄物処理技術分野,大気・水環境保全技術分野,環境保全型エネルギー技術分野の4分野で構成され,持続可能で快適かつ価値ある未来社会の構築に向けて,地球規模の環境問題から産業や生活空間までを対象として研究者や技術者が多面的に取り組んでいる.
騒音・振動評価改善技術分野の動向として,生活空間における典型7公害である大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下および悪臭は,年々減少傾向であるが,騒音の比率は4割程と最も高く,騒音と振動は増加傾向で処理に長い日数を要している.また,建設作業や工場・事業場の割合が全体の6割程を占め,低周波音に係わる苦情が3割程を占めている.航空機,自動車,鉄道の交通騒音に大きな変化は見られない.
資源循環・廃棄物処理技術分野の動向として,有機フッ素化合物のPFAS(ピーファス)による水道水汚染が問題となっている.フロン類の破壊設備は,混焼設備と専焼設備があるが,処理量が小さく大型化が難しい問題がある.これに対して,燃焼分解工程(燃焼炉),ガス冷却工程(冷却缶),酸吸収工程(吸収塔)および排ガス洗浄工程(洗浄塔)の4工程から成る液中燃焼方式は大容量処理が可能であり,単位処理量当たりの設備や運転のコストメリットが大きく,排水からの酸回収も可能であり着目されている.
大気・水環境保全技術分野の動向として,一般大気環境測定局(一般局)および自動車排出ガス測定局(自排局)における二酸化窒素(NO2),浮遊粒子状物質(SPM)および一酸化炭素(CO)の環境基準達成率は100%である.また,二酸化硫黄(SO2)や微小粒子状物質(PM2.5)は長期的に改善傾向にあるが,光化学オキシダントは依然として基準値を超過している.PM2.5の日本への越境汚染は,偏西風風上にある中国,韓国の状況が改善してきているが,それぞれ日本の基準値の3.5倍,2倍程度である.一方,自動車から排出される微汚染物質として排ガス由来と非排ガス由来に分けることができる.電気自動車は排ガスを出さず,バッテリー重量によるブレーキパッド摩耗は回生ブレーキにより軽減されているが,タイヤ摩耗による微粒子が内燃機関車よりも3割程多い傾向にあり顕在化している.海洋プラスチックの問題は,政府間交渉がなされている.
環境保全型エネルギー技術分野の動向として,世界気象機関(WMO)が2024年の世界の平均気温は産業革命前からの上昇幅が1.5℃を超えたと発表している.科学技術振興機構(JST)のエネルギー研究開発領域の名称は,電力のゼロエミ化・安定化,産業・運輸部門のゼロエミ化・炭素循環利用,業務・家庭部門のゼロエミ化・低温熱利用,大気中CO2除去,エネルギーシステム統合化に分類され,それぞれの検討が進められている.
これら分野の詳細は,12章各節を参照されたい.
その他の研究活動として,2024年7月に高野山大学にて第34回環境工学総合シンポジウム2024を主催し,また2024年9月に愛媛大学にて2024年度日本機械学会年次大会の合同オーガナイズドセッション,さらに多数の講習会や研究会等を企画および開催している.
〔戸井 武司 中央大学〕
12.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向
総務省公害等調整委員会が2024年12月13日に公表した「令和5年度公害苦情調査(1)」によると、典型7公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下および悪臭)の苦情件数は48,969件であり、前年度と比較して1,754件(3.5%)減少したことが示されている。内訳を見ると、「騒音」が18,908件(全体の38.6%)と最も多く、「振動」は2,223件(同4.5%)となっている。前年度からの変動では、「騒音」は483件の減少(2.5%減)、「振動」も188件の減少(7.8%減)であった。10年前の2013年度の苦情件数では「騒音」は16,611件(31.3%)、「振動」は1,914件(3.6%)であり、年度による増減はあるものの、長期的に見るとこれら二つの公害が全体に占める割合は増加傾向にある。また、典型7公害の直接処理件数(44,653件)を苦情申立てから処理までの期間別に見ると、「1週間以内」が29,289件(全体の65.6%)と最も多い。しかし、「騒音」における1週間以内の処理件数は54.2%、「振動」では50.7%と、他の公害と比較して短期間で処理された割合が低く、処理に長い日数を要する傾向が見られる。
一方、環境省が2025年3月に公表した「令和5年度騒音規制法施行状況調査報告書(2)」においては、騒音に係る苦情の件数は19,890件であり、前年度と比較して546件(2.7%)減少したことが示されている。苦情件数を発生源別に見ると、建設作業が7,466件(全体の37.5%)と最も多く、次いで工場・事業場が5,115件(同25.7%)であり、この2種類の苦情で全体の6割を占める結果となっている。交通騒音については、航空機に係る苦情が468件(全体の2.4%)、自動車に係る苦情が466件(同2.3%)、鉄道に係る苦情が71件(同0.4%)であった。苦情件数の内訳について、前年度以前と大きな差異は見られない。近年注目を集めている低周波音に係る苦情については、件数は335件(前年度335件)であり、その内訳を見ると工場・事業場に係るものが88件(全体の26.3%)と最も多かった。また、同報告書内で調査されている「騒音に係る環境基準の適合状況」については、2023年度に環境騒音の測定を実施した全測定地点2,297地点(前年度2,414地点)のうち、90.0%(同90.8%)に当たる2,067地点(同2,192地点)で環境基準に適合しており、前年度と比較すると適合した地点の割合がわずかに減少している。
続いて研究動向を紹介する。2024年7月17日~19日の日程で第34回環境工学総合シンポジウム2024(3)が和歌山県の高野山大学で開催された。全体の講演件数は96件であり、そのうち騒音・振動に関するセッションでは合計43件の発表があった。今回の講演では、水素、AI、機械学習、ドローン、ワークブースなどをキーワードとした多岐にわたる発表が行われた。また、2024年9月8日~9月11日に愛媛大学で開催された2024年度日本機械学会年次大会(4)においては、環境工学部門と流体工学部門、機械力学・計測制御部門が合同で「流体関連の騒音と振動」の分野横断セッションを企画し、口頭発表9件、ポスター発表13件が行われた。最後に、騒音振動関係の国際会議に関しては、2024年8月25日~8月29日の日程で,フランスのナントにおいて第53回国際騒音制御工学会議,International Congress and Exposition on Noise Control Engineering(Inter-Noise 2024)(6)が開催された.この会議には62か国から1,800名を超える参加があった.6件の全体講演・基調講演をはじめ,117のセッションにおいて1,150件の講演発表があり、盛況な会議となった.興味深いセッションとしては,”Urban Air Mobility Noise”,” Artificial Intelligence and Machine Learning for Diagnosis in Acoustics & Vibration”,” Acoustics of Hospital and Healthcare Spaces”および”Noise Impact on Biodiversity”などが挙げられる。次のInter-Noise2025(7)は,2025年8月24日~27日の日程でブラジルのサンパウロで開催される予定である.
〔長井 健一郎 JAXA〕
12.3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向
12.3.1 概況
昨今、化学物質「PFAS(ピーファス)」(※1)による、水道水の汚染が問題になっている。
※1「Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl substances」の略
日本語ではペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物と呼ぶ。12,000種類以上の合成化合物の総称
PFASは有機フッ素化合物のひとつで、PFASを使った製品は水や油をはじき、分解しにくいという性質があるため、1940年頃から防水スプレーや、レインコートなどさまざまな生活用品に幅広く活用されてきた。
また、PFASだけではなく、有機フッ素化合物のひとつである特定フロン類も以前よりオゾン層を破壊し、温室効果が高いとして、1987年にその生産や使用を規制する「モントリオール議定書」が採択され、その後規制が強化され、1995年には一部の特定フロン類は完全に生産出来なくなった。
今回は、人体への有害性だけでなく、地球環境への影響が指摘される有機フッ素化合物を液中燃焼方式によるフロン類の破壊・回収の実例を報告する。
12.3.2 フロン類の破壊設備の種類
フロン類の破壊設備として、国内では表12-3-1に示すように都市ごみガス化溶融炉、ロー タリーキルン、二段階燃焼法半ガス化溶融炉、セメントキルン、石灰焼成炉などのよ うに、本来の焼成目的物に微量同伴させて 混焼する設備と、液中燃焼炉、高周波・アーク・マイクロ波プラズマ炉、触媒燃焼炉、過熱蒸気反応炉などの専焼設備があげられる。
表12-3-1.フロン類破壊設備の種類(1)(2)(3)

※2:製品に影響を与えないレベルまで
この中で、混焼による方法は、製品あるいは処理物への混入許容量から特殊な場合を除き処理物に対し、多くても3%程度しか混入できず、効果的な処理法としては難しい面がある。
一方、専焼設備ではあっても、各種プラズマ法、触媒法および過熱蒸気反応法による設備は、その処理量が小さく、プラズマトーチは大型になるとプラズマの安定性が問題となり、大型化が難しい。
これらに対して、液中燃焼方式は大容量処理が可能であり、300kg/hもしくはそれ以上の規模も可能で、1基当たりの処理能力も各方式中最大である。
この液中燃焼方式は、単位処理量当たりの設備コストや運転コストのメリットが大きく、排水からの酸回収も可能である。
また、設備の安定性、処理の完全性、 処理物組成や処理量の変動への柔軟性などから、現状最も効果的な方法と考えられる。燃焼温度が 1,200~1,450℃と高温であるため、助燃料の使用量は他の方式と比較しても効率が良いとは言えないが、可燃性廃液および廃ガスと混焼させることにより助燃料の使用量を減らすことが出来る。
12.3.3 液中燃焼法によるフロン類破壊
液中燃焼装置は、図12-3-1のフローに示すようにフロン等フッ素含有廃液および廃ガスを燃焼分解し、生成するフッ化水素および塩化水素を回収酸水溶液として回収するものである。
処理システムは、燃焼分解工程(燃焼炉)、ガス冷却工程(冷却缶)、酸吸収工程(吸収塔)および排ガス洗浄工程(洗浄塔)の4工程 から成る。
本システムでは、フッ素含有廃液や廃ガスと助燃料をバーナーに供給し、所定量の空気と共に焼却する。バーナーは高速短焔バーナーを用い、有機物は完全に分解され、フッ素分はフッ化水素になり、塩素分のほとんどが塩化水素になる。
この燃焼炉からの燃焼排ガスは、冷却缶の液中に供給され、液体と燃焼ガス気泡との直接接触によって瞬時に冷却されると同時に、含有するフッ化水素および塩化水素が液に吸収される(図12-3-2)。
冷却缶より出た燃焼排ガスは吸収塔に送られ、フッ化水素および塩化水素は、吸収水により希酸として回収され、冷却缶に戻される。
一方、吸収塔より出る燃焼排ガスは、更に洗浄塔にてアルカリ液で中和処理され、大気に放出される。図中の還元剤は、燃焼により一部生成される塩素ガス由来の次亜塩素酸ソーダを分解することで塔の材質をチタンより安価なFRPにすることができる。

図12-3-1.液中燃焼方式のフロン類破壊設備 基本フロー(4)

図12-3-2.液中燃焼装置(4)
12.3.4 有機フッ素化合物を焼却処理する液中燃焼装置の開発
地球のオゾン層破壊や温暖化を抑制するため、従来技術の改良を行っており、その開発と結果について以下に報告する。
12.3.4.1 燃焼炉
液中燃焼方式での有機塩素化合物の焼却処理はこれまで数々の実績があるが、有機フッ素化合物を焼却処理するには特有の問題があった。
中でも、非常に短期間で炉材質であるカーボンスチールが腐食すること、また、耐火物やその目地も浸食が激しかった。
有機フッ化物は高温で焼却させる必要があり、燃焼炉で分解するとフッ化水素が発生し、そのフッ化水素は、低温になると水溶液として凝縮して液体のフッ酸になり鉄を溶かす。一方、高温になると鉄を酸化させる。
そこで、燃焼炉缶体の材質の検討を進め、高ニッケル材である「ハステロイ」を使用することとした。ハステロイで設計することにより、燃焼炉缶体の腐食を抑制することが出来た(5)。
一方、耐火物やその目地の浸食において、フッ化水素ガスは耐火物を構成するSiO2との反応性が非常に高く、低沸点のSiF4(昇華温度:-95.7℃)を生成して揮発脆化してしまう。
そこで、SiO2を極力低減させたアルミナ含有率の非常に高い材質を選定することで、短期間での浸食を抑制できた(6)。
12.3.4.2 冷却缶
液中燃焼方式における冷却缶でもフッ酸による腐食が発生した。
これまで、有機塩化物を焼却処理した際に発生する塩酸に対しては、耐酸材としてカーボンスチールにゴムライニングすることで対応していたが、フッ酸はガス状でライニングしている樹脂を透過してしまうことが分かり、フッ酸への耐食性のある材質にすることと、その材質が従来の冷却缶内温度(約90℃)に耐えられないことから、冷却缶液の温度を冷却する対応で腐食の抑制が可能となった(5)。
ここで、耐食を抑制するために、この冷却缶内部の液をアルカリで中和すれば良いというわけではない。例えば冷却缶内部に苛性ソーダを供給し、フッ酸を中和することは可能だが、フッ素の排出規制は水質汚濁防止法で定める8 mg/L以下(海域に排出の場合 15mg/L以下)と厳しく制限されており、塩化物のように希釈して排水することはできず、結局追加のフッ素処理が必要となる。
また、カルシウムで中和しようとすると、冷却缶内部で固形物であるフッ化カルシウム(ホタル石)や二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムが生成し、図12-3-3のような冷却缶特有の液の攪拌効果を妨げてしまうため、高温の燃焼排ガスを効率よく冷却できなくなる。

図12-3-3.冷却缶の攪拌効果
そこで、冷却缶ではフッ酸として固定化するだけとし、排水した後にカルシウムで中和&固液分離をして排水からフッ素分を除去する方法で対応している。
12.3.5 終わりに
今回紹介した液中燃焼方式での有機フッ素化合物の焼却処理は有機物を99.99%以上分解できることから、2005年以降、クリーン開発メカニズム(※3)の対象や、有機フッ化物だけに限らず、温室効果の高い六フッ化硫黄(SF6)や三フッ化窒素(NF3)の処理でも活用されている。
また、有機塩化物との混合処理も可能なことから、処理物組成の変動にも柔軟に対応できる設備で、PFAS類の処理への応用が期待されている。
※3:クリーン開発メカニズム(CDM)
先進国が発展途上国で実施する二酸化炭素排出量削減への取組を資金や技術で支援し、達成した排出量削減分を両国で分配ことができる制度。
気候変動枠組条約京都議定書に盛り込まれた「京都メカニズム」と呼ばれる制度の一つで、京都議定書第12条に規定されている。
〔豊武 秀文 月島環境エンジニアリング株式会社〕
12.4 大気・水環境保全分野の動向
まず,大気環境について一般大気環境測定局(一般局)および,自動車排出ガス測定局(自排局)での測定結果を中心に最新の状況を簡単にまとめる(1).二酸化窒素(NO2),浮遊粒子状物質(SPM)および一酸化炭素(CO)の環境基準達成率(環境基準を達成した測定地点数の全測定地点数に対する割合)は一般局,自排局ともに100%であった.二酸化硫黄(SO2)の環境基準達成率は,一般局で99.5%,自排局で100%であった.SO2環境基準未達成局は鹿児島県にあり,火山噴火の影響であった.微小粒子状物質(PM2.5)については,一般局で99.9%,自排局で100%であった.PM2.5の環境基準値は1年平均値15 μg/m3であるが,2022年度の測定値の年平均は一般局で8.8 μg/m3,自排局で9.2 μg/m3であり,長期的に見て改善傾向にある.光化学オキシダントについては,依然として100%に近い測定局において基準値を超過している.ただし,8時間値の日最高値99パーセンタイル値の推移を見ると,2010年代以降は上下はあるものの減少傾向ではある.光化学オキシダントの生成に寄与するNOxやNMHCの濃度の減少と単純に連動しないのは,オキシダント生成機構の複雑さに原因があると考えられる(2)
グローバルで見た場合,大気汚染の深刻な地域が多いことが指摘されている(3).PM2.5の日本への越境汚染も懸念されるが,偏西風風上にある中国,韓国における状況が改善してきていることは付記しておく.大気中濃度についての中国環境保護局,韓国環境省からの直近の公表データでは,それぞれ日本の値の3.5倍,2倍程度である(1).
微粒子汚染に関して,最近の数年で急速に注目されるようになった事項として,TWP (tire wear particle) がある.自動車から排出される汚染物質は,排ガス由来,非排ガス由来に分けることができる.電気自動車(EV)は排ガスを出さないが,重いバッテリーを搭載するため,ブレーキパッドやタイヤのすり減りについて考慮する必要がある.公道での評価は極めて難しいため,実験室実験での限られた結果から推測するしかないが(4,5),EVを同等モデルの内燃機関車と比較した場合,ブレーキパッドのすり減りについては,回生ブレーキの多用によりむしろ軽減されるようである.一方,タイヤ由来の微粒子については,内燃機関車よりも3割程度多くなる傾向が判明している.タイヤのゴムにはカーボンブラックが含まれ,これらが放出されることになるが,大気質への実際の影響については,今後の調査が待たれる.
船舶の排出ガス規制については,機械工学年鑑2021(6)を参照されたい.2020年より実施されている規制に従い,燃料油分中硫黄分濃度を0.5%以下とした効果について,その効果が公表されているので紹介する(7).結果は,大阪湾周辺の測定局(SO2)において,風向きや入港船舶隻数,測定局周辺の発生源を考慮しまとめられたものである.Covid-19の影響が現れる直前の2020年1,2月と,2018・2019年の同期間を比較したところ,月平均SO2濃度は,約40%低減されたことが判明した.ちなみに,燃料硫黄分の減少は微粒子排出量の減少にもつながるため,PM2.5の状況も同時に改善されたと考えられるが,著者の知る範囲で具体的なデータは公表されていない.
船舶に関しては,2023年から既存の大型船舶に対してもCO2排出規制が始まった.ルール策定に当たっては日本が主導的立場をとっている.船種により大きく異なるが,最大50%のCO2削減が求められる船種もある.1年間の運航実績を基に,削減が達成されなかった船舶に対しては改善計画を提出させる決まりである.具体的な対策としては,最適運行ルート選定,メンテナンスなどによって改善を促すというものである(8).
次に,水環境について従来からモニタリングされている項目について,環境省から公表されている測定結果(9)に基づいて簡単に述べる.ここ40年,河川,海域,湖沼の水質は全般に改善してきたが,直近15年間については,環境基準達成率は横ばいである.有機汚濁(BOD:河川,COD:湖沼,海域)の環境基準達成率は,河川,海域,湖沼の順に高く,湖沼における最新の調査結果は50.3%である.大腸菌数についての達成率は逆の傾向にあり,最も達成率の低い河川において83.5%であった.地下水については,揮発性有機化合物,重金属,硝酸性,亜硝酸性窒素の濃度が測定されているが,ここ15年の傾向を見ると,硝酸性・亜硝酸性窒素の状況は大きく改善,ヒ素がやや悪化,他の項目は横ばい,あるいはやや改善である.ただし,環境基準超過率でみれば硝酸性窒素は2.7%と他の項目よりも依然として高い.
水環境に関連してPFASの問題が近年注目されるようになった.PFASはペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物のことで,4,700種類以上の人工的に合成された有機フッ素化合物群の総称である(10).これらは様々な有用な性質を持つため,コーティング剤,界面活性剤,表面処理剤,航空関連施設における消火剤などに用いられてきた.しかし,環境中の残留性が高く,1990年代後半から生物への有害性が懸念され始めた.具体的な対策は2000年にスリーエムが一部のPFASを製造中止したことが始まりであるが,その後,あまり広く話題となっていなかった.2019年のCOP9(ストックホルム条約締約国会議第9回会合)において,ようやく日本を含む条約加盟国内での規制が義務付けられた.この流れの中で,2022年に米国環境保護局(EPA)は飲料水における基準値を大幅に見直し,わが国でもPFASの一種であるPFOAとPFOSの河川・地下水中の合計濃度について暫定指針値を50 ng/Lとすることが示された.環境省が2022年度に実施した全国の公共用水域および地下水の測定地点は,38都道府県1,258地点であり,そのうち,暫定指針値を超過した地点は16都道府県,111地点であった(9).これとは別に,水道事業,水道用水共有事業及び専用水道事業を対象としたPFOS,PFOAの調査が2020年度から毎年行われてきた.検査を実施した事業数は年々増加し,2024年度は3,755カ所となった.2023年度までに14の事業において暫定指針値を超過していたが,2024年度の検査結果では下回り,現在の所,調査に参加したすべての事業について暫定指針値の超過は見られなくなっている.施された対策は,上水道への切り替え,当該井戸の取水量低減・停止,除去設備(活性炭)の設置などであった.
機械工学年鑑2023(10)でも取り上げられた海洋プラスチックの問題について,その後の変化分を述べる.2022年からプラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)が年2回のペースで実施されてきた.2024年11月に5回目のINCが実施され,現在,プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書の策定に向けて外交交渉がなされている.これまでのINCの議論で参加国間の乖離が大きかったのは,一次プラスチックポリマーの生産制限,懸念のある化学物質・ポリマー,問題のある回避可能なプラスチックの制限に関わる条項においてであった.これら上流産品の主要生産国は,制限を回避したいと考える傾向にあった.逆に,プラスチックの再使用に配慮した製品設計に関する条項では意見が収束傾向となった模様である(11,12).
〔吉田 恵一郎 大阪工業大学〕
12.5 環境保全型エネルギー技術分野の動向
12.5.1 概要
2025年1月10日- 2024年の世界の平均気温は産業革命前からの上昇幅が1.5℃を超えたと世界気象機関(WMO)は発表した(1).この1.5℃という値を超えないようにすることが2015年のパリ協定の主要目標であった.WMOのセレステ・サウロ事務局長は,次のように主張している(1).「気候の歴史的な出来事が,私たちの目の前で私たちの目の前で繰り広げられています.記録的な年は1年や2年だけでなく,10年間続いているのです.1℃にはるかに満たないわずかな度数でも温暖化が進むことは問題だと認識することがきわめて重要です.気温上昇が1.5℃以上にせよ以下にせよ,わずかでも地球温暖化が進むたびに,私たちの生活,経済,そして私たちの地球への影響はますます大きくなるのです」
科学技術振興機構(JST) 研究開発戦略センターの研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野(2024年)(2)によると,エネルギー分野の科学技術,研究開発の潮流に大きな影響を与えている要因として,①気候変動緩和に貢献する科学技術,②持続可能なエネルギー技術の位置づけに関する議論,③エネルギー安全保障の重要性の認識,④異常気象・気候変動への対応に貢献する科学技術,⑤デジタル・トランスフォーメーションが挙げられる.また,JSTによる研究開発の俯瞰によると,エネルギーの研究開発領域の名称は「電力のゼロエミ化・安定化」,「産業・運輸部門のゼロエミ化・炭素循環利用」,「業務・家庭部門のゼロエミ化・低温熱利用」,「大気中CO2除去」,「エネルギーシステム統合化」に分類される.本項では,上の分類に則って2024年の研究開発の状況を以下に述べる(2).
12.5.2 電力のゼロエミ化・安定化
省エネ電源の設置場所の拡大や機器大型化,効率向上による低コスト化,運用最適化等を通じた再エネ電源の拡大,電力の安定化に寄与する火力発電の低CO2排出化および水素・アンモニア等のカーボンニュートラル燃料への転換,蓄エネルギーの拡大,安全性の確保を大前提とした原子力発電の検討が進んでいる.
12.5.3 産業・運輸部門のゼロエミ化・炭素循環利用
動力や熱源の電化や低炭素排出燃料への転換,エネルギー効率の改善,炭素循環利用の技術開発が進んでいる.また電力用の大型蓄電池分野ではさらなる高容量,長寿命,安全性,低コスト化の研究開発,水素・アンモニアでは高効率かつ低コストな水電解技術や水素キャリア関連技術(液体水素,有機ハイドライド,アンモニア)の研究開発が進められている.CO2有効利用技術では安定なCO2を活性化させ,水素と反応させるための高度な触媒開発,水素を経由せず直接CO2を電解還元する方法の検討が進められている.また高温ヒートポンプや蓄熱材等,熱制御については一層の技術開発が期待されている.
12.5.4 業務・家庭部門のゼロエミ化・低温熱利用
民生部門における徹底的なエネルギー消費削減のために,非住宅建物でZEB(Net Zero Energy Building),住宅でZEH(Net Zero Energy House)への移行が進められている.そのために建物負荷をパッシブ手法によりできるだけ低減した上で,高効率な機器と再生可能エネルギーの投入により建物の一次エネルギー消費を可能な限り減らす方法が取られている.また空調制御においては,IoTや機械学習の利用が進められている.未利用エネルギーの活用に関しては,下水熱や地中熱の活用が注目されており,これらはヒートポンプの熱源として用いられ,ヒートポンプの高効率化が図られている.
12.5.5 大気中CO2除去
排ガスからのCO2回収・貯留が国内外で実証試験等を通して技術を蓄えつつある.またネガティブエミッション技術として,DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)等の工学的手法に加えて土壌炭素貯留や植林,沿岸部ブルーカーボン等の自然を活用した手法の検討も進められている.
12.5.6 エネルギーシステム統合化
再生可能エネルギー拡大を背景に電気の需要家である消費者自ら電気を作るプロシューマへの転換が進んでいる.また変動性の再生可能エネルギーVRE(Variable Renewable Energy)の拡大により,システムを安定化するための調整力(柔軟性:Flexibility)が必要となり,分散型エネルギーDER(Distributed Energy Resources)の制御を活用する局所柔軟性(Local Flexibility)の実証も開始されている.さらに近年の集中豪雨や台風の災害に伴う局所的な停電長期化の事象を踏まえ,災害時にも再生可能エネルギーを供給力として稼働可能とする地域マイクログリッドの構築に向けた事業も開始されている.
〔添田 晴生 大阪電気通信大学〕